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ZONEシリーズ

ゾーンの向こう側SpinOff1「コトリアソビ編」

作者: ライターXT

ゾーンの向こう側本編にて、幽霊部員の一人だったタカナシマサトの物語。いわゆるスピンオフです。



「ことりあそび君、でいいかな?」


まただ。

「小鳥遊」と書いてタカナシと読む。


俺の名前は小鳥遊正人。日本の珍しい苗字ランキングに載っている珍苗字であるって以外は、大して容姿に特徴の無い高校2年生。


まだ1年の時は生きがいがあった。それはサッカー。

5年前は『奇跡のイレブン』って有名だったここ国巻高校サッカー部で、いつの日にか出場する日を夢見て走り続けていた。


でも、燃え尽きた。


才能の壁とかライバル争いとかっていうんじゃない。

大人のせいで燃え尽きた。


去年監督だった大嶺は、本当にバカだった。


偉そうな態度だけど在り来たりな練習を一年中続けて、スタメンは自分の言うことを素直に聞く選手ばかり。采配も何がしたいかわからなかったし、結果は勿論ついてこなかった。


「お前ら!いい加減にしろ!!!」しか言ってなかったけど、いい加減にして欲しいのはアイツのほうだった。


試合中に一度意見したことがある。1点リードしててもずっと両サイドバックを上がらせていたから「引いたほうが良くないですか?」と言った。嫌な予感がしたからだ。


でも大嶺は「お前、誰に向かって言ってんだ?」って睨みながら言っただけだった。


予感は的中した。その後相手に3点取られて逆転負け。3年生はこの試合が引退試合になってしまった。


あの敗戦は采配のせいだった。誰が見ても明らかだった。


大嶺は絶対に許せない。

「ガッカリだよ。お前らには。」


当時の3年生に対して言い放った最後の言葉は、もしかしたら人生最後の試合かもしれない先輩たちに、敬意の欠片も無い最低の一言だった。


敗戦の日の夜。少し考えてみた。一夜明けたら、大嶺も反省して改心するかもしれない。そうすれば、ちゃんとサッカーが出来るかもしれない。そう少しだけ期待したけど、俺はバカだった。



大嶺は翌日監督を辞めた。


1年間の汗を大人に汚され掻き回され無駄に終わったんだ。駄々をこねるようにアイツは辞めた。


情けない。ただただ情けない。新しい監督がじきに来るだろう。でも、もう嫌だ。大人に振り回されるのは。



サッカーなんて、結局監督の言うことをやるってだけ。その精度と結果だけが選手には必要というなら、もうやらなきゃいい。



だから、サッカーを捨てた。


俺だけじゃない。大勢の部員が辞めた。退部届けはタイミング的に出しそびれたってだけで、もう退部も同然。2年に進級した今、誰も俺を引き止めるはず無いし、まだサッカー部に残ってる奴らから誘われるはずも無い。









そう思ってた・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ことりあそび君、でいいかな?」



「タカナシって読むんだよ」っていちいち言うのが面倒だったので、黙って振り返った。


「え!?」ついつい俺は大声を出した。


話しかけてきたのが、校内でも美人と有名な若宮志保だったからだ。



「え?なに?どした?」こんな美人が俺に話しかけてくるなんて、想像したことも無い。


「ねぇねぇ、なんで辞めたの?」

「はぁ??」

「あ、まだ辞めては無いんだよね。なんで来ないの?」

「・・・何が?」

「サッカー部だよ!みんなすごい練習してるよ!」


若宮がサッカー部のマネージャーになったと噂で聞いたけど、まさか本当だったなんて・・・。会話しながらも、まだ信じられなかった。


「・・・色々あったんだよ。もう終わった話しだし。」

「終わった?なにが?」

「サッカーに決まってるじゃん!」

「だって、辞めてないよね?」

若宮が相当濃いいキャラだとも噂で聞いたことがあったけど、ここまでズカズカ人の心に土足で踏み入れる女とは、思いもしなかった。


「辞めるタイミング逃しただけだよ!絶対退部届け出せってんなら、今書いてやるよ!」

「書かないでよ。」

「え?」

「来て欲しいもん。」

「は?」

若宮が真っ直ぐな目で言うので、俺は困惑した。すると若宮はさらにこう言った。


「みーんな、楽しそうだよ。一回見るだけでも来なよ!」


「・・・タノシソウ?」

「うん!」

ウチのサッカー部が、あいつらが、俺らが楽しくサッカーしたことなんて、一度も無い。

「ウソつけよ!入ったばっかりなんだろ?お前!去年を知らないお前に何が分かるんだよ!!」

「知らないよ。」

「・・・エ?」

「去年のことなんて知らないよ。監督が滅茶苦茶だったとか、噂では聞いてたけど、よくは知らないよ。でもね、今年のサッカー部のことなら良く知ってるよ。そりゃ困ったり動揺すること多いけどさ、みんなすんごく生き生きしてるんだから!」

「・・・。」

「美津田監督、言ってたんだよ。『監督の本望は、選手がどうやったら大切なことに気付けるかを考えることなんだ。勝つ事だけじゃ無いんだ。』って。」

美津田って名前は聞いたことがある。大嶺に変わって今年から監督になった奴の名前だ。でも、こいつも大嶺と同じで『奇跡のイレブン』のメンバーだったんだ。だから尚更俺はサッカー部に戻る気にならなかった。


「言うのは誰でも出来るだろ?」

「それって、今の君の事みたいだよ。」

どこまでも無神経に話す若宮に、俺はもう怒りを通り越していた。

「じゃあ、好きに言わせろよ。俺は人間関係に・・・疲れたんだ。」

「あるよね~。」

意外な返事に、ついつい若宮の顔を見つめてしまった。


「私もさ、今まで色んな人と付き合ってきたけど、やっぱり男も大人もピンからキリまで色々いるってわかるようになったもん。」

同い年の今年17歳になる少女からは中々出ない発言には、何故か重みすらあった。


「八つ当たりだったんだ。元カレへの。」

「・・・なにが?」

「マネージャーになった理由。でも、始めてみたら楽しいもんだってわかってきたの。」

「マネージャーが?」

「ううん。サッカーが。美津田監督とかみんなを見てたらね。明日が楽しみになってきたの。明日はどんな練習あるのかな?とか、明日はどんな手伝いできるのかな?とか。」

「・・・本気で言ってるの?」

「うん!」

若宮の満面の笑みは、どうしても演技に感じられなかった。



「明日、私が勧誘した新入部員を監督に会わせようと思ってるんだ。来てみてよ。みるだけでもいいから。」

「え?」

「きっと待ってるよ、みんな。」


そういうと、授業のチャイムが鳴って、若宮は自分のクラスへと急いで戻っていった。


そして授業中、ずっとクラスの男達から俺は美人の若宮と話したことで、冷たい視線を感じることになった。




夕方、少しグランドを覗いてみて俺はビックリした。




あんなにヘタクソでどうしようもなかったGKの坂田が、堂々とゴール前に立っている。

練習嫌いだった松田が、一生懸命練習している。


みんなが生き生きとサッカーをしていた。


なにがあったんだ?この2週間で。


俺はつい驚いた勢いでカバンを落としてしまう。


「タ・・・タカナシ?」

去年一番仲の良かった須賀が、練習しながら俺の存在に気付いた。





「言うのは誰でも出来るだろ?」

「それって、今の君の事みたいだよ。」

あの時の会話が蘇る。




じゃあ、みせてもらおうじゃん!やってみようじゃん!


まだ俺に気付いてない若宮を睨みながら、そうおれは思った。

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