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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第31話 決着と襲撃






考え始めてからどれだけ経っただろうか。地上ではもう日が昇っていたが、地下世界であるクトニアンでは、そういったことはわからない。ふと周りを見てみるとネイトはいなかったので、マフデトは神殿の中に入って行った。入り口を抜けてすぐに、ヒエログリフが一面に彫られた壁にぶつかった。その壁は、一つのヒエログリフごとに溝が入って分けられており、マフデトだけでなく、この国にいるほとんどの神々は〈守りの神殿〉の仕掛けを知っている。その仕掛けどおりにヒエログリフを操作すると、壁の中央部が上がり、奥への通路が現れた。

「(神殿の中は一本道。だから迷うなんてありえないし、ネイトが外に出ようとしているのならすれ違う)」

だが、奥の部屋に着くまでマフデトは、ネイトはおろか誰とも会わなかった。何かあったのかと思いつつ、アーマンがいる部屋のドアを開けた。すると、そこにいたのはアーマンだけで、一緒にいるはずのアヌビスはいなかった。

「(えっ・・・・・・どうして・・・・・・)」

一瞬、戸惑ったが、脳裏にネイトの言葉がよぎった。


『どうした?アーマンを連れ出す、絶好の機会だろ?』


そっと近づいたマフデトは、まずアーマンに話しかけた。

「アーマン・・・・・・起きて、アーマン・・・・・・」

すると、アーマンはゆっくりと目を開け、頭を上げた。

「アーマン。私と一緒に・・・・・・来てくれる・・・・・・?」

拒絶されることを覚悟で聞いたが、アーマンはゆっくりと頭を縦に振った。

「ほんとに・・・・・・本当にいいの・・・・・・?」

再び、アーマンがゆっくりと頭を振る。マフデトは泣きそうになるのをグッと我慢して、なぜか付いている首輪に結ばれている紐を持って、アーマンを連れ出した。誰ともすれ違うことなく神殿の外に出たマフデトは、遠くを見つめた。

「(待っていて・・・・・・セシャト)」

マフデトは覚悟を決めて、アーマンを連れて約束の場所に向かって行った。だがその様子を物陰から見ている複数の影がいたことを、彼女は知らなかった。



                      ―※*※―



数分後。アーマンが消えたことはすぐオシリスの元に伝わった。

「アーマンが連れ出された!?」

「はい。神殿の守りについていたマフデトの姿も見えません」

「そうか・・・・・・」

さほど慌てる様子がないオシリスに、誰も戸惑わない。むしろ、誰もが平然としている。

「・・・・・・・・・失敗は許されないぞ?」

「わかっています」



                      ―※*※―



「えっと・・・・・・来てみたのは良いんだけど・・・・・・」

セシャトを縛った綱を持ったディザと、マフデトに脅しをかけたカルマは、待ち合わせの場所に来て立ち尽くしていた。

「約束の時間さえわからないのにこんな所で待っていて・・・・・・いいんだろうか?」

ディザが不機嫌に「知るか!!」と答えた時、アーマンを連れてマフデトがやって来た。

「お・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・」

戸惑うセシャトをよそに、「来たか・・・・・・」とディザが呟く。カルマたちから放れた場所で、マフデトとアーマンが止まった。

「さあ。アーマンを渡してもらおうか」

カルマの呼びかけに、「・・・・・・わかった」とマフデトが答える。

「お姉ちゃん。ダメ!!」

「黙ってろ!」

ディザが首を絞める腕に力を入れ、「うっ」とセシャトが唸る。

「やめろ!!アーマンを連れてきたら、妹には手を出さないって・・・・・・」

「ああ、そう言った。ディザ、その手の力を緩めろ。逃げられない程度にね」

カルマに普通と真逆のことを言われ、「フン」と呟くと、セシャトの首を絞める腕を緩めた。その途端にセシャトが咳き込む。

「契約っていうのは、少しでも違反すると相手に足元を掬われる。よ~く、覚えていてよ」

「なるほど。お前が契約とか約束をバカに守るのには、そういう訳があったのか?」

「っそ。見直したか?」

ディザは鼻で笑うと、「全く」と言った。そんなことは気にせず、カルマはマフデトのほうを向いた。

「『せ~の』で交換する。いいな、余計なことはするなよ。せ~の・・・・・・」

アーマンがディザたちのほうに進みだすと、ディザもセシャトを押し出した。と思ったら、身体を縛っていた縄を引っ張ったので、彼女は「きゃっ!!」と地面に倒れた。

「セシャト!!貴様、約束が違うぞ!!」

「フン。人質というのは、簡単には手放さないものだよ。そうだろ?」

「だ~か~ら、余計なことをすると足元を・・・・・・」

カルマが注意しかけたその時、アーマンがセシャトを引っ張っている綱を噛み切った。縄を引っ張る腕に力を入れていたディザは、それを支える縄がセシャトの胴体から切り離されたために、反動で後ろに倒れる。その隙を逃がさず、物陰に隠れていたネイトが飛び出し、

「皆の者、かかれ~!!」

と号令をかけると、あたりに隠れていた神々が一斉に飛び出し、あっという間にカルマとディザを包囲した。武器を向けた神々に囲まれ、ディザとカルマは舌打ちをする。

「・・・・・・ほ~ら見ろ。お前が余計なことをするから、足元を掬われたじゃねぇか」

「フン。こういう時は、普通一人で来させるもんだろ。その条件を付けなかった、お前が悪い」

「お前な!上官に向かって、お前とはなんだ。大体『一人で来い』って条件付けても、後をつけられたら同じだろ!!」

周りを囲まれているにも拘らず言い争っているディザとカルマに、その場にいる神々は呆れるしかなかった。一方セシャトのほうは、姉に抱きしめられ、駆けつけた兄トトが縄をほどいていた。

「お姉ちゃん・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・ごめんなさい。私が捕まったせいで・・・・・・」

「気にしないで。あなたが無事で良かったわ」とマフデトが慰める。

「そうそう。この場・・・・・・いや、この国にいる神々は全員が気にしてないよ」

「でも・・・・・・!いろいろ言われたんじゃないの!?私が人質にされたせいで、何か傷つくことを・・・・・・」

「そのような者は、この国にはおらん」

泣きそうな顔のセシャトに、慰めるネイトが歩いてきた。

「例えいたとしても、お前と同じ・・・・・・いや、それ以上に酷かったかもな」

「そうだな。人質にされた奴のことを悪く言うような奴は、とんでもなく弱いからな。いろんな意味で」

トトが皮肉を言うと、縛られたカルマが絡んできた。

「そうそう。そういう奴らは、とんでもなくザコ・・・・・・」

「だ~ま~れ~!」

縛られて手足が使えないディザが、カルマに頭突きをした。ゴンッという音が響き渡り、トトたちが振り向くと、二人は頭突きの衝撃で気絶していた。

「あ~あ。こいつら、バカじゃないの?」

トトが溜め息をついて場が和んだその時、殺気を感じたネイトが即座に後ろを向いた。その直後に、無数の黒い火の玉が辺りに降り注ぎ、辺りに土煙が舞った。「なんだ!?」と回りを見渡すと、いつの間にか縛っていたディザとカルマの姿が消えていた。

「―――しまった!!」

アヌビスがすぐに辺りを探すと、縛り付けた二人を抱えてクトニアンの空を飛んでいる何者かを見つけた。

「―――逃がすか!!」

ネイトを始め、現場にいた神々がすぐに攻撃を放つが、背中に翼が生えた何者かは空中で全て避けてみせた。

「全く、仮にもあなた方二人は俺よりも実力は上なんですから、こんなドジは踏まないでいただきたい」

「何、言ってんの?どうせお前も、ラグシェ国でドジってこっちに飛ばされてきたくちだろ」

的を射られ、「ぐっ」と唸るデーモ。そうしている間も、ネイトたちはデーモたちに攻撃を続けている。

「くそっ、当たらない」

「うるさいが、カルマたちが手こずってるんだ。俺には到底敵わない」

「そうそう。だから、さっさと逃げてください」

「了解」

軽口を叩くカルマにデーモは静かに答え、大きく翼を羽ばたかせると、突風と共にデーモたちは姿を消した。遠くのほうで見つけると、すぐさま同じようなスピードでネイトたちも追うが、途中で煙幕を巻かれて見失ってしまった。

「くそっ」

煙幕が晴れた頃には、追いかける相手はもう影も形もなくなっていた。



                      ―※*※―



「・・・・・・で、どうよ?収穫は?」

空中を移動しながらジェプト国の国境を越えた辺りで、デーモは運んでいる二人に聞いた。

「上々!!っと、言いたいのだけど、本当は半分って言ったところだな・・・・・・」

カルマが答えた後、縛られている腕を何とか引き抜いて、ディザは手に持っている黒い塊を見せた。

「混沌の深淵、ヌンから引き出した、罪深き死者の魂だ。アポピスに食われるところだったが、なんとか追い出せていい具合に囮になってくれた。結果オーライだ」

それを見たデーモは、満足げな顔を見せた。

「捕まった割には上出来だ。さすがはカルマだな」

「は~は~。褒めるなよ!!」

カルマは思わず自由だった足でデーモを蹴り上げてしまい、それにより「わっ」とカルマを縛っている綱を離してしまった。当然、カルマの身体は落ち、当の本人は

「あ~れ~・・・・・・」

と言いながら、まっすぐ海中に落ちて行った。ドッボ~ン、という水音を聞き、残ったデーモとディザは呆れ顔になった。

「なぜ、お前がそれを持っているか・・・・・・わかったよ・・・・・・」

「そうか・・・・・・ついでにあいつ・・・・・・置いて行くか・・・・・・?」

「・・・・・・賛成・・・・・・」とデーモが言った時、

「こ~ら~!!!置・い・て・・・・・・行くな~!!」

足を高速で動かして水面を駆け抜けるカルマに、二人は知らん顔をして陸に着くまでそのままで置いておいた。



                      ―※*※―



その頃のパルティオン。午後三時ごろを過ぎても、アテナはまだセルスの家にいた。本当なら、傷が癒え次第すぐにでも仲間と合流すべきだっただろうが、出来なかった。そのことは、アテナ自身も気にしていた。

「(いずれここにも奴らが来る。そうなったら、この町の人々を巻き込むことになる)」

暗い顔で考え込んでいるアテネの前に、セルスは一杯のお茶を出した。小さなティーカップからは、いい匂いがしていた。

「これは?」

「ハーブティーだよ。ハーブの香りには心を落ち着かせる効果があると言われているの」

カップを手に取り、「ふ~ん」と呟いた後、一口飲んでみた。

「美味しい」

微笑んだアテナを見て、「よかった」と言うセルス。その時、家の外が騒がしくなった。

「何かしら?」

「あのクトゥリアという男とディステリアという男、何かしでかしたのか?」

「まさか・・・・・・」

アテナとセルスが窓の外を見ると、家の屋根に上っている男、アポリュオンが手から光の玉を発射して、街を破壊していた。

「な、なんなのよ。あれ!」

セルスが叫んだ時、バタッ、と音がすると、アテナが外に駆け出していた。

「あ、アテナ!?」

セルスは叫んでいたが、アテナには聞こえていなかった。やがて、屋根の上の男が、駆け出してきた彼女を見つけた。

「こんな所にいたのですか。アテナ」

「お前は・・・・・・何者だ!?」

「これを連れているとあれば、おわかりになるでしょう」

アポリュオンが指を鳴らすと、街の近くにテュポニウスが出現した。ただし、オリュンポスの聖域で戦った時と違い、体中傷だらけの継ぎはぎだらけだった。

「奴らの仲間か!?」

「ええ。ある目的のためこの街を襲わせてもらおうと思ったのですが、ちょうどいい。あなたを倒させてもらう」

「いいだろう。付いて来い!」

アテナが叫ぶと森のほうへ駆けて行き、テュポニウスはそれを追って行った。

「大変。私たちも応援に行かなきゃ」

だが、騒ぎを聞き付けた町の人々は、ざわざわと騒いでいるだけだった。その中には、クウァルもいた。

「だが、あいつがいたせいで、あの怪物が来たのだろう?」

「そうだよ。居なくなってくれて助かったよ」

信じられない言葉を聞いて、セルスはショックを隠せなかった。

「あなたたち・・・・・・最低。見損なったわ。もういい、わたし一人で行く」

「待て、セルス」

クウァルが呼び止めるが、それも聞かずに家から武器を持ち出したセルスの前に、複数の兵士が立ちはだかった。町の市民は我先にと逃げ出した。

「援護に行かれては困るのですよ。街の者には、愚かなままで逝ってもらいたいのでね」

「なんですって!?」とセルスが睨む。

「傲慢で自分勝手で心の弱い人間ほど、我らの助けになる。かかれ!!」

兵士がセルスに襲いかかろうとした時、耳を突く金属音がして、向かって来た兵士が跳ね飛ばされた。セルスが恐る恐る目を開けると、汚れがかった白い布の帯に巻かれ、鞘に収まったままの剣を振ったクウァルがいた。

「・・・・・・行けよ」

クウァルの言葉に、「え・・・・・・?」とセルスは戸惑った。

「行け・・・・・・そして・・・・・・お前の正しいと思うことを・・・・・・貫いて来い」

そう言われ、「・・・・・・うん!」と強く頷いたセルスは、立ちはだかる兵士の間をすり抜けてアテナの元に急いだ。

「逃がすな!!」

後を追おうとした兵士たちの前に、剣の鞘を掴んだクウァルが立ちはだかる。

「お前らの相手は・・・・・・俺だ」

静かな声でそう言いながら、クウァルは巻かれた布を少し解いて、剣を抜いた。

「はいはい、無理は禁物。俺も付き合うぜ」

剣を抜いて横に立ったクトゥリアに、「男と付き合う趣味はない」とクウァルは突き放す。

「・・・・・・・・・時と状況を考えましょう」

苦い顔をしたクトゥリアからクウァルが視線を外すと、大勢の兵士が襲いかかって来た。

「ところで、あんたの連れは?」

「増援」






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