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幻想戦記  作者: 竜影
第2章
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第59話 隔離された学校





治安部隊の詰め所を飛び出すと、セリュードたちはクウァルを先頭に道を、全速力で駆けていた。

「(・・・・・・フェルミナとシェルミナは、ずっと前からいじめを受けていたと言っていた。だが、助けを求めている今の状況が、今までのいじめと同じとは到底思えない・・・・・・)」

走っているクウァルの前に、四人の目の前に四階建ての家ほどの身長を持つ、ディゼアビーストが立ちはだかった。

「うわっ!?」

攻撃をかわしたセリュードたちは、武器を後ろに構える。

「こんな都合よくいるってことは・・・・・・」

「私とセリュードが拘束されたのは、敵の手回しだったってことね」

ディステリアとセルスが武器を構える。

「・・・・・・ったく、浸透しているにも程が・・・・・・」

その時、武器を取り出そうとしたディステリアを置いて、クウァルはディゼアビーストの中に突っ込んだ。

「ちょっと、クウァル!?」

セルスの静止も聞かず、いきなり突っ込んだクウァルにディゼアビーストが爪を振り下ろすが、クウァルもいつの間にか手甲を装備した右腕を後ろに構える。

「・・・・・・急いでいるんだ」

一瞬で敵の目の前に踏み込み、腕を一気に突き出す。

「どっ―――け~~~~っ!!!」

豪腕から繰り出した一撃を受け、右腕から消し飛ぶディゼアビースト。その様子を見てセリュードたち三人は唖然とし、その間にも、クウァルは他のディゼアビーストの間を走り抜けて行った。

「・・・・・・ギラ!?ガアアッ!!」

我に返ったディゼアビーストが多方向から一斉に襲いかかる。セリュードたちも武器を取り出して飛び出すが、三人が攻撃を放つ前にジャンプしたクウァルは体を回転させ、周りのディゼアビーストを蹴散らした。

「邪魔―――するなよ!!!」

突き出された腕が、残っていたディゼアビーストを粉々に砕いた・・・・・・はずだったが、そのディゼアビーストは上半身と下半身が分離して、クウァルに襲いかかって来た。

「なっ・・・・・・!?」

一瞬、やられると思った瞬間、別のほうから飛んできた二種類の斬撃、二種類の矢が二体に分離したディゼアビーストを一斉に貫いた。

「今日はやけに熱いじゃないか、クウァル」

四人が声のしたほうを見上げると、四頭の戦馬に乗ったジークフリート、ブリュンヒルド、クーフーリン、ファーディアが武器を構えていた。さっき喋ったのは、どうやらクーフーリンらしい。

「クーフーリンたちか。助かる」

脇を通り抜けるクウァルに「お・・・・・・おい」と声をかけるが、彼はそのまま走って行った。

「どうなっているんだ・・・・・・?」

マッハの上で呆けているクーフーリンの横を、セリュードたちが駆け抜ける。

「なっ・・・・・・おい」

「悪い、急いでいるんだ。そいつらの相手を頼む」

「あんたらなら、それほど苦戦しないだろ。後でこの町の学校に来てくれ」

セリュードの後にディステリアが言い、駆け抜けて行った三人をクーフーリンたちは唖然とした表情で見ていた。

「・・・・・・一方的に言いたいことだけ言って行きやがった・・・・・・」

「そう言うなよ・・・・・・どうやら、この町の学校で何かあったようだ」

ジークフリートにディゼアビーストが凄まじい速度で爪を突き出すが、駆け出したグラムの背には誰も乗っておらず、突き出した腕が肩の辺りで切り落とされていた。

「セリュードたちのように、俺たちも急いだほうがよさそうだ」

ジークフリートが着地した時、振り向いたディゼアビーストはすでにグラムに切り伏せられていた。その骸が落ちた直後、ブリュンヒルド、セリュード、クーフーリンが一斉に飛び出した。



                      ―※*※―



陣形を変えずに、道を駆け抜けるセリュードたち。やがて大通りを曲がった先に、何かを囲む高い壁が見えてきた。

「・・・・・・確かにここなのか・・・・・・?」

「聞いた話に間違いがなければ、ここに間違いないはずだ」

セリュードとクウァルが上を見上げる。しかし、その四方は高い壁に囲まれ、中を確認するのは容易なことではなかった。

「だったら・・・・・・とるべき道は一つ!!」

やる気満々で拳を構えるクウァルに、「奇遇だな」とディステリアも剣を構える。

「俺も・・・・・・似たような意見だ・・・・・・」

一瞬、互いにニヤッと笑ったかと思うと、両者ほぼ同時に武器を振った。校門をふさいでいた壁を貫いた轟音が学校の校舎の隅々まで響き渡り、校舎にいる誰もがその音を聞いた。

「・・・・・・ったく、この後どうするんだ。これだけの轟音を響かせて、気付くなと言うほうが難しい・・・・・・」

セリュードが呆れると二人は、「心配無用だ」と答えた。

「敵が立ちはだかるというのなら・・・・・・」

「倒しながら進めばいい」

クウァルとディステリアが壁に開けた穴から入って行くと、残されたセルスとセリュードは呆れるしかなかった。



                      ―※*※―



校舎から渡り廊下を通った先にある『第一生徒会室』。元々は学校を正す生徒会および風紀委員が使っていた部屋だったが、校舎に『第二生徒会室』が作られたため生徒会はそちらに移り、部屋事態は生徒に解放されていた。その生徒会室の中に、命からがら逃げて来たシェルミナ、フェルミナ姉妹が隠れていた。

「ホワン・・・・・・無事だといいんだけど・・・・・・」

シェルミナが不安そうに呟いたその時、校舎の中に轟音が響き渡った。入り口のドアに耳を付けて外の様子をうかがっていると、何かが殴られる音がしていた。まだまだ遠いが、その音がだんだん近づいていたため、フェルミナが目を見開く。

「(何者かがこっちに近づいている。音からしてホワンじゃない・・・・・・)」

神経を研ぎ澄ませ、音の正体を探る。

「(音の主は一人じゃない。・・・・・・二人・・・・・・三人・・・・・・いえ・・・・・・四人)」



                      ―※*※―



その音がしている場所を突き進んでいるのはクウァルたち。校舎に突入した彼らの前に、学校の生徒が三人も立ちはだかり、即座に武器を構える二人だったが、さすがに人間を相手に武器をふるえなかった。

「・・・・・・おいおい、敵が立ちはだかるなら、倒すんじゃなかったのか・・・・・・?」

「バカ言え」と、クウァルがディステリアに答える。

「こいつら、どう見ても催眠状態じゃないか」

生徒たちの目は虚ろな状態で、とても正気を保っているとは言えず、手出しできないでいる二人にじりじりと迫って来る。

「スリプル・ウィンド」

その時、セルスの声がするとどこからかそよ風が吹いて来て、生徒たちが次々と床に倒れた。

「・・・・・・お前ら、いきなりそのざまか?」

セリュードに呆れられた後、「みんな、大丈夫?」と杖を持ったセルスが聞く。

「セルスか。助かったぜ」

ディステリアはそう言ったが、クウァルはセルスのほうを向きもせず、校舎の中を駆け抜けて行った。

「ちょっと、クウァル。お礼を言うくらい、いいじゃない!!」

文句を言うセルスに、「まあいいだろ」と走りながらセリュードが言った。

「悪いがセリュードの言うとおりだ。急いでクウァルを追うぞ!」

ディステリアも駆け出したので一人残されそうになり、

「ちょ・・・・・・ちょっと待ってよ~」

とセルスも慌てて追いかけた。それからセリュードたちは、襲いかかって来た生徒を、素手で殴り飛ばす。

「くそ。虱潰しに探しても埒が明かない。何かいい手はないのか」

「クウァル、ちゃんと手加減してあげてよ。例え素手でも、あなたの力は強いんだから」

「わかっている。下手に手加減しそこねでもしたら、あいつは・・・・・・自分を責めちまうだろうからな・・・・・・」

思いつめた表情のクウァルに、セルスはどこか複雑な感情を抱いた。

「(この感じ・・・・・・心配じゃない。悲しみ?不安?違う、これは・・・・・・)」

動きを止めたセルスに、操られている生徒が飛びかかった。気付いていたディステリアが左手で床に叩きつけ、蹴り飛ばすと何かを叫んでいる。

「・・・・・・嫉妬だ・・・・・・」

震えるように両肩を掴み、縮こまっているセルスを、近付いたディステリアが殴りつける。

「・・・・・・いった・・・・・・何するのよ!?」

「何してるって言うのは、こっちのセリフだ。戦いの最中に、ボオーっと突っ立っているんじゃねぇ!!」

セルスとディステリアが攻撃の手を止め、クウァルはその先で操られた生徒の群れに阻まれているため、セリュードが孤軍奮闘する形になってしまっていた。と言っても相手は一般人のため、一応は戦闘訓練を積んであるセリュードたちの敵ではなかった。

「いくらクウァルが怪力の持ち主でも、これだけの数を相手にするのはきついはずだ。すぐにフォローに回れ!」

「と言っても、俺たちが孤立寸前だ。それ以前に、なんでクウァルがあれだけ先行してんだ!」

襲いかかる生徒を蹴り飛ばしたり、投げ飛ばしたりするディステリアを見て、セルスは目を見張った。何もせずにいれば自分が危ないだけでなく、仲間にも迷惑がかかる。この時、彼女は改めて実感した。

「(これが・・・・・・『戦い』。これが・・・・・・仲間と・・・・・・共に戦うこと)」

顔つきが変わったセルスが杖を前に構え、ディステリアとセリュードが止めた生徒たちを押し退けると、そこにスリプル・ウィンドを放って眠らせる。廊下で襲いかかって来た生徒たちを一通り眠らせて、セルスは一息ついて杖を下ろした。

「クウァル。シェルミナたちの居場所はわかるのか?」

ディステリアの問いに、「いや、わからない」と首を振るクウァル。

「携帯も通じないし・・・・・・くそっ、虱潰しに探すしかないのか・・・・・・?」

「いや、その心配はない」

悔しがるクウァルに、落ち着いた口調でセリュードが言った。

「心を落ち着ければ、魔力の気配を感じることができる。それを辿れば・・・・・・」

「いいって訳か。だが、それを使えるのがセリュードだけとなると・・・・・・」

クウァルに、「何を言ってる」とセリュードが言う。

「これは人間を始めとした、あらゆる生物に備わっているものだ」

「「「ウソ!?」」」

驚いた三人が叫ぶと、「本当だ」とセリュードが答える。

「ただし、これが実際に使えるほど発達しているのは、妖精を始めとした幻獣だけだ。魔術師やその素養がある者も使えるようだが、幻獣のそれと比べて劣るらしい」

「なんでだ?」と焦りを隠したクウァルが聞くと、セリュードが振り返る。

「安全な社会を形成し、その中で暮らしているため、危機感知能力が落ちている、というのが有力な説だ」

「あっ、確かに・・・・・・安全な場所に住んでいると、気を抜いてしまいますよね」

頷いたセルスの声が呑気に聞こえたのか、いらついたクウァルが舌打ちする。

「そんなことより、シェルミナたちの居場所は!?」

「待ってろ、今探る」

目を瞑ったセリュードは、周りに神経を集中させ辺りを探る。待っているクウァルがイライラしている様子を見て、ディステリアが目を細める。

「随分とあの子に熱心なようだな」

「うるさい。ただ、自分の過去に合わせて同情しているだけだ」

クウァルの言葉にディステリアもセルスも目を丸くする。

「あいつも周りから阻害され、友達もあまりいない。俺はそんなシェルミナを守ることで、過去の自分を救っているつもりでいる。ただの自己満足だ」

「そんな・・・・・・そんな風に言わないで」

「卑屈になったって、事実を認識してるわけじゃない」

周りの気配を探っているはずのセリュードが口を挟んだので、驚いて三人が振り返る。

「自己満足も偽善も、所詮他人の価値観だ。それが事実だと認識されるのは、当人がそう判断した場合だけだ」

「それは・・・・・・そうかも知れないが・・・・・・」

「誰に何を言われたか知らないが、俺たちは信じた者を貫けばいいんだよ」

セリュードが優しく肩を叩き、「ああ」とクウァルが頷いた。

「ところでセリュード、妖精の力の気配は掴めたのか?」

「誰かさんたちがうるさくて、集中でいなかったよ」

魔力を感じるやり方は、慣れてなければないほど神経を使う。そういう意味ではセリュードも慣れてないほうということになり、それを妨げたことにディステリアたちは罪悪感を覚える。

「それに・・・・・・少々厄介なことになってるようだ」

「厄介なこと?」

首を傾げてセルスが聞いた時、二階の廊下から彼女に向かって何かが飛び降りて来た。その影の正体は彼らよりも大きな体をして、全身に黒い毛とウロコを持った怪物で、落下地点にいるセルスに爪を振り下ろした。

「危ない!!」

気付いたディステリアはとっさに天魔剣を召喚し、セルスの前に割り込んで怪物の爪を弾く。怪物が着地するとは同じような怪物が後から出て来た。

「怪物相手なら手加減の必要なしだ!」

「待て、何かおかしい」

違和感に気付いたセリュードは襲いかかって来た怪物の攻撃をかわし、左拳に光属性の魔力を溜めて殴りつけた。腹を殴られた怪物は苦しそうに呻いてよろめくと、他の怪物たちが割り込む。

「浅い!俺が・・・・・・!」

「だから、待てって!今度は決める」

攻撃しようとするディステリアを押さえ、陣形を崩してまでも飛び込み、今度は両腕を目の前の怪物に打ち込み、溜めていた光属性の魔力流し込んだ。浄化の作用がある光の属性を受けた怪物は、倒れると共に制服を着た少年の姿になる。

「なっ!?これは・・・・・・」

「ウソだろ!?」

それを見て、ディステリアたちは『学校の生徒たちが怪物に変化している』という最悪の事態を予想した。

「元に戻せるなら、無闇に殺せない。くそっ、これも奴らの企みか!」

「ディステリアも、光の力が使えたよね。それで学校の生徒たちを・・・・・・!」

「ダメだ。俺のは完全攻撃用だ。セリュードのように加減できない!!」

セリュードとセルスが怪物を弾き、ディステリアは先走るクウァルを止めようと手を伸ばした。後ろの襟首を掴まれ、クウァルは倒れかけるもなんとか踏みとどまる。

「お前・・・・・・邪魔するな!早くしないと、シェルミナが・・・・・・!」

「だからってね。あんたが先走るから、私たちも囲まれてるのよ!」

「落ち着ける場所に辿り着けたら、気配を探ることもできる。まずは陣地確保だ!」

「そのためにも、まずはこいつらを寝かせる!!」

向かって行ったディステリアが天魔剣の峰を叩きつける。ほんの一瞬、怪物が変化させられた生徒だと忘れたディステリアは、それを思い出して顔を青くする。後ろにいるセリュードたちも、顔が真っ青になった。

「やっちまった・・・・・・」

思わず呟いた後、怪物が黒いモヤに包まれてそれが晴れると学校の制服を着た少年の姿になる。それに疑問を浮かべた次の瞬間、他の怪物たちも襲いかかる。

「おわっ!」

「おい、ディステリア。さっき、光属性の魔力は・・・・・・」

「込めてない。というか、俺にはまだそんな余裕はねぇ!」

クウァル、セリュード、ディステリアの順で声を上げながら怪物の攻撃を捌く。それを聞いていたセルスは、ある可能性を思いついて杖を掲げた。

「スリプル・ウィンド!!」

眠気を誘う心地よい風を受け怪物たちが倒れ、黒いモヤが弾けると制服を着た少年の姿に戻った。

「やっぱり」

「やっぱり、ってどういうことだ?」

さっぱり訳がわからないディステリアが、天魔剣を肩に担いでセルスに聞く。

「光の力を打ち込まなくても、意識を奪えばいいのよ」

「はあ!?そんなので元に戻るのかよ!?」

「どういう原理かしらないが、それで怪物にされた生徒たちが戻るならやることは決まってる」

クウァルは頷くが、ディステリアとセリュードはそう楽観的に見ることができなかった。それから生徒が変貌した怪物に苦戦しつつも、セリュードたちは彼らを元の姿に戻し近くの部屋に移していた。あらかた片付くとセリュードは、シェルミナとフェルミナが持っているだろう妖精の力の気配を探っていた。

「まだ見つからないのか?」

いらつくクウァルに、「しっ!」とセルスが人差し指を口の前まで上げる。

「最初に見つからなかったのは、私たちが騒いでセリュードの集中を邪魔したからでもあるの」

「いつ聞いたんだよ」

「さっき生徒たちを運んでいる時、セリュードが愚痴ってたの」

セルスの答えに、ディステリアは表情を引きつらせた。辺りが静かになると、セリュードはもうしばらく目を瞑っていた

「・・・・・・見つけた」

呟いて立ち上がると、「本当か!?」とクウァルが聞く。セリュードは部屋の前に誰もいないことを確かめると、廊下に出てディステリアたちを手招きする。

「こっちだ」

セリュードを先頭に、四人は廊下を駆けていく。

「追われてはいないだろうな」

クウァルの問いに、「どうしてだ?」とディステリアが聞く。

「後をつけられて隠れ場所を暴かれるなんて、間抜けにも程がある」

そんな時、目の前の廊下を、血相を変えた少女が走り抜けるのが見えた。






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