―憂―
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最初は、辛い事を打ち明けているだけだったが、次第に幸治さんと私は恋人の間柄になっていった。
彼の暖かい腕に抱かれていると、折檻の痕も癒されたし、どんなに“偽物”に殴られたり蹴られたりしても堪えられた。
「これは酷い……痛かったろ?可哀想に」
そう云って、私の痣を、煙草を押し付けられた火傷痕を、撫でる。それだけで満足だった。何も変わらない、変えられない。ただ、この辛さを乗り越える力を与えてくれる、それだけで良かった。
いつか、幸治さんが助け出してくれる。
我慢して居ればいつか。
父が生きていた頃のような幸せな暮らしが戻って来るのだ。
でも、それは私の妄想だったのだ。
ある日の下校時、見知らぬ女性が学校の門の前で私を待っていた。
美人だが、派手な感じのその女性は、私の足元から頭の上まで舐めるように見て、何故か見下したような顔をする。
「明日香ってアンタ?」
「そうですけど」
「私の彼氏にちょっかい出すの止めてくんない?」
……私の彼氏?
一瞬、何を云っているのか解らなかった。
なので返す言葉も見付からない。
黙っていると、手のひらが私の頬に跳んで来た。
「ガキのくせに人の彼氏寝取るなって云ってんだよ!幸治は私の彼氏なんだから!」
違う……
「アンタは大人しく援交でもやってな!遊びたいだけなら其処らへんのオヤジでも相手にしてな!」
……違う。
違う。この人は何か思い違いをしてるんだ。
幸治さんは私だけを……
「幸治が云ってたよ、身体中痣だらけのヘンなガキに付きまとわれて困ってる。って」
目の前が真っ暗になった。
“偽物”は絶対外から見える所に傷を負わせ無い。
私が身体中痣だらけなのを知っているのは幸治さんだけだ。




