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レーテの川の水  作者: 鮎川 了
Μνημοσύνη
17/26

―憂―





 最初は、辛い事を打ち明けているだけだったが、次第に幸治さんと私は恋人の間柄になっていった。


 彼の暖かい腕に抱かれていると、折檻の痕も癒されたし、どんなに“偽物”に殴られたり蹴られたりしても堪えられた。


 「これは酷い……痛かったろ?可哀想に」 


 そう云って、私の痣を、煙草を押し付けられた火傷痕を、撫でる。それだけで満足だった。何も変わらない、変えられない。ただ、この辛さを乗り越える力を与えてくれる、それだけで良かった。



 いつか、幸治さんが助け出してくれる。 

 我慢して居ればいつか。

 

 父が生きていた頃のような幸せな暮らしが戻って来るのだ。




 でも、それは私の妄想だったのだ。




 ある日の下校時、見知らぬ女性が学校の門の前で私を待っていた。


 美人だが、派手な感じのその女性は、私の足元から頭の上まで舐めるように見て、何故か見下したような顔をする。


 「明日香ってアンタ?」


 「そうですけど」


 「私の彼氏にちょっかい出すの止めてくんない?」 


 ……私の彼氏?


 一瞬、何を云っているのか解らなかった。

 なので返す言葉も見付からない。 


 黙っていると、手のひらが私の頬に跳んで来た。


 「ガキのくせに人の彼氏寝取るなって云ってんだよ!幸治は私の彼氏なんだから!」 


 違う…… 


 「アンタは大人しく援交でもやってな!遊びたいだけなら其処らへんのオヤジでも相手にしてな!」


 ……違う。


 違う。この人は何か思い違いをしてるんだ。

 幸治さんは私だけを……


 「幸治が云ってたよ、身体中痣だらけのヘンなガキに付きまとわれて困ってる。って」 


 目の前が真っ暗になった。

 “偽物”は絶対外から見える所に傷を負わせ無い。


 私が身体中痣だらけなのを知っているのは幸治さんだけだ。











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