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風が吹いた日  作者: たけ
6/8

苦み

今城の遺体は見つからなかったという。


「お可哀想に…」


さめざめと泣く乳母を、奈保は表情も変えずに見ていた。


哀れだと思う気持ちは勿論、ある。

しかし涙は出なかった。


ーあなたにとって、わたしは、あくまで、王の決めた婚約者でしかなかったのですね。



その通りかも知れない、と奈保は思う。

兄王の妹として生きることを決めてから、奈保は娘たちの好む恋物語を読むのを止めた。そのような恋は自分には縁のないものと思い定めたのだ。


ーそして婚約者にも恋を求めなかった。


だが今城にとっては違ったのだろう。彼は婚約者に情を求めた。そして、それは当然のことなのに…見誤ってしまったのだ、奈保は。


だから、奈保が今抱いてるのは後悔なのかも知れなかった。


彼はおそらく、傷ついたまま死んだ。


しかし奈保は泣けない。死んだのは奈保の婚約者ではなく、兄の臣下のひとりに過ぎないのだから。


「お可哀想に…」


乳母は泣く。

泣くのは、或いは泣かない奈保への言葉なき非難なのかも知れなかった。


婚約者に情を抱かず、彼の一族へ淡々と嫁ごうとしている奈保への。


乳母が奈保を愛しんでいない訳ではない。

ただ、乳母には理解出来ないだろう。


ー乳母は王の妹では 無いのだから。










「遺体が、見つからない…?!」


夏目は、影の者の言葉を繰り返した。


「誠に、申し訳なく…!」


目の前の黒ずくめの男はただただ平伏している。


「あれには、影を付けていたのでなかったか?!」


今城が奈保への思いを抱いていたことは知っていた。だからこそ、遠地に引き離し、影を付けたのだ。

愚かな火種とならないために。

彼を殺さなかったのは従兄弟への情故に過ぎなかった。


「影は死体で見つかりました」


「!?」


夏目は顔色を失う。

影は手練れの者たちばかりだ。彼らが死体で見つかるなど、尋常のこととは思えなかった。


「…とにかく、このことは慎重に扱わねばならぬ」


しばしの自失の後、漸く夏目は言った。


「遺体が見つからないことは隠しとおせまい…あれの家族…叔父上たちが現地に向かわれたと聞く…ただ、彼の死は確かなものとされなければならない」


「と、申されますと?」


「彼が死んだという事実を揺るぎないものとしなくてはならぬ」


彼が生きていようと、死んでいようと。


ー「賊」の自白が要るな、と、物憂げに夏目は言った。

あれ。なかなか恋愛にいきません…。

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