幕間4
ここは天界、天使宮。この天使たちの聖域にある宮殿の中の、とても広い部屋。天井のステンドグラスから光が差すその中で、大きなテーブルを囲んで、数人の天使たちが会議を開いていた。四大天使のガブリエル、ミカエル。各天使階級の代表、セラフィム、ケルビム、オファニム。パワー、ヴァーチャー、ドミニオン。プリンスパリティーズ、アークエンジェル。エンゼルはお茶などを運んでいる。
「この二ヶ月間。すでに、ラグシェ国、エリウ国、ガルド国で大規模な戦闘が行われています」
まず、ガブリエルが報告をする。
「メファジャリカ大陸のジェプト国でも同じようなことが起こったと報告を受けている」
「魔界の動きは・・・・・・?」
プリンスパリティーズ代表者の後、険しい表情のミカエルが尋ねる。
「以前、ありません。あの条約を結んで以来、こちらに戦いを挑むこともなくなりましたし・・・・・・」
「地上で何かがあると、真っ先に魔界の者を疑うのは、長きに渡る宿命のためか・・・・・・」
ドミニオンの報告を聞き、机に両肘を立てたミカエルは指を組んだ形で溜め息をついた。その顔は、どこか悲しげだった。
「ミカエルさま。もしや・・・・・・あの時のことを・・・・・・」
「ドミニオン。私がそんなに、弱く見えるのか?」
「いえ、決してそのようなことはございません・・・・・・」
「いや、いい。半分は当たっている」
ミカエルはゆっくり頭を振った後、顔を天使一同に向けた。
「ならばこのまま、地上の動きを監視しつつ、これからの行動を決める。各自、情報収集を怠るな」
天使一同は「ハッ!!」と声を上げ、解散してそれぞれの持ち場に戻って行った。
「・・・・・・『これからの行動』・・・・・・か。いずれ我々も、観戦している訳にも行かなくなるだろうな・・・・・・」
そのミカエルの予感はこの先、的中することになった。
―※*※―
ほぼ、同時刻。ここは魔界、万魔殿、悪魔たちの巣窟。宮殿の内部はだいぶ慌しかった。
「なんの騒ぎだ。これは・・・・・・」
それに気付き、「ルシファーさま」と闇のように暗い紫の色をした服を着た、天使のような翼を持つ悪魔が答える。
「アスタロトよ。これはなんの騒ぎだと聞いている」
「はい。今、地上では大規模な争いが起こっています」
「わかっている。また地上に出て悪事を働く者がいるのだろう。まったく。我らのほうも取り締まりをしなければならぬか」
悪魔たちが住む魔界は、ある時、天界との話し合いで決めたことがあった。それは、『天界、魔界両方とも人間の住む地上界に手を出さない』こと。天使のほうは、お節介で手を出す者も少しはいたし、地上に少しばかり関わることが仕ことに含まれている天使もいたが、ほとんどのものはこの取り決めを守っている。だが、魔界の者、つまり悪魔たちのほうは、地上に出ては人間にちょっかいを出す者も多数いた。大魔王ルシファーはこれを取り締まるための部署を作り、地上に出ようとする者を未然に防いでいた。
「いえ・・・・・・それが・・・・・・」
アスタロトはそこまで言うと、周りを気にするように見渡した。
「ん?構わん。申してみろ」
「はあ、それでは。実は先日、地上界からこの魔界に不法侵入しようとする者がおりまして・・・・・・未遂には終わりましたが、どうやらこの魔界に内通者がいるようです」
「なんだと?」
ルシファーが眉を動かした時、扉が開き山羊の角と頭を持つローブ姿の悪魔が入って来た。彼は下級悪魔の長、レオナール。
「ルシファーさまに報告!」
「何事だ?」
アスタロトが聞くと、レオナールは膝を折った。
「今しがた、〈転移の門〉が開き、何者かが侵入を試みました」
「何!?またか・・・・・・」
アスタロトの後、ルシファーが「フム」と呟いた。
「いずれ我らも係わらずにはいられんか・・・・・・それはさておき、内通者についても調べておかなくては、な」
それを聞いたアスタロトとレオナールは、「かしこまりました」と頭を下げた。
そしてそれから、半年が過ぎた。