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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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特別編7 揺れる心






愛宕山。謎の男ヘイルの襲撃を経て、烏天狗たちは山伏たちとの協力で警備に力を入れていた。その中腹を一人の少年が横笛を吹きながら歩いており、それを物陰から見ている者がいた。ふと、少年が横笛を吹くのをやめた。それと同時に、物陰に隠れていた男が刀を振りかざして飛び出した。しかし、振り下ろされた刀が少年を捉えることはなく、そのまま地面に突き刺さった。飛び出した男は、少年を探すため周りを見渡した。

「不意打ちとは、礼儀を知らないのか?」

上からの声に見上げると、先ほどの少年が数メートル上の木の枝に飛び乗っていた。男は驚いた顔をしたが、少年もまた驚いた顔をしていた。

「まさか・・・・・・子供か?」

不意打ちを仕掛けてきた男は実は少年で、青年と間違えるほど大柄な体をしていた。

「子供に子供と言われたくない」

「なんで俺に不意打ちを・・・・・・?」

「その、腰に差した刀が欲しいからだ」

そう言って、大柄の少年は遥か上にいる少年の腰に差してある、小刀を指す。

「何故だ?」

「言う必要はない」

問いかける少年に相手は冷たく返す。しばらく場を沈黙が支配したが、少年は木から飛び降りた。

「俺はこれを渡すつもりはない。それならどうするのだ?」

「わかるだろう・・・・・・?力ずくで奪い取る!!」

そう言って、大柄の少年は刀を振りかざして向かって来た。その刀は先ほどの不意打ちに使われた刀とは違い、刃が薙刀の先のようになっており、柄はなくそこには手を防御するためのような四角い物が付いていた。

「変わった刀だな」

「かの有名な武蔵坊弁慶が使ったとされる薙刀の刃を、加工して作った特別な刀だ!」

切りかかってきた少年の攻撃をかわし、少年も叫ぶ。

「『特別』か。それならこいつも同じなんでな、渡す訳にはいかない!」

「なら、怪我をしても知らないぞ!!」

刀を大きく振って突進してきた大柄の少年の攻撃を、少年はかわした。二人の少年の力の差は体格から見て明白で、下手をすると少年のほうが骨折などをしてしまう。そこで、刀をかわして高く舞った少年は、腰に差していた扇子を大柄の少年の足に向けて投げた。そこはいわゆる『弁慶の泣き所』で、当たれば痛さでもだえただろう。だが、大柄の少年は後ろに飛んでそれをかわした。着地した少年は、心の中で舌打ちした。

「体格で差がある場合、弱点を突いて攻撃するのが妥当だ。だが、それくらい俺も読んでいるぞ」

「むっ・・・・・・」

少年は呟くと、腰の刀を鞘ごと抜くと大柄の少年を前に構えた。

「ようやく、やる気になったか。だが、なんで鞘ごとなんだ?」

「・・・・・・これで、人を斬りたくないんでね・・・・・・」

「そうか・・・・・・」

静かに呟くと、大柄の少年は刀を振り上げ、全速力で突進して行った。

「(まだだ・・・・・・!!)」

真横に降られた刀をジャンプしてかわした。その後も二度、三度とかわす。ついに大柄の少年は渾身の一撃を放つため、刀を大きく振り上げてきた。だが少年のほうは、自身の刀を振りかぶった刀の前に真横に構えた。

「(全体重を乗せたこの一撃を、受けるつもりか!?)」

だが少年は刀を受けた瞬間、それを左側に傾けた。勢いに乗っていた大柄の少年の刀は鞘に従って左に流れた。

「(まずい!!)」

そのすぐ後、勢いを載せた反撃が来ると睨むと、少しでも身軽になるために刀を手放そうと手を緩めた。だがその瞬間、突然、少年が刀を振り上げ、大柄の少年の刀を遠くに吹き飛ばした。少年が笑った。

「よし、これでやりやすい!!」

だが、笑っていたのは大柄の少年も同じだった。

「武器がなけりゃ、勝てるとでも思ったか?」

そう言って大柄の少年は殴りかかったが、少年はそれを右にかわした。大柄の少年はそれを追ったが、待ち構えていた少年はその腕を掴むと体を後ろにひねり、そのまま投げ飛ばした。

「(なっ・・・・・・これは・・・・・・!!)」

地面に倒された大柄の少年が上体を上げると、閉じた扇子が彼の首筋に当てられた。その瞬間、少年の勝ちが決定した。

「勝負あり、だな」

負けを悟った大柄の少年の心はなぜか晴れ渡っており、彼らは「ハハハハハハ」と笑いあった。

「やるじゃねぇか。まさか、あんな手があったとはな」

「『腕力で力の差が大きい場合、技でそれを補え』。先生の口癖だ」

そう言って、少年は扇子を帯に差した。

「俺の名は鬼若だ」

「へぇ~、鬼若か。俺は牛若。『若』揃いだな」

「ははは。そうだな」

鬼若が笑うと、「牛若~」と少女の声がした。二人が声のほうを向くと、青い髪の少女がこちらに走って来ていた。

「ああ、静香」

「(キレイな子だ)」

安直な言葉で表せば、静香は容姿端麗。鬼若がそんなことを思いながら見とれていると、静香は二人の前で止まって息を切らせた。

「牛若、大変!武蔵先生が・・・・・・」

「武蔵?・・・・・・あ~っ!!忘れてた!!」

両手を頭に乗せて叫ぶ牛若に、鬼若は首を傾げた。

「今日!寺子屋!!」

「そうよ。何、忘れてるの・・・・・・」

二人のやり取りを見て、鬼若は牛若が寺子屋(学校)をサボっていたということを悟った。

「・・・・・・サボりかよ・・・・・・」

「ところで、武蔵先生がどうかしたのか?」

「何よ、さっきは呼び捨てにしたくせに。そうだ、武蔵先生が大変なの。すぐに寺子屋に来て!」

「また俺を連れてくるために罠なんじゃないのか?」

「(おいおい、前科持ちかよ)」

それを聞いて鬼若は驚いた。ここでいう『前科』とは、罪を犯したとかそういう意味でないのであしからず。

「もう、そうじゃないの。南町の人たちが来て、武蔵先生が・・・・・・」

「なんだって!?」



                      ―※*※―



本来、南町奉行所は江戸東慶に存在するものなのだが、その江戸東慶が東洋文化を取り入れ大きく変わったため、今までの奉行所は閉鎖を余儀なくされた。そこを徳仁が引き取り、平安京都の中心となる『所在地』に設置した。この『所在地』は、シャニアク国を47に分けた各地域に一つずつ存在する。唯一、江戸東慶にはなく、代わりにシャニアク国全土の『首都』が置かれている。

「武蔵先生~」

走ってきた少年の声に、中から出てきた男性と彼を連れた岡っ引が声の主に気付いた。法が改正されてから、武士や岡引が頭をまげにすることは少なくなり、髪をそのままに近い形にすることも広まっていたので、この岡っ引たちも髪はそのままだった。

「やあ、牛若くんか」

十手を腰に差した男性は腰に両手を当てて、意地悪そうに笑った。

「なんだ?また、サボってたのか?」

「はあ、はあ。はい、いつも通り山に行っていました」

「ダメだぞ?子供の内にちゃんと勉強しておかないと、将来ろくな大人にはならん。ん?その、大柄の少年は?」

膝に手を当てて息を整えた後、体を上げて後ろの大柄の少年を紹介した。

「紹介しますよ。その山で会った鬼若。鬼若、こちらは銭型・・・・・・」

「まさか・・・・・・銭形平次か!?」

驚く鬼若に、「いや、銭型兵五郎さん」と牛若が言う。一瞬、唖然とした。

「全く、あいつも苦労するなぁ~」

苦笑いしている銭型の後ろを、担架に載せられて運ばれて武蔵が通った。体中傷だらけだった。

「ちょ・・・・・・ちょっと待ってください。いったい、何があったんですか!?」

「わからない。ただ、近所の人が悲鳴を聞いた頃には、庭で血を流して倒れていたそうだ」

「どうしてですか!?」

牛若は信じられないという思いで声を上げ、その間に武蔵は近くに止まっていた救急車に乗せられ、病院に運ばれた。

「いや、我々も何がどうなっているやら。武蔵の腕はよく知っているし、そんな彼に傷を負わせられる者など、そう多くはいまい」

「つまり、容疑者はすぐに絞られるってことですか?」

「いや、逆に見つからない場合もある。今、岡っ引や役人を総動員して探しているが、今のところ見つかっていない」

「くそっ・・・・・・いったい、誰が・・・・・・」

牛若が悔しそうに拳を握ると、そこに、車のクラクションが鳴った。牛若たちが振り返ると、そこに止まっている一台の自動車から、一人の男性が降りて来た。

「なんかあったのか?」

そう言いながら歩いて来たその男は、見た目は若いが頭の髪は白かった。

「ああ、平次」

「「「ええ~っ!?」」」

牛若、静香、鬼若の三人が叫ぶと、男はやる気なさそうに頭をかいた。

「お~い、お前らが何を考えてるか、なんとなくわかるぞ~」

銭型は笑いながら、男の側に近づいた。

「こいつは師走しわす 平次へいじ。俺や武蔵の、寺子屋時代の同級生だ。って、どうして戻って来たんだ!?」

「里帰りだ!したら悪いのか!!」

猛烈な勢いで言い返す平時に、思わず銭型と静香はたじろいだ。

「・・・・・・にしても、久しぶりに帰ってみたらこの騒ぎ。いったい、何が起こったんだ?」

「武蔵が、何者かに教われた」

それを聞いた平次が、「なんだと?」と表情を曇らせる。

「武蔵ほどの男があそこまでやられたんだ。犯人は相当の手練だ・・・・・・」

すると「・・・・・・ちっ、手遅れだったか」と、平次が舌打ちをした。

「手遅れって、あんた、何か知ってるのか!?」

詰め寄る牛若を制し、銭型に聞く。

「とにかく、武蔵は生きているんだな?」

「あ・・・・・・ああ。深手は負っているが、命に別状はない」

「そうか・・・・・・こりゃ、不幸中の幸いだな・・・・・・」

「・・・・・・あんた、さっきから何を言って・・・・・・?」

牛若が詰め寄るが、平次は彼を制しながら銭型に近づく。

「とにかく、銭型。二~三頼みたいことがある。協力してくれないか?」

「いいが・・・・・・いったいなんだ?」

「急いで虎太郎を探してくれ。あいつも強いから、犯人に狙われている可能性がある」

それを聞くと、「なっ!?」牛若たちはと驚いた。

「お前・・・・・・犯人に心当たりがあるのか!?」

「武蔵に話を聞くまではなんとも言えないが、まず間違いないと思う。とにかく、急いでくれ!」

そう言って車に乗ると、平次は急いで走らせた。



                      ―※*※―



一方、海の近くにそびえる山。かつてシャニアク国の東西を分ける境に立っていたと伝えられるその山の中腹にある石の上で、一人の山伏が座禅を組んでいた。それを茂みからうかがう、怪しい二つの影。

「奴に間違いないな?」

「そんなこと、ここからじゃわからん。もっとも、襲えばわかるさ」

「そうだな・・・・・・」

互いに頷いた影が一斉に飛び出す。しかし、山伏に腕の爪が届く寸前に、飛び出した者の体は切り裂かれた。

「なっ・・・・・・」

「にっ・・・・・・」

突然のことに理解できないまま、体が地面に落ちると同時に、飛び出してきた影は炎を出して消滅した。

「まったく。いったい、なんだというのだ・・・・・・」

座禅を組んでいた山伏は、苦々しい表情をして立ち上がり、刀をしまった。その男は先程、平次の話に出てきた佐々木虎太郎だった。

「銭型から連絡が来た時には半信半疑だったが、こうなれば信じる他あるまい」

携帯を出しながら立ち上がり、遠くの空を眺める。

「まさか・・・・・・あの武蔵が・・・・・・」

と、その時、虎太郎が足を滑らせて体のバランスを崩した。

「おっ・・・・・・あっ・・・・・・あっ・・・・・・」

そしてそのまま、「ああ~~~~!!」と岩から落ちてしまった。



                      ―※*※―



二日後。病室の中、不機嫌な顔で腕を組んで立っている平次が文句を言う。

「まったく、呆れてものも言えないとはこのことだ・・・・・・」

「まあまあ。武蔵と同じ相手でなくて、良かったではないか」と、銭型がなだめる。

「いや、あえて見逃したのかも知れん。己の不注意で怪我をするような奴は、放って置いても自滅するだろうと考えて」

頭と右腕に包帯を巻いた虎太郎は、黙って横を向いた。

「しかし、この病院に源内がいたのは不幸中の幸い。おかげで、武蔵も一命を取り留めたらしい」

銭型が言うと、平次も溜め息をつく。

「よもや、かつてのクラスメイトがこんな近くにいるとは・・・・・・」

「因果などというものは、信じないのだが、な」

虎太郎がそう言うと、三人とも溜め息をつく。

「それより平次、そろそろ教えてくれないか。お前、武蔵を襲った犯人に何か心当たりがあるのだろう?」

「ああ・・・・・・いや・・・・・・」

銭型に聞かれた平次は声を詰まらせ、全員眉を寄せた。

「どうしたのだ?」

虎太郎が聞くと、頭をかきながら平次は病室の窓に近づいた。

「・・・・・・実は、ここ三週間で、妙なことが起きているんだ」

「妙なこと?」と銭型が聞く。

「全国各地で烏天狗や大天狗が何者かに襲われたり、山神に化けた何者かが生け贄を要求してきたり・・・・・・村一つが全滅したり」

「全滅!?そんなバカな!?いつそんなことが・・・・・・」

ベッドから起き上がった虎太郎に、銭型が静かに言う。

「おまえは山篭りしてたから知らんのも無理はないか。今から一週間近く前のことだ」

黙り込む三人。所々、雲はあるものの空は晴れ渡っており、何事もないようだった。



                      ―※*※―



「それは、どういう風の吹き回しだい?」

平安京都に着き数日、そこに留まる理由がないはずの睦月の言葉に、徳仁が聞き返した。部屋の中には徳仁、睦月、光輝の他に、安倍晴明、源博雅、坂上田村麻呂、そして彼の率いる部隊の副隊長である伊庭谷徹郎がいた。

「同じことを、この光輝という少年にも言われましたよ」

そう言って、側にいた光輝の頭に手を載せる。

「別に、どうということはないが・・・・・・俺は、自分の所属している組織が信用できなくなった」

「ん?どういうことだ?」

博雅が聞くと睦月はその場にいるみんなに、サツキが生け贄として出されていた裏山の祠で出合った、謎の男性について話した。

「姿が変わった?にわかには信じがたいな・・・・・・」

「だろうな。誰だって、それが当然の反応だ」

「しかし、その者からは妖気は出ていなかったのだろう?晴明、これは・・・・・・」

博雅が聞くと、「うむ」と晴明が考え込む。

「お主の言っていた者・・・・・・それに、あの飛天という烏天狗の話に出てきた者は、同じ何者かに仕えているということか・・・・・・」

「烏天狗・・・・・・?ああ、あの日、俺がすれ違ったあいつか・・・・・・」

睦月が飛天を思い出すと、「うむ」と晴明が答える。

「飛天殿と申してな。あの者の使えている大天狗の太郎坊殿が、何者かに襲われたらしい。その者も体が変化したらしいが、妖気を発していなかったので、誰もが最初は人間だと思ってたらしい」

「!!では・・・・・・やはり・・・・・・」

目を見張る睦月に「いや」と、晴明が口を出す。

「あくまで仮説だ。我々が数を把握し切れていないだけで、妖怪の能力を持った人間など他にいよう」

「まあ、そうですが・・・・・・しかし、片方が天狗を襲い、もう片方は生け贄として半妖の娘を要求してきた。どちらも目的が噛み合わないように思えるのですが・・・・・・」

「確かに・・・・・・なぁ・・・・・・」

徹郎の指摘に博雅が言うと、全員が考え込んでしまった。

「まあ・・・・・・子供がいるのにこんな話はどうかと思うが・・・・・・」

「子供って、俺のことですか!?」

徳仁がそう言った時、光輝が怒鳴った。

「ん?まあ・・・・・・」

「失礼な!俺はこれでも15です!!」

物凄い剣幕で迫られ、徳仁は「うぅっ・・・・・・うむ」と黙り込んでしまった。そんな光輝の頭を睦月が小突く。

「バカ。15はまだまだ子供だ」

「いやいや。大人ともいうし、子供とも言う。両方の境だな」

世間話に花が咲いた晴明と睦月に、徳仁は深い溜め息をついた。

「とにかく・・・・・・睦月くん。これから君はどうするのだ?」

博雅の質問に一瞬、睦月が戸惑った。

「・・・・・・俺は・・・・・・」






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