同属発見です
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拝啓パパさんママさんおネエたま。ワタシ、生まれ変わりました。ナメクジに………………………………と、思ってたけど違いました。
うん。疑念は尽きねどナメクジ説は捨てがたかったのだが、どうやら違うらしいね。何回か脱皮したら何か………よくワカラナイモノになりましたよ。
言葉で説明するなら毛玉?フアフアの毛玉だねえ?
え?こんな生物知らないんですけど。みーたーいーな。
あ、ケサランパサランっぽいかも知れない。あれ?こんなんだっけ?おおう辞書!誰か辞書を持て!
確か毛玉だよね。あの妖怪。え?ワタシ妖怪に生まれ変わったのか?
………いやいや。妖怪なんか居るわけ無いじゃんね?ね?……ね?
あ、それにケサランパサランて、手足無いよね?知らないけど。もしかしたらあるのかも知れないけど。枯れ枝みたいな二本の腕から、枯れ枝みたいな指が三本。同じく枯れ枝みたいな足が二本と指が三本。ううん。知らないけど、知らないけど、何か取り敢えず、普通の生物図鑑には載って無い気がするのは気の所為では無いような。
ケサランパサランか否かはともかくとして、一般的な生物よりは妖怪の類いに近いのは否めない気がする。イヤンな自覚である。しかしこんな怪しいイキモノ?に対して、動じないのが我が飼い主さま一家なのである。
前世の私だったらナメクジの時点で塩撒いて、塩で溶けなければ殺虫剤スプレーしつつおもむろにライターに火を点けるけどな。だって気持ち悪いし。そして滅びれば忘れて、火を点けても死ななかったら………見なかった事にする。
それが正しい在り方だと思うのです。ええ。君子危うきに近寄らずですともさ。
しかして、我が飼い主さまご一家は、ひと味もふた味も違った。
『うわあ。フワフワになった。かあわあいぃいぃ!!』
まあな。ナメクジよりかは可愛いな。しかし得体が知れないのは同じだ。
ご両親も、平気で触ってくるし。ナメクジじゃ無くて良かったと云わんばかりである。解らないでは無いが、得体の知れなさでは、ナメクジらしきものよりレベルアップしてるからね。わかってんのか、そこんとこ?
飼い主さまご一家の呑気さ加減は、不安を覚えるレベルである。
ワタシ、自分で云うのも何だけど………見る人が見たら、解剖一直線だよね?剥製?解剖したら終りだからチマチマと実験と調査繰り返すのかもな。それとも、実は知る人ぞ知る生物なんだろうか?
自力で動き回れる様になったワタシは、鏡の前でクルクルと回っては己の姿を監察した。よくよく見れば、どうやら翼もあるんだよね。
何の為にあるのかは不明だけど。何故なら翼を広げなくても、フワフワ浮けるし、停止出来るし、滑空も出来るし結構スピーディーで我乍らナメクジ時代の苦労を思うと涙がチョチョギレそうになる。ナメクジどころか、人間より余程スピーディーだからね。その辺の野良猫風情には捕まらないよ!
つうか、多分、視界に止まる事が無いくらいには速く飛べる。
ますます意味不明なイキモノだよねえ。因みに食事は特に変わらない。と云うか、人間と同じ食事を戴いているけども、多分、何でも食べれる?
脱皮後は何かいつもヤタラと空腹になって、一度、出された食事で足りなくて………水槽食べちゃったんだよね。
自分でも、これは……と、引いたんだけど。
飼い主さまは流石でございましたよ。
『もう。ナメちゃんたら。巣が小さくなったならなったで、もう少し文句の云い方があるでしょ?』
翌日、ナメクジ時代の三倍の大きさの水槽を巣として提供されましたが………なんか違わね?そもそも、文句の云い方って何さ。どう文句をつければ良いのさ。もとより文句があった訳では無いが……いや、確かにちょっと手狭になったかと思いはしたけど、手足が出来た現在は出入りも自由だし、割と単なる寝床にしては広すぎるくらいだったからね。
つうか、ケサランパサランがどうやって人間と意思の疎通が出来るんだって話なんだわよ。
女子校生って……こんなんだったっけ?
飼い主さまを見ていると、女子校生の定義が破壊される気がする。感性がイカレテル……もとい、独特だなあと思います。まあ、拾って貰った事には、非常に感謝しているけどね。
そういや、触覚は変わらず出したり引っ込めたり出来るんだけど、目は固定された。触覚で周囲を感じ取れるし、ある意味では『視える』から、別に手間は無いのだけど……ちょっと見かけが恐いかも知れない。毛玉の中で目を開くとね、黒々とした大きな玉が二つ、ギラギラ光るんだよ。その状態で試しにお口を開けてみました。こええよ……。目も恐いけど、口の牙も恐いけど、なんつうか……口の中真っ暗で、ブラックホールみたいなんだよね。ご飯の時にも、一体どれだけ口が開くのかと考えたりしたけど…………何でもかんでも試すものではナイと云う事をワタシは学びました。
多分………ワタシは人間………は考えたく無いから置いといて!ライオンやら大型の猛獣もペロリとイケるね。うん。あはは……はあ。なんだかな……。
取り敢えず、目は基本的に閉じておくか、小さくビー玉程度が良いね。お口も必要以上に開かない事だね。大きな二本の牙を繋ぐ、鋭い無数のギザギザが自分のお口とは考えたく無いよね。ブラックホールもね。
目もねえ、ちょっと謎なんだけど、目蓋らしきモノは何処にも無いのね。片目を閉じて見ると、目の痕跡は欠片もない。ゆっくり開くとね。黒い粒がユウルリと大きな黒い玉になって、ビー玉みたいになって………ギラギラ光る怪物の目玉に育つのです。何処まで開くかなんて試すんじゃ無かった。軽くホラーである。つうかお口も目玉もホラーってどうなの。アレ、ワタシの姿なんだよね。
…………………見なかった事にしよう。うん。ケサランパサランな見た目だけ覚えて置けば、充分だよ。
少しばかり黄昏つつも、ワタシはこれからも、特に変わらない毎日を過ごすのかと考えていた。
変わったと云えば、外出が出来るようになった事くらいだろうか?
大きな差異に感じられるかも知れないけど、実のところ、体の大きさや動作スピードが変わったからには、外出が出来て丁度釣り合いが取れる状態だ。ワタシ自身の自由時間…と云うか、一人?でウゴウゴと蠢いていた時間が、そのまま散策の時間になった。
当たり前だけど、人目に付かない事は『お約束』。新種発見だなんて騒がれて捕まったら堪らないからね。
で。
ご近所の山を散策中に。
ワタシは意味不明だった翼の意義を知った。
多分。コレ。威嚇の道具?だわ。ほら、しなびたみたいにホッソイ梟がさ、外敵に遭遇した途端、ブワアッて膨れ上がったりするじゃない?あんな感じ?
アレ………が視界に入った途端。
ワタシは猫のように毛を逆立てた。
フシャーーーッ!!!
ブワッと背後に広がったコウモリの様な黒い翼。牙を剥いて、毛を逆立てて、無意識に、威嚇している自分に気付いた。
相手は、冷静だった。ワタシと同じ高さを保ったまま、ジリ、と僅かに右に移動する。ワタシは対角線上で、向かって左に、つまりは円を画けば同じ方向に、同じ程度移動した。
ジッと見つめあった。
黒い大きな目が、炯炯とした輝きを放つ。ギラツイた黒瞳は、光彩がない漆黒の闇だ。鋭い牙は大きなのが二本。その牙の間にも小さめの無数のギザギザが鋭く尖っている。口腔はギラツキが無いだけで瞳と同じ漆黒の闇。深くて、何処までも沈む闇が拡がっているかの様な……ブラックホールだ。
その姿も、気配も。イキモノと呼ぶには不吉な、怪しくも不気味な空気を放つ存在に………しかし、ワタシは奇妙なまでの既視感を覚えた。
…………あ。
アレ……ワタシなんじゃん?
鏡の中に映した姿に酷似したそのイキモノを目前にして、ワタシはピシリ……と固まった。
初めて。
同属に遭遇いたしました。
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