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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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特別編5 未知との激突






黙り込む睦月に、サツキは不安そうな表情で見る。

「悪いが、その要求には答えられない。こいつを連れ帰り、あの帝の鼻を明かすためにも」

「どういうことだ・・・・・・?」と、眉を寄せたギバ・ゲルグが聞く。

「あの帝ときたら、『妖怪と人間は共生できる』と言ったもんだ。だが、こいつを連れ帰って村の実情を証言させれば、あいつの領地内でも妖怪を恐れている人間がいることを証明できる。それが理由だ」

すると、「ハッハッハッハッハ」とギバ・ゲルグが笑い出した。

「なるほど。そのためにここに来たか。面白い。だが、それでも逃がす訳には行かぬ」

「それでも」という言葉が気にかかり、一瞬、睦月の動きが止まった。そこを、ギバ・ゲルグの手刀が襲いかかった。

「ぐっ・・・・・・」

苦しそうに声を漏らした睦月は、襟首を捕まれて洞窟の左側に投げ出される。

「あっ!!」

悲鳴を上げたサツキが駆け寄ろうとすると、ギバ・ゲルグは右腕で彼女の着物の襟を掴んで引き止めた。

「おっと。お前には大事な役目がある。俺と一緒に来てもらうぞ」

「てめえっ!!」

「潰れろ!」

睨み付ける睦月に左手をかざすと、そこから黒い衝撃波が放たれる。避けられずそれを受けた睦月は岩壁に叩きつけられ、さらにギバ・ゲルグが腕に力を込めると腹に思い衝撃が襲いかかった。

「がはっ・・・・・・」

血を吐き出した睦月が地面に崩れ落ちる。

「ああっ!!」

「ふん、脆いな」

倒れた睦月を見下すように呟くと、サツキの目つきが鋭くなりギバ・ゲルグを睨んだ。そのすぐ後、彼女の長い髪が蛇のようにうねりだし、一束集まると鋭い槍のような形になり、ギバ・ゲルグを突き刺そうとした。

「ふん」

だが、鼻で笑ったギバ・ゲルグは、左腕でその槍を受け止める。その光景にサツキは目を見開いた。

「俺がただの人間だと思ったか?甘いんだよ!」

槍を払い除けた後、サツキの頬を殴った。

「ぁっ!」

小さく呻いたサツキが地面に膝を着き、ギバ・ゲルグは彼女を見下ろす。

「少しばかりいい気になってないか?別にこっちは、採取対象が生きてなくてもいいんだ・・・・・・」

鋭い爪を生やした左手を向けたその時、ギバ・ゲルグの肩と胸部に、二発の弾丸が命中した。

「がっ!?」

衝撃に呻き声を漏らすとサツキを放し、洞窟の壁にもたれかかった。弾丸が飛んできたほうを見ると、口から血を流した睦月が銃をこちらに向けていた。

「てめぇ・・・・・・まだ、生きてんのか・・・・・・」

左肩と胸を押さえながら呻くギバ・ゲルグに、立ち上がりながら睦月が答える。

「ああ。こういうことを想定しておけなくては、とても江戸東慶重役の使いは務まらん」

そう言って腹の辺りの服をめくり、下に付けている防御服を見せる。少し破れてはいるものの体への傷は浅く、致命傷には至っていない。服を離すと、ふと湧き上がった疑問をぶつけてみる。

「てめえも、ただの人間じゃないな?」

「なら、どうだと言うのだ?」

笑うギバ・ゲルグに、睦月は容赦なく銃を向ける。

「俺たちは・・・・・・一般人に対して害を及ぼす妖怪と出会った場合、直接、退治することを許されている。だから・・・・・・」

再び標準をギバ・ゲルグに合わせると、

「覚悟しろ」

と叫び、再び銃を撃った。ギバ・ゲルグは腕でガードしたが、銃弾は腕に触れた途端に爆発を起こし、思いもよらないダメージを与えた。

「ぐわっ。なんだ、これは!?」

予想外の事態に驚きを隠せないギバ・ゲルグに、腰に付けたナイフを左手で抜いた睦月が切りかかる。

「くらえええぇぇぇぇぇっ!!」

逆手に持ったナイフで斬りかかるが、ギバ・ゲルグはそこから飛び、洞窟の天井に沿って逃げ出した。

「逃がすか!!」

叫ぶ睦月が銃を撃つと、銃弾は入り口側の天井を吹き飛ばし、ギバ・ゲルグは外の地面に落ちた。

「ちっ」

舌打ちをしたギバ・ゲルグは立ち上がると、背中から太い腕のようなものが八本生える。その姿はまるでタコのようで、洞窟の外に出た睦月は驚いた。

「妖怪か!?いや、妖気計に反応がない。貴様、本当は何者だ!!」

そう言って睦月は銃を撃つ。すさまじい威力を誇る爆発銃弾バーストブリッツは、さっきは確実にダメージを与えた特殊弾。だが、ギバ・ゲルグが出現させたタコの足のような触手の表面が揺らめいて、爆発の衝撃を吸収してしまうため、全く効果がなかった。

「ぐっ、ならば・・・・・・これでどうだ・・・・・・」

そう言って、上着の内ポケットに入っていた小さな機械を取り出すと、銃の後ろのほうに付けてその装置のトリガーを引いた。

《マナエネルギーチャージ》

銃から電子音声すると、銃身に何かのエネルギーが溜まり始めた。

「なんだ、あれは?」

「―――くらえ!」

銃口を向けトリガーを引こうとしたが、それを察知したギバ・ゲルグの触手を槍のように突いた先制攻撃を受けてしまう。

「ぐはっ・・・・・・」

息を吐き、地面に膝を付くと「くそっ」と再び銃を向けようとするが、伸ばしてきた三本の足で後ろの岩壁に押さえ付けられ、動きを封じられてしまった。

「何をするつもりか知らないが、ただの人間でしかない貴様には、勝ち目はない」

残り五本の触手が向かって来る。万事休すかと思ったその時、

「きゃああぁぁぁぁぁっ!!」

それを見ていたサツキが悲鳴を上げ、彼女の体からとてつもなく強い妖気が放たれ始めた。長い黒髪はさらに伸び、刃物のような鋭い形に変化し、袖がめくれた細長く白い肌の両腕に無数の目が現れた。それを見た睦月の脳裏に、ある光景がよぎった。辺り一面を炎に包まれた町の中に立ちつくす何者か。その者の姿は、闇と煙に包まれて見ることができない。

「なんだ・・・・・・やるのか?小娘・・・・・・」

謎の変貌を遂げた少女への質問が、睦月の思考を現実に引き戻した。

「ぐううっ・・・・・・ああああ!!」

叫び声を上げながらサツキはギバ・ゲルグに向かって、妖力を込めた右腕を振り下ろす。残り五本の内の三本で受け止めたが、彼女の攻撃を止められなかった。

「何!?」

最後に残った二本を足して止めようとしたがやはり止めきれず、彼女の拳はギバ・ゲルグの触手を押し込んだ。

「ぐっ・・・・・・このアマ、少しばかり調子に・・・・・・」

「あああああああああっっ!!」

そのまま進み、本体もろとも地面に叩き込んだ。地面を砕き、ものすごい音を響かせた後、離れた地面に着地したサツキは息を激しく切らせる。

「はあっ、はあっ、はあっ・・・・・・」

しばらくすると意識を失い、そのまま地面に倒れてしまった。ギバ・ゲルグが地面に叩き込まれた拍子に開放された睦月は、痛む体を引きずり彼女に駆け寄った。

「おい、どうしたんだ!?おい・・・・・・」

揺さぶってみるが反応はない。すると、土煙の中から呟くような声がした。

「急激な変化に体が対応しきれていない。当然といえば当然か・・・・・・」

すぐさま睦月は左腕でサツキを抱え、ギバ・ゲルグに銃を向ける。さすがに無傷ということはなく触手には傷が付いており、それを掻い潜った拳の一撃を受けた服の腹の部分は破れていた。

「貴様、この子に何をした!?」

「何もしてはいない。ただ、さっきも言ったとおり、急激な妖力の強さの変化にその娘の体が耐えられなかっただけのこと」

「『妖力の強さの急激な変化』だと・・・・・・?」

「そうだ。妖怪を忌み嫌っている、江戸東慶部隊に属する貴様なら、聞いたことはあるだろ。半妖や妖怪化した人間は、普段は妖気の放出を極力押さえ、力を使う時だけに開放する。だが、当初はどちらもその量をうまく調整できず、自らの体に負荷を与える羽目になる」

確かにそう聞いたことがある。後々厄介な存在になる前に、力を使いこなせないうちに対処するのが睦月らのやり方。だが同時に、彼の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。

「ちょっと待て!!なぜ貴様は、俺が江戸東慶部隊に属することを知っている!?」

それを聞いたギバ・ゲルグは、顔をうつむけて自らの手を当てた。

「余計なことを喋ってしまったようだが、貴様には関係あるまい。ここで果てるがいい!!」

睦月を押さえていたために損傷がなかった三本の触手を突き出し、睦月を仕留めようとした。しかし、睦月の方は反撃の準備をとっくに終わらせていた。

「チャージはとっくの昔に終わってるぜ!くらえ!!バーストガン!!」

サツキを抱えていない右腕を突き出し、引き金を引いた。銃からものすごいエネルギーの塊が撃ち出され、ギバ・ゲルグの伸ばした触手を砕きながら、本体に直撃した。

「ぬおおおっ!?」

着弾と共に爆発が起こった。煙が晴れた時には地面に開いた穴だけしかなく、敵がこちらの攻撃をかわしたことを示していた。睦月は辺りを警戒したが、ギバ・ゲルグが再び攻めて来ることはなかった。

「(どうして・・・・・・?)」

一瞬倒したと思ったが、使いこなせていなかったとはいえ妖力を開放した者の攻撃を耐えた。その時点で相手が『ただの人間』という考えは捨てるべきで、同時に状況を楽観的に見てはいけなかった。それなのに、

「(やべっ・・・・・・)」

敵の姿が見えず、攻めても来ない。それに気が緩んだ睦月の体がよろめき地面に倒れそうになるが、銃身に仕込んだ短刀の切っ先で右腕を刺して意識をつなげる。鋭い視線を周りに向けてしばらく警戒していたが、何も起きないことに安心したのか完全に倒れ、意識も闇の中に落ちて行った。




この時点でギバ・ゲルグが攻めて来たのなら、睦月は確実に死んでいた。だが、江戸東慶守護部隊の装備の威力を侮って負傷したギバ・ゲルグは、この山から退却していた。そういう意味では、睦月とサツキは幸運だった。



                      ―※*※―



辺り一面を炎に包まれた小さな町。ひしめきあう木造の建物が燃えている中で、一人立ち尽くしている者がいる。チョッキを着た何人もの男たちが銃を撃ったり、槍を突き出したり、剣を振っていたが、その何者かが腕を振ると剣や槍は砕け、跳ね返った銃弾は銃を持つ男たちの体を貫いた。倒れた男たちの中を歩く何者かに、物陰に隠れていた子供が拾い上げた銃を向ける。静かにこちら側を向いたその者は・・・・・・大勢の命を奪ったにも拘らず、口元に笑みを浮かべた。



                      ―※*※―



「・・・・・・ぁっ・・・・・・!?」

目が覚めた時には、太陽がすでに南中に差しかかっていた。周りには戦いの跡が残っており、睦月自身の体にもまだ少しばかり痛みが残っている。ふと、横をみると側には気を失ったサツキがいる。彼女の体は人間の姿に戻っており、妖気計に反応はなく、さっき感じた妖気も今は感じない。だが、あのような夢を見たばかりか、恐ろしさを感じずにはいられなかった。

「・・・・・・こいつはあいつとは違う・・・・・・あいつとは・・・・・・」

何度か呟いた後、睦月はサツキを抱き上げて山を降りることにした。ふもとにある彼女の村を通るのは控えつつ、車が止めてある村外れを目指した。そんな睦月の頭の中では、今朝からあの戦いが終わるまでの間に見たこと、聞いたこと、感じたことが蘇った。自分たちが助かるために、何も感じずに少女を差し出した村人たち。そいつらの身勝手な主張。さらに妖気計に反応しない、妖怪のような敵。

「(あれはいったい、何者だったんだ・・・・・・)」

そう思いながら歩いていると、いつの間にか山の入り口まで降りて来ていた。このまま真っ直ぐ進むと、あの村を横切ることになってしまい、トラブルは避けられそうになかい。睦月は携帯電話を取り出し、マップナビゲーションサイトにアクセスすると村の周りの地図をダウンロードして、回り道できそうなルートを探した。

「(・・・・・・よし、行けそうだ)」

地図を確認してルートを見つけると、すぐさま移動を開始する。やがて遠回りをして車の停めてある場所に辿り着くと、すぐにサツキを後部座席に乗せ、出発した。睦月にとってもこの村は、居心地の悪い場所となっていた。

「さて・・・・・・平安京都に戻るにしても、どこかに寄らなくては」

睦月の体にはまだ戦いのダメージが残っているので、痛む体では長距離の運転は無理そう。そう判断して、できるだけ近くの町で休憩を取りたいと思っていた。カーナビのスイッチを入れると、画面に辺りの地図が映し出される。

「近くに町があるな。まずはそこによるか・・・・・・」

ハンドルと切り、とりあえず目的地に行くことにした。






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