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中 編

*



 海エルフの祭祀 ―――――前日



 昼過ぎになって集合場所に集まったのは30人弱の男達。


 どうやらこの依頼は俺が思っていたよりも遥かに人気があったようだ。


 その男達の間を縫う様にして海エルフの老人が一人一人確認して回っている。


 人数制限は無かったみたいだけど、結局その中から残ったのは俺を含めてたったの7人だけだった。


 後の大多数の男達は魔力を筆頭とした各種条件を満たしていないとかで、丁寧に引き取りを示唆されているようだ、が…?



「――生涯一度の頼みだァァァ、どうか御慈悲をォォォーっ!」

「――終わった……俺の人生が、終わった…」

「――タダでいい、むしろ金を払うから参加させてくれぇーっ!」

「――後生じゃ! 頼む、ワシをもう一度連れて行ってくれぇぇぇ―っ!」



 ……俺は何も見てないし何も聞いて無い。


 筋肉モリモリのマッチョな男達が鼻水を垂らしながら皺くちゃのじーさんに縋りついてる図、なんて不気味な物は断じて見ていない!




 流石はエルフ、この世界でも人気があるんだな…。




 それから騒ぎが収まるまで暫らく、残った7人が漸く連れて行かれたのはエルフの里からは少し離れているという祭祀を行う為の広場。


 その傍には大きめの建物があって、老エルフからの簡単な説明によると俺たちは今晩はその建物に泊って、今晩から明日の夜にかけては身を清めて祭祀に備えるらしい。


 この時点で分かった事だけどこの依頼は数年ごとに出されているもので、ここにいる連中はそのほとんどが経験者だった。


 少し驚いたけど数年前なら俺はこちらに来てすぐの不慣れな頃、依頼に気付かなくても不思議は無い。


 経験者が多い事にしても準一級の魔力量を指定されていて尚且つ宮仕えを除外すれば……似たり寄ったりの顔触れが集まるのも当然かと納得がいく。


 それに内容を何も知らずに来ているのは実は俺だけだったらしく、他の連中が何やら訳知り顔でにやにやと笑ってやがるのがムカついたが……。


 祭祀の内容なんて明日になればどうせ分かる事だ。


 俺は極力気にしない事にして、平静を装ってやり過ごした。






 ―――――その日の夜。



 俺は依頼を受けた他の男達と共に海エルフ流の精進料理を御馳走になった。


 なんでも祭祀に参加する俺たちは今日から祭祀が終わるまでの七日間、出される料理以外の物は一切食べてはいけないらしい。


 潔斎して祭祀に臨むのは当然の事。


 そう思って目の前に並べられた食事をありがたく頂こうと……?




【海エルフ流 精進料理】


 特別コース ―――コース名


 『とある種類の亀と海藻類をふんだんに使い元気溌剌死人さえも生き返る☆ぜ』


 ※――おかわりは自由です。



 お飲み物 ―――薬酒


 『海蛇をしっかりと漬け込み喉ごし爽やか身体は芯から燃え上がる☆ぜ』


 ※――どれだけ飲んでも二日酔いならない親切仕様で元気が湧き出る素敵なお薬です。






 えーと、…………………………これは精進料理なの?


 まぁ何だ、所変われば品変わる。


 祭祀の一環としての食事なんだからきっとこれも広い定義においては精進料理と言える…はず。


 料理の中身を見ると海を神聖な物として奉る海エルフらしく、使われている食材はどれも海で採れる物ばかり。


 無理やり感が否めないが異世界に渡ってからの俺のスルースキルは日進月歩。


 最早熟練の域に達していた。


 その心は――― 一々気にしてたらヤッテ(生きて)らんねーっ!


 周囲を見渡しても気にしている者は皆無。


 むしろ豪快に飲んで食べておかわりしてーと云うのだから俺一人が気にしていても仕方が無い。


 そう割り切って食事に手を付けたものの、とある男の子の事情から今晩寝付けるかが少々不安だった―――が。


 そんな俺のささやかな(?)心配はあっさりと杞憂に終わる。


 料理を食べ終わった後に出て来た妙に甘ったるい飲み物、それを飲み干した瞬間に俺の記憶はぶっつりと途絶えたのだった。


 こう云うのも至れり尽くせりって言うんだろうか…?


 結局この日は思い悩む暇も無く(強制的に)終了したのだった。






 海エルフの祭祀 ―――――初日の夕刻



 昼を大きく回り太陽が沈む寸前になって叩き起こされる。


 ボケた頭で周囲を見ると他の連中も似たり寄ったりな状態で、全員が取り敢えず目を開けた所でマッチョな海エルフの青年からこれからの予定が知らされる。


 この時点で大いなる疑問と同時に非常に嫌な予感が俺の脳裏を過ぎった。


 ―――何故にマッチョ!?


 エルフと言えば細身、百歩譲って地獄の訓練を施し鍛えまくったとしてもそれで出来上がるのは細マッチョ!


 何でガチムキゴリラマッチョが出て来るのっ!


 しかも褐色の肌をしたゴリラマッチョ青年を筆頭に、その後方に待機している海エルフの青年たちもまた全員がガチムキマッチョ。


 ―――マッチョマッチョマッチョマッチョマッチョっ!



 なにコレ恐いっ!?



 寝起きの頭で必死に目の前の現実からの逃走を図る俺。


 その俺に何ら構う事無く、事態は着々と進行して行くのだった。




 ―――本日の予定


 清めの沐浴、食事、そして……。






     □ ■ □ ■ □






 マッチョな海エルフの青年たちは非常に親切だった。


 そのマッチョでムキムキで無駄に高性能なふるぼでぃーを如何無く発揮し、不慣れな俺達を精一杯優しく世話してくれた。



 まずは沐浴。


 グローブみたいなムッチリとした手を器用に使い、まだ半分眠っている様な男達から撫でまわす様にして器用に服を引ん剥いてくれるマッチョ。


 何やら奇声を発している素っ裸の男を全く気にする事無く逞しい肩に軽々と担ぎあげ、丁寧に滝壺に投げ入れてくれるマッチョ。


 一部、もがきながら沈んで行く姿が見えた気がしたが…きっと気のせいだろう。


 もちろん俺は正気に戻るや否や、彼らの手を煩わす事無く自分で服を脱いで自分の足で飛び込んだ。



 ……俺は勝ったっ!



 だがこれで逃れられるほどこの世界のマッチョ…もとい海エルフの青年たちは甘くは無かったのだ。


 マッチョ達の献身的な介助はその後も続く…。


 万が一にも清め残しが無い様にとしっかり監督してくれるマッチョ。


 水面に浮かぶ顔があればそれを丁寧に沈めてくれるマッチョ。


 充分に清めたと見極めた後は引き摺り上げて隅々まで丁寧に、万鈞の力で磨き上げてくれるマッチョ。


 そうして真っ赤に清められた垢一つない身体を握りつぶすかの様に揉み解してくれるマッチョ。


 仕上げにと何やらオリエンタルな香りのする香油をこれでもかと塗りたくってくれるマッチョ。



 ―――僕、息子にまで塗られちゃったの……もうお婿にイケないぃぃぃ~…。



 真っ白になった俺の頭に何故か某有名作家の超有名小説、注文の多い○○○が思い浮かぶ。


 まさか……な?



 あまりの衝撃に茫然としていた俺にバスローブの様な形をした薄い着物が渡される。


 周囲を見渡すと殆んどの者は既に立ち直りさっさと身支度を整えていた。


 中には何だかヤリキッタっ! って感じで晴れ晴れとしている者さえいる。


 ……慣れか? 慣れなのかっ!?


 俺は人間の持つ適応力の偉大さをゆっくりと噛み締めた、が。


 ……これって適応したら、マズくねっ!?




 そして次に来たのは食事。


 目の前に供されるのは昨日同様こってりと精のつきそうな精進料理の数々。


 もちろんマッチョ達の献身的な介助があれで終わりなわけが無い。


 必死で口を動かす俺の視界の隅に過ぎるモノ。


 筋肉で顔の位置を固定され口の中に料理を盛り付けられ、更に飲み込みやすい様にと蛇酒を注ぎ込まれる憐れな犠牲者たちが…。


 必死で抵抗する彼ら。


 だがその抵抗も沐浴の際と同様に、マッチョな海エルフの青年たちに笑顔でいなされあっけなく終わる。


 一応は彼らも冒険者、それは情けないだろうと突っ込もうにも、ブットイ丸太の様な筋肉と筋肉の間にがっっつりと抱え込まれて涙目でプルプルしている姿を見れば……数分後の自分を見る様で視線を逸らす事しか出来なかった。


 ……許せ、俺は我が身が可愛い!


 だが参加者も上級者にまで上り詰めると一味違う。


 彼らは初めから一切の抵抗を放棄し、悟りきった表情でマッチョ達の為す事をあるがままに、全てを自然体で受け入れていた。


 ……上級者っぱねぇっ!


 こうした筋肉ダルマ達の献身的な手助けにより、身も心も真っ白に燃え尽きるまで完璧に清められた俺たち。


 こうなって初めて、海エルフに伝わると云う『聖なる衣』を身に纏う事が俺達にも許されるという……。











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