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風が吹いた日  作者: たけ
4/8

覚悟

「あまりにも酷うございます!」


「ばあや、そんなこと言わないで」


憤る乳母を奈保はたしなめた。

いくら奈保と乳母と二人しかいない部屋であっても兄の…王への非難は許されい。


奈保の言葉にしかし乳母は頭を振って言った。


「いいえ、言わせて頂きます!どうせ老い先短い身ですもの。この度の王のなさりようはあまりにも惨い!ただひとりの同腹の妹君になさることとは思えません!」


「ばあや…」


奈保は眼差しを暗くする。


奈保の婚約破棄と、志美殿との婚約が発表されてから2週間がたっていた。奈保を取り巻く声は、同情、憐れみによるものがほとんどであった。


ー彼の氏族のものと婚姻など。


彼の一族との最後の大きな戦があったのは奈保の父の世の話だ。戦で死んだ者も多く、それは奈保の周りにおいて珍しいことでなかった。

乳母も息子の一人を戦でなくしている。


その心情を慮り、あまり強く乳母をたしなめられない奈保であったが。


「ばあや」


毅然とした声を奈保は出した。


「わたくしは兄上様のお気持ちを疑ってなどおりません」


「姫様…」


「兄上様はわたくしを思って下さっている」


「しかし…」


「ですが、兄上様は兄上様のものではない…この国のものなのです」


奈保は知っている。

兄が、王であるためにどれほどの事柄をあきらめてきたかを。息を吸うことも、足を動かすことも、兄ひとりのものではない。

諸豪族の娘を妻に迎え、それらを平等にもてなし、しかしながら奈保を政略の駒には使おうとしなかった。


その兄が奈保にすまぬと言った。


ならば奈保には諾と応えるしかない。


「わたくしは兄上様の…王の妹なのです」


「姫様…」


乳母は奈保の顔を仰ぐ。外見も内面も平凡で、聞き分けのよいことしか褒められることのない主が、 今は臈たけてみえた。


黙り込んだ乳母に奈保は莞爾と笑いかけた。


「とりあえず、婚礼まで間もないわ。衣装をどうするか…女部屋の者たちには急いでもらわないと」


乳母が頷きかけた時、人の訪れを告げる鈴が鳴った。

王家に使える者のしとやかさで、こざっぱりとした紺のお仕着せを着た侍女が部屋に入ってくる。


「今城様がお越しです」


侍女は言った。


「任地に向かわれる前に姫様に暇乞いをされたいと…」

今城殿は元婚約者です。

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