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レーテの川の水  作者: 鮎川 了
Μνημοσύνη
23/26

―目―





 玄関の方で何か物音がしているような気がした。


 でも、それどころでは無い。男はまだ生きている。

 子供と母は直ぐ死んだのになんと云うしぶとさだろう。


 生きているとは云っても反撃する訳でも、悪態を吐く訳でも無く、芋虫の様にのたうち回っているだけだが。


 ドラマや映画でよくある、瀕死の重傷を負ってもまだ襲いかかってくる悪役。と云うのは嘘なのだなあ、と思った。


 面白いのでこのまま殺さずに眺めていようか?でも、あっけなく殺されたペコの事を思うと、この男も虫けらのように誰にも助けて貰えずに死んでしまえばいい。とも思う。 


 「ねぇ聞こえる? 私の話聞こえる?」 


 男に呼びかけても返事は無い。


 「ねえ、呼ばれたら直ぐに返事しろって云ってたのは何処の誰だっけ? ねえ?」


 そう云いながら、足で傷を踏みつけると血が更に吹き出し、男は般若のような形相でその痛みに耐える。


 「ねえ、こうしよう、今までの事、謝ってくれたらこれ以上は何もしない。いい?」


 完全に私は遊んでいる。でも、やり過ぎだとは思わない。

 むしろ、足りないくらいだ。


 耳に手をかざし、男の言葉を待った。だが、口からはごぼごぼと血が垂れるだけで謝罪の言葉らしいものは出て来ない。


 「へえ?謝らないんだ? 家に勝手に住み着いて、父さんの遺してくれた財産を勝手に使って、私と母さんを召し使いのように使って、それでも足らなくて暴力まで振るって、あんた達なんて強盗と同じよ、それに……」


 ―ペコの首の骨が折れる音―


 「ペコまで殺して!」


 その言葉と同時に、男の腹を踏みつけた。それから動かなくなった。死んだのだろうか?気を失ったのだろうか?


 居間の外で物音がする。ペコかもしれない。


 男を殺したらペコは生き返るのかもしれない。


 動かなくなった男の腹を包丁で刺した。もう何回刺したか解らない。血どころか黄色い脂肪がぐずぐずと出てくる。


 なんてだらしないんだろう。こんなに脂肪を溜めて。だから直ぐに死ななかったのか。

 邪魔な脂肪を切り取り、更に刺すと、赤黒い内蔵が見える。これは何だろう?腸だろうか?刺すと何だか臭い。大腸らしい。


 もう流石に死んだだろう、ペコは生き返ったろうか?そう思って居間の扉の方を見た時だった。


 目が合った。


 そこに居る筈の無い人と目が合った。












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