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レーテの川の水  作者: 鮎川 了
Μνημοσύνη
15/26

―代―





 ……私が高校に入学してすぐの事だった。

 

 父が癌で亡くなったのは。 

 


 幸い財産も家も遺してくれたので、母も私もペコも路頭に迷う事は無かったが、心の中に大きな穴が穿たれて絶えず風が吹き込んで来る様だった。

 それは母もペコも同じだったに違いない。

 

 でも、きっと歳月ときがその穴を塞いでくれる筈だった。


 悲しい記憶は薄れ、父と過ごした幸せな思い出だけが精製され、磨き抜かれた不変の宝石となって心の中に留まる筈だった。


 人は何故、悲しみや寂しさを堪える力が無いのだろう?




 四十九日が済み、暫く経つと母の外出が頻繁になった。

 悲しさを紛らわす為に、友達と会っているのかもしれない。


 そう思っていた。


 しかし、段々派手になって行く母の服や化粧。


 厭な予感がした。


 酔って深夜に帰って来る事も、あまつさえ朝になってやっと帰って来る事もあった。 


 そんな母を見るのが厭だった。


 母は“父の思い出”と云う宝石が心の中で造られるまで待ちきれなかったのだ。


 イミテーションの硝子玉で、父を亡くした穴を塞ごうとしたのだ。


 そのイミテーションは余りにも粗悪品だったのに。硝子ですらなくプラスティックの安物だと気付いた時にはもう、全てが遅かったのだ。





 家に入り浸るその男は、父には似ても似付かない。

 うちの財産を宛にして、働きもせず日がな酒を飲んでいて、挙げ句の果てに逃げた前妻との子まで連れて来た。


 親も親なら子も子だ。

 小学四年生のその男の子は、学校にも行かず、日がな一日ゲームをして過ごしていた。


 父が遺してくれた財産を、湯水の様に使う“奴等”は、その内暴力まで振るうようになった。







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