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レーテの川の水  作者: 鮎川 了
λήθη
5/26

―雨―





 窓の額縁に青空を描いた風景画に流れ込んで来た雨雲は、午後から大粒の雨を落とした。


 「大変、雨が入り込むから窓を閉めますよ」


 レーテの話を教えてくれた看護師は、慌てて窓の下に駆け寄り、窓の脇から垂れ下がっているステンレスの長い棒をくるくると回した。

 ああ、そうやって開閉するのか。

 いつも私が寝ているうちに開けたり閉めたりしている様で、一体どうやっているんだろう?と疑問に思っていたのだ。


 閉められた窓はすりガラスに遮られ、外が見えない。すりガラスに雨粒が当たる様子しか見えない。


 雨は段々強くなり、雷まで鳴り出した。いわゆるゲリラ雷雨と云うやつだろう。 


 「ゲリラ雷雨には参ったよ」


 父の声……

 いつだっけ?そんな事を云ってたのは。


 「ペコもびしょ濡れよ、お風呂に入れてあげないと」


 ペコが、大分大きくなったある日の日曜日、父と私でペコの散歩に出掛けたら、途中で雨が降りだした。父は雷を恐がるペコと私をかばうように大急ぎで家に帰ると、家に着くなりペコがくしゃみをして皆で笑った。


 ……そうだ、思い出した事をノートに書いとかないと。

 ペコの事、父の事を。


 


  

 ノートを見た藪崎先生は、少し喜んでいる風だった。そりゃあそうでしょう、自分でも結構な進歩だと思うもの。


 「この調子だ、でもくれぐれも焦らないように」


 藪崎先生は“記憶のすり替え”と云うものを何より恐れている気がする。時間が掛かっても良いから私の“正確な記憶”を欲しがっている様な気がしてならない。


 何の為に?


 私の記憶は私のものでしょう?少し位違ったって……


 それに、人間は過去に囚われていてはいけない、未来を見て生きなきゃ。……と、誰かが云っていた気がする。


 そうだ、父だ。


 “常に明日を見て生きる様に”と云う意味を込めて付けた。


 私の名前“明日香”









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