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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第25話 忍び寄る異変






会議から二週間。神々の神殿の中では、ゼウスがアースガルドでの出来事について聞いていた誰かが会話している。

「そうか、分かった。だが、一つだけ府に落ちないことがある」

ゼウスの問いに、「なんでしょうか?」と来訪者は聞いてくる。

「君たちは、今回の争いも介入しないつもりかね?」

「さあ。あなた方は介入するのですか?ゼウス殿?」

「質問を質問で返すのは、人間がよくやる失礼な行為ではないか?違いますかな・・・・・・」

顔をあげて、医者が着る白衣を身にまとった、来訪者を見る。

「天界の・・・・・・ラファエル殿」

医療の天使は、「『さあ』とお答えになったはずですが?」と、両腕を肩の辺りに上げ聞き返す。

「あなたこそ、神、人間問わずに浮気してらっしゃるらしいではないですか。『大神』の名と、奥様が泣かれますよ」

ラファエルはメガネを指で上げながら、嫌味とも取れることを言う。

「ほっといてもらおうか。しかし、次の敵の狙いはなんなのだろうな」

「ティル・ナ・ノーグの方々の話によると、彼らは人間や妖精の不の感情により生み出された。さらに神さえも操ることができる、と言う恐ろしい能力の持ち主らしい」

「真に恐ろしいな。しかし、なぜ我ら神を操ることができるのだ?」

「さあ、どうしてでしょう」と言ったが、実はラファエルにはその理由の見当は付いていた。

「とにかく、我々は我々で何か対策をしておきますよ。いかに人数が多いと言っても、天界を守るだけで手一杯ですから。何しろ、エンゼルは数が多く伝令役にはもってこいなので貸してくれ、と言われましてね」

「オーディン殿か」とゼウスが聞く。

「自分たちにも、ワルキューレと言う便利連絡役がいると言うのに」

やれやれ、と言わんばかりに溜め息をつき、額に指を当てた。

「とにかく。あなたも操られないように、注意しておいてください」

帰り際に言ったその一言で、ゼウスはラファエルが謎の敵が神を操れる理由に、見当がついていることに気付いた。



                      ―※*※―



同日の夜。ナイルの恩恵を受けた国。外国では〈ジェプト国〉と呼ばれていたが、地元では王朝と共にこれといった名称もなく、数百年も栄えていた。しかし、ある日その王が死に、彼に仕えた家来たちがその死を悼み、悲しんでいた。その時、どこからか突風が吹いてきて、王の遺体を消し去った。家来たちは騒然となって王の遺体を捜したが、空の玉座の上に王の遺体が浮かんでいるのを見つけた。

「お前たちに、最後の命を伝える」

家来たちは騒然となった。医師からは死亡が確認された王の遺体が喋っているのだ。そして王は、自分の墓を、それも町の人を使って作るように命じてきた。無論、家臣は反対した。

「聞き入れられない場合は、ナイル川を氾濫させ、この国を破滅させる」

こう脅されては、言うことを聞かない訳には、いかず家臣たちは腹が煮えたぎるのを我慢し、頭を下げた。

「・・・・・・御意・・・・・・」

「しかと伝えたぞ」

一陣の風が吹くと、王の遺体は忽然と姿を消した。



                      ―※*※―



オリュンポス山のふもとに、ディステリアとクトゥリアが来ていた。

「さて、ここで問題だ。弟子入りする人物を探し当てた俺たちが、いまだ旅を続けている理由は何か?」

「知りませんよ。大方、暇つぶしじゃないんですか?」

不満そうに答えたディステリアに、クトゥリアは眉を寄せて呆れる。

「これから格上の奴が何人もいる連中を相手に、暇つぶしをする余裕があるのか?」

「なら、修行か?」と聞いたディステリアに、「当然」と返した。

「弱くならないためには、基礎を繰り返して実力を維持する。強くなるためには、実力が同等か上の者と戦えばいい」

「アウグスって人の都合がつくまで、基礎を繰り返すということですか?」

「半分正解だ。基礎を維持してたら弱くなることはないが、強くなることもない」

「じゃあ、俺が外したもう半分は?」

眉を寄せて聞くディステリアに、クトゥリアは上を見上げる。崖に阻まれて見えないが、その視線の先にあろうものはオリュンポス山の山頂。

「・・・・・・さて、問題はどうやって都合をつけるか、だ」

「なんの話だ?」

聞いてきたディステリアに、「なんでもない」と顔を向けて誤魔化す。

「しばらくはここに滞在して基礎を固める」

「おいおい、正気か?ここには強い魔力が流れているのが俺でもわかる。そんなところに長居したら、ここを司ってる神やら妖精やらが文句を言って来るんじゃ・・・・・・」

懸念を口に出すディステリアに、「そうか、その手があったか」とクトゥリアは目を丸くする。

「よし、テントを張ろう」

「ちょ、聞いてなかったんですか!?」

文句を言いそうになったがこれ以上言っても無駄だと悟り、ディステリアは溜め息をついた。この瞬間、オリュンポス山のふもとに置いて、ディステリアとクトゥリアの滞在が決まった。



                      ―※*※―



ある湖の湖畔に一人の少女が座っていた。彼女の名前はルルカ。

「(・・・・・・ふう・・・・・・)」

ヴィーラ、ニクシー、ヴォジャノーイ、南北のルサールカと人間の血を持つ複雑な家系と、それゆえに類まれ見る美貌の持ち主である。彼女には父も母もいない。両親は幼少の頃に起きた殺人事件の犠牲となり、命を落としてしまった。それからは祖父母夫婦の下で暮らし、昨年から二人の反対を押し切り一人暮らしを始めた。その頃からだった。辛いことや悩みがあると、決まってこの湖に足を運んだ。

「(でも・・・・・・なんでいつもここに来るんだろう・・・・・・?)」

いつも無意識の内に来るので、理由ははっきりとわからないが、この湖は昔、両親と一緒に遊んだ記憶がある。ほとんど覚えていない幼少時の記憶の中で、唯一、はっきりと覚えている記憶だった。

「(・・・・・・誰かを傷つけることもいとわない、もう一人の私・・・・・・)」

今、彼女を悩ませているのが、時々、表に現れる、彼女自身の『もう一人の人格』。いつもは彼女自身に危機が訪れると出てくるのだが、他者を平気で傷つける性格なので、彼女自身、恐怖を持っていた。それは日に日に大きくなり、彼女を悩ませるほどにもなっていた。

「(・・・・・・・・・帰ろう・・・・・・)」

大抵の悩みはここに来ると解決するのだが、彼女の『もう一人の人格』については、どこか中途半端で終わってしまう。それでも、暗くなる前に帰ろうとした時、どこからか声が聞こえてきた。

「(なんだろう・・・・・・?)」

声がするほうに向かって、ルルカは草むらを進んで行く。すると、草むらの向こう側に、商人らしき男と黒尽くめの男がいた。黒尽くめの男は男から、何やら紙らしき物を受け取って話をしていた。

「ジェラレ、この国で作られている武器の流れを調べている奴らがいる。もし、そいつらにばれたら・・・・・・」

「大丈夫、ばれやしませんよ。もしばれたとしても、我々には辿り着きません」

冷たく笑いを押し殺す、ジェラレと呼ばれた黒尽くめの男に対し、商人の男は慌てた。

「ちょっと待て。話が違うだろ。ばれても決して捕まりはしない、って言うから手を貸してたのに・・・・・・」

「それは我々の話ですよ。さすがに、あなた方までは守れないので、悪く思わないこと」

笑いを堪えるジェラレに対し、「は・・・・・・話が違うだろ」と訴える商人。

「な・・・・・・なら・・・・・・ばらしてやる。お前たちが企んでいること、全てを・・・・・・」

「なら・・・・・・死あるのみだ!!」

突然、商人の体をジェラレの黒い鱗に覆われた腕が貫いた。腕が抜かれた体が倒れるのを見て、両手で口を覆って息を呑んだルルカに気付くと、「見たな!?」と彼女のほうを向いた。

「み・・・・・・見てません」

すぐさま両目を手で覆ってごまかそうとしたが、しばらく唖然としたジェラレに怒鳴られた。

「ふざけてるのか~!!」

「あわわわ・・・・・・」

両目を覆うのをやめて慌てると、ふとジェラレが首を傾げた。

「貴様、どこかで・・・・・・!?あの時のガキか!?」

一瞬、どういうことかわからず、「なんのこと」とルルカは首を傾げた。

「知らない・・・・・・って言うのか?まあ、そうだろうな。貴様はまだ、小さいガキだったからな・・・・・・」

冷たく笑うジェラレを見た時、彼女の脳裏に何かがよぎる。だが、はっきりとしていないため、よくわからなかった。

「自分の命が危ないっていうのに、まだ小さなガキを庇うために飛び出した、バカな男がいたことは忘れもしねぇ。俺はそいつのせいで、水の中に閉じ込められて捕まったんだからな」

そう言って笑った時、目を見張ったルルカの頭にある言葉がよぎる。



                      ―※*※―


~―回想―~


「危ない、ルルカ!!―――!!」

突然した声の後に、飛び散る鮮血。

「逃がしは・・・・・・しない・・・・・・!」

男性の声の後、大気中から噴き出した水が、誰かを中に閉じ込める。

「よか・・・・・・った・・・・・・」

フッと笑いかけた女性が、視界から消える。その後、地面に倒れている血まみれの男性と女性、同じく血まみれで笑みを浮かべて立っている男性が視界に入る。その男は、今、目の前にいる男だった。


~―回想終わり―~


                      ―※*※―



「・・・・・・あなたが・・・・・・お父さんと・・・・・・お母さんを・・・・・・・・・・・・あああああああああっ!!!」

頭を抱えたルルカが悲鳴を上げた時、体から凄まじい魔力が放たれ、彼女のもう一つの人格が目を覚ました。

「あん?なんだ?まとう空気が変わりやがった」

全身から殺気を放ち、殺意のこもった目で睨みつけるルルカを見て、ジェラレはにやりと笑う。

「敵討ち・・・・・・でも、するつもりか?」

「それもある。・・・・・・が、貴様の耳障りな声を黙らせる!」

「面白い。やれるものなら、やってみろ!!」

挑発に対し、すぐさまルルカは、左右へのフェイントを入れながらも殴りかかる。だが、ジェラレはその全てを掌で流した。

「くっ・・・・・・なら、これで・・・・・・!」

一端、離れると両手に魔力を集中させ、それで湖の水を引き寄せ、ジェラレを包み込んだ。だが、その水を突き破って、服からの露出部分が黒い鱗に覆われたジェラレが、腕に生えた爪でルルカを切りつけた。

「ぐっ・・・・・・くそっ・・・・・・」

後ろに下がって草むらに膝を着いたルルカに、ジェラレは「ハハハハハハハハハ」と、高らかに笑い声を上げた。

「ラトデニのおっさんがくれた力は最高だぜ。こんなガキも、簡単にひねられる」

ルルカは胸の傷を押さえて、「クッ」とジェラレを睨むが、痛みで体が動かなかった。そんな彼女に、笑みを浮かべたジェラレが近づく。

「よく見りゃあ、いい女じゃねぇか。アジトに連れ帰って、可愛がってやるぜ」

もうだめかと思ったその時、突然、ジェラレを衝撃が襲った。吹き飛ばされたジェラレが周りを見ると、一角に旅人用のマントに身を包み、頭に三角の帽子を被っている男が立っていた。

「貴様・・・・・・何者だ!?」

「下賎な趣味の持ち主などに、名乗る名前は持ち合わせていない」

そう言って、マントの下から右腕を上げる。声の調子から、男は若い少年のようだった。

「俺もヤローには興味ねぇ。すぐに・・・・・・消えな!」

鱗の隙間から平たいトゲのような物を飛ばす。それらはマントを貫通するが、そこには地面に落ちたマント以外、何もなかった。

「なっ、どこに・・・・・・?」

すぐさま周りを見渡すが、突然、体に痛みを感じる。気付くと、左肩から胸の右側にかけて切られ、鮮血が飛び散っていた。

「下賎な輩に、俺を捕らえるなど・・・・・・不可能!!」

側には剣を振り上げた体勢の、謎の少年。ジェラレはすぐさま左腕を振るが、少年はルルカの側にいた。

「くそ・・・・・・。貴様、何者だ・・・・・・!?」

「最初に言ったはずだ。下賎な輩に名乗る名など・・・・・・ない」

それだけ言うと、ルルカを抱きかかえ、木の枝を飛び越えながら立ち去った。

「おのれ・・・・・・この屈辱、忘れんぞ・・・・・・!」

残されたジェラレは、悔しさに拳を握っていた。



                      ―※*※―



湖からだいぶ離れた所で、謎の少年はやっとルルカを下ろした。

「ここまで来れば、もう大丈夫だろう」

遠くを見る少年に対し、ルルカは警戒の眼差しを向けている。それに気付いた少年は、「睨むなよ」と笑った。

「あなたは何者なの?どうして私を助けたの?」

「俺はしがない旅人。助けた理由は君が襲われてたから・・・・・・じゃあ、ダメかな」

それを聞いたルルカは、ますます彼を警戒した。さすがに、これには少年も懲りたらしい。

「わかった、ちゃんと教えるよ。俺の名はクトーレ。クトーレ・ベオヴォルフ。ある事情で旅をしてるんだ。理由はさっきも言った通り」

「私は・・・・・・ルルカ・ヴォージャよ」

フッ、と笑うと「よろしく、ルルカ」と、手を差し出してきた。ルルカは一瞬、その手を取りそうになったが、目つきが変わるとその手を払いのけた。

「お前・・・・・・何者だ。何を企んでいる!!」

だが、彼は「何も」と言って、微笑むだけだった。

「これまた、疑い深いペルソナだね~」

なぜか笑うクトーレに「な・・・・・・なんだと!?」と掴みかかろうとするが、すぐに表人格が出てきて押さえ込まれてしまった。

「もう・・・・・・もう一人の私ったら・・・・・・す、すいません。変な独り言を言って」

頭を下げるルルカに、「別に気にしてないよ」と答えるクトーレ。

「ところで・・・・・・ペルソナってなんですか・・・・・・?」

「『仮面』『人格』『心の化身』。君の場合は、『別人格』だね」

ルルカは「はあ」と呟き、膝を抱えて考え込む。

「別人格・・・・・・か」

「町まで送ろうか?」

「いい。まだあなたを、信用した訳ではないから」

そう言って、ルルカは町のほうに駆けて行った。それを見送ったクトーレは、一息ついて携帯電話を取り出した。ボタンを操作して耳に当て、コール音を聞いてしばらく待つ。

《―――特務回線、レベル三。この通信は、機動部隊隊員にのみ使用を許された機密回線です》

応対したのは女性の声だが、どこか無感情。対応するプログラムによって聞こえる音声だとすぐわかった。

《使用を望むのであれば、こちらの発信音の後に暗号コードの送信をしてください。コードは音声、メールのどちらにいたしますか?》

「音声だ。コードは・・・・・・」

辺りに気を使いながら、クトーレは決められた暗号を口にする。それからしばらくして、向こうから返答があった。

《合言葉と音声の照合終了。82.7パーセント、クトーレ・ベオヴォルフのものと一致いたしました。ご用件をどうぞ》

「クトゥリア・クトゥガスター・トレップにつないでもらいたい」

《コールを行います。しばらくお待ちください・・・・・・》

しばらく電話の呼び出し音がする。静かに待つクトーレの耳に、再び女性の音声が聞こえる。

《クトゥリア・クトゥガスター・トレップ所持の通信端末につながりません。重要な用件なら、伝令を飛ばします》

ちなみに、この時出てくる伝令とは、小天使であるエンゼルや戦女神であるヴァルキリー。エンゼルはともかく、ヴァルキリーに関しては主であるオーディンが協力させてくれている。

「そうしてもらいたい。至急、彼に伝えてもらいたいことがある。ランクAの者で伝えてもらいたい」

《生憎ですが、戦闘及び伝令ランクAの者は全て出払っております》

「むっ。なら、動ける者で一番高いランクは?」

《Bランクです》

「わかった。頼む」

《では、発信音の後にメッセージをどうぞ》

一度目を閉じると、発信音が聞こえる。噛まないように一呼吸置くと、クトーレは目を開けた。

「俺だ、クトーレだ。至急、伝えたいことがある」

無論、辺りの警戒は怠らない。





                   その一週間後、事態は動いた。





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