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邂逅&ハッピーエンド~ 而して意思の疎通は

☆☆☆


 同属らしきモノを前に、ワタシはちょっとばかり悩ましい気持ちになった。初めて出逢った同じ種類のイキモノであるからして、そりゃあ仲良く出来るなら仲良くしたい気持ちはある。

 だが、しかし。同じ種族だから仲良くするイキモノばかりでも無いだろう。世の中には共食いするイキモノも存在する訳で、ワタシたちがそうでない保証は何処にも無いのだ。

 それでも……まあ。

 元人間として、せめて話し合うべきだと理性が主張する。相手も、イキナリ襲い掛かっては来なかったし、話し合う余地はあるかも知れない。


 だからと云って、警戒を忘れる訳では無いけれど………、内心葛藤しつつも、ワタシは警戒モードから通常モードに移行した。

 ワタシが牙を収め羽を畳めば、相手も同様に威嚇してくるのをやめた。少し毛足が長いフワフワの毛玉に、ビー玉みたいな黒眸が二つ。こうして見れば、ワタシたちは非常に愛らしいとさえ呼べる外見なのだが………如何せん威嚇する姿の印象が強すぎて、油断には至らない。

 当たり前だけど、それはお互い様と云うべきか。


 それでも睨みあう……じゃなくて、見つめあうばかりでは埒があかない。故に、ワタシはそうっと前進した。


 そして。


 相手も近付いてきて……ワタシたちはピタリと停止した。


 互いの距離は凡そ30センチメートル。枯れ木の如き腕も同程度の長さなら、互いに目一杯伸ばして触れるか触れないか、くらいの距離である。

 相手が停止した理由は知らない。因みにワタシが停止したのは、警戒の為では無かった。


 挨拶を、しようとしたのだが…………どうすれば良いのかワカンナイ。と云う、真っ当且つ間抜けな事実が判明したからである。

 いや、マジでどうしよう。人間と言葉が通じないのは、もはや諦めたワタシだが、まさかの同じイキモノ同士でも通じないとか………無いわあ。しかしアレだね。初めての邂逅故に確かめ様も無いのだが、仲間と共に育たなかったから言葉がワカラナイのか、もとより言語を持たないのか、現時点では全く不明瞭だね。例えば、言語を持つにしても、それが音声に頼るものか否かも不明なのだ。もしかしたらテレパシーみたいなもんかも知れないし。そういやワタシ、アンテナ付いてるね。

 意識すればピョコンと触角が上がり、相手の真ん丸だけど頭上側に触角が二本ふるふると揺れて立ち上がった。暫く、また見つめあったけど、別に、何ら変化はなかった。テレパシー説が無くなった訳でも無く、習って無いワタシが使えないだけってオチも有り得るのだが………取り敢えずは触角で意志疎通は出来ない様である。

 どうしたもんだろう。

 ジッと見つめると可愛いと思っていたビー玉のような眸も、割かし気持ち悪いと思えた。所詮は鉱物と云うべきか、温かみの欠片も感じられない不気味な深淵を覗き見たような、酷く不快な気持ちになった。

 視線を背けたくなったが、それは多分、理解出来ない相手に対する、理不尽な迄の恐怖なのだと思った。理解出来ないから、気持ち悪い。理解出来ないから、怖い。どんなに愛らしくても、戦闘モードに入れば化け物じみた姿を見せる。そして、どんなに愛らしいフワフワでも、同じ外見で中身はワタシみたいなのもいる訳で、そう思えば然して愛らしくも感じられない。…………が、つまりそれは、ワタシと同じなら恐れる必要が無いって可能性も示している。


 次に、先に動いたのは、相手だった。

 枯れ木のような細い腕が上がり、真っ直ぐにワタシに向けられた。あ、と思う。あ、と思ったそばから、考える間も無く、ワタシも同様に腕を、指を、伸ばした。


 三本の指の、真ん中。なんて呼んで良いかワカラナイから、勝手に親指、人差し指、小指と呼んでるんだけど、その人差し指の尖端が重なった。


 おおう。何かメルヘンな事になってるんですけど?


 未確認生命体にして初めての同種族らしきイキモノとの遭遇第一回。何処ぞの異星人と人間の少年の様に人差し指を触れ合わせて。

 何でだか知らないけど。


 クルクル回ってます。


 触れた指先を中心にして円を画くように、ワタシが左にフヨフヨと流れれば、相手は向かって右手にフワフワと移動する。軸がぶれないのが凄いね。ワタシたちって多分スッゴく平衡感覚に優れたイキモノだね。つうかメルヘン。フワフワな毛玉がクルクルと円を画くように飛ぶとかメルヘン以外のナニモノと云えようか。片方の中身はワタシだけども………残念。


 ピタリとワタシが止まれば、相手も停止した。そして、ジッとワタシを見つめたまま……向かって右手に首を傾げた。いや、首なんざ無いので、正確に表現するならば、毛玉が反転した?と云うべきだろう。


 …………めっちゃ、可愛いんですけどっ!!?



 取り敢えず、危険は無さそうって云うか、悪意は無さそうだし、そろそろご飯の時間だし。連れて帰ろうとしたワタシは悪くないと思うの。


 ガッシと相手の手首?にあたる位置の枯れ枝を掴んで、引っ張ってみた。相手は再度首を傾げた。つうか反転する訳だから、手で繋がってるワタシも一緒に反転した。と思ったら勢いがついて、そのまま一回転した。毛玉がニ体。手を繋いでクルンと一回転ですよ。ええ。


 めっちゃ見たい。観客になりたい。何故にワタシは当事者なのでしょうか?


 まあ。ワタシがコレだし、この毛玉も中身まで愛らしいとは限らないんだけどさ。


 しかし、万一中身が可愛く無くてもだよ?そんなもん、知らなけりゃ、無かった事と同様だよね。見た目が可愛くて、癒されるし、ワタシの中では存在が危ぶまれてた、多分ワタシと同じイキモノだからね。

 他に存在するか否かも不明だし、もしかしたら次に遭遇するヤツは物理で語るタイプかも知れないし?少なくとも、今のところは平和的に接する事が出来ている同種族と、このまま別れるのは忍びない話だ。


 会話をする術が本当に無いのかもワカラナイ状態で、それなりに平和的に接触可能な同種族。ゲットせざるを得ないよね?それに、基本的に友好を示す行動って、そんなに変わらないと思うんだ。


 飼い主様の家に帰宅したワタシは、友好を示す行動第一段として、自らの巣に招いた。いや、テリトリーに入れる行為は、友好を示す……よね?巣に招いたのは人間としての記憶が邪魔したか?しかし、微妙な雰囲気を纏いつつも、毛玉は素直についてきたし、特に逃げようともしない。


 巣に招いた途端、ものっそ物云いた気なビー玉がワタシを見たような気はするが………理解出来ないからには、考えるのも無駄と云うモノだろう。しかしどうなんだ?もしかしたら巣に入れたのは毛玉種族的にマナー違反だったりするのか?けど、敵意は感じないし………マナー違反だとしても、悪い毛玉では無いと思われたのかも知れない。


 つまり、ちょっと変わり者だと思われたのかも知れない。なんか、そんな気がする。意志疎通出来ない筈なのに、ひしひしと感じる。なんなの?そんなにダメなの?毛玉は友達の家に遊びに行ったりもしないの?ねえ?


 不条理且つ理不尽な扱いを受けた気がして、内心激しく訴えたが、当然乍ら、想いが伝わる事は無かった。


 まあ良い。


 友好を示す行動、第二段に移ろう。



 ワタシは毛玉の腕を取り、ビクリと震えた毛玉の様子に内心首を傾げつつ引っ張って巣から出た。素直について来るので、さっきのはイキナリ触ったから驚いたのかも知れないと思った。正直すまんかった。そんなに驚くとは思わなかったよ。


 そして。友好を示す行動第二段は、開始はともかく、中々うまくいった。上々と云えよう。

 食事を与えるだけでも、当然友好を示す行動に違いないが、共に食事を摂取する。同じモノを食べる。それは単に栄養を摂る以上の意味がある筈だ。


 ワタシたちは互いに毛繕いすらした。友好を示す行動第三段ですね。毛繕い。するんだ。毛繕い。やっぱり動物っぽいな。人間も頭撫でたりするか。それは違うか。

 内心の葛藤はともかくとして、ワタシたちは愛らしく睦み合う仲の良い毛玉に見えただろう。


 飼い主様のみならず、ママさんやパパさんまでがパシャパシャリンリンと三者三様の音を響かせつつ、ワタシたちを映像に収めた。ワタシは彼らが何をしているかを理解していたが、毛玉はよくぞ威嚇せずにいてくれたと思う。威嚇モードは戦闘相手になら良いけど、可愛がって貰うには支障があるからね。結構ドン引きだからね。


 やはり。イキモノは可愛くてなんぼでしょう。


 ワタシはあざとく考えたが、毛玉……それが素なら、君は天然タラシか。

 食事をおえたワタシたちは、毛繕いをしたり、見つめあってはクルンと互いに反転したり、手を繋いでクルクル回ってみたり、と、それはもう可愛さをアピールしまくった。ええ。狙いは何かって?当たり前じゃないですか。え?ワカラナイんですか?


 毛玉も飼って貰おうと思ったからに決まっている。やはり生態を観察するには自分だけでは心許ない部分があるのだ。

 病気とかになっても、同じ種族の毛玉が居たら、もしかしたら助けてくれるかも知れないし?無いだろうけど。普通、犬猫の親兄弟でも、病気になったところを看病してるとこなんか見た事無いし。そりゃ、偶々、ワタシが知る犬猫が薄情だった可能性は否めないけど………だとしたら、それはそれで、ワタシが知った毛玉も薄情タイプな可能性は大だろう。


 とはいえ。

 会話は出来ないし、どんなイキモノかやっぱり意味不明だし、割と物騒なチカラを持ってるのは自分を参考にすれば判りきってる。そんな相手とお近づきになるのは、前世の私は、絶対忌避したと思うんだけど。


 なんか。肌にあうって云うか、空気が吸いやすいって云うか、傍に居て、居心地が良い?って感じるのである。



 それこそ。


 前世で、恋人と一緒に居た時みたいに。


 とうとう異種族恋愛かと聞かれたら。


 いやいやいや。無いからね?云っとくけど、居心地が良いだけだからね?アニマルセラピーだからね?


 当たり前だけど、トキメキは一切無い。キッパリアッサリ否定出来ます。


 つうか………そもそも。


 雌雄はあるのだろうか?


 同じ巣に暮らす同居者を眺めて、不意に考えたのには理由がある。


『ナメちゃんもモフちゃんも仲良しだけど、子作りする様子は無いね。』

『赤ちゃんって、ナメちゃんたちよりチンマリした毛糸玉みたいなのかな!』


 飼い主様とママさんの会話が原因である。見たい!!!と騒ぐ仲良し母娘に、ワタシはワタシの性別は何であろうかと考えた。そして、同居者であるモフちゃんと名付けられた毛玉を見て、そもそも雌雄はあるのだろうか?と疑問視したのである。


 モフちゃんを連れ帰った日。飼い主様は開口一番こう宣った。


『ナメちゃんが分裂した!?』


 してねえよ。


 と。ワタシはクールに心の中で回答した訳だが、分裂しない等と、決め付けるのもまた早計だろう。毛玉の生態は、まだまだ判明していない部分が大いにある。その中に、分裂により増殖する、などと云う神秘が隠れていない等と誰が云えるだろう?


 まあ。

 もちろん。


 普通に性別もあり、ワタシとモフちゃんが同性だから何にもならないって現実も、また否定なんぞ出来はしない。ついでに云えば、雌雄は別だが、生殖行為を行う機会が無いと云う話も有り得る。


 最後のが一番嫌だし、不穏なんだけどね。


 何でかって、単に春が来てないだけなら、発情期が恐いだろうって事があるし。何らかの条件が整えば自動的に生殖行為に至るって理由なら、その条件は整う可能性が有るのか無いのか、そもそもどんな条件なんだよって話だ。


 毛玉とは未だに会話は出来ない。しかし、意志疎通が出来ない、とは……明言し難い。視線の先で、毛玉がフワリと浮かび、振り返った。

 その黒々としたビー玉を見て、ワタシも浮かび上がる。伸ばされた手に、ワタシも手を伸ばす。


 なんて云うか。言葉なんか無くても、割とスムーズに意思の疎通が果たせている。なんて云うか。嫌な表現なんだが、熟年夫婦さながら?みたいな感じなのだ。


 これで言葉が通じれば万々歳なんだが、と思わないでは無いけれど。


 相手の思考を知らないからこそ、好意をいだける場合も有ることを知っているので、無いものネダリは止めておこうと思う。

 そうだな。それこそ、本当に夫婦になりそうな危機でも来ない限りは、仲良く暮らしていけるんじゃ無いだろうか。


 危機が来たらどうするかって?


 毛玉も人間も、そこは同じ扱いで良いと思うんだ。


 無理矢理するつもりなら滅殺!!!


 なんてね。



 ビクリ!と、毛玉が震えてワタシを見た。心なしか、感情なんか感じさせない筈のビー玉に、怯えが浮かんでいる様に見えた。

 ワタシは首を傾げた。


 毛玉も釣られて、首を傾げた。


 クルンと一回転した時、どうやらご飯に呼びに来たらしいママさんと遭遇した。


 メルヘン空間に遭遇したママさんは、ひたすらに悶えていた。


 そりゃあ悶えるよな。こんなメルヘンを見て悶えない訳も無いよな。


 ワタシも観客になりたいよ。


 メルヘンは観るモノであって、演じるモノでは無いと思う。毛玉は愛らしいが、相方が自分だと思うと少し寒々しい。


 遠い目をするワタシと、ただただ悶えるママさん。そんなワタシたちをジッと見つめる黒いビー玉が二つ。


 モフちゃん。あんただけがワタシの癒しだよ。



 そう考えるワタシも、飼い主様方から見れば癒しなんだろうなあ………とか、認めたくは無いが知っている。


 ナメクジに生まれ変わり、ナメクジでは無いと気付き、メルヘンな外見の意味不明なイキモノとしてでは有りますが。


 今日も、明日も、明後日も、それなりに楽しいしく生きていきます。



 前略、パパさんママさんおネエたま。


 ワタシ毛玉に生まれ変わりましたが、それなりに平和だし、結構倖せだったりします。


☆☆☆




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