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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第33話 激闘!二人の戦神






一方、夕暮れの町では、アポリュオンの軍勢とクウァルとクトゥリアのタッグ、大勢対二人の戦いが繰り広げられていた。

「グワァ!」

町のあちこちでは、もうすでに大勢の兵士が積み上げられており、その中央にはボロボロで黒く汚れた服を着たクウァルがいる。彼が対応できなかった兵士はクトゥリアが倒しており、パルティオンの町に攻め込んだ大勢の軍隊はクウァルとクトゥリアに苦戦していた。

「どうした?もう終わりか?」

「バカな。たかが人間に、これほどの力が・・・・・・」

まだ兵が残っているとはいえ、アポリュオンは只者でない目の前の人間に驚きを隠せなかった。

「来ないなら・・・・・・こちらから行くぞ!!」

クウァルは剣を下段に構え、前に出た。普通の人より動きは速かったが、アポリュオンは剣の一撃を紙一重でかわした。

「人間にしては・・・・・・速いな」

「いつまで余裕でいられるかな!?」

重心を低くしたまま剣を振り下ろし、振り上げ、また振り下ろし。その動きには無駄がなかった。

「(驚いたな。この剣捌き、素人のものではない。それに・・・・・・この剣・・・・・・)」

その時、アポリュオンの姿勢が、足を伸ばしたまっすぐな形になった。そこにクウァルが剣をまっすぐ振り下ろす。この姿勢では、高い確率でかわせない。ガッ!!と、鈍い音が周りに響き渡る。

「入った!」

だが剣は、姿勢を低くしたアポリュオンに受け止められていた。

「この剣・・・・・・間違いない」

小さく呟いた後、手から衝撃波を出してクウァルを押しのけた。

「ぐっ・・・・・・」

「その剣、『魔装神具』だな?」

起き上がるクウァルに、指差したアポリュオンが言った言葉。その意味を知らないクウァルが、それをすぐ理解できるはずがなかった。

「まそう・・・・・・しんぐ・・・・・・?なんだ、それは?」

眉を寄せるクウァルを見て、「クククク」と小さく笑った。

「そうか。貴様はその剣の、真の力を知らないのか?」

懐から短刀を取り出し、「教えてやるよ」と続けた。

「同じ力を持った剣で、な」

短刀の刃が黒い光に包まれていき、次の瞬間、その光が長い腕を持った大蛇の形になり、クウァルに襲いかかった。

「何!?」

叫びながらも飛んでかわしたが、突然、蛇は長い腕でクウァルを捕らえ、そのまま地面に叩き付けた。

「ぐわあぁっ!」

叩きつけられた地面から上がる土煙を見て、まるでせせら笑うかの表情を見せる。

「どうだ?これがこの剣『魔邪刃』の力だ」

「まじゃぱ・・・・・・だと・・・・・・?」

剣を支えにして体を起こしたクウァルに、蛇は鎌に変化させた腕を振り下ろしてきた。反射的に剣で防御したが、まるで直撃したかのような衝撃を体に受けた。

「ぐっ・・・・・・何・・・・・・?」

「バカめ。真の力を解放していない状態で、『魔神装具』の攻撃を防げるとでも思ったか?」

よろめき、地面に片膝を突くと、黒い蛇がトドメを刺そうと腕を振り上げた。体の痛みで動けないクウァルに爪が振り下ろされようとしたその時、どこからか飛んで来た炎が黒い蛇を吹き飛ばした。

「何!?」

「炎の刃!『破魔炎刃』か!?」

アポリュオンが叫ぶと、吹き飛ばされた黒い蛇とクウァルの間に、ギリシャ兵の鎧を身にまとい、燃える剣を持った青年が降り立った。

「よう、面白いことやってんじゃねぇか」

間髪入れずに、アポリュオンがその青年に向かって放った黒い光弾は、彼が被っている兜を砕いた。だが、青年はアポリュオンを見据えて一瞬で近づき、剣を振り下ろした。とっさにかわしたアポリュオンだが、斬撃は彼でなく黒い蛇を叩き切った。

「ちっ、外したか」

アポリュオンが「ちっ・・・・・・」と舌打ちした後、両手や指先をいろいろな形に合わせると、先ほどと似たような蛇が現れ、青年に襲い掛かった。だが、青年は空中で不安定な姿勢であるにも拘らずそれをかわし、再びアポリュオンに近づいて、連続で剣を振った。それらをかわし、離れた場所に着地すると、その青年を見据えた。

「貴様は・・・・・・」

「名乗ってなかったか。俺の名は・・・・・・アレス」

「貴様・・・・・・さっきの技は・・・・・・」

「さっきの技?さっきの技はな・・・・・・」と、アレスは炎がともった剣をゆっくりと振り上げた。

「『火炎牙剣プロクス・クシポス』だ」

剣を振り下ろすと共に、炎が斬撃となって放たれた。



―※*※―



その頃。

「いたか!?」

慌てた様子で聞いたアポロンに、「いえ、おりません」と不和の女神―――エリスが答えた。

「どこにいるの?父上も、アテナも・・・・・・アレス兄さまも」

オリュンポスから避難した神々はジェプト国へ渡る手筈だったが、あと少しで到着と言うところで敵の襲撃を受けてしまい、ラグシェ国とジェプト国のほぼ中間に当たる、テルカ島のほうへ引き返したのだった。

「父上やアテナは、確か最後だったな。だがアレスは・・・・・・?」

二人が考えていると、弓を持ったアルテミスが飛び込んで来た。

「お兄さま、エリス。また来たわ!!」

すぐ後に、獣のような体をした二本足の魔物が3体、前方から現れた。

「ちっ、テルカに来てから6回目だ」

「私たちの行き先がばれているの!?」

「密告者が・・・・・・?いや、それは考えられない。いなくなった者は!?」

矢を発射しながらアルテミスが、「アレスとアフロディーテたち」と言った。

「そうか・・・・・・ん?アフロディーテ・・・・・・?」

頭に何かが引っかかり、アポロンは矢を構える手を止めた。そこに、後ろの草むらから敵の兵士が飛びかかる。

「お兄さま!後ろ!!」

エリスが「他にもいたか!?」と叫び、アポロンが気付いた頃には、敵の爪が目前まで迫っており・・・・・・。



―※*※―



ドドッ!ドドッ!ドンッ!ドドォォン!!


街の中に連続で爆発が起こる。爆発の先には、左肩を押さえたアポリュオンがいた。

「どうした?俺相手に、手も足も出ないか?」

アポリュオンの遥か前には、勝ち誇った笑みのアレスがいた。だが、笑っているのはアポリュオンも同じだった。

「な~に、俺が手を出さなくても、自滅してくれそうなのでね」

「へっ、追い詰められている奴が、何言ってんだよ!!」

再び爆発。その爆発を険しい表情で見つめている者がいた。

「(よりによってアレスが来るとは。このままでは町の被害だけでなく、犠牲者が出かねん)」

なぜか、アレスの性質をよく知っているクウァルは彼の元へ行こうとしたが、体の痛みに立ち上がれなかった。

「おい、大丈夫か!?」

「俺のことはいい。それより、あいつらを・・・・・・アレスを止めてくれ」

「わかった。くそっ、手が足りないな・・・・・・」

眉を寄せて苦々しく呟くと、クトゥリアは爆音がするほうに駆けて行った。

「クソ。こんな時、セルスがいてくれたら・・・・・・」

顔をうつむけていた時、「呼んだ?」とセルスの声がした。顔を上げたクウァルが見たのは、膝に手を乗せてかがむセルスと、その後ろに立っているアテナとディステリアだった。

「セルス・・・・・・本当に・・・・・・セルスなのか・・・・・・?」

驚くクウァルに、セルスはムッとする。

「失礼ね。私が幽霊だと思ってる訳?」

セルスが膨れっ面でそっぽを向くと、「悪かった」とクウァルが謝った。

「だが・・・・・・本当にセルスなのか?あんな化け物相手に・・・・・・」

「アテナとディステリアがいたから大丈夫だったの。そんなこと言うなら、傷を治してあげない」

当のアテナは街で起こる爆発のほうを見ていた。

「あの炎?まさか・・・・・・」

「ああ。アレスが来て、あのアポリュオンとかいう奴と戦ってる」

クウァルの言葉を聞き、アテナは顔が青くなった。

「まずい!セルス、早く彼の傷を治してやってくれ」

爆発のほうへ駆け出したアテナを見送り、セルスは首を傾げた。

「どうしたの?あんなに慌てて・・・・・・」

「アレスは、アテナと同じ戦神だ」

「そっか、仲間が危ないと思ったのね?」

セルスが倒れているクウァルの側にしゃがむ。彼女の両手の平から放たれる薄緑色の回復魔法の光が、クウァルの傷をふさいでいく。

「いや、違う。アテナが戦術や戦法を重視なのに対して、アレスは血なまぐさい戦いを好む。周りのことなど、目に入るまい」

「おいおい!それじゃあ、街への被害が広がるんじゃないのか!?」

「ああ。まったく、神様ってのは本当に始末が悪い」

傷が治り立ち上がるクウァルに、セルスが「そんな!」と反論する。

「神様が全部あんなのとは限らないよ!全ての神様のこと知らないくせに、勝手なことを言わないで!!」

その反論にクウァルは、「・・・・・・そう・・・・・・だな・・・・・・」と呟いた。

「俺たちは・・・・・・世界の全てを知らない。なのに・・・・・・知っているつもりでいる。それは彼らにとって・・・・・・」

再び爆発が起こる。それを見上げたディステリアが駆け出す。クウァルも傷の痛みが癒えたため、立ち上がる。

「行くぞ!」

駆け出したクウァルを、セルスが追い駆ける。

「(そうだ。何も知らない・・・・・・もしも無知が罪なのだとしたら・・・・・・人間は・・・・・・・)」



―※*※―



「オラオラ~、どうした~」

反撃もせず、ただ逃げ回っているアポリュオンに対し、アレスは猛攻とも言うべき追撃をかけていた。

「ちっ、ちょこまかと。なら、最大火力で焼き尽くしてやらぁ!!」

剣にありったけの炎の力を込めると、大きな炎の刃が現れた。アレスがそれを放とうとした時、横から槍が割り込んで来た。

「ぬおっ!?」

身をかわすと、その後にアテナが現れた。

「アレス!ここら一帯を焼け野原にするつもりか!?」

「なっ、アテナ!別にいいだろう?人間の町なんだから!」

「よくない!それでは敵の思うつぼだ!」

二人が言い争っている間、着地したアポリュオンは静かに立ち上がった。

「残念。あと少しというところで、邪魔が入りましたか」

アポリュオンの言葉に「何!?」とアレスが睨みつける。

「恨み、妬み、憎しみ等からなるマイナスエネルギー。それらは我らにとって、兵を作り出す上で必要不可欠なもの。小さな町一つでも、その量は決して少なくないからなぁ」

ククク、と笑うアポリュオンに「なんだとぉ!?」とアレスが叫ぶ。

「じゃあ、てめえは俺に大技を使わせるために、わざと逃げ回ったってのか!?」

「その通りだ。短気な奴ほど少しでも挑発すれば、すぐに切れて大技を使うだろうからな」

アレスは「クッソ~・・・・・・」と悔しがり、剣を持つ腕に力が入る。それをアテナが抑える。

「落ち着け」

「なんだと!?」

「今、挑発に乗ったら、それこそ思う壺だ。ここは一端退いて・・・・・・」

「ふざけるな。このまま引き下がれるかよ。大体、テルカで足止めを食らってるっていうのに、ノコノコ帰れるか!」

「テルカで足止め?どういうことだ!?」

そう言って駆け出したアレスに聞いたが、そのまま突っ込んで行った。

「知るかよ!ただ、ジェプトへ向かっている時、敵の待ち伏せを食らったんだ!そんで俺たちは、テルカへ後戻りしなきゃならなかったんだ」

剣を振るアレスを見て、「どういうことだ」と呟くアテナは、すぐに敵に行動を読まれていたことに気付いた。

「お前らは、前にオリュンポスにテュポーンが攻め入った時もジェプト国へ避難した。同じようなことが起これば、また同じ場所に渡ると踏んで、ジェプト国の近くに兵を展開していたのさ。もっとも、ジェプト国では他の用事もあったが、な」

「別の用事・・・・・・だと?」とアテナの表情が厳しくなる。

「んなこたぁ、どうでもいい。ここでてめぇを倒しゃぁ・・・・・・」

「悪いが・・・・・・そういう訳にも行かんのだよ!!」

剣を受け止めた左腕を振り、アレスを弾く。彼が着地した隙にアポリュオンはその場から離れ、追撃をかけるために腕に魔力を溜めるが、そこに「甘い!!」とアテナが槍で追撃をかける。

「何!?」

「戦いは常に相手の先の先を読む。私はアレスのようには行かないぞ!」

「ちょっと待て!それじゃぁまるで、俺が後先考えないアホみたいじゃないか!」

「ホントのことだろう!」

アテナにビシッと言われて、アレスはその場にこけそうになった。そんな彼を無視して、アテナはアポリュオンに向かって連続で槍を突き出した。だが、どれも直撃には至らず、ほとんどが完全に防がれていた。

「ちっ、さすがはアテナだ。ある意味、アレスよりかは強敵だ」

「んだと、コラァ!」

「アレス、挑発に乗るな!」

叫ぶアレスにアテナが注意すると、その隙にアポリュオンが後ろに下がった。すぐに気付いたアテナが前に出ようとしたが、ほぼ同時に彼女の横を人影が駆け抜けて行った。

「はああああぁぁぁぁぁっ!!!」

クウァルが振り下ろされた剣はギリギリでかわされ、空を切り、地面を砕いた。だがアポリュオンが逃げた先には、無数の光の粒が瞬いていた。

「これは・・・・・・!!」

「かませ!!セルス!!」

目を見張ったアポリュオンは慌ててその場から離れようとするが、粒と粒の間を光の線が繋げていった。

「プリズン・クリュスタロス!!」

セルスの叫び声と共に、粒を繋ぐ光はやがて、氷を形成していった。

「空気中の水分と結合して・・・・・・そんなバカな!」

光はやがてプリズムのように透き通った氷の檻を形成し、アポリュオンを中に閉じ込めた。





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