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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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特別編13 破魔の剣




江戸東慶から数メートルの国道沿い。浮かんだ上体で移動する安倍晴明と、不本意そうな顔で睦月を背負い低空飛行している飛天がいる。

「あのユウって子・・・・・・白さんだけに任せて大丈夫なんですか?」

「彼女は優秀な忍びだ。万が一あの子が暴走しても負けはしまい」

「それはそうでしょうが・・・・・・」

そこで言葉を切った飛天は、「(忍び関係あるか?)」と内心思った。

「それより、問題は彼だ」

「ふん。『俺のせいだ』だの、『すまない』だの・・・・・・挙句の果て、『どうしてですか、隊長』だ」

不愉快そうに背負っている睦月に視線を向けると、「ああ~~!!」と大声を上げて止まった。

「うっとうしいったらありゃしないぜ!!」

「それほど、あのヘイルという男を信用していたのだろう」

怒鳴り散らす飛天に対し、晴明は落ち着き払っている。

「晴明、変われ!!俺はこいつを連れ帰りたくない!!」

「それは無理だ。私はここから江戸東慶の様子をうかがわなくてはならない」

しれっと返す晴明に、飛天は歯軋りのような音を口から漏らす。

「お主ら烏天狗に、歯などあったかな?」

「そんなことどうでもよかろう!!」

飛天が怒鳴っていると数人の足音が聞こえる。銃を構えた迷彩柄の服を来た兵士がこちらに迫っている。

「目標発見。これより、銃殺します」

「穏やかではないね」

銃撃が始まった時、二人は左右に散る。晴明は手を出すわけには行かないため、戦うかどうかは飛天に一任される。戦う場合、連れ帰るはずの睦月は危険に晒されるが、

「(その睦月に苛立っている今の彼は、そんなことお構いなしだろう)」

現に飛天は睦月を乱暴に放り投げ、銃を撃ってくる兵士に向かって行った。

「はあっ!!」

銃弾を避けながら懐に飛び込み、思い切り腹を殴りつける。至近距離から銃を発砲されたが、人間から逆輸入した超臨界流体の技術で作られた法衣が防いだし、妖怪としての体の丈夫さで痛みも感じない。

「でやっ!!」

横薙ぎに振った腕で殴りつけるが、銃に仕込まれていた刀剣に切られる。が、問題なく飛天はその兵士の首をへし折った。あっという間に全滅した兵士は、体が黒い塵になって崩れた。

「人間ではなかったようだな」

「俺としては、どっちでもよかった」

気にする様子のない飛天は、先ほど切られた腕に布を巻いて血を止める。例え今の銃撃で全身に傷を負っても命が尽きることはないだろう、と晴明は思っている。妖怪ならではの再生能力と生命力。それらの要素を差し引いたところで、人間と妖怪の間には埋まらない力の差がある。妖怪退治を生業とする陰陽師でさえ、『力』は妖怪と同じ位置に立っているわけではない。一歩間違えれば逆に、しかも簡単に殺される位置に立っている。晴明はそう考えている。

「・・・・・・・・・い・・・・・・おい・・・・・・」

ハッと気付くと、睦月を背負った飛天が眉にシワを寄せている。

「そんな呆けて、江戸東慶にいる式神の援護は大丈夫なのか?」

「おや、気付いたか」

「あんたがあそこを気にする理由、それしかなさそうだ」

遠くを見た飛天に、晴明はフッと笑う。

「わかったのなら頼む。くれぐれも丁重に運んでやってくれ」

「死なない程度に、は保障する」

軽く息をつくと、飛天は思い切り地面を蹴って国道沿いを駆け抜ける。そのスピードに睦月は耐えられるのか、と一瞬心配になった晴明だが、すぐ無意味だと考え直す。

「さて・・・・・・」

彼は江戸東慶のほうを振り返った。数少ない協力者を助けるため。

「(できるかどうかは問題ではない。やってみる価値がある)」

晴明は意識を集中させ、遠くへ飛ばした。



                      ―※*※―



同時刻。京都の病院の中を、怪しい人影が移動していた。懐中電灯のわずかな光を頼りに武蔵の病室を見つけると、音も立てずにそのドアを開けた。音も立てずにベッドに近寄り、懐から出したナイフを高々と上げ、布団めがけて一気に振り下ろした。ところが、バスッと音を立てたが手ごたえがない。それどころか、布団に開いた穴から変な液体が流れ出し、シーツから離れられなくなった。

「なっ・・・・・・これは・・・・・・!?」

その時、病室の明かりが一気についた。入り口にある電気のスイッチの側には、平次が立っていた。

「武蔵が世話になったな、襲撃犯」

「観念しろ!!」

「御用だ!!」

病室の他のベッドの中から、銭型や他の岡引たちが十手を構えて飛び出す。その時、

「武蔵先生の敵!」

さらに別のベッドから影が飛び出し、木刀を犯人に振り下ろした。

「なっ、牛若くん!?」

銭型が声を出すと、辺りは騒然とした。表情が変わらなかったのは平次と犯人だけで、犯人は木刀に向かってカウンターの蹴りを放って牛若を蹴り飛ばす。平次のいる入り口の側に飛ばされてしまった牛若はすぐさま立ち上がるが、蹴られた衝撃に顔をしかめた。

「くそっ・・・・・・」

木刀を支えにしてなおも飛びかかろうとする牛若を、平次がそっと止める。

「それくらいでやめておけ。君が足手まといになって逃げられでもしたら、元も子もないんだ」

牛若はハッとなり、歯軋りをした。一方、牛若と共に隠れていた鬼若は犯人の顔を見て驚いた。

「あ・・・・・・兄上・・・・・・?」

鬼若の言葉に、再び銭型たちが騒然となる。

「あ・・・・・・兄上って・・・・・・」

霜月しもつき 梅剣ばいけん。俺の・・・・・・兄だ・・・・・・」

「な・・・・・・なんだと」と銭型たちが動揺するが、平次は冷静だった。

「事前の情報収集は、捜査の基本ではないのか?」

腰に下げている短刀を抜き、一瞬で踏み込む。平次の短刀を、犯人の男は手に持っていた鎌で防いでいた。

「(は・・・・・・速い・・・・・・)」

「じっくり聞かせてもらうよ。あんたの目的とか、正体とか。まずは、その体から出ていきな!!」

ガッ、と鎌を弾く。バックステップで下がって逃れる梅剣と追う平次。病室の窓から飛び出した二人は、戦いの場を庭に移した。

「平次・・・・・・いったい、何がどうなってるんだ!?」

窓から庭を見下ろす銭型、牛若、鬼若。

「決闘禁止令違反、及び、殺人未遂の容疑で逮捕する。ただし・・・・・・」

平次は腰に差してあるもう一本の短刀を抜くと、切っ先を向ける。

「その前に・・・・・・取り憑いている体から、退いてもらうぞ!!」

飛びかかり、両手の短刀を高速で交互に振って攻め立てる平次に対し、梅剣は呻きながら防御に専念していた。

「ぐっ・・・・・・」

「どうした!?さっさとその体から出て行ったらどうだ!?」

梅剣を押している平次の言葉に、銭型は首を傾げる。

「いったい、平次はなんのことを言っているんだ?」

「・・・・・・鬼若・・・・・・おまえ、最初に俺に会った時、腰に差してある刀を狙っただろ?あれと関係あるんじゃないのか?」

「えっ!?まさか!?」

牛若の言葉に銭型は驚いたが、鬼若は「ああ、そうだ」と肯定した。

「刀などの武器を集めるのは、何かの祈願の一種なんだ。お前は、そのために武器を集めていたんだろ?」

「ああ。俺は・・・・・・兄上に取り付いた悪霊を払うため、二千本の武器を集めていた。ある祈祷師が、そうお告げをくれた」

「祈祷師が?しかし、おかしい。祈祷師は犯罪をほのめかすようなお告げを伝えることは、できないはず・・・・・・いったい・・・・・・」

「その祈祷師、偽者だな?」

そこへ別の声がして目を丸くした三人が後ろを振り向くと、入り口に虎太郎がいた。

「実は最近、嘘のお告げを与えて市民を戦に駆り立てる祈祷師がいてな。私の所にも、見つけ次第捕らえろという報せが来た」

「なんだと!?神の言葉と称して人々を戦に駆り立てるなど重罪だ。いったい、誰がそんなことを・・・・・・」

「その答えの一部を、平次が知ってるのではないか?」

「それと・・・・・・附に落ちない点がもう一つ」

牛若の言葉に、「なんだ?」と銭型が聞く。

「なんで平次さんは、鬼若の兄さんが何かに取り憑かれてるって知ってたんだ?」

「あっ!」

「・・・・・・さあな」

銭型が声を上げ、小太郎が首を傾げていた頃、庭での戦いは鎖鎌の分銅を使った梅剣が押し返していた。

「ハハハハハ。これが魔装神具だったのは幸いだ。これで貴様の勝ちはなくなった」

振り回していた分銅を投げ、飛び上がった平次の右足に絡ませた。鎖を引いて地面に叩きつけると、禍々しい力を鎌の刃に集中させ、巨大な刃を生み出した。

「終わりだ!!」

「兄さん!!」

「無茶だ」

叫んで飛び出そうとした鬼若を、銭型が止めた。その隙に巨大な刃は平次に振り下ろされた。

「フン」

鼻で笑う梅剣。ところが、土煙の中から眩いばかりの光が出てきた。

「封印・・・・・・解放・・・・・・」

煙の中に立っていた平次の両手には、短刀ではなく一本の光り輝く剣が握られていた。

「な・・・・・・それは・・・・・・」

「魔を祓う白き鳳凰・・・・・・羽ばたけ!!」

平次が両腕を掲げると、その剣から白い鳥のようなエネルギーが現れる。

「・・・・・・魔装神具・・・・・・破魔白凰はまはくおう・・・・・・」

「ま・・・・・・魔装神具だと!?」

「―――祓え!!」

平次が叫び、刀身が振り下ろされると同時に、鳥が羽ばたく。一瞬で鳥が通り過ぎると、梅剣の体から黒い煙のようなものがたった。

「ギャアアアアッ!!き・・・・・・貴様ああああああああああああああ!!」

逆上して襲いかかるが、平次は即座に第二派を放った。とっさに鎖で防御したが、鎖は砕け再び梅剣は白い鳥の直撃を受けた。

〔グオオ・・・・・・お・・・・・・おのれ・・・・・・〕

それだけ言い残すと梅剣の体から出ていた煙は完全に消え、彼の体は地面に倒れた。

「救護班、彼を!!」

平次の要請にすぐさま病院から救急隊員が飛び出し、倒れた梅剣の体を担架に乗せた。

「・・・・・・あいつは・・・・・・何者だ・・・・・・」

病院に運ばれた梅剣を見届けた後、平次は夜空を見て呟いた。



                      ―※*※―



江戸東慶を脱出してから一週間。睦月は平安京都で治療を受けていた。その間に、国内では大変な事態になっていた。

「ややこしいことになったな」

「ええ。これも敵の予想内だったのか、それとも即座に立てた策なのか・・・・・・」

徳仁と晴明が、それぞれ腕を組んでいる。黄龍殿のリビングルームに置いてあるテレビには、〔江戸東慶守護部隊、宿舎襲撃〕と言う見出しのニュースが報じられていた。

「『八日未明に宿舎が襲撃を受ける。行方不明の一人を除き全員が死亡』・・・・・・か。これは・・・・・・」

博雅の言葉に、「そうだろうな」と徳仁が答える。

「奴らが皆殺しにしたのだろう。一人行方不明になっている、睦月くんに罪を被せて」

画面には、重要参考人として睦月の顔写真が映されていた。

「ひどいことをする。自分たちの隠ぺい工作のため、自分の部下を・・・・・・」

眉間にシワを寄せる博雅に、「おそらく」晴明がと切り出す。

「部隊を率いる者にとっては仮の部下でしかなかったのだろう。それに・・・・・・このニュースでやっていることはほとんど事実だ」

ニュースでは、烏天狗の一人が不可侵条約を破って江戸東慶に侵入し、江戸東慶部隊の宿舎を襲撃したと報じられていた。

「実際、襲撃はしていないが不可侵条約に違反したのは事実だ。もっともそのおかげで二人を助けられたが・・・・・・」

「二人・・・・・・そうか。睦月という者に協力していた者たちは・・・・・・」

博雅が暗い表情をすると、晴明も表情を厳しくする。

「私がもしもの時に配備していた式神たちも、白くんの部下たちも、あのヘイルという男一人に状況を返された・・・・・・」

「強敵だな。戦うことになって勝てるのか?」

「だが、貴人が見届けた。睦月くんに協力していた者たちが、一矢報いてくれた」

「最後の意地、か」

徳人が呟く。謎の力を発動したヘイルの前に、晴明の式神たちは次々と倒されて行った。有馬たちの集中攻撃と命を捨てた攻撃でヘイルは手傷を負い、その隙に晴明の式神と白の部下たちは命拾いをした。だが、その結果・・・・・・

「この話はもうよそう。それよりも今は、どう切り抜けるかだ」

「ああ、そうだな。睦月と閉じ込められていた少女は助け出せたが、同時に奴らにここを攻め入らせる正当な理由を与えてしまった。早く手を打たなければ・・・・・・」

「それについて、いい案を持って来てやったぞ」

徳仁が唸ったその時、突然した男性の声に全員がそのほうを向くと、晴明が声を上げた。

「おお!?お主は・・・・・・!」



                      ―※*※―



「う・・・・・・う・・・・・・ん・・・・・・?」

別の一室。ベッドの上に寝かされていたユウが目を覚ました。側の窓は開け放たれており、白い薄手のカーテンが風になびいている。

「気が付いた?」

澄んだような女性の声に、ユウは反射的に体を起こして警戒した。その時、彼女は自分にちゃんとした服が着せられているのに気付いて驚いた。

「よかった。不安定な覚醒をしたって聞いたけど、後遺症はないみたいね」

窓とは逆のほうに座っている、笑顔の女性。ユウはまだ警戒を解かなかった。

「大丈夫。ここは妖怪の力を持つ人たちも保護している。あなたを実験道具にしたりしないわ」

だがユウは、まだ疑いの眼差しを向けている。

「まずは、お互い自己紹介しましょう。私は・・・・・・」

そこへドアが開き、二人の男女が入って来る。

「あら。久しぶりね、光輝くん、弥生ちゃん」

笑顔で話しかける女性に、二人は一瞬首を傾げた。だが、すぐに思い当たったらしく、ハッとした。

「あ・・・・・・あんたは・・・・・・」

「アオイさん!お久しぶりです!!」

天にも昇りそうな勢いで喜ぶ弥生に、ユウは唖然としていた。

「じゃあ、改めて自己紹介ね。私は如月きさらぎ あおい。この子は神埼弥生さんで、こっちが・・・・・・」

「文月光輝です。君は確か、睦月さんが助け出したって言う、人間不信の女の子」

「・・・・・・っ!!」

ユウが反応すると、どこからかどす黒いプレッシャーが洩れる。

「まったく。サツキといい、君といい、あの人もよく人外の者と係わるね」

「コ~ウ~キ~ク~ン。そういう言い方はないんじゃないの~?」

笑顔の裏に威圧感を隠しつつアオイが話しかけると、光輝はようやく彼女が放つプレッシャーに気付く。

「うっ・・・・・・」

「・・・・・・あれ?今さっき『サツキといい』って言ったけど、サツキちゃん、何かあったの?」

一転して首を傾げたアオイに、弥生は光輝の足を思い切り踏みつけた。彼が痛みにもだえている間に一部始終を話した。

「なるほどね・・・・・・なら、急いだほうがいいか・・・・・・」

最後の呟きに三人は首を傾げた。







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