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レーテの川の水  作者: 鮎川 了
Μνημοσύνη
26/26

―罪―





 別に完全犯罪を目論んでいた訳じゃない。 

 だが警察は勝手に幸治さんを犯人にした。


 “別れ話で逆上し、恋人の家族を惨殺”


 あるいは


 “自分が恋人だと思い込んでいる女子高生に精神的に追い詰められて”



 私は家族を恋人に惨殺された悲劇の主人公となったのだ。


 自分の罪を忘却の川へ投げ捨てて。


 

 上手い具合に“記憶のすり替え”で、本当に自分が被害者なのだと信じていた。

 考えてみればあの“記憶”は幸治さんの“記憶”だ。


 いつの間にか彼と視点が入れ替わり、自分の記憶とすり替えられた彼の記憶。



 「ほら、だから云ったろう? 思い出さない方が良い事も在るんだ……って」


 父の声がする。


 そうね、お父さん。  またレーテの川の水を飲むことにするわ。 

 悲劇の主人公を演じる為に。


 そしてまた記憶を取り戻そうと苦しむのだろう。


 永遠に忘却と想起を繰り返すのだ。それはきっと私への罰なのだろう。









 目覚めるとそこは白い部屋で、嫌味な程に清潔な匂いがした。


 その時は、その部屋がどんな部屋なのか、そしてそこで目覚めた私は一体どんな状況なのか解らなかった。

 記憶が混乱していると云うよりは、記憶が無いのだ。 


 側に居た白衣の男は私にこう云った。


 「思い出せないのなら無理に思い出さなくてもいい。君はレーテの川の水を飲んだんだ」


 ……と。










「レーテの川の水」


【了】



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