第52話 運命のチーム分け
各自、朝食を済ませ、時計が九時を回った所で、現時点のメンバーは広間への集合がかかった。あれからも、続々とメンバーが集まったためか、広間には最初に顔合わせしたメンバーに加え、六十人近く集まっていた。
「諸君。度重なる謎の事件対応の為、世界政府は対策組織の設立を望んでいた。今日より我らはその役目を受け、防衛部隊としての活動を始める」
火事場泥棒的に徳を得た、と言われても仕方ない動きだったが、現世に存在する後ろ盾が得られない以上、表立とうが裏肩に回ろうが活動できない。クトゥリアはそう皮肉を込めていたが、隊員たちを前にそんなこと言えば志気が下がるのでパラケルとアウグスからは止められていた。
「さて・・・・・・長らく明かさなかった、我々の組織の名称。募集の結果、先月やっと決まった」
一気に隊員たちがざわめく。そういえば、ディステリアもこの組織の名前を知らされてなかった。聞いても「秘密だ」の一点張り。
「(まさか、決まってなかったなんて・・・・・・)」
表情を苦くする者、顔を引きつらせる者、大丈夫かと不安がる者様々。「我らの組織の名は〈ブレイティア〉!名のごとく、いかなる時も勇気の雫を胸に抱け!」
「「「「ゆ、勇気の雫を胸に抱け!」」」」
何人かが声を上げる。「(掛け声だったのか!?)」とセリュードを含め何人かの隊員たちが驚き、戸惑う。
「あ~~、諸君。今のは掛け声でもなんでもないから、気にしないように」
隊員たちがこける。大丈夫なのか、再びそんな空気が起こる。
「これより、現時点で集まっているメンバーを、小隊ごとに分けた組み合わせを発表する。君たちは組み合わせ通りのメンバーで、それぞれの役目についてほしい。まず、第一小隊・・・・・・」
メンバーたちとの間に開けられたスペースに、アウグスに名前を呼ばれたメンバーが進み出る。そして、第二小隊までが呼ばれた後。
「次、ディステリア・・・・・・セリュード・クルセイド・・・・・・クウァル・ハークルス・・・・・・セルス・セオフィルス・・・・・・」
呼ばれた四人が集まると、互いに顔を見合わせた。
「私たち、一緒のメンバーだね」
「そうだな。だが、私語は後にしたほうがいい」
その後も、メンバー選出は続いていたが、それが終わった時には人数はまだ十数人ほど余っていた。
「残りの者については、この基地の守りについてもらう。しかし、現時点で組んでいるメンバーの相性が悪かった場合、君たちと交代させるかもしれないし、基地の守りはすべからく重要だ。選ばれなかったからと言って、訓練を怠ることのないようにしてもらいたい」
その後、アウグスが説明をする。
「これより、各自についてもらう任務について、説明をさせてもらう。各自、この紙に書かれている場所に移動してもらいたい。では、解散」
グリームヒルドから渡された紙には、『第三小隊集合場所、第三ミーティングルーム』と書かれていた。
「いったい、誰が任務の説明、すると思う」
「さあ?誰でしょう?」
セリュードの質問に、セルスが適当に答える。渡された紙に書かれていた第三ミーティングルームに行くと、そこには情報屋のパラケルがいた。
「ようこそ、第四小隊の諸君。今回の作戦については、私が説明させてもらうよ」
一瞬、ディステリアたちは固まった。
「あれ、どうしたの?もしかして、初めての任務で緊張して・・・・・・」
「初めてで緊張しているのは、あんたのほうなんじゃないか?」
「へっ?」
クウァルの指摘に首を傾げたパラケルに、セリュードは続けて尋ねる。
「ここって第三ミーティングルームですよね」
「へっ?」
再び間の抜けた声を出して通路に飛び出すと、入り口の上につけられている『第三ミーティングルーム』のパネルを見つけた。
「アッハッハ~。いや~、俺としたことが。君たちの言うとおり、緊張してるのは俺のほうだったな」
笑いながら戻ってくるパラケルを、椅子に座ったディステリアたちは呆れて見ていた。やがて、パラケルも向かい側の席に着く。
「アッハッハ。いや、本当にすまない。まあ、気を取り直していくが、君たちについてもらいたい任務は・・・・・・」
そう言ってパラケルが、テーブルの側に置いてあるトランクから一束の資料を取り出す。
「「「「(あれ?このまま続けるの?)」」」」
一瞬唖然とした四人だが、パラケルは何も気にしない。
「君たちには、エウロッパ大陸を回ってもらうことにする」
「エウロッパ大陸・・・・・・って、俺たちの故郷じゃないですか」
セリュードが驚くと、「そうだ」と返した。
「君たちチームメンバー、全員の故郷がある大陸だ。ここを君たちだけで回れ・・・・・・なんてバカなことは言いたくないが・・・・・・いかんせん、こちらのメンバーの数がまだまだ足りなくて。だから君たちに、メンバー集めと防衛をしてもらいたい」
それを聞いて、チームメンバーが目を見開く。
「〈六大大陸圏〉の中で、範囲が小さいとはいえ、そこを俺たち四人で防衛しろとは、正気の沙汰とは思えんな」
「ちょっと、クウァル」
セルスが反論したが、確かに広いエウロッパ大陸を立った四人で防衛するなど、どう考えても不可能としか言いようがなかった。それはクウァルに反論しようとしたセルスにも、十分わかりきっていた。
「もちろん、ただ君たちを送り出すほどこちらもバカではない。小隊と世界圏の数がたまたま二倍の数になったために、各圏内に二小隊ずつという、バカな組み分けになってしまったが、君たちがその先で協力者たちを見つければ、それだけ守備範囲が小さくなる。違うかい?」
確かに一理ある。だが、同時にバカバカしくもある。つまり、今から世界に散らばる格小隊は、その先で必ず協力者となる者たちを探し出さなければならない。それが確実な保障はどこにもないし、戦力強化のために引き入れたら自分たちがその『元民間人』を危険に晒してしまう。人の人生そのものを壊しかねない行為。それはわかっていたが、次の瞬間には、クウァルの気に触る一言が飛び出した。
「その大陸にいる神々も微力ながら手伝うから、そう気負わなくていい」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
テーブルを叩いて立ち上がったクウァルの、とてつもなく大きな叫び声が通路に響いた。怒りで力が制御できてなかったらしく、テーブルは彼の怪力で無残に割れていた。
「俺たちを世界各地に行かせておきながら、各地域には神が配置されているんですか!?」
「いやいや、神様本人じゃなくて、その兵士か関係者・・・・・・」
「どの道、同じじゃないか!!」
クウァルは散々怒鳴った後パラケルを睨みつけ、パラケルは溜め息を付いて口を開く。
「あのなぁ、クウァル。確かにここには世界各地から、一部ではあるけど神界の方々が来てくれたんだ。神々と何があったか知らないが、そうやってあからさまに敵視していたら、協力してくれる奴も協力してくれなくなるぜ」
痛いところを突かれて、クウァルは黙り込んだ。
「オーディンの所のワルキューレも、一個小隊組んで世界を回ってくれると言うし、君たちの補給にも協力してくれる。だが、それも各自の協力なくしては成り立たない。わかるよな」
さらに追い討ちをかけられ、「う・・・・・・うむ」とクウァルは唸った。
「だいぶ神様とか嫌っているようだけど、生まれはどこだい?」
「ラグシェ国」
クウァルとセルスが同時に言うと、パラケルの表情が強張った。その後、理由を察したらしく、額を手で押さえて顔を伏せた。
「なるほど、そういうことか。ラグシェ国は、神と人間のトラブルが耐えない国として有名だからな。ほとんどの人間が神・・・・・・特にゼウスに愛されたことで、そりゃあ、もう、サスペンス劇場的な悲惨極まりない状況に・・・・・・」
「そんな無駄話は、この際どうでもいいでしょう。どの道、俺たちはこの任務を受けなければならない。でなければ・・・・・・」
クウァルの指摘に、「世界は」とパラケルが口を挟む。
「―――奴らによって混乱に落とされるだろう。それも、今までと比べ物にならないほどの規模で」
それを聞いて、セルスは全身が震えるのを感じた。そこに、
「あの~・・・・・・ちょっといいですか?」
とディステリアが手を挙げた。
「俺たちはどうやって目的地に行くんですか?まさか、あの小船に乗って・・・・・・?」
何があったかわからないが、ディステリアは体が震えだしていた。
「あの小船というと・・・・・・〈ウェーブ・スウィーパー〉か。いや、それもいいが・・・・・・それよりもいい物をメカニックたちが作っている」
「いい物?」と、ディステリアが聞く。
「ああ。今の君たちに、必要なはずだよ」
テーブルの上に腕を置いて言うパラケルその表情は、どこか余裕なものだった。
―※*※―
パラケルに連れられて、格納庫らしき場所に来たディステリアたち。そこには他のチームの人たちも何組か来ており、その近くには何機もの大きな戦闘機らしき物があった。
「ディック~。調子はどうだい~?」
パラケルの呑気とも取れる声を出して、そこにいるメカニックらしき年配の男に声をかけた。だが、声をかけられた方の男は機嫌が悪いらしく、睨むようにこちらを見た。
「ああ、パラケルか。今ドヴェルガーたちに頼んで、動力面の問題を解決してもらったところだ」
ディックの不機嫌さは声にも出ていた。
「どうやら、黒小人たちの技術で問題が解決したことが気に入らないようだな」
パラケルに指摘されて、ビクッと肩を震わせる。
「図星か。言っておく俺たちは・・・・・・」
「わかっている。高度な技術を持つものに嫉妬して、仲違いに時間を潰す暇はないのだろ・・・・・・」
「わかっているのならいい」
「パラケルさん。これはいったい・・・・・・」
パラケルが言うと、セルスが戦闘機らしき物を指差した。
「ああ。聞いて驚くなよ。こいつは〈ファイター・フライヤー〉。まあ、俺たちには長いから〈イェーガー〉とも呼んでいる」
「まさか『いい物』って・・・・・・」
「そう、これだ」と、パラケルがセリュードに答える。
「ディック、早速だが彼らに・・・・・・」
「悪いが、彼らに与えるのは難しくなったぞ」
格納庫に入って来たクトゥリアに、「えっ?」とパラケルたちは首を傾げた。
「今しがたニュースでやっていたのだが・・・・・・エウロッパ連合政府はエウロッパ大陸内に、非常警戒線を張ることを発表した。攻撃対象には国籍不明の戦闘機及び飛行物体が含まれているから、今、彼らに〈イェーガー〉を渡すのは危険だ」
「では、どうしろと?」と、パラケルが聞く。
「こちらで収納方法を用意するしかあるまい。それに、このことは全ての小隊に言えることだ。遅かれ早かれ、普段は〈イェーガー〉をしまっておく方法を探しておかないと、後々面倒なことになる」
「面倒なこと?」
「その〈イェーガー〉が部外者に奪われたり、敵に見つかって破壊されたり・・・・・・ということですか?」
ディステリアが聞いた後に出したセリュードの答えに、クトゥリアは頷く。
「そうだ。収納ツールができ次第、すぐに足の速い者に送らせる。だからすまないが、君たちにはすぐに居場所を探知できるように発信機をつけてもらう」
「俺たちを監視するのか!?」
アクセサリー状の発信機を取り出したクトゥリアに、クウァルが反発する。
「いや・・・・・・この発信機は、身に付けている者の居場所を即座に報せるが、何分急ごしらえの物だから、いささか正確さに欠ける。それでも、何もしないよりかはマシだと思うが・・・・・・」
クウァルはしばらく睨んで黙っており、それを見てクトゥリアは聞いてきた。
「もし俺たちがあんたらを裏切っても、だいたいの位置さえわかれば、始末するのも訳はない」
「ちょっとクウァル」
「いや、そう取られても仕方ないな」
セルスがクウァルを咎めるが、クトゥリアは笑った。
「笑いごとじゃないですよ。今いる人たちの中にも、クトゥリアさんを疑っている者が何人かいるんですから」
パラケルの言葉を聞いて、セルスは暗い顔になった。
「確かに・・・・・・俺を信用するには材料が足りんかも知れないなにせ、起こるかどうかわからない最悪の事態に備えて、仲間を監視しようとしてるのだからな?」
皮肉を込めて言ったクトゥリアの声が聞こえていたのか、他の小隊員たちも戸惑いの表情を見せていた。
「だが、事態は常に最悪のものを想定して備えていなければならない。例え、仲間に疑いの目を向け、逆に不審を向けられることになっても。ただ信じる、信じられるでは組織は成り立たない。『友達』や『仲間だから』という情に流されて判断を甘くする。それではただの『仲良しごっこ』だ、仲間じゃない」
「だからって、仲間を疑い続けるなんてごめんですよ」
会話に割り込んだのは睦月。彼が二年もの間、仲間を疑いながら動いていたことは、〈エスペランザ〉の中で聞いていた。その果ての最悪な結果も。
「おや。君ならわかると思っていたのだがね、睦月くん。情に流されてヘイルという隊長を疑わなかった結果、君はどんな結果を得た?」
クトゥリアの言葉にハッと目を丸くする。ヘイルを無条件に信じ、敵とのつながりを疑わず自分たちの動きを報せた。その結果、二年間共に戦ってきた、『真実を知る仲間』を殺してしまった。
「傷を抉るようなことをしてすまない・・・・・・」
我に返って耳に入ったのは以外にも謝罪の言葉。
「だが、そう言った疑念を越えた先に真の信頼がある、と私は信じているよ。綺麗事にしか聞こえないかもしれないが・・・・・・」
「意見が定まらない人ですね」
皮肉を込めた笑みを浮かべて肩をすくめるクトゥリアに、睦月は皮肉を込めて返す。
「生憎、今でも『自分は正しいのか』とびくびくしている臆病者なわけで」
組織のトップには向かない。睦月はそう思い、どうしてこの組織を作ったのかと疑問を浮かべた。
「それに、今はそんなことを言っていられない。違うか?」
そう言われて、今度はクウァルのほうが黙り込んだ。それを見かねたパラケルが、溜め息をつく。
「やれやれ、その通りだ。論ずるのはいいが、程々にしてくれ。頼む」
顔を背けて「ちっ」と舌打ちしたクウァルを放って置いて、他の三人は話を続けた。
「では・・・・・・我々はどうやって目的地に・・・・・・?」
セリュードの問いに、「うーむ」とパラケルが考え込む。
「・・・・・・トラウマになっている人もいるから、やめようとは思っていたのだが・・・・・・こうなれば仕方ないか」
「・・・・・・と言うことは、まさか・・・・・・」
恐る恐る聞くディステリアにクトゥリアが肩を落として呟く。
「ウェーブ・スウィーパーか・・・・・・もしくは新型のスキールブラズニル〈エスペランザ〉を使うことになるだろうな」
「うっ・・・・・・俺はその、新型にしてほしい・・・・・・」
その願いが届いたのか、各小隊の送り出しは〈エスペランザ〉で行なうことになった。さらに、〈ファイター・フライヤー〉の更なる機能向上と、その収納道具が完成するまでの間、移動は公共交通を使うことになった。
―※*※―
その後。二年の歳月を費やしてドヴェルガーたちとゴブニュが、〈トランス・フレーム〉の改良案を実現し、その小型化・強度強化に成功したことに、ディックが悔しがったのは言うまでもない。その後、彼らはスタッフたちと協力して、その改良型フレームを量産し、〈イェーガー〉に組み込む作業に取りかかった。しかし、既存の骨組を交換するのはドヴェルガーたちでも難しく、結局、全ての作業を終わらせるのに一機につき一週間半、十二機全部の改良に加え新たに何機か作るのに二ヶ月はかかってしまった。
一方、世界各地に散った小隊たちはこれと言って大きな移動は行なえず、できることと言ったら一定範囲内の防衛とその中での情報収集が限界だった。もちろん、二ヶ月間でデモス・ゼルガンクの工作員とは何度も戦った。しかし、警察などの行政機関や各地の軍隊などは、この敵の存在を認識しておらず、共闘することはないに等しい状況だった。しかし・・・・・・。
―※*※―
世界のどこかにある、巨大な建物。その中の闇に包まれた部屋の中、九人の影が机を囲んでいた。その影は、ネクロ、カーモル、デズモルート、ベノクレインを含んだ組織、〈デモス・ゼルガンク〉八幹部。そして、その統率者、ソウセツ。
「ムルグラントからの徴収兵は、グンナルにグドホルムか」
幹部の一人、ヴォルグラードがネクロに聞く。
「召霊時のアクシデントによりグンテルと融合してしまいましたが、戦力としては優秀になりました」
「怪我の功名って訳かよ」
幹部の一人、ベノクレインの嫌味めいた声に、「いえいえ」と笑いながらネクロが答える。
「さらに、同じエウロッパ連合国所属のエリウ国からも、何人か招霊させました。デズモルートに手伝ってもらってね」
「ああ、手伝わされた。だが、よもやまた裏切ることになったら・・・・・・」
「心配には及びませんよ。今度は抜かりなくやりましたから」
ネクロは自分が座っている席のテーブルの端を叩くと、そのテーブルの真ん中に青い光と共に、三人の男の立体衛像が映し出された。
「ご紹介しましょう。ブリアン、ヨハル、ヨハルヴァ。言わずと知れた『トゥレン家三兄弟』です。それから、ダーナとフォモールのハーフ、ブレス」
それに合わせて、立体映像が三人の男から一人の目つきの鋭い男に切り替わる。
「いずれも、ダーナ神族に恨みを持つもの。神に対抗できる貴重な戦力ですな」
幹部の一人、テレノグが言う。
「それとラグシェ国からは、スペシャルゲストを呼ぶつもりです。オリュンポス十二神に恨みを持つ・・・・・・ね」
ネクロのセリフに合わせて、立体映像が消えた。
「ほう。それはある意味、楽しみだ。ラグシェ国では人間と神の間で起きる恋愛話が尽きないからな」
幹部の一人、クーリアが笑うとソウセツも笑う。
「それだけ、トラブルで神に恨みを持つ人間もいる訳か。ネクロ、私も楽しみにしておくよ」
「ハハハ。これはプレッシャーですね~」
それぞれが話し終わった後、闇に包まれた部屋の、奥の席に座っているソウセツが立ち上がった。
「諸君、今までご苦労だったね。各地の抵抗もあり、我らの当初の目的の達成は難航した。だが、諸君らの働きによりそれも終わりを告げた。まずは、それを感謝しよう」
言葉を切り、前の席に座っている八人に向けて、頭を下げる。
「我らの目的に必要不可欠だったのは、人間が出す『負の思念』。それを手に入れるためにも、人間どもを煽る必要もあった。だが、いかに煽ろうと神々の邪魔が入った。この世界から手を引いたはずの神々に!!」
怒りがこもった声。なんとかそれを収め、ソウセツは続ける。
「・・・・・・だが、ある意味、人間どもは我らの期待に応えてくれた。それは同時に、この世界に住む者が、いかに簡単に秩序を乱すかということを示す証明にもなった。人間が愚かでなければ我らが負の思念を得ることもなかったし、何より我らがこのようなことをする必要がない!」
ソウセツは、強く握った右拳を強く机に叩きつける。
「人間どもは、神々の期待を裏切った。それは今に始まったことではない。悠久の昔、『人間』という種が知恵を手に入れたその時から、人間は探究心を持ち、世界の解明に乗り出した。事象、科学、真理。それらを解き明かそうと取り組み始めた。それはいいとしよう。だが、次第に人間は、それを己の欲のためにその過程で得た知識使い始め、やがて世界の罪のない命を巻き込み始めた。『二度と繰り返すまい』。そう誓えども、幾度も、幾度も繰り返す。まるで神々が真に守らんとしたこの世界を傷つけるかのように!!」
だんだんソウセツの声が荒げだし、最後には半ば叫ぶようになった。
「だが、それももうすぐ終わる。この世界を支配していると思い込み、くだらない型に押し込んでいる愚かな人間と、それを作りし宇宙の神々。その使途たる天使たち、対の存在たる悪魔たち。そして、人間以外の創造物たる幻獣、その他の生物たち。それら全てを一度無に返し、我らが新たなる神として秩序を創造する。それこそが、この世界を平和に導く絶対かつ、唯一無二の方法なのだ!」
八つの席に座っている影が、一斉に頷く。
「そのために、この世界にとっての『悪』になる覚悟があるか!?」
一瞬の沈黙の後、
「もちろんです。我が主よ」
「あなたさまを助けるのがカーモルさまの役目なら、我の役目はカーモルさまを助けること。すなわち、あなたさまをお助けすること」
「愚かな人間などには、この世界を任せられませんからね」
八つの影の三つ、カーモルとクーリアとデズモルートがそれぞれ答える。
「この汚れきった世界を変えるため、あなたさまにお仕えします」
「・・・・・・というか、『正義』とか『悪』って、傍観者が勝手に決めることでしょ」
「そう言われて見れば、そうだな」
真剣な声のヴォルグラード、軽い声のベノクレインの後、テレノグが皮肉を込めて言う。
「ゆえに、愚問なり」
「やれやれ。まあ、もはや聞くまでもありますまい」と
いかついバーレンダートの後、ネクロが溜め息交じりに言う。それを聞き、ソウセツは一息つく。
「それを聞いて安心した。この堕落に満ちた世界を再生するために・・・・・・会戦だ!!」
「我らの、理想の世界のために!!」
闇の中、八人の声が響いた。
幻世紀20年。年の移り変わりが近づくと共に、世界の水面下で起きていた神々と『世界に害を成さんとする者たち』との戦いの舞台が、世界そのものに変わろうとしていた。しかし、それを知る人間はごく一部の者でしかなかった。