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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
63/170

特別編10 共同戦線





数日後。ある山奥の道を進む一団がいる。全員山伏の格好をしているが、背中には木の箱を背負っている。

「あいつらか?」

「間違いない。時間とルートがぴったりだ」

その一団を、木々の上から覗く黒装束の男二人。

「だが・・・・・・相手は山伏だぞ。ばれないようにやるにしても、もしこれで外れだったら大問題だ」

「ああ、そうだな。だが、まず間違いない」

「どうしてそう言えるんだ?」

「あいつらは大きな間違いを犯している。あの山伏たちが被っている笠。あれは本来、頭巾ときんと呼ばれる多角形の帽子のはずだ。それに、山伏は普通布で顔を隠さない。格好から言って、山伏と行者の混同だろう」

知っててわざとやってるのか、それとも知らないで犯した間違いなのか。判断が付かない忍びは、覆面の下で呆れた表情をした。

「・・・・・・・・・バカですか、あいつら?」

「知らん。山伏も修験者だから混ざるのも無理ないだろうが」

そんな話をしていると、山道を歩く山伏たちは坂を登って行った。

「そろそろ目標地点だ。そこで仕掛ける」

「了解」

木々が少し開けた辺りに差しかかると、忍びたちは姿を見せる。

「何者だ?」「その荷物の中身、改めさせていただく」

忍び装束の男の言葉に、「断わる」と先頭の山伏が答える。

「この中身は即身仏ゆえ、おいそれと渡すわけには行かない」

厳しい声で答えた山伏の言葉に、忍びたちは顔を見合わせる。

「わかったら早々に立ち去ってもらおう。神の慈悲により、一度は忘れてやる」

今度は、忍びたちに呆れた空気が漂う。

「・・・・・・つかぬことを聞くが、即身仏が何か知ってるのか?」

「神の宿る物質にして、現世に留まるための依り代だ」

自信満々に行った山伏に、忍びの一人がこけて地面に落ちた。付きまとう危険が半端なものではない忍びにとっては、その気の緩みは戒めるべきもの。だが、この空気では仕方なくもない。

「待て!それは御神体だ!」

「何!?う、ウソをつくな!!」

「僧侶が土中の穴などに入って瞑想状態のまま絶命し、ミイラ化したもののことだ。座ってても人一人分の大きさだ、そんな小さな箱にはいるかよ」

確かに、山伏が背負ってる箱は人が入るには小さすぎる。入ってせいぜい仏像くらいか。

「そ、そうだ。仏像の即身仏だ!」

「(ダメだ、こりゃ)」とさっきこけた忍びがまたこけた。

「無理あるよな・・・・・・」

「ええい、うるさい!暴力に訴えて信仰心に信仰する不神論者に、今天罰を落としてやる!」

先頭の山伏が錫杖を構えると、後の山伏たちも錫杖を構える。飛び降りた忍びたちも、忍者刀やクナイを抜く。

「・・・・・・む、無茶苦茶な理論だ」

「ですが、どの道力尽くなんですから、手間が省けるでしょ?」

「そうだな。俺たちのフリをして紛れ込んでいた、その真意も知りたいから手早く片づけたいもんだね。先日の少年?」

横目で見られ、ギクッと身を強張らせると、偽山伏たちが襲いかかって来た。錫杖の一撃は地面から出ていた木の根を切り裂き、忍者刀で防いだ忍びたちを突き飛ばしていた。

「なんだ、あのバカ力。人間か!?」

「有馬さん、お願いします!」

忍びに化けた睦月の掛け声に、草むらに隠れていた有馬たちが四つの銃身を束ねたランチャーを担ぎ出す。

「忍びの皆さん、息を止めててください!!」

銃身から煙に包まれた球が発射され、偽山伏が避けた後、地面に当たって破裂する。眠気を誘う睡眠ガスで、睦月たちのプランならこれで相手を無力化できる・・・・・・はずだった。

「バカが、甘いわ!!」

偽山伏たちの目が赤く光ると白い法衣が破れ、黒いからやトゲが生えた禍々しい姿に変わる。

「なんだ、これは!?」

「ば、化け物!?」

浮き足立つ忍びたちに、偽山伏が変化した怪物が殺到する。一撃で倒されることはなかったが、忍者刀やクナイ、手裏剣や焙烙火矢ほうろくひやが通じず劣勢を強いられた。

「くそっ、火遁の術!!」

忍びの一人が印を結び、大きく息を吸い口から火を噴き出す。火は怪物の一人を包み、草や根を伝って燃え広がったが、中から出て来た怪物は多少表面が焦げただけで気にせず向かってきた。

「なんだと!?―――ぐあっ!!」

「くっ、一端下がれ!」

指示を受けて下がる忍びを怪物が追うが、そこに横から睦月がバーストガンを撃ち込む。

「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」

殻が砕けた怪物は地面に膝を突き、傷口から黒い煙を出した後、砕け散った。一方の睦月も、予想以上に大きいバーストガンの反動に、腕に激しい痛みを覚えていた。

「(くっ・・・・・・プロテクターなしでリミッターⅢの解除がこれだけ・・・・・・)」

顔をしかめる睦月の別の怪物が襲いかかるが、その動きを鎖が封じる。回りの気から何人かの忍びが鎖鎌を投げており、それを外そうとしている怪物に取り付いた忍びが忍者刀を首に突き刺す。殻と殻の隙間に捻じ込んだ、鋭い切れ味の刀の一撃。さすがに効いたのか、刀を抜いて飛び退くと黒い煙を噴き出して倒れた。

「オノレ!!」

「臆するな!気圧されたら負けだ!」

「食らえ!!」

飛び出した園地の剣が怪物を切り裂く。深手を負った怪物はそれが信じられず、赤い目を見開きながらも園地に爪を振り下ろす。即座に飛び退くが、地面から伸びていた木の根に足を取られ、園地は体勢を崩した。

「うわっ、しまった!」

当然そこを逃すはずがなく、怪物が突っ込んでくる。園地が死を覚悟した瞬間、

「うおおおおおおおおおおっ!!」

両腕の痛みを堪えた睦月がバーストガンを撃ち、怪物を吹き飛ばした。

「ガギッ!?貴様・・・・・・!!」

着地した怪物の動きが止まる。反射的に下に視線を落とすと、その怪物の足が凍り付いている。

「これは!?」

驚いて攻撃の手を止めた白根に怪物が襲いかかるが、飛び上がった忍びが蹴り飛ばす。

「敵から目を逸らすな!そんなことで、よく今まで生き残れたな!」

「うぐっ・・・・・・!」

辛辣な言葉に白根が唸ると、焙烙火矢の爆発音が耳を突く。晴れた煙の中から出て来た怪物たちはほぼ無傷だったが、ここまで二体倒していた忍びたちは多少の手応えを感じていた。しかし、『必ず勝てる』という確証は捨てている。

「残りは・・・・・・」

「―――5体!!」

二人の忍びが会話すると怪物たちが飛び上がり、それに合わせて忍びたちも姿を消して火花を散らす。

「十分目立ってるぞ!?」

姿を見せたままの怪物と姿を消しながら戦う忍びの激突は、辺りに金属音を響かせる。その戦いに入り込めない白根たちは周りを見渡すだけだった。

「水遁!!」姿を見せた忍びの一人が怪物たちに水をかける。内一体がジャンプでそれから逃れたが、それを見た睦月が声を上げる。

「奴に攻撃を集中しろ!!」

反発する間もなく、ほとんどの隊員が手持ちの火器を撃ち、自ら逃れた怪物を集中攻撃する。さすがに耐え切れなかったのか、煙の中から姿を見せた怪物は地面に落ちて動かなくなった。

「あと四体!!」

手持ち火器を撃ち尽くした加納が振り返ると、水を被った怪物四体が凍り付いているのを見て驚いた。氷の下に敷かれていた導火線が燃えていき、怪物たちの近くで氷に包まれていた焙烙火矢が炸裂、氷にヒビを入れ中の怪物を爆破した。

「あれだけの爆発で割れないのか!?」

「白隊長の作り出す氷は、これくらいの熱や衝撃ではびくともしない」

得意そうに一人の忍びが言うが、その割にはヒビが入った氷が砕け、中に閉じ込められていた怪物も崩れ落ちた。

「やった・・・・・・のか?」

白根が呆けた声を出した時、忍びたちは睦月たちに武器を向ける。

「っ!?どういうつもりですか!?」

「それはこっちのセリフだ。先ほどの戦闘、明らかにそちらが足を引っ張った。我々に味方するフリをして、こちらを全滅させる策略だったか?」

「そこまで、俺たちにとってハイリスクになるようなことはしない!」

「どうかな?使えようが使えまいが、部下を簡単に切り捨てるような奴らだ」

「何!?」

時に仲間を見捨てなければならない忍びがこれほど言うのなら、敵もそうとう冷酷な連中だ、と睦月は思った。一触即発の空気の中、呆れた溜め息と共に白装束の忍びが姿を見せた。

「疑うのはいいけど、まずは任務よ。箱の中身を確認するわ。毒ガスが仕込まれてることを考えて、結界を張って。他の者は周囲の警戒」

「「「はっ!!」」」

偽山伏たちの荷物を持った白がしっかりとマスクを着けていると、四人ほどの忍びが距離を置いて囲む。彼らは素早く印を結んで、自分たちを角に半透明の壁を作り出す。

「中身の確認は、俺も立ち合わせてください!」

「ダメだ!」と残った忍びが睦月の申し出を却下する。

「君には防毒装備がない。それに、結界の中で隊長を襲うかもしれない」

「お前・・・・・・っ!」

掴みかかりそうになった睦月を、「待って」と結界の中の白が止める。

「確認は結界の外からでもできるわ。それで勘弁して」

睦月は目を丸くしたが、もっと驚いたのは彼を止めた忍びだった。

「た、隊長・・・・・・!」

「ごめん。もしもの時は、あなたが部隊を退かせて」

覆面の間から悲しそうな目を見せて白は木箱の前に屈み、ふたとなっている板を上に引き上げた。中に入っていたのは緑色の液体が入ったカプセルで、それに入れるには小さすぎる生物が漂っていた。

「胚子かしら。本当に『生物』のようね」

「これが、兵器の元なのか?」

「わからないわ」

結界の後ろから覗き込んでいた睦月の呟きに、白が口元に手を当てて怪訝そうに呟く。

「とにかく、これは平安京都に持ち帰って分析してもう。異論はあるかしら?」

「ない。だろう?」

確認のために仲間を見渡した睦月に、全員が頷いた。

「というわけだ。分析なりなんなりするといい」

「それ以前に、我々ではそれがなんなのか調べることすら・・・・・・」

「おぼつかないだろうな」

園地と白根の言葉を継ぎ、有馬が溜め息をつく。

「それで・・・・・・」

一泊置いて有馬が顔を上げる。箱のフタを閉め、結界を解いた白たちに視線を向けている。

「今回の共闘で、信用していただけましたか?」

「徳仁さまなら信用したかもしれないが、我々はそうもいかない」

「そうだな。我々に知られた時点で、こいつらはスケープゴートにされた可能性もある」

もっともな意見に「ぐっ」と呟きつつ、簡単に信用されないことに苛立ちを覚える。

「・・・・・・・・・疑い深いんですね」

「そうでなければ忍びの世界・・・・・・特に、暗部の仕事はこなせない」

中身を確認した偽山伏たちの荷物をまとめ、現れた一人の忍びに顔を向ける。

「任せたぞ」

「ハッ!」

その忍びはまとめられた箱を背負い、大きくジャンプして枝の上を駈け抜けて行った。

「一人で大丈夫なのか?いくら腕利きの忍びでも、あれほどの荷物を運んでいたら・・・・・・」

「二人ほど護衛をつけている。それに、お前たちに心配される筋合いはない」

再び出た厳しい言葉に睦月たちは眉を寄せた。空気がギクシャクする中、白が両者の間に立った。

「まあまあ。彼らが信用できるかどうかはこれからわかることじゃない」

「これからですか!?」

睦月たちを疑う忍びが声を上げると、目を丸くする有馬たちのほうを白が振り向く。

「これからも、動きを掴む度にあなたたちも動くんでしょ?」

「そうですね・・・・・・その時は、よろしくお願いします」

互いにそれで譲歩し、今回のところは引き上げた。

「よかったのですか、隊長?あいつら、簡単に信用して・・・・・・」

「私がそれだけ甘い忍びに見える?」

細めた目を向けられ、「い、いえ」と顔を逸らす。

「彼らの意思は本物でしょうね。でも、私たちは確信を持って判断しなければならない。彼らが私たちの味方というのは、まだ推測の域を出ない。だから、協力を得られない」

「そうですね」と忍びは頷いた。



                      ―※*※―



一方の有馬たち。いつもの集合場所に戻った有馬と睦月は、今回のことを輝野と話し合っていた。

「やはり、簡単に信用してもらえないか」

「ですね。表裏知り尽くしている彼らの信用を得るのは、容易ではありません」

「それでも・・・・・・彼らの力は必要だ。これから少しずつ、信頼を勝ち取るしかない」

「長期戦、ですね」

「ああ」と頷くと、有馬は睦月に目をやった。

「睦月くん、ご苦労だった。ゆっくり休んでくれ」

睦月は黙って頷くと集合場所を後にした。自分の部屋がある宿舎の戻ると、何かにハッとして足を止めた。

「あっ。こいつを返すの忘れてた・・・・・・」

そう言って睦月が取り出したのは、公園で拾ったしおり。状況から考えて白の物と見当をつけていたが、戦闘のせいですっかり忘れていた。

「まあ、いいか。これから何度も会うんだし・・・・・・」

そう言って差ほど気にする様子もなく、睦月はポケットにしおりを入れて歩いて行った。



                      ―※*※―



それから二年。睦月たちと白たちは、正体のわからない敵に抗い続けた。本来の仕事をないがしろにするわけにも行かないので、手の空いた者が白たちと共闘した。そこに協力しているという意識はないが、結果だけを見れば協力しており、さらに江戸東慶守護部隊を隠れ蓑にしている敵に痛手を与え続けている。これがどう転ぶか。有馬と白、それぞれのリーダーは警戒を強めていた。



それと完全な余談だが。睦月が拾った白のしおりは、結局返されることはなかった。何度も返し忘れるうちにうっかり彼が、ポケットに入れたまま洗濯機に放り込み、水を吸って見事に破れていた。これを知られた時、白に凍らされそうになった。






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