―希―
◆
母の心はもう壊れていた。
プラスティックの粗悪品を嬉々として受け入れ、虐げられ、暴力を振るわれても笑っているだけだ。
気付いたからこそ壊れたのだ。
これは死んだ父の代わりにはならない。
なのに、なんて軽はずみな事を……と。
幸せを取り戻す為に焦った母は不幸を家に呼び込んでしまった。
私は母を憎んだ。
父の思い出を汚す者達を憎んだ。
しかし非力な私にはどうする事も出来ない。
毎日、“偽物”から受けた折檻の痕を隠して学校へ行く。そしてまた帰って来ると折檻が待っている。
ある日、家の前で入るのを躊躇っていると、隣の家から声がした。
「明日香ちゃんだよね?」
隣の家の玄関灯に照されて、背の高い青年が立っている。
「覚えてないか、小さい頃は良く遊んだんだよ。他県の大学へ行ってたんでなかなか戻って来なかったんだけど……暫く見ないうちに大人っぽくなっちゃったね」
その爽やかな笑顔には見覚えがあった。
小さい頃、よく遊んでくれた隣の……
「幸治お兄ちゃん!」
すっかり大人になったその人は、私をこの地獄から救い出してくれる王子様に見えた。




