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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第51話 揃った役者





睦月たちが徳仁から、形式上の追放宣言を受けていた頃。シャニアクの協力者から連絡を受け、迎えに行くため〈エスペランザ〉が出港した。

「・・・・・・で?」

乗船メンバーはディステリアの他にはクウァルとセルス、ジークフリートとブリュンヒルド、セリュードがいたのだが。

「よく考えてみれば、これって二年前のメンバーと同じじゃないか」

「あっ、本当だ」

たった今気付いたようにセルスが呟くが、誰一人気にする者はいない。

「まあ、二年前は行き損ねたことだし。今度こそ、どんな国か見ようと思ってるの」

「セルス、俺たちは観光に行くんじゃない」

「それと・・・・・・停泊はできても船を下りることはできない、ということだ」

クウァルとセリュードの説明に、「ええ~~~っ!」とセルスは悲鳴を上げた。

「シャニアクの協力者・・・・・・どんな物好きか、ある意味楽しみだ」

冷たく呟くディステリア。シャニアクという国にいい印象を持ってない彼は、協力者もろくでもない奴と考えていた。その考えが即座に取り消すことになるとも知らずに。



―※*※―



シャニアク国、平安港に寄った客船スキールブラズニルは、再び大海原を移動している。甲板の上では、睦月たちと彼らを助けた少女、その連れの少年が話をしていた。

「・・・・・・さっきは助かった。ありがとう」

礼を言う睦月に、「いえ、それほどでも」とセルスが照れ隠しをする。

「私、セルスと言います。セルス・セオフィルス」

「俺はクウァルだ・ハークルス。俺たち二人はラグシェ国から来た」

「ラグシェ・・・・・・って、外国ですか?」と、弥生が聞く。

「当たり前だ。オリュンポスでこの船に乗ってから、次の目的地を聞いて驚いたぞ。まさかこの国に、俺たちの仲間になる人がいるとは・・・・・・」

「・・・・・・それほど、この国の評判は悪いのか?」

クウァルの言葉に、苦い表情の睦月が呟いた。

「悪いなんてもんじゃない。最悪すぎるぞ。俺なんかシャニアク人というだけで、殺されそうになった時があったぜ」

信玄の言葉に、全員が「ええっ!?」と驚いた。

「あれ?皆さん、そこまでは知らなかった?」

「当たり前だ。だいたい、俺たちの国はシャニアクの評判こそ悪いが、あの国に住む者に同情する者もいるんだ」

驚きが隠せない様子で、クウァルが言う。

「俺の住んでいた国では、話は聞けど気にしてすらいなかったぜ・・・・・・」

別の声がすると、船の入り口の側に、背の高い美青年が立っている。中から出てきたらしく扉が開いていた。

「ああ、セリュードの国ではそうだったのか?」

クウァルが聞くと、セリュードは歩きながら「ああ」と答えた。

「お互い知らぬ存ぜぬじゃ居心地悪いだろう。俺はセリュード・クルセイド」

「セルス・セオフィルスです」

「クウァル・ハークルスだ。で、あっちの髪がさばさばした野次馬がディステリア」

親指を指したクウァルの紹介に、「おい、待て」とディステリアが割り込む。

「誰の髪がさばさばしてるって?」

「ああ、さばさばじゃなかった。ぼさぼさだ。ついでに性格もずぼら、と」

「間違った情報言ってんじゃねぇ!!」

「もう、二人とも。みっともないからやめて」

クウァルとディステリアをセルスが止め、それを見て睦月らは唖然とした。

「神童睦月。元江戸東慶守護部隊員だ」

「外見は若いけど、何歳だ?」

「年齢は18」と即答すると、「18だって!?」とディステリアが驚いた。

「俺とあんまり変わらないじゃないか!?」

「知らないよ。そんなこと」と睦月が面倒くさそうに視線を逸らす。

「私は神埼弥生。16歳」

「芽衣皐です。私も・・・・・・16です・・・・・・」

「流牙優。見ての通り・・・・・・です」

そうは言ったがわかった者は少なかったようで、首を傾げたディステリアが聞く。

「見ての通り・・・・・・とは、獣人と言うことか?」

聞かれたユウは「え、と・・・・・・その・・・・・・」と、おどおどする

「ほら、ディステリア。自己紹介」

「あっ、そっか。クウァルは適当なことしか言ってないんだ」

セルスに指摘されて気付いたディステリアは、改めて睦月たちのほうを向く。

「俺はディステリア。人付き合いはあまりうまくないから、至らない部分が多いと思う。が、仲良くやっていきたい」

「ユウと同じだ・・・・・・」

人とあまり接したことがないユウはそう思ったが、ディステリアと彼女では、『人付き合いはあまりうまくない』の意味が違っている。

「さあ、立ち話もなんだ。中に入ろう」

「そうですね」と睦月は信玄に賛成し、彼らは中に入って行った。



                      ―※*※―



何事もないように海を進んでいるスキールブラズニルの中に入ると、一気に増えた協力者たちで話が盛り上がり始めた。

「じゃあ君は、シャニアク国で生まれたのかい?」

セリュードが聞くと、「はい」とユウが答えた。

「物心付いた頃から両親と一緒に暮らしていたのですが・・・・・・ある時、あの人たちが来て・・・・・・」

「君を地下施設に連れて行った、か。ひどい話だ。君のご両親は?」

クウァルの質問に、ユウの代わりに睦月が答える。

「おそらく、殺されたのだろう。連中にとって秘密が漏れるのはとても都合が悪いからな」

「・・・・・・ひどい話ね」と暗い表情のセルスが呟いた。

「しかし・・・・・・ケルトやファンラスでならともかくなんで、シャニアク国で獣人の子が生まれたんだ?」

セリュードの言葉に、「獣人?」と睦月が首を傾げた。

「半妖ではないのか?シャニアク国では時々、人と妖怪の間に子が生まれることがある。だが、妖怪からみれば妖力が弱いし、人間から見れば妖術が使える。両方の種族は愚か、親にさえ捨てられるケースが少なくない」

「それもひどい・・・・・・」とセルスがまた呟く。

「平安京都を治める徳仁さまは、そうした迫害をなくすために、人間と妖怪が一緒に暮らせるように保護条約を結んだの。でも、いまだ迫害はなくならないし・・・・・・」

「首都・江戸東慶を初めとした東本土の人々が、そうした活動に難色を示している。平安京都から西側の地域にも、この条約が受け入れられないという人たちが多い」

アオイと信玄が、沈んだ表情で言う。

「私たちが住んでいた村もそうだったわ。スサノオの降臨伝説がある村で、自分たちには神の血が流れていると信じているらしいの」

「だから、妖怪の血が流れる人は嫌ってたの?訳わかんない・・・・・・」

苦々しげに言う弥生に、セルスが言う。

「一口に妖怪と言っても、中には神様と崇められるものもいるんだろ?ほんと訳がわからないな、シャニアク人って」

そんなクウァルに、睦月たちの視線が突き刺さった。しばらく目を見開いていたが、「すまない」と謝った。

「俺たちは・・・・・・これからどこに行くのだ?」

「それはだ、な・・・・・・」

睦月の質問にセリュードは言葉に詰まる。行き先を言っていいのか、視線を向けた彼の代わりに信玄が答えた。

「まだ〈名も無き島〉だよ」

それ以上信玄は何も話そうとしない。やがてスキールブラズニルは、目的地に到着した。世界の人々から忘れ去られた〈名も無き島〉に。



                      ―※*※―



睦月たちを屋敷に招き入れ、任務完了となったクウァルたちは中を歩いていた。しばらくそうしていると、庭で騒がしい音がした。

「なんだ?今の音は・・・・・・」

クウァルが呟くと、「行ってみるか」とセリュードが言った。庭に行くと、二人の男性が戦っていた。一人は銃を、もう一人はサーベルで戦っている。

「睦月くん!?」

「相手をしているのは・・・・・・ユーリか?」

セルスが驚くと、セリュードが眉をひそめる。睦月の相手をしているユーリに、銃を構えている睦月は攻めあぐねていた。

「・・・・・・どうしたんだ?銃を持っているなら、有利なはず・・・・・・」

すると、ユーリが一瞬、クウァルのほうを向いた。その隙を突いて、睦月が銃を構えた。一瞬、ユーリは、発砲の瞬間に地面を蹴った。

「不意打ちしても、文句はなしだよな!」

空中に浮いたユーリに向けて銃を撃ったが、全てサーベルで叩き落された。

「銃弾を全て、サーベルで!?」

「銃弾が見えていなければできない!!なんて動体視力と反応速度だ!!」

二年ぶりに会った彼の実力に驚くセルスとセリュード。

「やはり、銃は効かないか」

睦月が横についているダイヤルを回すと、銃身から刃が出てきて小振りの剣に変形した。

「銃剣だったのか?」

驚くクウァル。相手が着地した後、しばらく深呼吸をしていたが、その間に剣に炎が宿った。

「いっけ~~!!」

振りかぶった腕を振り下ろし、剣に溜めた炎を打ち出した。

「烈火―――飛燕太鼓!!」

連続で炎の塊がぶつかった途端、ユーリは逃げ場を失った。そこに睦月が追い討ちをかける。

「飛閃・・・・・・天翔!!!」

ドオッ、と飛んだ炎がぶつかる。それらが治まると、中から無傷のユーリが歩いてきた。睦月は再び武器を構えるが、彼は武器をしまっていた。

「さすが『十二月将』だ。いいだろう。合格だ」

それを聞いた睦月は、「なっ・・・・・・」と唖然とした。

「何を驚いている。合格だ、と言ったのだ」

「違う。俺が驚いているのは、そんなことじゃない!」

銃をしまって、睦月はユーリに詰め寄る。

「今の『十二月将』ってなんだ?俺はそんなのに入った覚えはない」

「なんだ?聞いていないのか?」

ユーリが取り出した一枚の紙には、こう書かれていた。

『この『新道睦月』と言う少年を、『十二月将』の一員として、そちらに送る。実力を知りたければ、彼と手合わせするも良かろう』

「やられたぁぁぁぁぁぁ!!」

読み終わった睦月は紙を握り潰し、「あんの狸~~~!!」と悔しそうな声を上げた。そこに、パンパン、と手を叩く音がした。

「あの人は・・・・・・?」

「さあ・・・・・・俺も知らない」

睦月とユウが首を傾げる。その男こそ、神々と共にこの島の屋敷を管理し、彼らをここに呼んだ張本人、クトゥリアだった。

「立ち話もいいが、そろそろ互いのこと紹介してもらおう。集まってくれ」

「あっ、クトゥリアさん。それ、俺たちはもう終わってます」

セリュードの説明に「んな!?」と、珍しくクトゥリアが間抜けな声を上げる。

「・・・・・・お前らが終わっててもな~、他の仲間はまだ知らないわけだし。面倒くさいだろうが顔合わせ、頼むよ」

「まあ、敵に間違えられてトラブルを起こすのもなんですし・・・・・・」

ユーリとやり終えた睦月もそれほど抵抗感を持ってないようである。〈エスペランザ〉内で終えた自己紹介を、屋敷のエントラスで再び行った。集められた隊員たちは睦月の若い外見に驚いたが、年齢を即答した彼にもっと驚いた。その後に烏天狗が前に出る。

「俺は飛天。見ての通り烏天狗だ。修行中の身ゆえ、どこまでお役に立てるかわからぬが、以後お見知りおきを」

その後、アオイ、信玄、平次の順で自己紹介をし、船にいなかったメリスを見た飛天が目を見張った。

「ほう、異国の人魚は美しいだけではなく、自力で陸を動けるのか」

「いや、美しいかはともかく、動けるのはこいつだけだから・・・・・・」

呆れるロウガに対し、美しいと言われたメリスは照れていた。



                      ―※*※―



一方、平安京都では。

「では、本日の訓練を始める。用意はいいな?」

すると「はい」と光輝が答えた。

「わかっていると思うが、君は見たものに様々な事象を起こす術が使える。しかし、まだ完全に使いこなせていないため、君自身がダメージを受ける」

「わかっています。それを受けないようにするために、力を制御する修行をしているのでしょう?」

「そうだ。では、今日の修行を始めるぞ」

睦月たちが出発してから二日。晴明は光輝に、邪眼と同じ『視線に起因する術』を使う力が秘められていることを見抜き、それを使いこなせるようにするために、引き取って訓練していた。そのかいあってか、光輝は少しずつではあるが、術を使った時の反動を受けずになっていた。とはいえ、まだ体は刃物で刺されるような痛みを受けていた。

「今日はここまで。明日に備えて、しっかり休め」

「はい、ありがとうございました」

光輝は一礼した後、一人部屋に残った光輝は、布団の上に倒れた。ふと目を閉じると、睦月と楽しそうに話す弥生の姿が頭に浮かぶ。それと共に湧き上がる憤りに、光輝自身、驚きと戸惑いを感じて目を見開いた。

「・・・・・・嫉妬してる・・・・・・?バカな・・・・・・」

自問自答して出た答えに、一人あざ笑った。



                      ―※*※―



その日の夜。メンバーのほとんどが食事を取った後、通路でユウとサツキが睦月を取り合っていた。

「ムー。一緒に寝よう?」

「ダメ!睦月は私と一緒に寝るの!」

「ダメ!私!」

「私!!」

ユウとサツキが困り顔の睦月を取り合い、その騒ぎを遠くで信玄と弥生が見ていた。

「いや~、睦月。モテモテだね~」

「仮定はどうあれ、二人とも睦月さんに助けられましたから。二人にとって睦月は、白馬の王子さまなんでしょう」

少々、皮肉を込めた声で言う弥生に、信玄は「ふーん」と声を漏らす。

「呑気なこと言ってないで、助けてくださいよ~!!」

睦月が情けない声を出すと、信玄は楽しそうに笑った。

「まあまあ、楽しそうでいいではないか」

「そんな呑気な・・・・・・」

「ホントよね~。でも信玄。女の子をたぶらかすなんて、あなたは教え子にいったいどういう教育してるの~?」

後ろでした声に二人が振り返ると、アオイが例の威圧感を込めた笑顔を浮かべている。

「え・・・・・・えっと・・・・・・」

アオイが威圧感を放ちつつ詰め寄ると、信玄は冷や汗をかく。

「今夜、私の部屋でゆっくり・・・・・・ゆっくりと、聞かせてもらいますからね?」

「ま、待て待て待て!若い彼らの目の前でそんなこと言うな」

「変な噂がたったらどうするかって?その時はあなたの自業自得ということで」

「なんでそうなる~~~~!!」

信玄は威圧されたまま、廊下を引きずられて行き、それを見送った後、二人は睦月の取り合いを再開した。

「ユウと一緒!」

「ダメ、私と一緒!」

「おいおい。いったいなんの騒ぎだ、これは?」

三人が声のほうを向くとユーリとディステリアが立っており、その瞬間、睦月は二人を天の助けと思った。弥生から事情を聞くと、ディステリアは呆れ顔になり、ユーリは溜め息をついた。

「つまり・・・・・・助けられたお姫さまが、自分を助けた王子さまを取り合っている・・・・・・と言うことだな?」

「お前・・・・・・嫌味、込めてるだろ」

睦月に歯を食い縛っているような声で言われて、ユーリは全然、とでも言うかのように、肩をすくめた。

「だが、いつも必ず助けられるとは思わないことだ。俺たち人間の力には限界があり、全ての人間を助けられる訳ではない」

「わかってる。こちとら、昨日今日の新米じゃないんだ。それくらい身にしみてわかって・・・・・・」

「待てよ・・・・・・『限界』って、なんだよ」

その時、二人は目を見開いて、「(あっ、新米当然の奴がここにいた)」と思いながらディステリアを見た。

「言ったとおりの意味だ。俺たち、人間はちっぽけな存在。一人で出来ることなど、タカが知れている」

ユーリにそう言われて、「それは・・・・・・そうだが・・・・・・」とディステリアが黙り込む。

「なら・・・・・・なんのために・・・・・・『仲間』がいるんだ・・・・・・?」

ディステリアにそう言われ、「は?」と呟くユーリ。

「それなら、なんのために『仲間』がいるんだ。なんのために『チーム』があるんだ。なんのために『組織』があるんだ。みんなで助け合うためだろう!?互いに助け合って、できないことをフォローしあって、不可能を可能にする。無限の可能性を生み出す。そのためにあるんだろう!?」

すると、睦月が「アハハハハハ」と、笑い出した。

「確かに、その通りだ。そのために、俺たちはここに集められた。お前さんの負けだな」

「・・・・・・なるほど、そういう解釈もある・・・・・・か。だが、理想を叶えるにはとてつもない量の『努力』と『覚悟』がいる。それだけは・・・・・・忘れるな・・・・・・」

そう言って、通路を歩き出すユーリ。

「(でなければ君は・・・・・・『大を救うために少を犠牲にしなければならない』というジレンマに、心を砕かれる)」

彼の脳裏には、戦いの中で助け出せなかったミリアの笑顔が浮かび上がっていた。

「(そうだ・・・・・・俺は・・・・・・)」

そのまま、半ばよろめくように廊下を歩いて行った。

「・・・・・・って、おい!!行くなら、こいつらなんとかしてくれよ~!!」

取り合いが第二ラウンドに突入した睦月は助けを求めるが、通りかかった者は彼に嫉妬のこもった視線を向けるだけで助けてくれなかった。その夜、彼がどうなったかは誰も知らない。






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