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レーテの川の水  作者: 鮎川 了
λήθη
3/26

―窓―





 退屈だと眠くなる。昼食の後が特に。

 何もしないで寝てばかり居るのも何だが、やることがなければ自然に目蓋が重くなって来るのも道理だ。

 眠って、夢でも見れば退屈しのぎになるのだろうが、夢すら見ない。

 単に夢の内容を覚えて居ないだけかもしれないが。


 そうして、単なる暇潰しの午睡から目覚めるとまた何の色気も無い病室の天井が見える。

 窓も、有ることは有るのだが、手も届かないような高い場所にあり、たとえ開け放してあっても空しか見えない。


 何でこんな造りにしたのだろう? 


 「一応、メンタル系の病棟なのでね、患者さんが突発的に身投げしたりしないように。鉄格子や金網で塞ぐのも外観が悪くなるから、こんな造りなんだよ」


 藪崎先生が云う“メンタル系”はソフトには聞こえるが、とどのつまり“精神科”と云う事だろう。外観がどうあれ、私は鉄格子や金網の方がましだと思った。金網の目の間から、鉄格子の間から、外が見えるから。


 あの窓から見えるのは、病院の庭だろうか?街だろうか?


 それとも何も無いのだろうか? 


 ……そんな事は無い。

 私が見て居ないだけで、外の世界は存在する筈だ。

 私が覚えていないだけで、私の過去も私の家族もちゃんと存在している様に。


 私の家族…… 


 何故、その事を思い出せ無いのだろう?

 それに、家族の誰ひとりとして面会に来ないのは、病院側で何かを規制しているのだろうか?


 それとも、私の記憶に無い家族は存在していないのだろうか?


 寒くも無いのに身震いした。うすら怖くなって来た。


 もし、仮に私の両親が病気か何かで他界してたとしても、過去には“存在していた”筈なのだ。

 何故思い出せ無いんだろう?  

 早く思い出さないと、存在が消滅してしまうんではないか?


 きっと窓の外の風景も私が見ない事によって消滅しているんでは無いだろうか?


 私は青空の中に浮かんでいる窓枠を思い浮かべた。窓枠の裏側には病室。でも、外から見るとやっぱり、雲の散らばる青空に貼り付いた窓。



 その窓は私にとっては唯一の外界との接点だ。例え空しか見えなくても、ゆっくりと形を変えながら流れて行く雲を見ていると少しは暇を潰せるし。


 ……雲?


 また何かを思い出しかけた。


 はっきりと思い出せないのがもどかしい。

 そして、それが私の過去を思い出す手掛かりになるのかも解らない。 


 思い出しかけたそれは形にならずに脳の奥深くでくすぶっている。

 何だろう?何なんだろう?何を思い出しかけたんだろう。

 私の頭を割って、柔らかい脳の中からその形にならない“何か”を掴み出したい。


 でもそれはきっと、雲のように白く不定形なのだろう。








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