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レーテの川の水  作者: 鮎川 了
Μνημοσύνη
18/26

―絶―





 電車に揺られながら、あの女の云っていた事を反芻していた。

 最後の言葉が無ければ、この女は幸治さんに片思いしていて、でもなかなか振り向いて貰えなくてストーカー紛いの事をしている可哀想な人だと思う事も出来たのに。


 今まで誰にも見せなかった傷。

 幸治さんにしか見せなかった傷。


 あの女と幸治さんがどういう関係かなどより、彼が私の事を吹聴したと云う事実。


 裏切られた、と思った。心の拠り所が無くなった。親身になっている振りをして、私の事を嗤っていたのだ。


 結局私も母と同じだ。




 



 ペコはずっと家の中で暮らしていたのに、今は物置の隅に繋がれていて、食べる物もそれまでは高級ドッグフードだったのに、家族の食事の残り物だ。


 しかし不幸中の幸いと云うか、物置の隅などあの男は余り行かない。だからペコは男の暴力を殆ど受けずに済んでいた。


 白い被毛は汚れていたけれど、その手触りは昔のままだ。

 

 家には入らず、ずっと物置でペコを撫でていると、後ろから幸治さんの声がした。


 「明日香ちゃん、僕の女友達が変な事を云ったそうだけど……あいつはオカシイんだ。気にしないで」


 この場に及んでまだそんな事を。 

 “女友達”か。便利な言葉だ。


 きっと私もその“女友達”の一人なのだろう。 

 可哀想な女の子に優しくして、まるで正義の味方気取りでいたのだろう。

 

 「もう、私の事は放っておいて!」 


 「頼む、話を聞いて!」


 何をどう弁解するつもりなのだろう? 

 でも、もう私は騙されない。


 母と同じ事はしない。


 彼の言葉を無視して、家の中へ入った。ほら、御覧、追いかけて来ない。家の中に居るあの男が恐いんだ。


 もう厭だ。父の居る所に行きたい。


 ここにはもう、私の場所など無いのだから。 










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