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幻想戦記  作者: 竜影
第2章
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第55話 双子の妖精




「とにかく、クウァルは病院にいるんだろ?どの道、いくしかないだろう」

ディステリアとセルスは顔を見合わせて頷くと、クウァルが収容されている病院へ向かった。夜の町中を疾走するセリュードたち三人は、教えられた自然公園に差し掛かる。そこから周りを見渡すと、緑の丘の向こうに病院らしき建物が見えた。

「あった。あれだ・・・・・・」

「本当なの?」

「疑うのか!?」

セルスが疑わしそうに聞くと、ディステリアが聞き返した。

「町の北にある、自然公園の向こう。あれに間違いない」

「ともあれ、いけば確実にわかる」

セリュードが言って中に入ると、病院のロビーにあるソファーの一つに、赤い長髪を下に下ろした一人の少女が座っていた。

「あの子か・・・・・・?」

そう思ったディステリアが近づくと、少女の目が彼を見上げた。

「ちょっと、すまない。聞きたいことが・・・・・・」

だが次の瞬間、少女の目が鋭くなると、いきなり右腕を伸ばして左の襟を掴んだ。とっさにディステリアは、その手首を掌で叩いて離れさせるが、その時にはすでに体を倒した少女のハイキックがディステリアの頭に向けて放たれていた。

「(なっ・・・・・・!?)」

とっさに上体を反らしてかわすが、蹴りが掠った頬の前側が切れて血が出た。

「なっ―――にするんだよ!いきなり!」

「ちょっと、ここ病院なんだから静かに」

その叫び声を聞いてセルスが注意すると、「うっ」と呟く。

「おい、お前・・・・・・」

そんなディステリアに、蹴りを見舞った少女が険しい表情で話しかける。

「お前が、さっき電話に出た奴か・・・・・・?」

「あ、あれ?電話の奴と・・・・・・違う?」

電話の時と違う声に、ディステリアは戸惑う。

「え?どういう・・・・・・」

呆気に取られるディステリアにセルスが言いかけるが、そこにまた少女が蹴りを放って襲ってきた。

「うわっ!何するんだ!?」

「うるさい。妹を怖がらせた罰だ!」

「ちょっと、二人とも。ここ病院なんだから、もう少し静かに・・・・・・」

セルスがなだめようとすると、「そのとおりです!」と厳格そうな顔の看護婦が注意してきた。

「あなたたち、患者さんの迷惑になるでしょう!」

「「す・・・・・・すいません」」

怖い顔で睨まれ、頭を下げる二人。その看護婦の気迫に、側にいるセルスも震え上がった。

「フェルミナちゃん。いくらなんでも、初対面の人をいきなり蹴るのは良くないわ。危険だし、何よりあなたの印象を悪くするわ」

「ハイ、気をつけます」

注意されて頭を下げる少女に、ディステリアは首を傾げた。

「フェルミナ?」

その瞬間、今度はディステリアのほうを向いて指差した。

「あなたもあなたです!友達の携帯からかかってきたとはいえ、いきなり怒鳴るとはなんですか。もっと人との付き合い方と言うものを・・・・・・」

受付から話を聞いたセリュードが戻った時には、ディステリアはガミガミ叱られていた。

「なんだ?どうしたんだ、こりゃあ・・・・・・」

「ええ・・・・・・と」

苦笑いしながら呟いたセルスから事情を聴くと、セリュードも苦笑いした。

「そうか。だが、いい機会だ。ディステリアにはしっかり、人との付き合い方を覚えてもらおう・・・・・・」

心の中で「すまない」と謝りながら、セリュードとセルスは病室の中に入ろうとした。

「ちょっと、何してるの」

中からした慌てた少女の声に顔を見合わせ、急いでドアを開けた。メガネをかけた赤い長髪の女の子と、包帯が巻かれた体にシャツを着ようとしているクウァルの姿があった。

「ちょっと、クウァル。あんた、何してるのよ」

「見ればわかるだろう」

入ってきたセルスを見て一言だけ言うと、裾を下ろしたシャツの上に厚手の服を着た。中にいた少女とセルスが唖然としていると、セリュードが口を開く。

「おいおい。かなりの重傷だと聞いたが、本当に大丈夫か?」

「なんでもないですよ。それより一端、出てもらえませんか?着替えができないんですけど・・・・・・」

「着替えができないって、その子の前で思いっきりしてるじゃない!!」

「そいつがいることに、気付かなかっただけだ」

怒鳴るセルスに、クウァルは頭を抑えて溜め息交じりに言った。

「とにかく、出て行ってください。ほら、君も」

「は、はい・・・・・・」

いきなりクウァルに促されて出て行きかけたが、「待ちなさいよ」とフェルミナが進み出た。

「あんた。助けてやったあたしの妹に、『出て行け』はないでしょ。助けてやったんだから、黙って傷を治したら?」

「それなら心配ない。もう治っている」

フェルミナを睨んで言うクウァルに、「どれどれ?」とセリュードが腹の辺りをさわる。

「ぐっ!?」

セリュードの指先が触れた直後、苦しそうな呻き声を出してクウァルが顔をしかめた。

「おや。治ったと言った割には、結構苦しそうだな」

触られた部分を押さえて、「てめえ・・・・・・」と睨みつけるが、セリュードは平然としている。

「無理して動くことはない。しばらく休んでいろ」

「し、しかし・・・・・・」

「いいから休め」

クウァルは言いかえそうとするが、それをセリュードはそれを抑えた。



                      ―※*※―



それから三人は、フェルミナと一緒に病院の外を歩いていた。ディステリアは「なんで場所を移すんだ」と文句を言ったが、セルスがそれをなんとかなだめた。

「俺たちが不審者だった場合、すぐに逃げて助けを呼ぶため。病院の中じゃあ、携帯電話が使えないからな」

両手をポンと叩いて、「そうか」と納得するセルスに対し、ディステリアは首を傾げた。

「えっ?どうしてだ?」

「あのねぇ・・・・・・病院にある電子機器は、携帯の電波の影響を受けやすいの。患者さんに治療をしている時に機器が問題を起こしたら、大変なことになるの。だから、携帯電話とか電波を放つ物は、病院内ではスイッチを切ってなければいけないの」

「そう言えば、イグリースの詰め所の医療エリアは、電波を発信する機械自体持ち込み禁止だったな・・・・・・」

「普通、重要な医療機器が置いてある所は、そういうことになっている。だから、いざ携帯を使う時にすぐに使える場所に移った。そうだろ?」

セリュードが聞くと、「ええ。そんなところよ」とフェルミナは答えた。

「だが、俺たちから逃げるためなら、病院の中のほうが有利なんじゃないのか?」

「なんですって」

ディステリアの言葉に睨みを利かせるフェルミナに少し引くと、セリュードが「いやいや」と言う。

「病院内を走るのはご法度なんだよ。走っていて、運んでいる薬や患者への食事をばら撒いてしまったら問題だからな」

自然公園に差し掛かった所で、「さて」とセリュードが言うと、四人は立ち止まった。

「遅くなったが、とりあえず自己紹介だ。俺はセリュード・クルセイド」

「あたしはセルス・セオフィルス。クウァルとは、同じ町に住んでいた幼馴染なの」

「ディステリアだ。とりあえず、友達が世話になったな」

その言葉が出た一瞬に、セルスはディステリアのほうを向いて目を見張った。

「・・・・・・仕方ないだろ。俺たちの存在はまだ極秘なんだろ・・・・・・だったら、『仲間』って下手に言えないじゃないか・・・・・・」

「それはそうだけど・・・・・・ここまで世渡りが下手とは、思わなかったわ・・・・・・」

呆れるセルスに「なんだと!?」と怒鳴りそうになったが、なんとか堪えることに成功した。

「私は、フェルミナ・サンカルナ。クウァルって人を見つけたのは、妹のシェルミナよ」

「・・・・・・双子・・・・・・しかも、強い妖精の力を引き継いでいるな・・・・・・」

ディステリアとセルスが驚くと共に警戒するフェルミナだが、

「セリュードと同じ!?」

「えっ?同じ?」

思わずディステリアが叫んだので、思いの他早く警戒を解いた。

「今回は、君のおしゃべりに助けられたね」

「・・・・・・悪かったな。おしゃべりで・・・・・・」

不愉快そうな顔で頭をかいていると、フェルミナがセリュードに近づいた。

「あなたは・・・・・・本当に・・・・・・?」

「信じられないのも無理はない。だが、ぼんやりとならわかるはずだよ」

差し出した右手の指先がセリュードの右手に触れると、「・・・・・・本当だ」と呟いた。

「でも、どうして?妖精の血を引いているのに、どうしてその人たちといるの・・・・・・?」

「くぉら、喧嘩売ってんのか!!」

「まあまあ」

唖然としているフェルミナにディステリアが怒鳴ったが、それをセルスがなだめた。

「だって、そう簡単に信じられる訳ないでしょう。異種族の血が混ざった人間を受け入れられるなんて、そんな人、見たことも聞いたこともないわ」

だが、それを聞いたセルスは、前にアポリュオンが言っていた言葉を思い出した。



~―回想―~

「世界はまだまだ広く、人間はその全てを知らない・・・・・・というだけですよ」

~―回想終わり―~



暗い表情をしているセルスに気付くと、それを見たディステリアは首を傾げていた。

「どうしたんだ、お前?」

「えっ?ううん。なんでもない・・・・・・」

セルスは一端笑顔になったが、すぐにまた暗い表情となる。

「信じる、信じないはそちらの勝手だが、俺は確かに妖精の血を引いているし、そのおかげで辛い目にもたくさんあった。だけど、俺はその先に認めてくれる人に出会い、共に歩める仲間に出会えた・・・・・・」

「・・・・・・仲間・・・・・・に・・・・・・」

「フェルミナ?」

とそこに、男の声がした。その声にフェルミナは振り向いたが、セリュードたち三人は一瞬で表情が厳しくなった。それもそのはず。その声の主は、彼らが倒した怪物のサンプルを横取りした部隊を率いていたイルムだった。

「お父さん♪」

「「「ええ~っ!?お父さ~~~ん!?」」」

「おいおい、そこまで驚くか」

イルムがフェルミナの父とわかった瞬間、驚いて声を上げた三人に、当の本人は苦く笑った。が、それもほんの一瞬のこと。すぐに三人を見る目が鋭くなる。

「まさか、君たちまでいたとは。何が目的だ・・・・・・?」

「てめえ、どういう意味・・・・・・」

「やめろって」

疑いの目を向けるイルムにディステリアが睨みつけるが、セリュードが抑える。

「企むも何も、何もないですよ」

「心配しないで、お父さん。この人たちも妖精・・・・・・」

だが、「お前は黙っていろ」と睨まれると、フェルミナは体を震えさせて怯んだ。

「・・・・・・妖精の血が混ざっている・・・・・・そう言って、娘に近づくつもりだったのか・・・・・・?」

殺気とも言えるプレッシャーを放って睨みつけるが、体を震わせたのはセルスだけで、セリュードとディステリアは耐え切っていたどころか、逆にプレッシャーをかけていた。

「(す、すごい・・・・・・お父さんに睨まれて・・・・・・ビクともしないなんて・・・・・・)」

だがやがて、「まあいい」とプレシャーをかけるのをやめると、二人も睨み返すのをやめた。

「フェルミナ。彼らには近づかないほうがいい。シェルミナにも、そう伝えなさい」

「で・・・・・・でも・・・・・・」

搾り出した声で言いかけるが、「いいな!!」と怒鳴られて、ビクッと体を震わせる。

「わかった・・・・・・」

頷いたフェルミナを見て、「おい」とディステリアが口を出す。

「てめえ。今の、父親としてないんじゃないか!」

黙っているイルムに、「おい!聞いて・・・・・・」と言いかける。

「貴様に・・・・・・」

歯軋りの後に聞こえてきたとても重い声。イルムは再びディステリアを睨む。

「貴様なんかに・・・・・・私たちの何がわかるというんだ・・・・・・!!」

先程とは比べものにならないほどのプレッシャーが圧し掛かるが、今度もディステリアはものともしない。一瞬でプレッシャーが消えた後も、二人は睨み合っていた。

「二人とも、それくらいにしろよ。無駄に時間を流すだけだ」

セリュードになだめられてもしばらく睨み合っていたが、二人同時に目を逸らした。

「確かに、今こうして時間を浪費している場合じゃない。シェルミナは病院なんだろう?」

「う・・・・・・うん。クウァルって人を診てる・・・・・・」

「何?」

一瞬目を鋭くしたが、「そうか、わかった」と言うと、イルムは病院に向かって歩いて行った。



                      ―※*※―



「あの野郎、あの野郎、あんの野郎!!」

宿への帰り道。ディステリアは怒りを露わにしていた。

「まあまあまあ。そう頭から湯下を出さずに・・・・・・」

なだめるセリュードに、「俺は蒸気機関か!?」とディステリアが怒鳴った。

「それに、実際は湯下なんて出てないだろ!!」

その瞬間、唖然としたような顔を見合わせる二人に、ディステリアは目を瞬かせた。

「・・・・・・な、なんだよ・・・・・・」

「あのな、『頭から湯下を出す』って言うのは、ものの例えだ。お前が言った蒸気機関っていうのは、水を熱して得た蒸気を使って動力を得るだろう?その時に熱が出ることを例えて、頭に血が上って怒っている様子を『頭から湯下を出す』って言うんだ」

「同じような例えに、『頭から煙を出す』という言葉もあるわ」

二人の説明を受けて、「そう・・・・・・なのか・・・・・・」と呟いた。

「まあ・・・・・・原因はわからなくもないが・・・・・・」

「ああ・・・・・・」

それを聞いて、セルスも頷いた。ディステリアが怒っている原因がイルムとのやり取りだということは、容易に想像できた。

「それで・・・・・・しばらく俺たちは、クウァルがいないままで怪物退治か?」

「しばらくはそうなるだろうな。チームワーク・・・・・・特にお前とクウァルの連携を磨かなければならないのだが・・・・・・」

「ああ。なるほど・・・・・・ね」

セルスが哀れそうな目でディステリアを見る。

「な、なんだよ、その哀れむような目は・・・・・・」

溜め息をついて、「だって・・・・・・ねえ・・・・・・」とセルスが呟く。

「お前とクウァルの連携の上達は、今このチームが抱えている最大の課題だからな」

そう言われては、ディステリアも黙るしかなかった。

「他にもクリアするべき課題はある。セルスの詠唱時間だ」

胸の辺りまで上げた右腕の腕時計は、40秒を表示したまま止まっていた。

「今回ほどの敵ならばこれで十分だろうが、そう言っている訳にもいかんだろうな・・・・・・」

「・・・・・・これから先は・・・・・・もっと強い敵が現れるということか・・・・・・」

拳を握るディステリアに、「その可能性も、ゼロではないわ」とセルスが言う。

「・・・・・・私も、もっともっと精進しなくちゃ・・・・・・」

「その意気だ。だが、無理はするなよ」

「!・・・・・・わかってる・・・・・・」

セリュードにそう言われ返したが、その後表情が暗くなったセルスに、セリュードとディステリアは首を傾げた。



                      ―※*※―



数日後。宿の近くの草原では、セリュードたちが簡単ながらも訓練していた。とはいえ、あまり派手な訓練もできないし、いつ町に怪物が現れるかわからない。さらに、訓練で全員消耗して戦闘に支障をきたしても問題がある。なので、訓練は二人ずつで行ない、今日はセリュードとディステリアの番となっている・・・・・・のだが。

「・・・・・・クウァルの様子がおかしい?」

「ああ。ディステリア、何か聞いてないか?」

槍を構えておもむろに聞いて来るセリュードに、天魔剣を構えるディステリアは不愉快そうに眉を寄せた。

「俺、あいつ嫌いですから気を回さないようにしています」

「あら。嫌いなほうが余計気になると思ったんだが・・・・・・」

困ったように笑いセリュードが踏み出すと、ディステリアも速いスピードで突っ込み打ち合う。

「セリュードさんの感覚で測らないでください」

「そうか、それは悪かった」

何度か打ち合い、武器を湧きに押しやる。左腕を離したセリュードは底に魔力を溜め、相手の腕を狙って振り下ろす。それに対し、ディステリアは天魔剣を支える力を緩め、素早く左手で逆手に持ち直して手前に引く。手刀は天魔剣に防がれたが、後ろに飛んだセリュードは足元に槍を突き出す。足払いを狙ってると察したディステリアは、ジャンプして払われた槍をかわす。

「やれるようになったな」

「どうも」と、着地したディステリアは笑みを浮かべた。

「明日、クウァルの相手はお前だろ?聞いてくれないか?」

「宿では聞けないんですか?」

「二人きりでいる時じゃないと話さないんじゃないか?」

槍を下ろして聞くセリュードに、ディステリアはますます嫌そうな顔をする。

「だったら、セルスにでも頼んでください。あいつのほうが聞きだしやすそうですよ」

「あっ、そっか」

あっさり納得したセリュードに、「(気付いてなかったのかよ)」とディステリアは内心呆れた。






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