―絶―
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電車に揺られながら、あの女の云っていた事を反芻していた。
最後の言葉が無ければ、この女は幸治さんに片思いしていて、でもなかなか振り向いて貰えなくてストーカー紛いの事をしている可哀想な人だと思う事も出来たのに。
今まで誰にも見せなかった傷。
幸治さんにしか見せなかった傷。
あの女と幸治さんがどういう関係かなどより、彼が私の事を吹聴したと云う事実。
裏切られた、と思った。心の拠り所が無くなった。親身になっている振りをして、私の事を嗤っていたのだ。
結局私も母と同じだ。
ペコはずっと家の中で暮らしていたのに、今は物置の隅に繋がれていて、食べる物もそれまでは高級ドッグフードだったのに、家族の食事の残り物だ。
しかし不幸中の幸いと云うか、物置の隅などあの男は余り行かない。だからペコは男の暴力を殆ど受けずに済んでいた。
白い被毛は汚れていたけれど、その手触りは昔のままだ。
家には入らず、ずっと物置でペコを撫でていると、後ろから幸治さんの声がした。
「明日香ちゃん、僕の女友達が変な事を云ったそうだけど……あいつはオカシイんだ。気にしないで」
この場に及んでまだそんな事を。
“女友達”か。便利な言葉だ。
きっと私もその“女友達”の一人なのだろう。
可哀想な女の子に優しくして、まるで正義の味方気取りでいたのだろう。
「もう、私の事は放っておいて!」
「頼む、話を聞いて!」
何をどう弁解するつもりなのだろう?
でも、もう私は騙されない。
母と同じ事はしない。
彼の言葉を無視して、家の中へ入った。ほら、御覧、追いかけて来ない。家の中に居るあの男が恐いんだ。
もう厭だ。父の居る所に行きたい。
ここにはもう、私の場所など無いのだから。




