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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第22話 明かされる真実






首都〈パラーナ〉では、教会の異端審問官たちが、一組十人ほどで街の中を歩き回っていた。普段は一組二~四人程度なのだが、道化騎士捕縛のため人数を増やしたのだった。

「いいか。この〈道化騎士ロリス・リッター〉の存在・行動は我ら教会への侮辱だ。すぐにでも捕まえて即刻、火刑にかけなければならない」

異端審問官のトップである老審問官と、その補佐の副審問官が教会騎士たちに言う。

「すでにこの三ヶ月、ファンラスだけでも十数回以上の火刑場に現れ、受刑者を連れ出しています。その後の受刑者の行方もわかっていないことから、誰か協力者がいるものと思われます」

「もしそうなら、奴らは組織だって我らの国に攻め入るかも知れん。それを防げるか否かは、諸君らにかかっている。皆の者、全力を尽くすように」

そう言って、教会騎士たちを送り出した審問官のトップ、ラスプは不敵な笑みを浮かべていた。

「ラスプさま。笑っておられる場合ではございません」

「そうか?半年だけでも五百人余り。十分な収穫だとは思わんかね?レマレーナ」

「しかし、異端者として捕まえた九百人余りの内、三百人余りがロリス・リッターなる者に救出されています。救出を恐れて投獄している者が百余り。これでは、期日までに『負の思念』を集めることなど到底できません」

「だな・・・・・・ハイ・アサシス」

そのすぐ後、天上から全身を黒のタイツの上を薄い鎧で包まれたような姿の男が、床に着地した。

「早速だが、このパラーナの中で・・・・・・」

それを、「お待ちを」とアサシスがさえぎった。レマレーナが「どうした?」と聞くと、

「窓の外に、聞き耳を立てている者が」

と答えた。すぐにレマレーナが窓を開けたが、そこから飛び立ったのは白いハトだけだった。

「まさか・・・・・・ハトが敵の刺客とでも言うのか・・・・・・?」

一瞬、馬鹿にしたような言い方で窓を閉めるが、すぐ「いや」とラスプが言った。

「幻獣の中には鳥や獣の声がわかる者がいる。そういった者が動物を使って探りを入れているかも知れん。だから、例え鳥でも聞かれる訳には行かん」

レマレーナは「わかりました」と言って、ラスプの側に侍した。

「では、改めて聞く。このパラーナ内に我らの邪魔をする〈道化の騎士〉と思しき者はいるか?」

「いえ。昨日、森の中で救出した娘を家族に引き渡した後まではつけていたのですが、プレシュの側で見失いました」

「プレシュ?この首都〈パラーナ〉と、処刑場であるパラーナ盆地のほぼ中間にある、あの小さな町か?」

「ハイ。これが撹乱でなければ、〈道化の騎士〉なる者はあの街に潜伏している可能性があるかと」

それを聞いたラスプは「そうか」と呟くと、口を覆った手の下でニヤリと笑った。

「その町なら、ちょうど捜査範囲に入っている。いずれ何か報告が入るだろう」

「そうですか。では、このエウロッパ内に我らの障害となりうる者は、後どれくらいいる?」

すると、天上から他のハイ・アサシスが数人、膝を折って床に手を付いた形で降りて来た。

「各自、報告をしてくれ」

「ハッ。エリウ国ですが・・・・・・」

「そこの報告はいい。他の場所を」と、レマレーナがかき消す。

「ハッ。アストリアでは依然、そういった者が出現する傾向はありません」

「リタリーでも同じです。ただ・・・・・・」

「ただ、なんだ?」と、レマレーナが聞く。

「あそこに配置したハイ・アサシスが一体、行方をくらませております。おそらくは・・・・・・」

「やられたか・・・・・・」と考えた後、「続けろ」と言った。

「ハッ。アサシス兵三個中隊を率いてウェイスをくまなく捜索しましたが、例の男の発見には、いまだ至っておりません」

「そうか。引き続き捜索せよ。それより、イグリースの報告がまだだが・・・・・・」

「は・・・・・・ハッ。担当の者が遅れているようで・・・・・・」

「かまわん。武器の蓄えはどうなっている」と、ラスプが報告の内容を変えさせる。

「ルーシアの首都、マスコスでの武器調達に、支障はありません。ただ、その動きに不信感を抱いている者がいるようです。ご命令とあれば、すぐにその者を抹殺いたしますが・・・・・・」

「いや、騒ぎを大きくする必要はない。こちらの情報を掴ませなければいいだけだ」

ラスプの後に「そうですね」とレマレーナが頷く。

「―――それより・・・・・・イグリースの報告はどうなっている!!」

そこに「も・・・・・・申し上げます!!」と、大声がするとドアが開いた。そこには、部屋の中にいるものと同じハイ・アサシスがいたが、部屋の中にいたハイ・アサシスたちは姿を消していた。

「なっ、おまえ!ここに来る時は人目につかないように、天井から来るように伝えたであろう!」

慌ててドアを閉めるレマレーナの側を抜け、「申し訳ありません」とラスプの前にひざをついた。

「それで、どうしたのだ?」

ラスプの問いに、アサシスは「ハッ」と頭を下げる。

「ムルグラントに向かっていたクルキドが、目標地点まで残り七十キロの地点で全滅しました」

「そうか・・・・・・」

ラスプは一端、答えた後、「!?・・・・・・なんだと!?」と、予想外の報告内容に思わず席から立ち上がる。

「その怪物と言うのは・・・・・・幻獣か!?」

レマレーナの問いに、「いえ」と首を振る。

「体から発せられるプレッシャーは、魔物のそれを超えています。あのようなものは今まで見たことが・・・・・・」

「待て。それ以上はこちらで調べる。その時のおまえの記憶を渡してもらおう」

レマレーナはそのハイ・アサシスの頭に手を置くと、一瞬そこに紫色の光が灯った。光が消えた後に手を離すと、そのハイ・アサシスは糸の切れた人形のように床に倒れた。その後、紫色の光は同じ色の結晶となった。

「すぐに本部に移送し、記憶から分析します」

一人部屋に残されたラスプは、机に肘を付きニヤリと笑っていた。

「奴らの介入か。それほどこの世界を維持したいということか・・・・・・」



―※*※―



ほぼ同時刻、〈パラーナ〉から南に数キロ行った場所を、教会騎士の一団が移動していた。

審問官「次の町が我々の見回りの最後に当たる。皆の者、気を抜かずにしっかりとしてくれ」

そのまま一団は、目の前の町に差しかかった。木と壁で造られた家が多い町。そこは、ユーリのいる町プレシュだった。


紙袋にいっぱいの食材を抱え、街の中を歩くミリア。脳裏にユーリの苦しそうな表情が浮かんだ。

「(ユーリはいつもあんな顔をする。苦しそうな、悲しそうな顔。ねえ、何がそんなに苦しいの?何がそんなに悲しいの?)」

ミリアは不安だった。今にも彼が、目の前からいなくなってしまいそうで。

「(どうしてそんなに・・・・・・)」

暗い表情で歩いていたミリアがと何かにぶつかると、彼女が抱えていた食材が道に散らばった。道にしりもちを付いた彼女が見上げると、そこには異端審問官と教会騎士たちがいた。

「貴様!気をつけろ!!」

文句の一つでも言いたかったミリアだが、そんなことをすればすぐさま連れて行かれてしまう。黙って食材を拾っていると、審問官がその中に落ちている宝石を拾い上げた。それに気付いたミリアは「あっ!」と呟いた。

「この宝石は、〈魔法素結晶宝石マナジュエル〉か」

〈魔法素結晶宝石〉とは、別名〈魔宝石〉ともいい、大気中を漂っている魔法素マナが結晶化した物だと言われている。一属性のマナが結晶化する理由は不明だが、これがあれば例え魔術が使えない者でも、多少の素養さえあれば魔術が使えるようになる。ちなみに、様々な属性が混ざり合い、かつ原石に近い物が魔石と呼ばれる。

「捕らえよ!」

驚いたミリアの顔を見るや、すぐさま教会騎士に命令し、たちまち彼女を取り押さえた。

「フン、行くぞ」

「お前ら!ミリアをどうするつもりだ!!」

そこへ、ユーリが駆けて来た。教会騎士に殴りかかろうとするが、あっという間に押さえ込まれる。

「ユーリ!!」

「おまえら異端狩りは、騎士を名乗るくせにぶつかっただけで人を異端扱いするのか!?」

「黙れ、小僧!この者は魔女だ。この魔宝石が何よりの証拠だ!!」

審問官が見せた宝石に見覚えがあったユーリは、目を見開いた。

「この力でおまえをたぶらかしていたのだろう。さあ、連れて行け!!」

「待て!何かの間違いだ!!」

「くどい!!」

腕を捕まれた審問官はユーリを突き飛ばし、道に叩きつけられたユーリは、「っ!!」と声を上げる。

「たとえ魔術でたぶらかされたとしても、これ以上邪魔立てすれば貴様も同罪だ。行くぞ」

歩き出す審問官たちを、「待てっ!」と追いかけようとしたが、腕に痛みが走り、動けなかった。

「いつっ・・・・・・」

「おい、君。大丈夫か?」

駆け寄ってきた旅の男性に、「あんたは・・・・・・」と答える。

「俺のことはいい。それより、早く手当てしないと」

「おい、クトゥリア!なんだ、さっきの。無茶苦茶じゃねぇか!」

落ち着いている男性に対し、連れの少年は声を荒げている。いうまでもなく、男性はクトゥリアで、少年はディステリアだ。

「落ち着け!今はこいつの手当てが先だ」

「ふざけるな!あんなの見過ごせるか。俺が・・・・・・」

駆け出そうとしたディステリアの足をクトゥリアがかけたので、派手にこける。

「いてっ・・・・・・何しやがる!!」

「ここで騒動を起こして何になる。まずは、奴らについての情報を集めるんだ。倒すにしろ、壊滅させるにしろ、情報が必要だ」

「・・・・・・選択肢が一個じゃないのか?」

「あの子、ミリアと言ったか?彼女が魔女だなんて、何かの間違いだろう」

「だが・・・・・・奴らは一度だって、間違いを認めたことはない。くそっ!!」

歯を食い縛り立ち上がろうとしたユーリを、クトゥリアは制した。

「とにかく、腕を手当てしないと・・・・・・」

ユーリはその場でクトゥリアに手当てされ、ディステリアは恨みがましい視線を送りながらふてくされていた。



―※*※―



手当てが終わり、左腕に包帯を巻いたユーリが、家路についていた。その表情は、酷く動揺していた。

「(忘れもしない・・・・・・あの宝石は・・・・・・)」

家が見えたその時、ユーリは突然、駆け出した。



―回想―


森の近くで剣の素振りをしていると、草むらの中から一人の貴婦人が出てきた。月明かりが照らし出すその姿は、背中にコウモリのような翼、額にガーネットを持っていた。

「こんな時間に出歩くなんて、ある意味命知らずね・・・・・・」

素振りを止め、その女性に思わず見とれてしまった。

「・・・・・・あんたは・・・・・・?」

「私はヴィーヴル。この近くに棲んでいるものよ」

「近くに住んでいる?この近くに人が住めるような場所はないはずだが・・・・・・」

「そう。だから『棲んでいる』。見てわからない?私は幻獣よ」

ユーリは「ああ、そうか」と思って、顔を背けた。

「なんのために、力を求めているの?」

素振りを再会しながら、ユーリはその問いに答える。

「今この時に、やつらの不条理な異端狩りで犠牲になっている者たちを、少しでも多く救えるようになるためだ」

一端、素振りをやめた後、フッ、と笑ったヴィーヴルの顔を見て、一瞬、頬が赤くなり、目を背ける。

「なら、あなたに望みのままの力を授けましょう」

ヴィーヴルはユーリの前に近づくと、自分の額にはまっている宝石に手をやる。

「私の額に入っているこの宝石を手にすれば、あなたは強大な魔力を得ることができます。さあ、どうぞ・・・・・・。今、あなたのすぐ側にあります」

甘い囁きに、ユーリは一瞬、手を伸ばそうとする。だが、『甘い言葉には気をつけろ。強大な力が手に入ると言うならなおさらだ』と言う言葉が頭をよぎり、ユーリは手を下ろした。

「いや、やめて置こう」

「・・・・・・なぜ?」と問うヴィーヴル。

「強大な力を手にするには、それ相応の覚悟と実力が必要だ。俺にはまだ、それが備わっているとは思えない」

視線を落とした自分の右手を握った後、ヴィーヴルを見据える。その顔は頬が少し紅潮しており、少し戸惑っているようだった。

「だからもし、俺がこの先、あんたの力を得るに相応しい男になったら・・・・・・その時は・・・・・・」

「わかりました。その時、私はあなたに仕え、力を添えましょう」

そう言って消えるヴィーヴル。ユーリは「えっ、あっ、違う・・・・・・」と言ったが、言い切らないうちにヴィーヴルは姿を消していた。


―回想終わり―



「ミリア・・・・・・お前は・・・・・・」

家に駆け込み、部屋の中に置いてあった仮面を手に取ると、それを身に着けベッドの下から引っ張り出したマントを羽織った。

「ミリア・・・・・・すぐ行くぞ!!」



―※*※―



首都〈パラーナ〉の教会本部では、ラスプとレマレーナが廊下を歩いていた。

「なぜ魔女ごときの取調べに、私が立ち会わなければならないのだ?どうせまた、人間どもの勘違いだろう」

「いえ、それが。その者は幻獣の類の可能性が」

それを聞いたラスプは、「何!?」と顔をしかめた。

「なるほど、な・・・・・・わかった、その者は今どこにいる?」

「あなたさまがお行きになられますので、例の部屋に」

「そうか。『結界』が張られた部屋なら、余計な奴らに話を聞かれずに済む」

二人は、石造りの壁につけられた木のドアを開け、石の階段を下りて行った。やがて地下の部屋に入ると、椅子に縛り付けられているミリアの前に近づいた。

「気分はどうだ?」

「いいわけないでしょ!!あなたが『異端狩り』の親玉ね!」

「白々しいものだな。どうせ、全て知っているのだろう?」

顔をしかめ、「なんのこと?」と言ったミリアのあごを掴み、目を合わせた。

「・・・・・・わかっているのだぞ?貴様、幻獣・・・・・・ヴィーヴルだな・・・・・・?」

これに対し、ミリアはラスプを睨み返した。

「魔女の次は幻獣?あなたたちの言いがかりには、ほとほと呆れるわ」

すると、「とぼけるな」とレマレーナは、押収した宝石を取り出した。

「無能な異端審問間は勘違いしていたが、この宝石は〈魔法素結晶宝石マナジュエル〉ではないものの、魔力を宿している。そういった宝石は幻獣か、もしくは奴らと係わりのある者しか持っていない。つまり、貴様は幻獣でないにしろ、なんらかの係わりを持つ者だということに間違いはない」

だが、ミリアは「知らない」と言ったきり、黙り込んだ。

「・・・・・・フン。まあ、良かろう」

「なっ!よろしいのですか!?」

何も言わずラスプは地下室を後にし、地上の教会に戻った。

「よろしかったのですか?あんなに簡単に取調べをおやめになって」

「あの女が本当にヴィーヴルなら、宝石が外れている今は何も見えないはず・・・・・・」

「!!・・・・・・そう言われてみれば」

「それに、宝石は今、我らが握っている。服従させることも簡単なはずだ。だが、あの女の瞳はしっかりしていた」

「では・・・・・・あの女はいったいなんと・・・・・・?」

「わからぬ。だが、何者にしろ・・・・・・使えるな」

「申し上げます!!」

そこへ、血相を変えた教会騎士が走ってきたので、「今度はなんだ!?」とレマレーナが叫ぶ。

「今しがた、ファンラス港にて、手配中の男『アウグス・フォン・ホーエンハイム』を拘束いたしました」

レマレーナが「何!?」と驚くと、ラスプは「ほう」と呟いた。報告を終えた教会騎士が立ち去ると、ラスプはニヤッと笑った。

「どうやら、運命は我々に味方をしているらしい。レマレーナ!すぐに刑の準備だ」

「裁判も行なわずに、ですか!?」

「奴が異端者・・・・・・魔術師であることはまず間違いない。改めて裁判にかける必要はない」

「わかりました。では、ただちに・・・・・・」

「待て、レマレーナ」

ラスプが呼び止めると、「まだ何か?」とレマレーナが聞いた。

「いいことを思いついた。私の部屋に来てくれ。そこでいろいろ指示をする」

レマレーナは「はっ、わかりました」と、ラスプの後に続いた。






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