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レーテの川の水  作者: 鮎川 了
λήθη
6/26

―後―





 しかし、その退屈な日々にも終わりが来る。


 “終わりと云うものはある日突然やってくる”その言葉、その定義は私の脳の奥底にまるで予めインストールされているみたいに当たり前に、常識的に存在した。 

 そう、存在していた事を思い出した。 


 ある事柄の“終わり”が、別の事柄の“終わり”を引き出した。




 最近雨が続く。

 雨の音を聞きながらの午睡は憂鬱な気分になる。きっと憂鬱な夢を見るのだろうと思ったが、相変わらず夢は見ない。


 目覚めたのか、まだ眠っているのか解らないそのはざまで、雨が窓を叩く音を聞いていると、ふいに雨の匂いがした。

 それはまるで雨の中、傘も差さずに佇んでいるような、そんな時に厭と云う程感じる、服や皮膚に染み込んだ雨の匂い。


 完全に覚醒してもその匂いは消えない。目を開けてみると、横向きで、窓側を向いて寝ていたのですりガラスの窓が一番最初に見えた。だがきちんと閉まっている。


 看護師さんが窓を閉め忘れて雨が入って来たと思ったので安心したが、依然雨の匂いは強くなる。


 雨でびしょ濡れの“何か”が私の背後にいるような……


 そこまで考えて、急に躰中の毛穴が泡立った。


 “いるような”では無い“いる”確かに“いる”


 微かな吐息が聞こえる。誰かが私の背後に居る。

 藪崎先生だろうか?

 それとも看護師さん? 

 看護師さんはいつも忙しくてバタバタしているので、眠っている患者の背後で息を殺してじっとしているなどありえないし、藪崎先生だとしても、いみじくも精神科の医師が患者の不安を煽るような事はしないだろう。


 じゃあ、誰……?


 そう、息を殺している。

 私に気付かれまいと息を殺している。


 何の為に?


 厭だ、気持ちが悪い。

 それ以前に恐い。


 ……振り向こう。


 何故だか解らないが、そうした方が良い様に思えた。









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