―悪―
◆
気持ちが悪い。
何て臭い息なのだろう。
下腹の不快感を必死で無かった事にしようとしたが、顔中を、否、身体中を舐め回されて着いたあの男の唾液の匂いで吐き気がした。
……お母さん……
母に助けを求めるだけ無駄だ。
事を済ませた男は、さっさと服を着て何処かへ行ったと思ったが、ペコの首を掴んでニタニタと笑っている。
甲高い鳴き声を上げ、身をくねらせ抵抗するペコ。
何で私はこの時、こう思ってしまったのだろう。
―男は約束を守って、ペコを物置に返しに行くところだ―
と。
自分の娘程歳の離れた私に、こんな事をする奴が約束など守る筈などない。
人間ですらないのだ、この男は。
凌辱されて余りのショックと不快感で頭がどうかしていたのだ。
ペコが一層高い声で鳴き、何か硬いものが折れる様な厭な音がしてそれきり動かなくなった。
「ペコ!」
男が放り投げたペコは、もう、鳴き声ひとつ上げない。
濡れた黒飴の様な目が白眼を剥いていた。
私にはもう何も無いんだ。
母は壊れ、幸治さんには裏切られ、その上ペコまで殺された。
何を支えに生きていけばいい?
裸のままふらふらと、台所へ向かった。
―死のう―
苦しみと悲しみ以外何も無い世界で生きて行くより、父の側に行こう。




