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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第37話 調査隊帰還






ディステリアとクトゥリアとの邂逅、さらにラグシェ国での一戦から二週間。その間、ジークフリートたちはミッドガルド中を回った。グリームヒルドの案内もあり、現在の情勢に疎い三人も、ほとんど迷うことなく散策できた。そして、ある宿の一室での会話。

「さて、あれからもう二週間か」

スキールニルが遠くを見るように言う。

「全く。いったい、アースガルドに帰るのはいつですか?」

「まあまあ、そう目くじらを立てなさんな、ブリュンヒルド。今のミッドガルドからできるだけ、全世界の情勢を知って来いと、オーディンさまの命令もあるのだ」

「いつの間に・・・・・・?」とジークフリートが呟いたちょうどその時、ハッと気付いたようにグリームヒルドが聞いた。

「そういえば、ジークたちは携帯電話とか持ってる?」

「けい・・・・・・たい・・・・・・?なんだ?それは・・・・・・」

ああ、やっぱりとでも言うように、頭に手を当てると、「確か、連絡道具の一種か」とスキールニルが言った。

「そういえば、時々、板のような物を顔につけて独り言を言ってる人を見るが、その人が持ってるのが・・・・・・?」

町での光景を思い出すジークフリート。

「携帯電話よ・・・・・・やっぱり、そういう反応を見せるのね・・・・・・」

呆れたような言葉に、ブリュンヒルドはバカにされたような感じがした。

「連絡ぐらい、私たちヴァルキリーが引き受けるわよ」

「だが、スタミナが切れることは切れるだろ?」と、ジークフリートが言う。

「はい。働きすぎると結構、疲れます」

突然したその声に、全員が窓のほうを見る。開けられた窓には一羽の白い鳥が止まっていたが、部屋の中に入ると光に包まれ、一人の女性の姿になると、「ランドグリース!?」とブリュンヒルドは驚きに目を見張った。

「スキールニルさま、ジークフリートさま、お姉さま。オーディンさまより帰還命令が出ています」

「!・・・・・・そうか。そろそろ、来る頃だろうと思ってた」

スキールニルは組んだ腕をとき、椅子から立ち上がった。

「この二週間で、ラグシェ国とジェプト国で起こっている謎の事件。おそらく・・・・・・」

「おまえらが会ったネクロって奴、もしくはデモス・ゼルガンクとかいう組織が、関与していると見て間違いないだろう」

ジークフリートとスキールニルが話す。

「私がまだあの屋敷にいた頃に知ったのですが、エリウという国でも戦争があったらしいです。半年ほど前からアルスターと言う国で起こっていた二つの王族の争いが大きくなり、そこに妖精族が治める二つの国が介入してさらに大きくなった、と聞いています」

「それで・・・・・・その戦争は・・・・・・?」

ブリュンヒルドが聞くが、「さあ。そこまでは・・・・・・」と沈んだ声で言うと、ランドグリースが補足した。

「ダーナ神族の方々が介入して鎮圧したそうです。もちろん、できるだけ死者を出さずに」

「そうか・・・・・・」とジークフリートが呟く。

「ともかく、詳しいことはさすがにミッドガルドではわからない。すぐにでも戻ろう」

スキールニルの進言に、全員が「わかった」と言うと、宿の支払いを済ませて、ビフロストに向かって夜の街を駆けて行った。ところが町の外れまで来ると、思わぬ迎えが来ていた。



                      ―※*※―



「待ってたわよ」

そこにはなんと、二匹の猫が引く馬車で、馬を操る騎手が座る席には一人の美女が座っていた。

「ふ・・・・・・フレイアさま!?」

「どうして、フレイアさまがここに!?」

ブリュンヒルドとジークフリートが、驚いて彼女を指差す。

「そんなに驚くことはないでしょう?あなたたちがこの町にいると連絡を受けて、わざわざ来てやったんだから。さ、早く乗って」

「連絡って・・・・・・いったい、どうやって?」とスキールニルが戸惑う。アースガルドへの帰還命令を伝えに来たランドグリースはまだここにいるので、フレイアが知る手立てはないはずだった。しかし、

「これよ」

と見せられた物を見て、グリームヒルドが「あっ!!」と叫んだ。

「携帯電話!!あなたたちも持っていたんじゃない!!」

「ええっ!?そんなバカな!?」とスキールニルが声を上げる。

「いったい、どうして・・・・・・!?」

ブリュンヒルドも唖然となる。訳もわからない三人は、とりあえずフレイアに言われたとおり馬車に乗った。猫が引っ張って馬車が動き出すと、フレイアが説明を始めた。

「これはね、ある旅行者がアースガルドに来た時に、一緒に持ってきた物なの。『俺たちの所で重宝しているから、お裾分け』ってね」

「いったい、誰なんですか?」とジークフリートが訊ねる。

「さあ、そこまでは知らないわ。でも、ヘイムダルが通すくらいだから、悪い人じゃないんじゃない?」

そうだろうな、とは思ったものの、スキールニルは納得ができなかった。

「それよりあなたたち。ちゃんと情報は持って帰ってくれたんでしょうね?」

「ああ。この世界で事件を起こしている奴について、いろいろとわかった。この国以外にも結構、手を出し・・・・・・」

ジークフリートの声をさえぎり、「そっちじゃないわ」と言った。

「ミッドガルドで人間たちが使ってる物、特に乗り物についてよ」

意外な言葉に、みんなは黙り込んだ。



                      ―※*※―



ミッドガルドに戻ったスキールニル、ジークフリート、ブリュンヒルドは、すぐさまオーディンにことのあらましを報告した。

「そうか。ことの次第はわかった。エリウ国のほうでも、何者かが戦争の糸を裏で引いていたということか」

「それで・・・・・・少し腑に落ちないことが・・・・・・」

ジークフリートの問いに、「なんだ?」とオーディンが椅子の横に肘を付いて聞いた。

「ミッドガルドで人間が使っている物、特に乗り物について調べろ、っていったいどういうことですか?」

フレイアのセリフそのままで聞くと、「ああ、そのことか」と手を叩いた。

「実は、人間の世界に合わせた新しいスキールブラズニルを造らせようと思っていたのだが、いかんせん、どういう風に作ったらいいか全く知らない。そこで、おまえたちがミッドガルドに行くと言うから、ついでに調べさせようと・・・・・・」

「聞いていませんよ!」とブリュンヒルドが声を上げる。

「当然だ。スキールニルにこっそり命じたことだ。悪く思うな」

「ほほう。では、俺たちが命がけで敵の正体を調べている間、スキールニルはたかが乗り物について調べていたと言うのか・・・・・・?」

怒りを抑えたジークフリートに対し、「たかがとはなんだ!」とスキールニルが突っかかった。

「こっちだって、いろいろと大変だったんだぞ!乗り物なんて、時代によって中身も外見も違う。最新の物を見つけるのに、どれだけ苦労したか・・・・・・」

涙を拭う真似をした後、ジークフリートと睨み合うスキールニルだが、誰もなだめようともせず放って置いた。

「しかし、なぜ最新の人間界の乗り物について、調べる必要が?」

「うむ。最近の人間界では、我らが使う船は何かと目立つ。外見だけならまだしも、何かの事情で中に人を乗せることになれば、それが、我々が使う物だとわかってしまう」

「何か問題でも?」とブリュンヒルドが問う。

「今の人間界ミッドガルドを周って来たおまえたちなら、すでに知っていると思うが、今の人間界では情報が伝わりやすい。もし我々の船に乗せた人間が、『この前、えらく古い造りの船に乗せてもらった』とか言ってしまえば、それが我々の使う物だと言うことがわかってしまう。敵の一部は人間社会に紛れ込んでいるらしいから、そこから知られる可能性は高い」

「なるほど。だから、今の人間界に合わせた物を造ろうとしてるんですね。でも、造れるんですか?」

「ドヴェルガーたちが総動員で取り掛かっても、さすがに時間がかかるだろう。スキールニル。できるだけ今夜中にも、情報をまとめてドヴェルガーたちに渡してもらいたい」

すると、睨み合っていたスキールニルが「大丈夫ですよ」とオーディンのほうを向き、どこからか一冊のノートを取り出した。

「アースガルドに帰るまでに、めぼしい情報はまとめておきました。すぐにでも渡せます」

「おお、さすがだ。では早速、頼むぞ」

スキールニルは「了解しました」と、〈ヴァラスキャルヴ〉を出て行った。

「お主らも、ご苦労であった。時が来るまで、休んでいるといい」

「オーディンさま。グリームヒルドは・・・・・・?」

「グリームヒルド?ここに入ってきたのは、お主ら二人とスキールニルだけだったはずだが・・・・・・?」

そう言われて辺りを見渡したが、どこにもグリームヒルドの姿はなかった。その訳は。



                      ―※*※―



「キャ~~~!!」

戦いの野〈フォールクヴァンク〉にあるフレイアの館、〈セスルームニル〉。その中から、フレイアの悲鳴が聞こえた。しかしその悲鳴に恐怖の色はなく、どっちかというと何かに喜んでいる感じだった。

「か~わいい~♪」

館の中にはフレイアと、胸元が開いた奇麗で大胆なドレスを着た、戸惑い顔のグリームヒルドがいた。

「あ・・・・・・あの・・・・・・」

「あ~、でも・・・・・・黄色っていうのはちょっと駄目か。せっかくの金髪なんだし、それが目立つ色を・・・・・・」

「あ・・・・・・あの~・・・・・・髪の色は一応、クリーム色なんですけど・・・・・・」

自分の髪を指で絡ませながら、グリームヒルドが呟く。

「そう?黄色に近いから黒のドレスを・・・・・・いやいや、これはスタイルに自身のある人じゃないと・・・・・・グリームヒルドさんって、スタイルにはどれくらい自身があるの?」

「ス・・・・・・スタイルって・・・・・・そんな、もったいないです!私、人間界では悪女って言われているんですよ!」

「『言われてる』からって、本質がそうとは限らないんじゃないの?」

そう言われて、何も言えずに黙り込む。

「うーん、やっぱ服を着てるとわからないか。よし。グリームヒルドさん、一端その服脱いで」

「はい。でも・・・・・・次はどの服を・・・・・・?」

「まだ決めてないわ。だから一回、裸になって」

しばらく唖然となるグリームヒルド。だがその後、「えええっ!?」と叫ぶ。

「スタイルを見るには、裸になったほうが速いわ。そういうことだから、早く脱いで」

グリームヒルドは「え・・・・・・あ・・・・・・その・・・・・・」と、しどろもどろしていた。

「まあまあ、そう照れずに。今は男がいないから、見られる心配もないわ。だから早く♪」

そう言って服に手をかけると、グリームヒルドが「えっ?ちょ・・・・・・」と言っている間にも脱がせようとする。ちょうどその時、

「さっきの悲鳴はなんだ!?フレイア、何かあったのか!?」

と部屋のドアが開いた。突然、ノックも無しに入って来た兄フレイに、その場にいた二人は固まった。そのわずか数秒後。

「出て行け~!!!」」

フレイアが部屋にあるありとあらゆる物を投げつけて、兄を追い払った。ドアが閉められると、頭に手を当てて「なんだ?」と首を傾げる。散らかった部屋の中には、顔を紅くして息を切らせたフレイアと、脱ぎかけた服で胸元を隠しているグリームヒルドがいた。

「グリームヒルドさん・・・・・・?」

「は・・・・・・はい・・・・・・!?」と、グリームヒルドは反射的に直立する。

「私が甘かったわ。今ここにはお兄さまがいるから、こんなことが起きる可能性はあった。全く、私としたことが・・・・・・」

頭に手を当てて溜め息をつくフレイアに、グリームヒルドの緊張が解ける。

「一緒にお風呂に入りましょう?あそこなら、男が入ることはないし・・・・・・恥ずかしくないでしょ?」

「え・・・・・・ええ、まあ・・・・・・」と答えを聞いて「よし、決定」と言うと、タオルやら着替えやらを拾い始めた。

「私の服でよければ、着せてあげるけど」

「そ・・・・・・そんな!?もったいないです」とグリームヒルドは慌てる。

「まあまあ。そんなこと、気にせずに行こう?」

「う・・・・・・うん」

笑いかけるフレイアに答えると、二人は風呂場に行くためにドアを開けた。すると突如、部屋に投げた物が一まとめになって飛び込んできた。

「どわっ!」

叫んでグリームヒルドを引っ張ると、投げ込まれた物は部屋の床に散らばった。

「物を投げるんじゃない!!危ないじゃないか。全く・・・・・・」

そう言って立ち去るフレイを、二人は見送っていた。






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