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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
53/170

幕間2





エジリア大陸の近くに、海を隔てて存在する島国。別の大陸の者は『シャニアク国』と呼んでいる。この国は大きく分けて、大小四つの島にわかれており、北端にある島〈蝦夷えぞ〉に住む者を『エミシ』、南の列島に住む者を〈列島人れっとうびと〉と呼び、その間に位置する、国で一番大きく東西に分かれ広がる二つの島〈本土〉に住む自らを『大和人やまとじん』と名乗っていた。






これらの島を含めて『日ノ本』という一つの国なのだが、本土に住む大和人は自分たちを『神より生まれし者』、他の二つの島に住む者を『人外の者』と言って蔑み、自分たちこそその土地の支配者にふさわしいとし、幾度も攻め入った。『エミシ』『列島人』というのも、本土に住む者の一方的な呼び方に過ぎない。もちろん、蝦夷、南の列島に限らず、本土の神々の介入によりその争いは長期化せず、長くても一ヶ月で本土側の敗戦に終わっていた。






神々はこれで、もう愚かな争いは起こさないだろうと思った。彼らの願うとおり、時の支配者はこの実情を真剣に受け止めていた。






西の都の支配者は今までの行いを『愚行』と悔い改め、人間は元よりそれ以外の種族との共存を目指す。まずは自分たちの身近な存在でありながら追いやっていた『妖怪』との交渉。今までのこともあり難航し続けるも、なんとか実現にこぎつけることができた。だが、その共存はいつ崩れてもおかしくないほど危うく、対処のため陰陽師も存在し続けている。






東の都の支配者は強硬な姿勢を崩さなかった。自分たちの平和を保つため力を求め蓄えたが、敗戦の記憶と犠牲になった人々の悲しみがそれに待ったをかけていた。しかし、『今まで戦に敗北したのは、指導者が神から見放されていたからだ』という声がどこからか上がり、今度は真にこの国の支配者に相応しい者を決めるため争いが起こりだし、西本土内でもその影響を受けた。






さらに東の都は、友好を結ぼうと別の国からはるばる来た使者たちを、国内でのいくさを有利に進めるための武器を手に入れるパイプ役にしたり、なんの罪もないにも拘らずただ気に食わないという理由で殺したりしていた。その為、外国から見てこの国については悪い噂が少なくなかった。これには本土の神々も呆れ、ついには争いを止めることをやめてしまった。






国内には外国からの商人たちの影響により、東西の地域には多くの東洋文化が入り込んでいた。ある時の国を治める指導者は国の全てを東洋文化に改革しようとしたが、それに同調する改革派と反発する保守派に分かれ、大きな争いが生まれた。結果は、外国の最新式武器を輸入した改革派の勝利。立て続けに起きた大きな戦に疲れた武士たちは、主君の命令があっても戦おうとしなかった。だが、起きた戦いのツケが跳ね返る。争いで敗れた者たちは怨念となり、町を変えようとする者たちを次々と殺害し、国の仕組みも文化も改革が中途半端で滞っている状態のまま丸投げされている。






それでも、風習の変化により武士は髪形をチョンマゲにする必要もなくなり、身分制度も消え、江戸東慶の木造住宅家の中には電化製品が溢れている、という奇妙な状態を作っていた。ちなみに、『武士』は身分ではなく刀を携帯している人に授けられる称号のようなものとなっている。






こうして、ゆっくりであるとはいえ、国は変化していき、長い年月が流れていた。


もちろん、それが全てという訳ではない。



                      ―※*※―



『―――異文禄』と書かれた本を持ち主が閉じる。題名のところは黒ずんでいる上に擦り切れていて、なんの異聞禄か読めない。

「本当に、この国に協力者となりえる者がいるのか?」

「わかりません・・・・・・」

マントを身に着けた隻眼の老人に、一人の若者が答える。

「しかし、世界の全てを回ったわけではないが、このような本が出回っているところなど見たことがない」

「当然です。その本の著者は、出版前に自ら命を立ったのですから」

「何?」と、隻眼の老人が眉を寄せる。

「この本を書いた者・・・・・・国の政府にスパイ疑惑をかけられ、弁解を許されない一方的な拷問で心身ともに深刻なダメージを受けた。彼女の故郷の政府が助け出した時には、廃人寸前だったと聞いています」

「すると、自ら命を絶った原因は・・・・・・」

「その後です」と、男性は悲しげな顔をした。

「彼女はスパイなど師弟ない。ただ、真実を知るために取材をしていた。けれども国が外交で不利な立場に立たされてしまったため、同じ国の人たちは彼女の味方にならなかった」

「それが、自ら命を絶った原因か」

「ええ・・・・・・」と男性が頷くと、「惨いな」と老人は呟いた。

「やりきれないのはその後です。彼女が自殺して外交が持ち直し始めると、国は一転して彼女の肩を持つようになった」

「その頃からか・・・・・・シャニアク国が『愚者の国』と呼ばれるようになったのは」

「いえ。そういう名称は昔からありました。ただ、頻度が増えたというか・・・・・・」

「なるほど・・・・・・」と呟くと、隻眼の老人は本に向けていた視線を若者に移す。

「だが、お前はそんな身勝手な人間を守るために命を賭けようとしている。それは、どうしてだ?」

「っ!!・・・・・・どうして、そんなことを聞くのですか?」

「いや。お前が死に場所を求めてるのではないか、と思ってな」

隻眼の老人の指摘に男性の顔が強張る。

「まあ、私の思い違いならいいが・・・・・・」

「・・・・・・・・・失礼します」

丁寧に頭を下げて歩いて行く男性の後ろ姿を見送り、隻眼の老人は小さな声で呟いた。

「命を粗末にするでないぞ、パラケル」



                      ―※*※―



永い時の流れ。人間が寿命を向かえるほど長い年月。その中で国は変わって行った。






他の種族と共存を目指し、指導者たちがその身を削る西本土。その中心となるは葛野愛宕群かどのおたぎぐんに属する古都、平安京都へいあんきょうと。またの名を『たいらのきょうのみや』。現代に蘇った古都は、赴きそのままに新たな姿に変わり続ける。






自らの平穏のため強靭かつ優秀な指導者を選ぶため、覇を競い合う東本土。その中心となるは豊島群とよしまぐんに属する都市、江戸東慶えどとうけい。現代を生き続ける首都は、開発と共に進歩を続けている。






陸地だけでなく、心も離れてしまった二つの本土。かつて同じ志を持った『西』と『東』は袂を分かち、二つの陸をつないでいた橋は『東西の本土をつなぐだけの道』となってしまった。









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