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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第50話 羽ばたく白い翼






セルスの禁断の一言に思考がフリーズしてからしばらく。

「ともかく・・・・・・」

疲れた表情で頭を押さえたセリュードが首を振る。

「力を使いこなせない理由・・・・・・」

「ぶっちゃけ、俺が弱いから」

ディステリアの爆弾発言に、セリュードとセルスがこける。

「いや・・・・・・それはおいといて。何か他に思い当たることは?」

「闇の力を使うから、光の力が反発してる・・・・・・いや、逆かも」

「なら、今なんともないのはなぜだ?使う時だけ作用するなんておかしい」

「何?」

「えっ?」

顔を向ける二人に、「気付いてなかったのか?」とセリュードは目を丸くする。

「戦闘の時だけどこからか湧いてくる、なんてことあるわけないだろう」

「いや。ディステリアの剣はそうだし」

「そりゃ、俺が召喚するから」

「召喚するって、どこから?」

「どっからか」と適当な答えに、セルスは肩透かしを食らったような顔をする。

「(アストラル界なんて、あるかわからない世界から呼び寄せてるなんて、口が裂けても言えるか)」

難しい顔をしてソッポを向いていると、訓練場に誰かが入ってくる。

「結局、その闇の力ってのはどうして使いこなせないんだ」

「クウァル・・・・・・」

セルスが呟くと、「知るか」とディステリアは素っ気無く返す。

「原因がわかってたら、さっさと対応くらいしてる」

「簡単に言うな。俺と同じ原因だったらどうすぐ対応するんだ?」

「?お前と同じ?」

意味がわからずクウァルのほうを向くと、他の二人も向いている。

「俺が、自分自身の怪力を制御できなかったのは、そいつから目を逸らしていたかららしい。拒絶し、見ないふりをして、制することなく放置していた。だから、自由に操るどころか制御もできない」

見つめた自分の手を握り締め、クウァルは続けた。

「特異な力も自分の一部。そう受け入れて初めて、力ってのは制御できるらしい」

「俺も、俺の闇の力を拒絶してるから、反動を受けるって言いたいのか?」

「それはわからない。これは開くまで俺の場合だ」

投げ槍に答えたクウァルに、ディステリアは不満を覚える。

「だが、似てるんだよ、お前。怪力を嫌ってた頃の俺と。こんな力、なければよかったって思ってるんじゃないのか?」

「そんなこと・・・・・・」

言いかけて、ディステリアは黙った。闇属性の魔術は呪殺や精神攻撃に近いものが多いため、ほとんどが禁術に分類され嫌われている。そんな世間を知っているため、ディステリア自身も自分が持った闇属性の力を疎んでいたのか。

「・・・・・・・・・受け入れる、か」

小さく呟くと、天魔剣に闇の力を集中した。

「お、おい・・・・・・」

セリュードが止めようとするが、ディステリアは集中を続ける。逆さにした状態から立てた状態に持ち直し、黒い魔力が揺らめく天魔剣をゆっくり上げる。

「(受け入れる・・・・・・

闇だろうと光だろうと、この力は俺の一部・・・・・・)」

クウァルに言われたことを頭の中で繰り返しながら、ディステリアは集中を続ける。

「(それを受け入れる。心の底から・・・・・・)」

どことなく手応えを感じ、ディステリアは目を開ける。隅に寄せられたターゲットを見据え、天魔剣を振り下ろした。軌跡から黒い刃が生まれ、ターゲットを砕く。手の痛みは、ない。

「やった・・・・・・やった、制御できた!」


ズキッ!!


喜んだ矢先、天魔剣を握ってる手に痛みが走った。思わず離した剣が床に落ちると、痛みに顔を歪めながらグローブを取る。いつも通り、手の平はただれている。

「・・・・・・なんだよ。結局、痛みが遅れただけか・・・・・・」

苦々しく呟くと、セルスはガッカリしたような顔になり、セリュードとクウァルも小さく溜め息をつく。

「大体、さっきの仮説どおりだったら、どうして光属性の技を打った時も反動が来るんだよ」

「知るか」

「お、お前・・・・・・」

挑発気味に返したクウァルにディステリアが眉を動かす。ケンカに入りそうだったのでセルスが止め、セリュードの判断でディステリアの自主連を切り上げさせた。その様子を、入り口の陰から誰かが見ていた。

「・・・・・・ほう。なかなかいい感じじゃないか」

陰に隠れていたクトゥリアは、どことなく満足そうに呟いた。



                      ―※*※―



食堂員から飲料水をもらうと、セリュードはそれをディステリアに差し出す。

「ほら、飲んでろ。体調管理もしっかりやっておかないとな」

「はあ・・・・・・」

受け取った飲み物を口にすると、半分ほど残ったコップをテーブルに置く。

「例の力のことか」

「ええ。早く自在に操れるようにしないと、奴らと戦えるかどうか」

「焦る気持ちはわかるが、それが空回りすると悪循環に陥るぞ」

近くにイスに座ったセリュードの言葉には、どこか重みがあった。経験した者だけが出せる重みが。

「セリュードさんも、焦った時があったんですか?」

「当たり前だ」

「えっ、嘘?」

目を丸くするセルスに、「どんな人間だって必ず体験する」と言う。

「俺も騎士団に入ったばかりの頃は、早く強くなろうと突っ走って、よく先輩に怒られた。妖精の力も超感覚くらいしかなかったから、足を引っ張らないように、ってな」

「それで、今のように強くなったんですか?」

「強くなれたのは、先輩たちが止めてくれたおかげだ」

思わぬ言葉にディステリアは目を丸くしたが、その反応が予想通りだったのかセリュードは呆れた顔をした。

「あのまま突っ走ってたら、俺は確実に潰れていた。訓練は続けるからこそ意味がある。実力ってのは、ゆっくり時間をかけて積み上げるもの。だが、自分の限界を超えた無茶を続けていたら、逆に自分を壊すことになる。今の俺があるのは、先輩たちが気にかけていてくれたおかげでもある」

「じゃあ、密度の濃い訓練って、続ける意味があるんですか?」

「そりゃ、そいつの限界ギリギリのところで調整してるんだろ?訓練を受ける奴の体を壊さないように、な」

しかし、実際にその『密度の濃い訓練』をする人がいるのか、セリュードは知らなかった。それが、今この島にいるということも。

「そうよね。私とクウァルが受けてる訓練も、実際きついし」

「そうか?俺から見ればそれほどでもないが」

眉を寄せるディステリアに、「私たちの苦労も知らないで~~」とセルスが文句を言うと、セリュードが苦笑する。

「確かにディステリアから見れば緩いだろうが、セルスとクウァルは一般人だろ?急に君が受けるような訓練に入ったら、確実に潰れる」

「そっか、私たちに合わせてくれていたんだ・・・・・・」

嬉しく思い感慨に耽っているセルスに、ディステリアは少々呆れた視線を送る。が、ほんの数秒でそれを外してセリュードのほうを向く。

「ところで、セリュード」

「なんだ?人がせっかく持ってきたんだから、ぬるくなる前に飲んでくれないか?」

「ああ」と頷いて残った飲料水を飲み、空のコップを置く。

「・・・・・・って、そうじゃない。光の力を操る方法を教授してくれ」

「妖精の力の属性は大半が光、だったな。だが、俺のはかなり荒いぞ?」

「構わない。コツを掴むきっかけになれれば」

「そうだな。きっかけはどこに転がってるかわからない。申し出を受けよう」

「助かる」とディステリアの表情が明るくなる。

「ただし、それは明日からな。今日はもう、訓練場が閉められてるだろ」

「なっ・・・・・・」

ディステリアは絶句した。ここでは、余分な自主練を押さえるため、決められた時間から訓練場を占められることになっている。それなら別の場所で自主練をすればいいのだが、警備員として巡回中のエンゼルやらに見つかると厄介なので誰もやれない。

「時には、耐えることも大事だ」

「むむ・・・・・・」

落ち着いたセリュードの言葉に、ディステリアは小さく唸った。



                      ―※*※―



夜。自室のベッドの上で、ディステリアは考え事をしていた。

「(受け入れる、か。俺は闇の力を拒絶してるのか?)」

振り返ってみれば、そう思ったことはない。敵に勝つためには、光の力だの闇の力だの、聖なる力だの邪悪な力など拘ってる暇などなかった。

「(だが、気付かないところでは拒んでいたのかもな・・・・・・)」

そんなことを思いながら、目を閉じ眠りについた。



                      ―※*※―



燃え盛る町の中にディステリアは立っていた。周りは瓦礫と血だらけの死体のみ。目を覆いたくなる光景の中に、騒然とした表情で立っていた。

「なんだ、ここは・・・・・・」

〔お前の故郷の最後の姿だ・・・・・・〕

聞こえた声に目を見張る。時々見る夢の中に響く声。ねちっこく、耳障りな声。

「・・・・・・・・・久しぶりだな。できれば、二度と聞きたくなかったが」

〔ディステリアよ。我が軍門に下れ・・・・・・貴様が身を寄せている連中では、今貴様がいる世界も故郷と同じようになる〕

「クトゥリアたちがこの光景を再現するというのか?ふざけるな!確かに胡散臭いが信用はできる!」

〔そうではない。奴らは『もたらす』のではない、『回避できない』のだ。奴らの『今の世界を守る』やり方では、破滅の未来は変えられない〕

「なぜ言い切れる!」

〔ぬるいのだ!今ある『居心地のいい場所』に固執している。そんなやり方ではだめなのだ!破壊しなければならない、新たな世界創造のために〕

「だから、妙な怪物を使って人間を苦しめるのか?」

〔なっ!?〕

「気付かないと思っているのか?テメエは俺のいる場所を否定し、引き込もうとしている。抜けるように言い聞かせるならそう思わなかったが、あんたの言い方は俺を自分の元で戦わせたいように聞こえるぞ」

〔ぐっ・・・・・・〕

姿を見せない声の主が怯むと、指を突き出して叫ぶ。

「俺はテメエの言う通りになんかならない!ついでに言わせてもらえば、クトゥリアさんやあいつが見出した仲間を信じる。俺は、今の道を曲げない!」

〔・・・・・・・・・後悔することになるぞ〕

失望の色に染まった声が響くと、先ほどまで感じていた禍々しい気配が消える。周りはまだ、炎が燃え続けている。

「ここは俺の夢の中・・・・・・いや、精神世界なのか?だったら・・・・・・」

周りを見回し、「出て来いよ!」と声を張り上げる。

「俺が使う光と闇の力の化身!俺の一部って言うなら、俺の精神の中にいるはずだろ!」

声は空しく瓦礫の積もった焼け野原に響くだけ。落ち着いたディステリアは表情を引きつらせる。

「・・・・・・・・・アホくさ。考えてみれば、どうして力の化身なんて別の意思が俺に宿ってんだよ」

きっかけは食堂でのセルスの一言。


『魔術は神様の使いが人間に宿るから使える力なんじゃないのかな?』


心のきれいな人間に神などの超上的存在が力の一部を与え、魔術に似た力を発現させた話は多々ある。だが、だからってその化身が自立した意思や姿を持つなど・・・・・・。

〔失礼なことを考えてるな〕

後ろを振り返ると、鏡に写ったような自分自身が立っていた。

「お前は・・・・・・」

〔なんだ、自分で呼び出しておいてその反応は?〕

「じゃあ、お前が・・・・・・光と闇の力の化身?」

〔違う〕と目の前のディステリアはあっさり否定する。

〔俺はお前の中の、闇の力に対する恐怖心だ〕

「はあっ!?」

〔わかってんだろ?闇は愚か光の力にも、自分が飲み込まれるんじゃないかって不安があるって〕

「それが・・・・・・光と闇の力を使うたび、俺が傷を負う原因」

〔また間違えたな〕と目の前のディステリアは呆れる。

〔傷を負うのは単に使いこなせてないから。だが、力を恐れ、その恐怖を拒んでいる限り、本当に制御はできない〕

「だったら・・・・・」

ディステリアは目の前の自分を受け入れようと進み出る。しかし、目の前の自分は後ろに下がる。

〔俺はお前の鏡だ。お前の心が俺の行動だ〕

「だから、俺はお前を受け入れる!」

〔口ではそう言っても、心の奥深くでは拒んでいる〕

鋭い指摘に、ディステリアは目を見張る。何も言えないでいると、周りの景色が消えてきた。

〔もう目覚めだ・・・・・・〕

「ま、待て!!」

消えていく目の前の自分に手を伸ばすが届かない。

〔貴様が俺を受け入れる日・・・・・・待っていてやるよ・・・・・・〕



                      ―※*※―



「俺は―――!!」

飛び起きたディステリアはベッドの上にいた。窓からは朝日が差し込んでおり、自然と深呼吸した。

「拒んでるのか・・・・・・俺の力を・・・・・・」

信じられない。だが、自分自身のことをどれだけ理解できてるか、自信はない。しばらく下をうつむいていたが、厳しい目つきになり前を見る。

「・・・・・・これ以上、悩んでいられるか」

昨日クウァルに言われたとおり、立ち止まってる時間はない。迷いながらでも進もう。ディステリアはそう心に決めた。



それが己を受け入れる、第一歩となった。








おまけ。

「は~~~っくしゅん!!」

「もう。九月に入って気温も低くなってきたのに、布団もかけずに寝るなんて信じられない」

ベッドの上で顔が赤いディステリアがくしゃみをする。近くにいたセルスは苦い顔をしており、後ろのクウァルは意地悪そうな顔をしていた。

「バカは風邪を引かないというが、俗説は当てにならないものだな」

「どういう意味だ・・・・・・ゴホッ、ゴホッ」

「ちょっと、クウァル。いらない挑発はしない」

「何やってんの、お前ら」

部屋のドアが開くと、入って来たセリュードが目を丸くしている。

「いえ。今日の訓練、ディステリアの調子が悪そうだったんで気になって」

「何かと思ったら、風邪ですってよ」

「・・・・・・・・・体調管理に気をつけるよう言ったはずだが」

「ずみまぜん・・・・・・」

鼻声になったディステリアが謝るが、セリュードはこれ以上とやかく言うつもりはなかった。

「さ。見舞いもいいが、あまり騒がしくしたら患者にも迷惑だろう。俺たちはおいとましよう」

「そうですね。ディステリア、お大事に」

三人が出て行くと、ディステリアはティッシュを出して鼻をかんだ。

「くそ~~~・・・・・・」

ゴミ箱にそれを捨てながら、ひどく情けない気持ちになった。






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