―脅―
◆
「おい最近帰りが遅いな」
あの男が云った。
「俺知ってる。隣の兄ちゃんと付き合ってるんだ」
ゲーム画面から目を離さずに男の子供が云う。
「へぇー、色気付きやがって」
気味の悪い笑顔を浮かべて私の身体を舐め回すように見る。
「やったのか?」
自分の子供が居る前で、なんて下品な事を云うのだろうか、この男は。
父なら絶対にこんな事は云わない。
黙っていると、急に頬が熱くなった。そして衝撃。
「何とか云えよ!」
ほら、始まった。理由など何でもいいのだ。
反抗的な態度
生意気な目
歩き方がうるさい
その都度違う理由だが、それはこの男が“暴力”を正当化する為の口実だ。
誰が見ても正当な暴力とは云えないが。
母は黙っている。庇えば母も殴られる。庇わなくても殴られるが。
「服を脱げ」
次は腹を蹴られるか、火のついた煙草を押し付けられると思っていたから一瞬、何を云っているのか解らなかった。
が、言葉の意味が解って来ると、絶望が重くのし掛かって来る。
殴られたり、蹴られたり、煙草の火を押し付けられる方がましだ。
厭だ。
母は相変わらず呆けた顔で何も無い虚空を見ていた。
私が立ち尽くしていると、男は勝手口から家の外へ出て行く。
諦めたのか?そんな筈は無い。
程なくして、ペコの吠える声がして、男は勝手口から、ペコの首を掴んで戻って来た。
「云う事を聞かないとこの犬の首を折るぞ」
苦しそうに身を捩るペコを見て、私は制服のボタンに手をかけた。




