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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第6話 事件だ!






ジェントル・アニスとブラック・アニスに別れを告げたディステリアとクトゥリアは、近くの港町を目指して歩いていた。と言っても、ブラック・アニスの家は港からかなり離れた場所にあったため、そこを目指しなおす羽目になった。それも、かなり遠回りで。

「まあ、お前の修行にはなるよな」

そう無責任にとられかねないことを言ったクトゥリアを恨まずにはいられない。真っ暗な夜の森を歩くディステリアとクトゥリアは、青白く光る鬼火のような小さな白い蛾に囲まれていた。

「スパンキーに出くわすとは・・・・・・いつの間にか低地地方に差しかかってたんだな・・・・・・」

「なんだよ、こいつら」とディステリアが聞く。

「低地地方に出現する、洗礼前に、名前も与えられず死んだことを嘆き悲しむ子供の魂がなったもので、明かりにつられて来る人を断崖絶壁や沼地へと誘い込んだり、道に迷わせたりする」

「ようは、つられなきゃいいんだろ・・・・・・」

「だが、放っておくわけにも行くまい。東岸沖でよく船が難破するのはこいつのせいと考えられていたから、誰かつられて事故に遭うかも・・・・・・」

「なっ・・・・・・じゃあ、退治しとかなきゃ・・・・・・」

ディステリアは天魔剣を取り出すが、クトゥリアは「フム」とうつむいている。漂うスパンキーの一つを指差すと、

「お前の名前は・・・・・・ボウロイだ・・・・・・」

「・・・・・・何やってんだ?」

行動の意味がわからず思わず聞いた時、クトゥリアの前にいるスパンキーが昇天した。

「なっ、消滅した?・・・・・・何したんだ!?」

「別に、消滅したわけじゃない。昇天したんだ」

慌てるディステリアに対して、クトゥリアは落ち着いている。

「さっきも言ったとおり、スパンキーは名前も与えられず死んだことを嘆き悲しむ子供の魂がなったもの・・・・・・ニックネームでもいいので名前をつけると天に召されるとされる。武器や攻撃魔法で退治する必要はないんだよ・・・・・・」

そういうと、次々とスパンキーたちに名前を送り、昇天させていった。

「あらゆる精霊や妖精の特徴を把握し、正しい対応をすればそれほど脅威はないんだよ・・・・・・」

言葉もないディステリアは天魔剣をしまう。その時、草むらから一つの影が飛び出した。

「―――!?」

敵かと思ったが、先ほどのクトゥリアの言葉を思い出し、天魔剣を出さず手刀で叩き落とす。道の上に倒れたのは、上半身は毛深い人間、下半身は鹿か山羊の姿をした男だった。

「妖精・・・・・・だよな・・・・・・?」

「この身体的特徴は・・・・・・ウリシュクか」

「ウリシュク?」とディステリアが聞くと、「ハイコットランド高地地方の谷間の湿地に住むブラウニーの眷族だ」と答えた。

「ここ・・・・・・低地地方じゃなかったのか?」

ディステリアが低い声で聞くと、ウリシュクが意識を取り戻した。

「助けてください!!」

「おわ!!いきなりなんだよ!?」

「我々の長が・・・・・・ピアレイとスキャントリー・マブが何者かに連れ去られたんです」

「マブって・・・・・・妖精の女王!?」

驚くディステリアに、「マブ違いだ」とクトゥリアが呆れる。

「・・・・・・・それにしても穏やかじゃないな。話してみろ」

「ハイ」とウリシュクは頷いた。



                         ―※*※―



ウリシュクに連れられて小屋にやって来たディステリアとクトゥリアを、一人の美しい女性が出迎えた。

「ウリシュク・・・・・・どこ行ってたの!?」

「ハベトロット。助けてくれる人を探してたんだ」

「こいつは?」とディステリアが聞くと、クトゥリアは首を傾げる。

「ハベトロット。非常に心優しい妖精で、糸紬が下手で困っているかわいそうな娘の代わりに糸を紡いでくれる。醜い老婆の姿をした妖精のはずだが・・・・・・」

「・・・・・・この前会ったアニスたちといい、当てにならないな・・・・・・」

「それって、クロマティー湾に棲むブラック・アニスとジェントル・アニス!?」

ディステリアが嫌味を込めて言うと、ハベトロットが大声を上げて聞く。

「そうだが・・・・・・?」

「じゃあ、アニスたちが言ってたのはあなたたちなのね」

ディステリアが答えると、ハベトロットが詰め寄ってくる。

「お願いします。私たちに力を貸してください」

「事情はこのウリシュクから聞きました。ピアレイとスキャンとリー・マブがさらわれたらしいですね」

「そいつらって・・・・・・こいつらのなんなんだ?」

聞いたディステリアに、クトゥリアは呆れた視線を送る。

「・・・・・・ピアレイはウリシュクたちの長、スキャンとリー・マブは糸紡ぎの妖精ハベトロットの上司。どちらも、姿は彼らと変わらないらしい。これくらいのこと知ってると思ったが・・・・・・」

「わ・・・・・・悪かったな。危険生物のリストしか、頭に入れてないんだよ・・・・・・」

「恥ずべき無知」と呆れた声で呟くと、クトゥリアは話を戻した。

「他にも、ゲア・カーリングやローレッグ。ハイコットランドに棲む、糸紡ぎや機織に関わりがある妖精がさらわれてるんです・・・・・・」

「犯人の狙いは・・・・・・?」

「それはわからないけど、どこに連れて行かれたかはわかります」

「本当か!?」とディステリアが驚いてハベトロットに聞く。

「この森の先には、この辺りに残る古い石造りの城があって、みんなそこに連れて行かれているんです・・・・・・」

「・・・・・・石造りの古い城?それって、ペッホが建てたと言う・・・・・・?」

「ハイ」とハベトロットが答えると、「何か関係あるのか?」とディステリアが聞く。

「行ってみないことにはわからない。ディステリア、偵察のつもりで行くが、万が一のことを考え・・・・・・」

「・・・・・・戦闘の心構えをしとけ、だろ?わかってるよ・・・・・・」

「よし、早速行くぞ」と、クトゥリアとディステリアは小屋を後にした。

「・・・・・・大丈夫かな?」

「アニスが言ってた人間だもの。きっと大丈夫・・・・・・」

見送るウリシュクとハベトロットは不安そうだったが、同時に信じてもいた。



                         ―※*※―



森を抜けた先にある石造りの古城。その中で、大勢のハベトロットやローレッグが機を織り、ウリシュクが出来上がった布を運んでいた。

「ケケケ・・・・・・さっき休ませてやったんだ。その分、倍働け・・・・・・」

一人の男が支持している様子を、城の窓からクトゥリアが覗き込む。

「ウッピティ・ストゥーリーがいるとは・・・・・・」

聞きなれない名前に顔をしかめるディステリアに、クトゥリアはいつも通り聞こうとする。その時、

「―――ギィィィィィィィィィッ!!!!」

とても耳障りな音が響き、二人が耳を抑える。その直後、突風が二人を襲い吹き飛ばす。地面の草の上に着地して上を見ると、羽毛は白い斑点があり、水かきがある巨大な鳥が飛んでいた。それを見たクトゥリアが声を上げる。

「バカな!なぜ、こんな所にいるんだ!」

「どうしたんだよ、いきなり・・・・・・!?」

巨鳥が急降下して二人の上を過ぎ、突風が吹き荒れる。二人はそれから、腕で顔をかばってやり過ごした。

「ブーブリィ。アガイルシャーの湖に住む巨大な妖水鳥だ。だが、ここはアガイルシャーから数キロも離れている・・・・・・」

「あんだけでかけりゃ、数キロを移動するのも苦じゃないだろ!」

旋回したブーブリィが口を大きく開けて向かって来る。

「水際に来た生物は羊でも牛でも丸呑みにしてしまう。近づくな!飲み込まれるぞ!!」

「上等!!」

吼えると、ディステリアは天魔剣を構えてブーブリィに向かって行った。天魔剣を思いっきり振るが、ブーブリィはその一撃をかわして飛んで行く。

「くそっ・・・・・・」

「空を自在に飛べる、奴のほうが有利だ。ディステリア、ここは一端―――」

「退けるか!!」

飛び上がったディステリアの剣をかわし、ブーブリィが口を開けて捕らえる。

「ぐっ・・・・・・くそっ!離せ!」

口ばしを叩いて抵抗するが、ブーブリィは意に介さない。古城の塔と同じ高さまで上がったため、クトゥリアにはどうすることもできない。

「てめっ・・・・・・いい加減に―――しろ!!」

ディステリアは思い切り、天魔剣でブーブリィの眉間を突いた。血が吹き出し、ブーブリィが悲鳴を上げた拍子に解放されたディステリアは、天魔剣の刃を上に構えた。

「てめ・・・・・・お返しだ!」

「バカ、よせ!」

「ライジング・ルピナス!!」

クトゥリアの静止も聞かず天魔剣を振り上げ、無数の光の柱が立ち昇る。それがブーブリィの体を貫き、悲鳴を上げながら地面に墜落した。ブーブリィが倒れると同時に着地したディステリアが、膝を着いた。

「ぐっ・・・・・・痛ッ!!」

「だから、止せって言ったんだ。お前、この技で反動を受ける理由がわかってないだろ・・・・・・」

左手で天魔剣を持ち右手を開いてみると、なぜかディステリアの右手の平は火を受けたように焼けていた。

「だが・・・・・・こいつ以外に・・・・・・」

『仕留められる技がない』。そう言おうとした時、古城の門から武装した兵士が出てきた。

「なっ・・・・・・気付かれた・・・・・・」

「これだけ騒げば、そりゃあな。一端、退くぞ」

クトゥリアに促されて退こうとした時、巨大な獣の影が飛び出してきた。

「なっ・・・・・・なんだ!?」

「!?」

二人の前に降り立ったのは、山のように巨大な灰色の犬。真っ赤な目を光らせ、唸り声を上げている。

「黒妖犬か・・・・・・?」

「グレイハウンド・・・・・・と言うことは、ビーアスト・ヴェラッハか。ヘブリディース諸島にあるスカイ島のオデイル峠に出没したという怪物だ。しかし、おかしいな・・・・・・出現場所が違うような・・・・・・」

不審がるクトゥリアだが、ビーアスト・ヴェラッハが吠え立てて襲いかかって来た。ディステリアとクトゥリアは、二手に別れて牙をかわす。

「こいつを倒さなければ、退くに退けない!!」

「いや・・・・・・俺たちは古城にいる兵士たちに気付かれた。その時点で、捕まるか切り抜けるかの二択しかなくなったって訳だ・・・・・・」

クトゥリアが苦笑いしていると、二人はそれぞれ大勢の兵士に囲まれる。その兵士を監察していると、ディステリアは妙なことに気付く。

「なんだ・・・・・・この違和感?生きている感じがしない、というか・・・・・・」

襲い掛かった兵士を剣で叩き伏せ、「よく気付いたな!」とクトゥリアが叫ぶ。

「・・・・・・こいつらはリビング・アーマー。ゴーレムのように偽りの命を与えられた、空っぽの鎧だ。もっとも今では、鎧に人間の魂を定着させて作ることもできる・・・・・・」

「なんだよ、それ・・・・・・ふざけるな!!」

怒りがこもった一撃がリビング・アーマーを砕いた時、ビーアスト・ヴェラッハがディステリアに襲いかかって来た。

「―――こいつ・・・・・・!」

天魔剣を振って弾き飛ばすが、ビーアスト・ヴェラッハは着地するとすぐにこちらに牙を剥く。再び天魔剣でいなすが、今度は前足の爪で引っ掻いてきた。

「ぐっ・・・・・・このやろ!!」

天魔剣を振って反撃するディステリア。辺りに金属音が響き渡り、両者の間に火花が散る。最後の一撃で両者が離れ、草地に着地するとディステリアにリビング・アーマーが襲いかかるが、体を回転させて天魔剣で一体切り伏せ、時間差で攻めてきたもう一体を真っ向から両断した。だがそこに、ビーアスト・ヴェラッハが爪を振って襲いかかる。

「(・・・・・・リビング・アーマーを犠牲にした、三段時間差攻撃・・・・・・)」

切り抜ける手段を模索した時、ディステリアは迷いもなく天魔剣を逆さに構える。

「ライジング・ルピナス!!」

光の柱がビーアスト・ヴェラッハを吹き飛ばし、「キャン、キャン」と悲鳴を上げて地面に落ちる。直後、ディステリアは再び焼け付くような痛みに襲われる。

「ぐっ・・・・・・」

顔をしかめ膝を着いた所に、ハルバートを振り上げたリビング・アーマーが襲いかかる。が、

「ソニックブーム!!」

体を高速回転させたクトゥリアが放った真空波で吹き飛ぶ。ディステリアが、クトゥリアがいたほうを見ると、リビング・アーマーはすでに鉄塊と化していた。

「・・・・・・ったく、一度ならず二度も。どこまで無鉄砲なんだ」

「その無鉄砲が、あんたの弟子だよ・・・・・・」

「言ってくれるな」と、クトゥリアが残りのリビング・アーマーを片づける。

「ケケケケ・・・・・・随分、好き勝手にやってくれたな・・・・・・」

古城の入り口のほうを見ると、「出やがったな」とディステリアが呟く。古城を陣取っていたウッピティ・ストゥーリーが姿を現した。

「・・・・・・あんたははっきり言って、戦闘向きじゃない。さっさと降参しろ」

「ケケケ・・・・・・俺がただのウッピティ・ストゥーリーだったらな」

その言葉に眉をひそめると、古城から新たなリビング・アーマーが沸き出る。

「ケ~ケッケッケッケ。兵は二万体。お前らに捌き切れるかな・・・・・・?」

杖を取り出して踊りかかったウッピティ・ストゥーリーの攻撃を受け止め、クトゥリアが笑みを浮かべる。

「そんな数、お前に操れるはずがない。戦いながらなら、なおさらな!!」

連続で金属音が響く中、「ケ~ッケッケッケ」と笑う。

「残念ながら、こっちには有能な指揮官さまがいるんだよ」

杖を受け止めているクトゥリアの脇を抜け、リビング・アーマーが膝を着いているディステリアを襲う。すぐに飛び退いて天魔剣で切りつけるが、右手の痛みのせいでうまく剣を握る手に力が入らなかった。

「でいっ!やあっ!くそっ、しつこい!」

最初は一撃で仕留めれていたがだんだん力が入らなくなり、少しずつ狙いがずれてきていた。腕や肩を切り落とされたぐらいではリビング・アーマーは活動をやめず、残った腕や足で攻撃してきた。

「くそっ!!」

剣では間に合わないため足で蹴りつける。よろめいて他のリビング・アーマーにぶつかったが、ディステリアも鎧の硬さによろめき、地面に尻餅を着いた。

「かてっ・・・・・・って、鎧だから当たり前か・・・・・・」

追撃をかけて襲いかかってくるリビング・アーマーに、ディステリアは一端離れる。後ろを取られることがないように、古城の石壁に背をつけ、身構えた。

「・・・・・・クスクス・・・・・・無駄よ、無駄。そんなことしても、あんたたちの負けは変わらないから・・・・・・」

どこからか聞こえた声に耳を澄ませ、その元を探る。視線を横に走らせ上を見ると、城の屋根の上にわずかに人影が見えた。即座に、ディステリアは壁を蹴り、天魔剣を構える。

「ライジング・ルピナス!!」

天魔剣を振り上げ、本日三度目のライジング・ルピナスが城の上部を吹き飛ばす。舞い散る石の欠片の中、一つの人影が吹き飛ばされていた。

「きゃあああああっ!!」

「見つけたぜ!リビング・アーマーの指揮官!!」

直後、ディステリアを激痛が襲う。「くっ・・・・・・」と人影が体勢を整え、背中に羽を表す。蝶のような形をしたそれは、妖精族独特のもの。

「―――!!お前も妖精!?」

「その通り。我は妖精の女王ニクネヴィンなり!!」

ニクネヴィンが作り出した無数の光の球が、ディステリアを強襲する。

「うわあああっ!!」

慣れない空中で翼を出すこともできず、ディステリアは地面に落下した。

「どうした!?緊急時にすぐ出せるよう、イメトレしとけって言っただろ!!」

ウッピティ・ストゥーリーの攻撃を捌くクトゥリアに、「・・・・・・んなこといってもよぉ・・・・・・」と体を起こしたディステリアが答える。

「余裕ね・・・・・・そんなものないくせにさ!!」

ニクネヴィンがクトゥリアに光の弾を撃った時、「ああ」とクトゥリアが不敵な笑みを浮かべる。

「―――そっちの弟子は・・・・・・な」

その一瞬でクトゥリアは光の球を捌ききり、ウッピティ・ストゥーリーにも戦闘不能なほどのダメージを与えていた。

「なっ・・・・・・!!」

ニクネヴィンが驚いた瞬間、城の壁が爆発し、大勢の妖精たちが逃げ出した。彼らを誘導しているのは、ディステリアとクトゥリアに仲間の救助を依頼したハベトロットとウリシュクだった。

「何!?」

「あいつら・・・・・・どうして・・・・・・?」

だが、ディステリアはその疑問を頭の隅に押しやり、ニクネヴィンが呆気に取られている隙に、左手に天魔剣を握って切りかかる。寸前で気付いたニクネヴィンは後ろに飛んでかわし、剣の刃は左横腹の服を掠めた。

「―――惜しい!!」

「このっ―――」

ニクネヴィンの反撃より早くディステリアの攻撃が入ると思った瞬間、ビーアスト・ヴェラッハが天魔剣に噛み付いた。

「忘れてたぜ!このっ!」

ディステリアがビーアスト・ヴェラッハを叩き伏せた瞬間、ニクネヴィンの攻撃が彼の左肩を打つ。

「あんたたちに私は倒せないよ」

「上等だ・・・・・・」

ディステリアが天魔剣を構えたその時、彼方からディナ・シーの大群がやって来た。

「―――ディナ・シー!?」

ディステリアが驚いている間、ディナ・シーたちはリビング・アーマーを片づけ、ウッピティ・ストゥーリーとニクネヴィンに武器を向けて取り押さえた。その内の一人が、ディステリアとクトゥリアに気付く。

「ほう、お前たちか。今回は手間をかけたな」

「なんでお前らが・・・・・・?」

「我らは妖精王オベロンより、妖精族間の社会秩序を守っている」

「へえ~・・・・・・」と呆気に取られていると、取り押さえられたニクネヴィンが抵抗している。

「離しなさいよ。私は、妖精の王族なのよ!!」

「そんなものは関係ない。ウッピティ・ストゥーリー、ニクネヴィン。誘拐の罪により、お前たちを拘束する」

ディナ・シーたちにより、ウッピティ・ストゥーリーとニクネヴィンは縛られ、連れて行かれた。



                         ―※*※―



「俺たちは囮だったわけか・・・・・・」

「すみません」と謝るハベトロットに、「いや、いいさ」とクトゥリアが答える。

「作戦が成功してよかったよ。みんな、達者で暮らせよ」

妖精たちはみんな頭を下げて、森の中へ帰って行った。

「それにしても・・・・・・あいつらは、なんで糸紡ぎの妖精をさらってたんだ・・・・・・?」

納得しきれてないディステリアの疑問に、クトゥリアも頭を悩ます。

「ウッピティ・ストゥーリーは人間の手伝いをするゴブリンの眷族だ。その代わり、過大な報酬を要求する」

「ということは、黒幕は人間・・・・・・?」

「わからない。悪意ある老婆のデーモンであるニクネヴィンが指揮していたことも気になるが・・・・・・」

唸るクトゥリアに「わからないことだらけか・・・・・・」とディステリアは頭をかく。

「ま・・・・・・とりあえずは、一件落着か・・・・・・」

「ところで・・・・・・何か忘れてるような・・・・・・」

クトゥリアの言葉に首をかしげていると、「あっ!!」とディステリアが叫ぶ。

「エウロッパ本島行きの船!!」

「こりゃ・・・・・・今日はもう諦めるしかないな・・・・・・」

時計を見たクトゥリアが溜め息をつくと、ディステリアもがっくりと肩を落とした。その日、最後の船の出港時刻は、すでに一時間も過ぎていた。






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