表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想戦記  作者: 竜影
第1章
4/170

第3話 妖精騒動(前編)

しばらく妖精たちが登場します。あとがきで解説が欲しければお知らせください。





イグリースを旅立ってから、数日後。


ディステリアとクトゥリアは、とある丘の近くに差しかかっていた。

「そろそろ、君が持っている力を制御する訓練でもしようか」

「賛成。そろそろ、この痛みがうっとうしく思えてきました・・・・・・」

苦笑いしながら、右腕に手を添える。まだ強く物を握れない右手は、動かそうとするとまだ少し痛みをともなった。

「あれから数日。かなり戦ったな」

「おかげで・・・・・・剣の腕だけは上がっている気はします・・・・・・」

その言葉が気に触ったのか、クトゥリアは顔をしかめた。

「な・・・・・・なんですか・・・・・・?」

「言うじゃないか。なら、今の君の腕がいかほどのものか、私直々に試そうではないか」

ゆらりと揺れるようにディステリアのほうを向くと、クトゥリアは腰の袋から短剣を抜いた。

「えっ・・・・・・ちょっと待ってください・・・・・・」

「戦いに―――待ったはない!!」

そう叫ぶなり、高速の刃がディステリアに襲いかかる。ディステリアはとっさに、どこかから自らの剣を召喚して防いだ。

「―――反射神経はいいじゃないか。あとはどうだ!?」

一端、後ろに着地すると、連続で短剣を振る。好戦的な笑みを浮かべるクトゥリアに対しディステリアのほうはと言うと、刃の軌道を見切って剣で防ぐので精一杯だった。

「どうした!?そんなのじゃ、俺には勝てないぞ!」

「あなたに勝てるなどという自惚れは持っていない。だが、せめてあなたに近づくくらいなら・・・・・・」

「冷静だな。だが、そう思っていては、お前は真の意味で強くなれない!!」


ガッ!


力を込めた一撃に、「うっ」と剣を飛ばされた。ディステリアの剣は宙を舞い、草原の中に刺さった。急いで拾いに行こうとするも、クトゥリアが喉元に短剣の刃を向けていた。

「―――どうだ、負けた感想は・・・・・・?」

「・・・・・・命のやり取りで負ければ・・・・・・死にますよ」

不機嫌そうな顔のディステリアに、クトゥリアが笑う。

「・・・・・・だが、お前は生きている。今の感想は・・・・・・?」

ボソボソした声に、「・・・・・・聞こえないぞ」とわざとらしく聞く。

「―――そりゃあ・・・・・・負けたら、悔しいでしょ・・・・・・」

「―――よろしい」

笑顔になって短剣をしまうと、「そうだ」と言った。

「お前の持つその剣、世間に出回っている剣と違うな」

「そ・・・・・・そうですか?」

よく見てみると、確かに郊外でクルキドと戦う時まで自分が使っていた剣と比べて、形は違っていた。

「今まで使ったことのない―――だが、どういうわけか、俺の手に合うんだよ・・・・・・」

不思議そうに、自らの剣を見つめる。

「・・・・・・どうせなら、名前をつけないか?」

「名前?」と首を傾げたディステリアに、「ああ、お前だけの名前」とクトゥリアが言う。

「―――そうだな。天使のような純白の鳥の翼と、悪魔のような漆黒の翼からなっているから・・・・・・『天魔剣』って言うのはどうだ?」

「『天魔剣』・・・・・・天使と悪魔の名を、半分ずつ与えられた剣・・・・・・確かに―――」

名付けられたばかりの剣を、ディステリアは空へ掲げる。

「―――天使と悪魔の翼を、合わせ持っている・・・・・・」

その時、遠くのほうから犬の鳴き声が聞こえて来た。

「あの吼え声は・・・・・・やばい!早く宿を探さなきゃ!!」

慌てるクトゥリアに、「どうしたんだ?」とディステリアが聞く。

「あの吼え声はおそらく―――」

説明している間に、「ワン!」と二回目の鳴き声が聞こえた。

「とにかく、急いで宿を探さなくちゃ。急いで―――」

そこに、「こっちだ」と誰かの声がした。二人が声の主を探していると、

「こっちだ!」

また聞こえた。声の主を見つけると、赤い帽子とマントを身につけ、長靴を履いたぶち模様の猫が二本足で立っていた。

「君は、まさか―――」

クトゥリアの声をさえぎり、「それは後で、早く」と猫が駆け出す。二人が全速力で追いかけ、廃墟に差しかかると三回目の犬の吼え声が聞こえた。猫が後ろを振り向いたが、何事もなかったことを知るとホッと胸をなで下ろした。

「危なかったですね・・・・・・。後ちょっと遅かったら・・・・・・」

「遅かったら、どうなってたんだ?」

息も絶え絶えに聞くディステリアに、「八つ裂きにされていた」と青い顔のクトゥリアが答える。

「えっ・・・・・・?」

「その人の言うとおりです。私はケットシー。猫の妖精です」

「あの吼え声はクーシーという妖精犬のものだ。三回吼える前に宿を見つけなければ、野にいる旅人はあっという間に八つ裂きにされる」

「マジかよ・・・・・・」と、状況を理解したディステリアも青い顔になった。

「とはいえ、今回は結構、危ないかもしれない。ここは間違っても宿とはいえない・・・・・・」

周りを見渡すケットシーに、「大丈夫・・・・・・だと思う」とディステリアが言う。

「そうだな。もしもクーシーが襲いかかってきたら、それはそれで訓練になる」

「おい・・・・・・」と睨むディステリアに、「もしもだ」とクトゥリアが付け加える。

「とにかく、私が様子を見てきます」

そう言ってケットシーが去ると、「・・・・・・野宿、だな」とクトゥリアが溜め息をついた。

「・・・・・・いったい、何日連続だよ・・・・・・」

この数日間。二人はまともな宿に泊まっていなかった。というのも、謎の怪物クルキドを倒したり、襲いかかってくる魔物を倒したりと、結構、手間取っていた。

「(それもこれも・・・・・・俺が未熟なせいか・・・・・・)」

苦々しげな表情で自らの右手を見るディステリアに、「焦るなよ・・・・・・」と、クトゥリアが静かに言った。

「焦ったって、なんの得にもならないぞ。とにかく、旅をするに当たってお前には野宿に慣れてもらわないと、な・・・・・・」

「・・・・・・もしかして、そのためにわざと?」

「とんでもない。ただ、町に辿り着けないのを利用しているだけさ・・・・・・」

そう笑うと、クトゥリアは雨風をしのげそうな廃墟を探し始めた。

「―――ああ、あった、あった。ここがいいだろう」

ちょうど手ごろな廃墟を見つけた時、「おーい、クトゥリア~」と、遠くでディステリアの声がした。

「向こうに面白そうなものを見つけたぞ~」

「・・・・・・面白そうなもの?」

クトゥリアは、好奇心より嫌な予感を感じながら、ディステリアの声のするほうに駆けて行く。すると、その先に巨大な城が現れた。

「ここなら、雨風は確実にしのげるんじゃないか?」

「確かに。ただし、外見だけが残っていても・・・・・・」

門についている鉄の扉を押し開け、中に入る。

「―――無意味なんだけど・・・・・・ふむ、これは使えそうだな・・・・・・」

「だろ?」とディステリアが言った後、

「・・・・・・奴が出てきたら修行にもなるし・・・・・・」

と呟いた。だが、ディステリアには「奴」という程度しか聞こえなかった。

「よし。今日はここに泊まろう」

「よっしゃ」とガッツポーズを握ったディステリア。だが、その様子を上の手すりから見下ろす影があった。



                         ―※*※―



誰もいなくなった城の中は、どこもボロボロに寂れていた。床に敷かれた絨毯も、壁のかけてある絵も、壁に張ってある壁紙もボロボロだった。

「(見るに耐えんな・・・・・・。だが、今はそんなことも言っていられんか・・・・・・)」

場内を散策して辿り着いた一室には、立派だが上から垂れる布がボロボロに破れた、大きなベッドがある。中に入ってよく見ると、シーツはまだ綺麗なので、寒さをしのげそうだった。

「(使えそうだな。とりあえず、クトゥリアに報告を・・・・・・)」

部屋から出ようと後ろを振り向いた途端、「う・・・・・・うーん」と女性の声がする。ハッと後ろを振り返ると、ボロボロなベッドの中で、唯一、シーツがずれ、黒髪の女性が体を起こした。

「(えっ・・・・・・使ってた人がいたのか・・・・・・!?)」

寝ぼけ眼でこちらを向くと、少し微笑んだ。一瞬、彼女の顔を見てぼんやりしたディステリアだが、すぐハッとなって頭を振った。

「すまない。ここは君の部屋だったか。すぐ、出て行くから・・・・・・」

「待って・・・・・・あなた、誰・・・・・・?」

「た・・・・・・旅の者だよ。勝手に上がってすまない。ここは、君の城かい?」

「いいえ。私も旅の途中。野宿の代わりにここに泊まっているの・・・・・・」

「そうか。すまなかった」

部屋を後にしようとしたディステリアを、「ちょっと待って」と女性が止める。何かと思い再び女性の方を向くと、服がはだけた姿の女性が、ベッドの上で四つん這いになってこっちに迫ってきていた。

「ね~ぇ、お姉さんと気持ちいいこと・・・・・・しない?」

人差し指を口に当て、色っぽく迫る女性に危険を感じたディステリアは、反射的に彼女を蹴飛ばした。宙で回転したその女性は、一回、床に手を着いた後、再び中に待って足から着地する。

「案外やるじゃない、ボウヤ」

色っぽく笑う女性に、ディステリアは寒気を感じた。

「(・・・・・・なんだ・・・・・・こいつ・・・・・・)」

「おーい、使えそうな部屋は見つかったか?」

ディステリアが警戒を強めたその時、クトゥリアが入ってきた。二人の視線を集めたクトゥリアは、ディステリアと服がはだけた女性を交互に見比べた。

「―――邪魔して悪かった。続けてくれ」

「ちょっと待て~!!」

出て行こうとしたクトゥリアに、ディステリアが叫ぶと、彼は閉めかけたドアを再び開けた。

「―――冗談だ。しかし、なぜここにサキュバスがいる?確か棲んでいるのは、ムルグラント国だったはずだが・・・・・・」

「なんだよ、サキュバスって」

「男性の夢に現れて精気を吸い取る、女夢魔だ」

「なるほどな」と、素手で身構えるディステリアに、サキュバスが笑う。

「私に素手で挑む気?止めときなさい―――」

それをさえぎり、「違うぜ」と呟くと、ディステリアは何もない空間に手をかざす。手の下に青い光の魔法陣が現れ、その中から黒い刀身と白い柄を持つ、翼を模した剣が出てきた。

「(・・・・・・間違いない。あれは〈アストラル〉。精神と肉体の狭間にある空間から呼び寄せている・・・・・・)」

「なっ・・・・・・どこから・・・・・・」

驚くサキュバス。だが、理解する暇を与えず、ディステリアは彼女に切りかかった。轟音が響き、廊下を貫通して部屋の壁に大きな穴を開ける。

「おいおい、城を壊すなよ・・・・・・」

クトゥリアがそう呟いた時、ディステリアとサキュバスは城に入ってすぐの広間に飛び出していた。

「よし、ここなら思いっきり―――」

「それはこっちも同じよ!!」

強気なサキュバスの声にその方を向くと、彼女は背中からコウモリの翼を生やし、両腕の爪を全て伸ばしていた。

「サキュバスの戦闘形態バトルフォーム!!」

「色気だけだとおもったら、大間違いなんだよ!!」

サキュバスの右腕の爪が、ディステリアに迫る。剣の刃で防御するものの、受け切れなかった何本かが彼の肩を掠めた。

「くっ・・・・・・」

その傷から滴り落ちた血が、さらなる敵を呼び寄せる。

「・・・・・・血の・・・・・・匂い・・・・・・」

一方。空中のサキュバスは、ディステリアの上の位置を取り、そこから急降下をかける。

「安心しろ。殺しはしない。ぼんやりとだけ意識残して―――」

急降下の勢いを攻撃に乗せ、連続で爪をディステリアにぶつける。

「―――しゃぶり尽くしてやるよ!」

「―――そんなの・・・・・・願い下げだ!!」

攻撃の合間に見えた隙を突き、ディステリアは思い切り剣を振る。刃は空を切ったものの、その剣速は衝撃波となり、サキュバスの体に直撃した。

「がっ・・・・・・!!」

バランスを崩し、床に向かって落ちだしたサキュバス。倒したと思ったディステリアだが、そこに襲いかかる何者かの影を見て、反射的にサキュバスを庇い、剣で何者かの攻撃を防いだ。

「・・・・・・っ!?」

突然の自分の行動に戸惑いの色を隠せないディステリアは、飛びかかってきた何者か、血のように赤い帽子を被った老人を見据える。

「っ!・・・・・・おおッ!」


ガッ!


剣を振り弾いたのは、赤く血塗られた老人の爪だった。サキュバスほど長くはないが、太く鋭い円錐形で、威力は高そうに思えた。

「・・・・・・なんなんだ、次から次へと・・・・・・」

床に落下したサキュバス。すぐ後に着地したディステリア。同時に着地した謎の老人に、ディステリアは剣を構えて警戒するも、飛びかかることはできなかった。

「(・・・・・・何者だ・・・・・・)」

「――――レッドキャップ・・・・・・」

突然、聞こえて来た声にディステリアは驚き、思わず声のしたほうを向いてしまう。

「―――争いが耐えなかった呪われた古城や、戦場や殺戮現場の跡に棲み、そこに行き暮れた旅人が仕方無しに止まると、肩に担いだ斧で打ち殺し、帽子を新しい血で染め直すという」

エントランスから続く階段の先には、腕を組んで手すりに座ったクトゥリアの姿があった。

「―――人間の力では対抗できないが、十字架を向けられると一本の歯を残して退散する・・・・・・らしいのだが、斧を使ってないところを見ると、必ずしも定説どおりではないようだ」

「―――博識だな、小僧。斧というのは・・・・・・」

そう呟いたかと思うと、レッドキャップは背中に手を回し、どこからか取り出した斧を構える。

「なっ・・・・・・あいつも、どこに武器を・・・・・・」

「おそらく、お前と同じだ」

クトゥリアの言葉に、「えっ・・・・・・?」と戸惑う。

「そいつと戦うのも修行の内。ただし、殺すなよ。戦闘不能にしろ」

クトゥリアが言うと同時に、レッドキャップが襲いかかった。

「そんな――――無茶ですよ!こんな相手を殺さずに―――」

そう言っている間にも、襲いかかって来たレッドキャップが、斧を振って猛ラッシュをかける。対するディステリアは、それを剣で防ぐので精一杯。

「ここは彼の家なんだろうし。もしそうだとしたら、勝手に上がりこんだ俺たちや、そこのサキュバスに責任があるわけだし・・・・・・」

「ええい、わかったよ!!」

バックステップで後ろに下がったディステリアに、レッドキャップが斧を振り上げて襲いかかる。だが、ディステリアはそこを狙って、剣の刃先を床に向けた。

「ライジング・ルピナス!!」

天井に向けて上る、幾本もの光の柱。だがディステリアは軌道をやや外側に調整しており、うまい具合にレッドキャップの肩を掠めた。

「ッ!?」

意外な攻撃に驚くレッドキャップ。だが、その隙を突いてディステリアが飛び上がった。

「どぉぉりゃああああああっ!!!!」

渾身の力を込めた思い切りの蹴り。レッドキャップの顔にクリンヒットし、床に叩きつけられたレッドキャップは気を失っていた。

「ふう・・・・・・見たか!!」

ガッツポーズをとるディステリア。床に倒れたままそれを見ていたサキュバスは、そのまま床に倒れ意識を失った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ