もう一人?生まれてた◇早く人間になりたいってか?
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妖怪だかUMAの類いかなと思うんだ。何が?うん。ぶっちゃけ俺の話だ。
まあ聞けよ。俺は昔、人間だった。いわゆる前世ってヤツだな。こんな話を聞けば、人間だった頃の俺は、相手の正気を疑っただろう。狂人の相手などする程の暇は無いとばかりに、話半分どころか適当に相槌を打ち乍らも、その話は耳から耳へ素通りしたのは間違いない。
前世って(笑)と失笑して終わりだ。カッコワライか草生やして、暇潰しだとしても「草刈り機をお持ちのお客様はいらっしゃいませんかぁ?」などと内心では茶化すばかりだったろう。
前世って……こんな莫迦げた言葉を、自分にあてて使うのは、内心忸怩たる思いがある。しかし…………仕方ないのだ。
俺は生まれ変わった。
UMAに。
もしくは妖怪に。
ああ、冬眠したい。つうか永眠したい。
死んだ記憶も無いんだが、死んだなら死んだで、どうして放置してくれないんだ。
せめて亡霊にでもなったと云うならば、まだ……それもどうかと思うが、まだしも受け入れる事が出来たと思う。
人間に生まれ変わるのだって、この際許す。宇宙人?中2?バッチ来い。この際苦労背負い込む人生だって構わないとさえ思った。
しかし。
生まれ変わった俺はUMAなんである。
変な触角生やしたフワフワの毛玉が現在の俺である。羽根は無いが何か飛んでいる。フヨフヨフワフワと中空に浮かび、ほぼ停止する事もできるし、人の動体視力では追えないくらいの、結構なスピードで飛行することも可能だ。
犬に吠えかけられても余裕で逃げることが出来た。しかし、俺は手のひらサイズの毛玉なので、チワワさえも巨大な怪物に見えて………正直怖かった。俺はプライドが高く惨めな姿や情けない言動など取らない男だったが………実際は単なるビビリである。
今は隠さないのか?
ふっ。人間どころか、何者とも意思の疎通が果たせない現在、何をカッコつけろと云うんだ。
これで犬や猫なら飼い主を物色したりも必要だったろうし、楽に生きる為なら俺は媚び諂う事も辞さなかったろう。しかし……現在の俺は、未確認生物?であるからして、下手したら解剖の危機だ。電気とか流されちゃうやも知れん。超怖い。
なので、人里には滅多に下りる事も無く、山でフワフワと浮いている次第である。
倖い俺は何でも食えるみたいだし。
最近は見栄はらずにノンビリした食っちゃ寝生活に、うっかり満たされつつある俺が居た。
ボッチとか莫迦にしてたけど、悪くない生活である。
そういやUMAって云っても俺が居るんだし、同じ種族とか居ないのかね?
特に寂しいとも思わないが、生物として単体ってのは微妙である。そもそも親は?と考えもする。
最初に目覚めた日。俺は真っ暗な闇の中に居た。
動く気にもなれず、腹も空かないから、ただ眠っては起きてを繰り返していた。そもそも動けなかった。
何かに包まれていた。
しっとりとした何か。暖かい気もするし冷んやりしてる風でもある。それに全身がくるまれているから、暗闇に感じるのだと気付いた。
ある日、ふと空腹を覚えた。
随分と長く眠っていた気がした。不意に思考が鮮明になり、空腹と共に、周囲のソレが食べられる事に気付いた。
食った。
シャクシャクと喰らい、イキナリ射し込んだ日射しに驚いた。
どうやら、俺は土の中に居たらしい。土を食べたのかと思えば複雑な気はしたが、まあ現状を鑑みれば些細な話である。
自身が出てきた土が抉れた跡を見れば、どうやら俺は脱皮をしたらしいと気付いた。太りぎみの短いヘビ……ツチノコ、いや……太ったナメクジ?脱皮した皮を見れば、その様に見えた。つまりは正体不明である。脱皮した脱け殻は複数存在した。
そういえば何度か暗闇の中で体が固くなったり、イキナリ軽くなったりした様な気がしないでは無い。脱皮の痕跡を見れば思い当たりはしたが、明確にソレと云える程の確かな記憶では無かった。
不意に気付いた。
飛んでる…………浮かんでる?
俺は自分が足場の無い空に浮かんでいる事に気付き、自身が飛べる事を知った。
あまり考えたくは無かったが、どうやらこれが紛れもなく現実である事も。
遅ればせながら………実感した。
胡蝶の夢の様に、夢と現を行き来していた感覚が、ハッキリと目覚めて…………愕然とした。
マジか。マジだよ。やっぱり?そうだよ。
ぶっちゃけヤサグレたが、八つ当たりをする相手すら居ないのが現実だった。
そして、どうやら土どころか木やら葉やら鳥やら、目についたものは大抵食べられる自分を知るのに、そう長い時間は必要無かった。
俺って……何なんだろうな?
つう訳で、冒頭に戻る。
多分、妖怪?UMA?って話である。何の解決にもなりゃしなかった。
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