3.巡り会い…ありゃ?
3.巡り会い…ありゃ?
暗闇に突っ込んだら、女の子が居ました。
……違った、違った…。
違わないけど…。
…ここは正確に表現しておくべきところだよね。誤解とか怖いしね。
よし!それじゃあ、改めて…
部屋の中には、僕に土下座してる女の子が居ま…。
…違うなぁ。いや、違わないんだけど…。
…う~んとね。
少年は混乱していた。現実を認めたくなくて何度も現状を再確認する。
…此処で僕が、勘違いしちゃったら、彼女が困っちゃうよね?
そう!情報は正確なのが第一だよね。
と言うことで…
彼は目に映る情報を正確に表現し始めた。
僕が部屋にはいると、見知らぬ人間が居ました。
この人は、綺麗な銀色の長髪を持っています。簡素で、品があるシルク地の白いハイネックワンピース。ノースリーブの肩からのぞく二の腕も細くって、雪みたいに白くって、柔らかそう…。体勢のせいで、胸も苦しそうだし…。
あっ、二の腕が柔らかそうに見えるのは手足が、と言うか体が仔犬みたいにプルプル震えてるから、だから眼がいっちゃったと言うか…。
とにかく、知り合いでは無さそう。あんなきれいな銀髪は知りませんし…。
あと、正座して、頭を床につけて、手を頭の前方に揃えて立てているこの体勢。
この体勢を一言でいうと……。
…日本的解釈では……。
…僕の表現できる言葉にすると……。
………うん、土下座しか無かったです。なんかごめんなさい。
少年は現実を受け入れることにした。特に一番認めたくなかった土下座という事実を…。今、目に見える光景が、何度瞬きしようと揺るがないのだからしかたがない。
…とすると、問題なのはどこに向かって頭を下げてるのか?だよね。…いや、まぁこっちなんだけど…。
そうじゃなくて…、多分お姉ちゃんの知り合いなんだろうな。お姉ちゃんの部屋と間違えたんだと思う。土下座されるのが自然な姉って……。
…異様に顔広いからなぁ、………小顔なのに…。
エッ、「フォロー」ナンカシテナイヨ。ソンナンジャナイヨ。ホントダヨ。
トっ、とにかく、人違いなのだろう。
理由づけとしてはむりやりではあるが、彼にとっては起こり得る事態だった。納得もできた。彼の中では自分が動揺、混乱、恐慌に陥る事態が発生したとき、「姉が絡んでいる」という事実はほぼ揺るがない。割合でいうなら98%絡んでいる。そういう風に育ってきていたのは事実だった。
そう、納得といってはみたが、思考そのものはいまだに混乱しきっているのだ。
何の迷いも脈絡もなく姉を疑ってかかっていた。
…ところで突然ではあるが、視野狭窄とは見えてるのに意識できない状況下で、視界が狭く感じることである。
…つまり何が言いたいのか。この場に当てはめていく。
暗い部屋に真っ白な少女というコントラストは、少女しか見えない、意識できないという状況を作り出すのに十分な舞台だったということ。
そう、彼はまさに彼女しか見ていなかった……。
…なんていうか、自分の部屋で女の子の土下座を見る日が来るとわなぁ。
しかも、謝りっぱなしだし…。
あー、なんだかこの感覚、どこかで感じたことがあるような……。
この場にそぐわないっていうか。
…そう、場違いな言葉って感じがするな。…………………
少年は、自分に向かって土下座している女の子を見て、ひとしきり混乱に混乱を重ねた。
そして、現状を受け入れたからと言って、完全には理解できない。対処に困り、過去の経験から対処法を引っ張り出しているうちに、思い出に浸り、とうとう現実逃避を始めた…。
「……などと言葉にすることが困難なほど、私どもの尊敬の念は山よりも高く……。」
この部屋に彼が現れた瞬間から彼女の対話は始まった。
この時点で、すでに彼女が語り始めて5分が経っている。
話とはいっても、内容的には二言で済む話ではあった。
一つ、「このような場所にお越しいただき光栄の…」「ご尊顔を拝謁給わり恐悦至極に…」などに代表される「謝辞」の数々。
つまり、「来てくれてありがとう♪」ということ。
二つ、「私共の歓待の閑静かつ、静粛なるは、私の不徳のいたす…」「…情けなく思うばかりで…」「…謹んでこの身に受ける所存に…」などに代表される「謝罪」の数々。
こちらは「こんなとこに呼んじゃってごめーんね♪」ということ。
彼も感じている通り、彼女は無意識のうちに「謝罪」成分を多めにしていた。
さらに、対話とは表現したが、彼に一言の発言をも許さないほど矢継早に放たれる言葉はまるで嵐。
相手に考える隙を与えない作戦。
ふたりの間の「言葉」と「沈黙」を境目に、ある意味で壁ができあがっている。
そう、そこにあったのは命がけの彼女とのんきな彼の温度差の壁。
異界の女王と自称平凡高校生の壁。
グラマラスな大人の女性とようやく日本成人男性の平均身長となった男の子の壁。
此処で本題にもどろう。
誤解と誤解とがぶつかり合って生まれたこの状況、はた目からみたらこういうことだ。
高校生に土下座する女王。
…なにやってんだ女王(泣)。
ただ、ここに情報を付け足そう。
ソコハ「異世界の召喚の間」デアッタ。
この事に現実へ回帰した彼が気が付いた。
ヒントは彼女の言葉にもあった「来てくれて」を意味する単語だった。
もしかして、ここ僕の部屋じゃない?
改めて部屋を見回した彼の目に飛び込んで来たのは、巨大なクリスタルとなじみの無い板張りの和室。
クリスタルの中に写り込んだ自分と目があった瞬間、顔が火照ってみるみる紅く変わっていった。
ばっ、場違いなのは僕だったぁーーーーーーーー。
肌寒いはずのこの部屋で、汗が背中を濡らしていった。
ボーイ ミーツ ガールです。
誤解とか恐いです。
いやほんと分かりにくい文でごめんなさい。
主人公の混乱に巻き込まれました。
どうしてこうなった…。