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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第38話 ドヴェルガーたちの苦労






スキールニルから、現在の人間たちの乗り物についての情報をもらったドヴェルガーたち、黒小人族はすぐさま作業にとりかかった。異国では『妖精の職人』と謳われる彼らの腕は確かで、見る見るうちに外装は出来上がっていった。しかしその一方で、彼らを悩ませる問題があり、彼らはこの三日間、それに頭を悩ませていた。

「問題は、動力を何にするか、だ。さすがに今の時代、帆船はないだろう」

同じドヴェルガーのヴェンドルとアウルヴァンディルは「うーん」と、考え込んでいた。

「スキールニルさまのおかげで、外装及び内装に関する資料は集まりました。しかし・・・・・・」

アウルヴァンディルが考え込むと、ヴェンドルも頭を悩ませる。

「人間たちが使っている船の動力なんて、知らないですからね。それに関する資料もない」

他のドヴェルガーたちが作業をしている間、その中心になっている三人は「うーん」と頭を悩ませていた。

「よぉ・・・・・・作業は順調か?」

「は、はい・・・・・・フレイさま」

後ろからしたフレイの声に振り返ったドヴェルガーは、反射的に「うえっ!?」と言ってしまった。

「どうした・・・・・・?フレイさまに対して、『うえっ』は失礼じゃ・・・・・・!?」

後ろを振り向いたヴェンドルも、つられて振り向いたアウルヴァンディルもドヴェルガーの言葉の意味を知った。ちょうど作業を中断した他のドヴェルガーたちも、その姿に目を見開いた。アースガルドでは美形で有名なフレイの頬が、赤く腫れていた。

「・・・・・・どうなされたのですか?いったい・・・・・・」

アウルヴァンディルに聞かれて「どうもこうも・・・・・・」と、苦笑いしながら近くの椅子に座った。

「ちょっとばかり、妹の逆鱗に触れてしまってね・・・・・・このざまだよ・・・・・・」

ヴェンドルたち三人は、「は・・・・・・はあ」と呟いた。フレイは溜め息を付いた後、ほとんど外装ができた船を見上げた。

「いい調子じゃないか。この分なら、今夜にも完成か?」

「まあ・・・・・・外装と内装だけならね」

ドヴェルガーの一人が言うと、そこで三人はフレイに今の段階の問題を全て打ち明けた。すると、フレイは腕を組んで溜め息をついた。

「うんうん、わかる。人間が使っている物って、俺たちが無意識の内にすることができちゃうものもあるんだろ?火を起こしたり、槍を遠くに飛ばしたり。この前、アースガルドに攻め入ってきた恐れ知らずの人間なんて、こんなに小さな矢を飛ばしてきたんだ」

そう言って、親指と人差し指で、その銃弾の大きさを見せる。

「そ・・・・・・そんなことができるのか!?人間が作った物は!?」

驚くアウルヴァンディル。黒小人族は物作りに高い技術力を持った職人魂が凄まじく、別の種族が自分たちより上の技術を持っていると聞くと黙っていられなかった。見る見るうちに全員、嫉妬と悔しさの炎を灯していった。

「まあまあ、落ち着けよ。今は移動手段の船を造るほうが重要だろ。武器に関しては、また今度」

少し背もたれにもたれてそう言うと、一応、黒小人たちは落ち着いたらしい。しばらく休憩すると、船を仕上げるべく、再び作業に移った。

「余計なことかもしれませんが・・・・・・フレイさま、エイルさまの所へ行かれたらどうですか?せっかくのお顔が台無しです」

心配するドヴェルガーに、「いや、これくらい大丈夫だろ。一晩で治るだろうし・・・・・・」とフレイは手を振る。

「しかし・・・・・・フレイアさまは魔術セイズの達人です。もしも、顔が醜く腫れ上がる呪いをかけられているとしたら・・・・・・?」

「い・・・・・・お、脅かすなよ・・・・・・」

「しかし、『念には念を』と言いますし・・・・・・何より、ブリュンヒルドさまのお話によれば、東洋にはそのような話があるみたいですし・・・・・・」

ヴェンドルの言葉に、「いっ・・・・・・?」と固まった。

「・・・・・・その話・・・・・・フレイアは・・・・・・?」

「確か知ってたと思いますよ。フレイアさまが食堂でグチを言っていたので、どうなさったのか聞きますと、『東洋には、平気で女に毒を盛る男がいる。そのせいで顔が醜く腫れれば、恨まれるのは当然だ』とおっしゃってました」

腕を組んでヴェンドルが話す。

「ま・・・・・・まさか・・・・・・フレイアに限って・・・・・・そんな・・・・・・」

「まあ。我々の気のせいなら、それでいいのですが・・・・・・」

「でも、気付かない内にやってたり・・・・・・いや、今、かけていたりして・・・・・・」

意地悪そうにアウルヴァンディルが言うと、とうとうフレイは「ンギャァァァ~!」と言って、黒小人の工房を飛び出した。

「アウルヴァンディル・・・・・・脅かしすぎ・・・・・・」

げんなりしたヴェンドルに注意されて、アウルヴァンディルは「てへっ」と舌を出した。



                      ―※*※―



その翌日。〈ヴァラスキャルヴ〉の主オーディン自らが、工房に様子を見に来た。見ると、船の外装は立派に仕上がっていた。

「フム。さすがはドヴェルガーと黒小人族。いい仕事をしてくれる」

しかし船の側に来ると一変、「なっ!?」と絶句した。広い机に向かって設計図を広げたドヴェルガー、ヴェンドル、アウルヴァンディル。誰もが机に上に体を倒していた。

「・・・・・・これはいったい、何事だ!?」

すると、「ああ、オーディンさま」とドヴェルガーが目をこすりながら、体を起こした。

「ドヴェルガー。いったい、これは・・・・・・?」

「実は、人間界の最新の乗り物についている動力がわからないので、我々が独自に新しい動力を作り出そうと・・・・・・」

「ああ、そのことか」

起き出したヴェンドルとアウルヴァンディルに、オーディンは気にせず伝えた。

「実は、ダーナ神族の方々が動力に関する情報を提供してくれると言ってくれてね。だからそれについて・・・・・・って、どうかしたのか?」

ドヴェルガーたちは唖然となり、やがて気が抜けたように机に倒れた。オーディンは「?」と首を傾げた。

「ダーナの方々が使っている技術って!?」

意表をついて飛び起きたドヴェルガーの頭突きをかわし、オーディンは説明した。

「この技術は、人間界にとって〈オーバーテクノロジー〉つまり『現在の技術力では再現不可能な技術』のことだ。万が一、人間たちの手に落ちても再現は愚か、解析も不可能だろう」

オーディンはそう言って、ティル・ナ・ノーグから届いた資料をテーブルの上に置く。

「だが・・・・・・君たちの技術力なら再現も可能だと思っているのだが、どうかね?」

すぐさま資料を手に取ったドヴェルガーは「これは」と目を見張った。

「これは・・・・・・間違いなく、ダーナの方々が送ってきた資料なのですか?」

すると、「ああ、そのはずだが」と言った。そこに、目を覚ましたヴェンドルとアウルヴァンディルが資料を手に取ると、その二人も目を見張った。

「これは・・・・・・」

「ああ。我々がスキールブラズニルに使っている技術に、瓜二つとも言わないが、とても似ている」

「これは意外だ。あれ?この資料だけ、使われている技術が違う感じがするのだが・・・・・・?」

アウルヴァンディル、ヴェンドル、ドヴェルガーの目に止まったのは、人間界の一部で使われている〈魔科学〉の技術が使われている、魔法素マナで動く回路の設計図だった。

「この回路は・・・・・・」

「資料を提供してくれたダーナ神によると、人間界のごく一部で開発・研究されている物の設計図らしい。その技術の名前は〈魔科学〉と言うらしいのだが、どうかしたのか?」

資料のページをめくって読んでいたドヴェルガーは、やがてあるページに差し掛かった。

「『大気中に存在するマナの結晶を分子レベルから崩壊させ、そこから放出されるエネルギーから出力を得る』・・・・・・?これでは、大気中にマナが還らないのでは・・・・・・?」

「ああ。だから、一部の地域では『マナを消滅させるほど浪費する技術』として、危険視されているんだ。同じ世界の人間だけでなく、マナが命綱である我々、神もね」

「ちょっと待ってください、オーディンさま。まさか、我々にそのマナを浪費する技術を再現しろと!?」

「まさか。私がそんなに、愚かに見えるのか?」

ヴェンドルの言葉にオーディンが聞き返すと、三人は「はい」と頷き、それを見たオーディンはその場にこけた。

「恐れながら、確かオーディンさまは、リンドと言う巨人族の女性に求愛をしたが断られ続け、挙句の果てに肘鉄砲まで食らい、その腹いせに魔術でとりこにされたとか・・・・・・」

アウルヴァンディルに言われ、オーディンがたじろぐ。

「なっ・・・・・・いや・・・・・・アレは。バルドルの敵を討つために、その・・・・・・」

「その出来事が原因で、王位を追われたんでしたよね?」

そこまでヴェンドルに言われるとオーディンは何も言えなくなり、顔を逸らしながらどこからか何枚かの紙を取り出した。

「私なりに、その回路を改良した物だ。お前たちの技術力なら、再現も難しくはあるまい」

「口止め料・・・・・・それとも、ごまかし・・・・・・」

ドヴェルガーが疑いの眼差しを向けると、オーディンは冷や汗を流す。

「ち・・・・・・違う!断じて違うぞ!!・・・・・・とにかく、後は君たちに任せるからな」

それだけ言うと、オーディンはそそくさと工房を後にした。

「やれやれ。それにしてもどうする?」

そう言いつつ資料を取ったヴェンドルは、目を見張った。その紙に書かれていた図面は、〈魔科学〉で作られた回路を、マナを消滅させるのではなく循環させる仕組みが描かれていた。

「・・・・・・さすがはオーディンさま。知恵の泉の水を飲まれただけのことはある・・・・・・」

ヴェンドルはそう言うとすぐさま別の紙に、その図面を元に自分たちならではの工夫を加えた図面を描き始めた。



                      ―※*※―



それから大体二週間後。ついに、現在の人間界に合わせた、新型のスキールブラズニルが完成した。

「ここまで・・・・・・ここまで長かった・・・・・・」

「おつかれ・・・・・・みんな、本当にお疲れさま」

よほど苦労したのだろう。ヴェンドルとアウルヴァンディル、その他の黒小人たちは、互いに肩を組み合って泣いていた。

「(そこまで大げさじゃ・・・・・・)」

ドヴェルガーが呆れていると、そこにオーディンが来たので振り向いた。

「あっ・・・・・・オーディンさま」

工房の入り口にはオーディンの他に、荷物を持ったジークフリート、ブリュンヒルド、グリームヒルド、さらにフレイとフレイアがいた。

「どうやら、完成したみたいだな」

「はい。ここまで苦労しましたが、彼らががんばってくれたおかげです」

「何を言うか・・・・・・お前もいろいろ、設計図を描くのに苦労しただろ」

ヴェンドルにドヴェルガーは首を振る。

「俺なんか・・・・・・体より頭を動かしていただけだ。みんなの苦労に比べたら・・・・・・」

「そう謙遜するな。お前だってやり遂げたんだ。胸を張れ」

オーディンの言葉にしばらく黙っていたが、やがて「はい」と、しっかり返事をした。

「オーディンさま。船が完成した所に、俺たちを連れてきたということは・・・・・・」

「察しがいいな。君たちにはこの船に乗ってもらう」

「また、私たちが実験台になれと!?」

「なんの実験台だ。黒小人たちの技術力を信じろ。彼らの失敗作なんて、一万個に一つしかない」

「この船に搭載されている動力が、その通算、一万個目ですが・・・・・・?」

ドヴェルガーの言葉に一瞬、その場が沈黙に包まれる。

「冗談ですよ。これは通算、三百十七万十五個目。失敗続きの五個目ですよ」

「つまり、完成までに四個も失敗したってことか?」

不安げにジークフリートが聞く。

「失敗・・・・・・とは言えないが、改良の余地あり、と判断された」

それを聞いて「なるほど」と頷くと、「納得してもらえたか?」とオーディンが聞いてきた。

「俺たちだって、ただで失敗したりはしない。失敗から新たな改良点を見つけ出し、それを生かす。俺たちはそうやって、少しずつ『完成』を目指していくんだ」

「なるほど。じゃあこれは、その完成に近い物、ということか」

ジークフリートが見上げると、ドヴェルガーの一人がオーディンを見上げる。

「さあ。まだ改良の余地があるかもしれないから、技術者と言うことで俺たちの内、何人かが付いて行くことになった。よろしいですよね、オーディンさま?」

「ん?ああ、構わんよ。どの道、修理することになれば、君たちに頼むしかないからね」

ドヴェルガーは「ありがとうございます」と頭を下げた。

「では・・・・・・ジークフリート、ブリュヒルド、グリームヒルド。以下三名は、この新たなスキールブラズニルに乗船し、世界各国を回ってもらいたい」

「また情報集めですか!?」とジークフリートが聞く。

「いや、そうではない。世界中に点在する『協力者』たちを迎えに行くため、あと我々が戦っている敵と戦うため、この船に乗ってもらいたい」

「では、ついに・・・・・・」とブリュンヒルドが呟く。

「奴らの動きと存在は、まだ特定の者にしか知られていない。だが幸いなことに、奴らの存在を知る人間のほとんどが、我々に協力してくれると言う。奴らの力は強大で、彼ら一人一人では敵わないだろうから、共に戦う必要がある」

「なるほど。俺たちも彼らと協力をしてほしいと言うことか」とジークフリートが、笑みを浮かべて拳を握る。

「そういうことだ。集合場所である〈名も無き島〉へは私も行くことになっている。だから、私も同行させてもらう」

そう言うと、マントを翻し、船に向かって歩き出す。ふと、グリームヒルドが呟く。

「ところで・・・・・・その船に名前はあるのですか・・・・・・?」

「スキールブラズニル〈エスペランザ〉。エスペランザとは古代語で『希望』という意味。まさに今の君たちにぴったりだ」

ヴェンドルの命名に、オーディンはフッと笑った。

「では、行こうか。未来の『希望』を守るために!!」



                      ―※*※―



工房の入り口から見て、垂直の位置に立っている壁についている、大きな扉が開いた。そこから、左右それぞれ八つの車輪が付いた車に乗った、巨大な船が出てきた。車に乗った船はしばらく坂を転がっていたが、やがてアースガルドの陸上を滑るように進みだした。ポケットサイズから全ての神々を乗せられるほどの巨大船になるスキールブラズニルと、水陸両用の万能船ウェーブ・スウィーパーの技術を融合させたその船は、ミッドガルドに通じる虹の橋ビフロストがあるヒミンビョルグに進路を向けた。

「ミッドガルドの海につないでくれ」

ヒミンビョルグの側を通りかかった時、オーディンが甲板からヘイムダルに向かって叫んだ。

「了解した。しばらく待ってくれ」

ヘイムダルが答えてから、しばらくエスペランザが止まっていると「待たせたな」と声がした。

「とりあえず、ティル・ナ・ノーグって所に、できるだけ近い海域につなげた。後の航路は任せるぞ」

「わかった。恩に切る」

オーディンが言うとヘイムダルが微笑む。やがて、虹の橋ビフレストを通りながらエスペランザは人間界の海に降り立った。そこから、短時間で世界を回る、彼らの短い旅が始まった。






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