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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第19話 屋敷での戦い






「!?なんだ・・・・・・」

急に変わった周りの感覚。急に増した技の威力。戸惑うディステリアに、周りを取り囲む兵士が跳びかかる。

「っ!!ライジング―――」

天魔剣を振りかけて思い留まる。孤立しているこの状況で、反動の強い技を使うわけには行かない。これも、クトゥリアから言い聞かされていた。

「スラストーム!!」

そういった時のために教えられていた魔術で兵士を迎え撃つ。付け焼刃に近いのでクトゥリアほどの威力はないが、反撃に向かうための隙を作る事はできる。

「はあっ!!」

兵士の腹の辺りに天魔剣を振り、両断する。重い手応えがあったため中身がからというわけではない。だが、斬られた兵士から流れたのは黒い液体で、血という訳ではなさそうだった。

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ・・・・・・」

もっとも、ディステリアにそれを確かめる余裕はない。倒した兵士の鎧に足を取られないよう移動している。地面に転がっている鎧やその残骸は、彼に合わせて動いた残りの兵士に踏みつけられ原形を留めていない。

「(ずっとこうして戦っていても埒があかない。どうする・・・・・・)」

一か八かで大技を放って包囲に穴を開け、ジークフリートたちに合流するか。攻撃する場所を間違えれば失敗するし、何よりジークフリートたちからずいぶんと離されてしまった。

「(クトゥリアに増援を頼むか?・・・・・・いや、あいつのことだ。『自分でなんとかしろ。これも修行だ』と取り合わない)」

もっとも、彼自身クトゥリアに助けを求めることは控えたかった。頭を振って、一瞬弱きになった自分を奮い立たせる。

「(だったら―――)」

足元に転がる、先ほど自分が倒した兵士の鎧。それを、兵士の数が多そうな場所に蹴り飛ばす。一糸乱れぬ動きでかわされるが、それは狙い通りの行動だった。薄くなった包囲の壁に、天魔剣を振るって跳ぶ。

「フォーリング・アビス!!」

剣から放たれた黒い光が、闇の流星となって降り注ぐ。そこでディステリアは、技の選択を謝ったことに気付いた。闇の流星に押し潰された兵士は、抜けられるはずだった道を覆いつくした。

「(しまった―――いや、問題ない!!)」

一瞬思った考えを修正し、ディステリアは倒れた兵士の上を駆ける。そこに後ろを取り囲んでいた兵士が跳びかかる。せっかく包囲を抜けたのに、また同じになることは避けたい。草が生えた地面の上に着地するや、その足を軸に自身を回し、魔力を溜めた天魔剣を振り上げた。

「どおおおおおおおおおぉぉぉっっ!!」

スラストームの感覚で、溜めた魔力を一斉解放。飛びかかった兵士を吹き飛ばした。余波で地面が吹き飛び、轟音と共に煙が昇る。

「はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・」

息を切らし、後ろによろめく。そこに、地上を駆けていた兵士が突っ込んでくる。

「ライジング・ルミナス!!」

とっさに天魔剣を振り下ろす。立ち上った光の柱が兵士を打ち上げ、地面に落とす。煙が晴れた頃、あらかた片付いたので、ディステリアは大きく息をついた。それがこの戦いで、最初で最後の判断ミスとなった。

「・・・・・・ペースを考えてない戦い方だね」

「!?」


ドン!


呆れ、相手を見下した冷たい言葉の後、ディステリアの体を衝撃が襲った。



                      ―※*※―



急に変わった周りの感覚。急に力を増したブリュンヒルド。それらの理由がわかったグナテルは、笑みを浮かべる。

「どういうことか、よぉ~く、わかった。が、だからと言って、形勢が逆転した訳ではない!!」

すぐさま、左手のガトリング砲を撃った。だが、今のブリュンヒルドには弾丸の軌道が見えていたし、それを剣で叩き落すことも出来た。あっという間に弾丸を切り落とし、さらに一瞬でグナテルとの距離を詰め、左手のガトリング砲を切り落とした。

「ぐぅおっ!?」

切り落とすと同時にブリュンヒルドはその場を離れた。これでグナテルに武器はなくなり、さらにブリュンヒルドの腕についている弓から発射された矢を全て受けてしまい、膝を着いた。だが、圧倒的不利な状況に立たされているはずのグナテルは、なぜか笑っていた。



                      ―※*※―



「―――招来!グラム!」

ジークフリートは叫び、折れた剣を天に向かって掲げた。すると剣は光を発し、形が変わった。その剣こそ、戦いにおいてのジークフリートの真の相棒。かつてオーディンが生み出し、ジグムンドが受け継いだが砕かれ、その息子のジークフリートが蘇らせたという聖剣バルムンク。またの名を〈斬鉄剣〉。

「それが、なんだと言うのだ!!」

それを知らないグドホルムは襲いかかってきたが、今度はジークフリートも向かって行く。

「だああああぁぁぁぁっ!!!」

雄叫びを上げ、グラムを振り下ろした。剣同士がぶつかりあい、次の瞬間、ガラスが割れるような音と共にグドホルムの両手の大剣が、いとも簡単に砕かれた。まともにグラムを受けたのだから、当然といえば当然だった。

「ぐおおおぉぉぉぉっ!おっ、おのれえぇぇぇぇぇぇ!」

「たあっ!」

叫び声を上げて再び突進してきた。今の彼の鎧はそれ自体も武器になるが、グラムの前では無意味で、いとも簡単に鎧を切り裂かれ、グドホルムが転げまわった。

「ぐっ、ぐああああぁぁぁぁ」

「お前の負けだ。グドホルム」

「ぐっ、おのれ~」

転げまわるグドホルムに剣を向け、ジークフリートは言った。グドホルムが唸っていると、どこからか声がした。

「―――無様ですね。あれだけ見栄を張っといてこの様とは・・・・・・」

ジークフリートは周りを見渡す。その後、爆音が響くと共に、吹き飛ばされたディステリアが地面を転がった。一瞬そちらを向いたジークフリートは、グドホルムの後ろに現れた謎の男に振り返った。その男は、黒いマントを見に付けて体を隠し、紫色のレンズのサングラスをした青年だった。

「ほんと、無様だね。せっかく僕があんたのリクエスト通りの体を与えてやったと言うのに」

「何!?じゃあ、貴様が・・・・・・!!」

叫ぶジークフリートに、青年は涼しい顔をしていた。

「ええ、そうですよ。僕が彼を蘇らせたんです。もう一人蘇らせた人がそっちにいますけど」

「!!」と、青年が指差した所を見ると、そこにはブリュンヒルドとグリームヒルド、さらにグンナルがいた。

「なぜ、こんなことをするんだ。死者を蘇らせるなど、自然の法則に逆らった行為・・・・・・」

再び青年のほうを向き、叫ぶジークフリートに青年は何食わぬ顔で答えた。

「自然に逆らう?はっは、な~にを言うかと思えば。なら貴様はどうなのだ?オーディンの血を引く英雄、ジークフリート。あなたも一度は死んでいる身。なのに、なぜ現世であるこの世界におられるのだ?」

「!!・・・・・・それは・・・・・・」

痛いところを突かれ、沈黙するジークフリート。そんな彼を見て、青年は「所詮、世の中なんてそんなものですよ」と嘲笑した。

「それに、あなたが彼をここに連れてきてるとは思いもよりませんでしたよ。クトゥリアさん」

眉を寄せてネクロが声を上げると、隠れていたクトゥリアがディステリアの前に現れる。

「・・・・・・クトゥリア。知ってるのか、そいつのこと・・・・・・」

黙っていて答えないクトゥリアに、ネクロも眉を寄せている。だが、目を伏せると、眉間に指を当てる。

「ふう~。少し悔しいですが、グドホルムさん、グナテルさん。退散します。ここを放棄してね」

「・・・・・・わかった。ネクロ」

グナテルが答えると、ネクロと呼ばれた青年は満足そうな顔をした。

「なっ、退散だと。バカ言うな。こいつらをみすみす見逃すのかよ」

倒れたグドホルムが文句を言って起き上がろうとしたが、ネクロに頭を踏まれた。

「うるさいなぁ~。みすみす見逃すとか言うけど、その見逃す相手にここまでやられたのは、誰かなあ~?」

そう言われ、グドホルムは「ぐっ」と黙り込んだ。

「ジークフリートさん、ブリュンヒルドさん。それに・・・・・・裏切り者のグリームヒルドに、そこに隠れている誰かさん。今回は我々の負けです。でも、完全に・・・・・・ではないですよ。我々の目的はあくまで時間稼ぎとそれを阻害する者の排除、ですから」

「目的は達成された・・・・・・と言うことか」

「半分は・・・・・・ね」と笑うネクロに、ジークフリートたちの顔が強張る。

「いいことを教えてやるよ。人間たちにアースガルドの存在を教えたのは、この僕さ。そして、軍上層部の別荘地の確保と称して軍を出動させたのも、この僕さ。つまり、君たちが探していた相手は、僕だったと言う訳さ」

勝ち誇ったように言うネクロ。こちらが求めていた情報を思いもよらない場所、それも敵から入手したことに疑問を感じたジークフリートは、裏があると考えずに入られなかった。

「なぜ、そんなことを教える?」

思わず聞いたジークフリートに、ネクロは「クックック」と不気味に笑った。

「さあね・・・・・・いや、これは宣戦布告とでもいたしましょうか。我ら〈デモス・ゼルガンク〉は君たち、いや、この世界に存在する全ての神々、幻獣どもに宣戦を布告する!」

その途端、ネクロとグナテル、そして足蹴にされているグドホルムの周りの土煙が立ち、三人は姿を消した。

「!?・・・・・・待てっ!」

だが叫んだ時には、もうそこには誰もいなかった。「くそうっ」とジークフリートは悔しそうに言った。

「ネクロ、それに〈デモス・ゼルガンク〉。それが・・・・・・この事態の黒幕・・・・・・」

「どうやら、そうらしいな。まったく・・・・・・神々に宣戦布告するなんてなんていう奴らだ」

「どわっ、いつの間に!!」

突然、現れたスキールニルに、二人が驚いた後、ブリュンヒルドはグリームヒルドのほうを向いて聞いた。

「あなたもあのネクロという奴に蘇らされた。でもどういうつもりか、奴らを裏切った。なぜ?」

スキールニルの問いにしばらく黙っていたが、やがて理由を話し始めた。

「奴らには何か別の目的があって、私たちはその目的のために蘇らされた。でも私は、そいつらに利用されるのは嫌だったの。もう、あんな思いをするのも、誰かにあんな思いをさせるのも・・・・・・嫌・・・・・・だから・・・・・・」

その言葉に、三人は黙り込んだ。だが、しばらくしてスキールニルが口を開いた。

「では、一度アースガルドへ戻ろう。このことを早くオーディンさまに報告しなくてはいけない。それに、彼女のこともあるしな」

ジークフリートが驚いて、「彼女を・・・・・・アースガルドへ連れて行くのか?」と聞いた。

「ああ。彼女をこのままここにおいて行けば、確実に始末される。そうすれば、奴らは再び彼女を蘇らせることが出来る。今度は絶対に裏切らない、忠実な下僕として」

その言葉を聞いて、ジークフリート、ブリュンヒルドは何か恐ろしいものを感じた。

「いいの?そんなに簡単にあたしを信用して」

突然、グリームヒルドが聞いてきた。

「私はあいつらのスパイかもしれないのよ。あいつらを裏切ったのも、あなたたちにここを教えたのも、お兄さまたちに攻撃されたのも全てお芝居だった。そうは考えないの?」

しかしスキールニルは、「その時がくれば、それ相応の対応をすればいい」と言っただけだった。

「珍しいですね。スキールニルがそんなことを言うなんて」

「スキールニルさんって、そんな方でしたっけ?」

「もしかして、惚れちゃったとか?」

こっそりブリュンヒルドがスキールニルに耳打ちをした。

「バカ言うな。それ、アースガルドに戻って、オーディンさまに報告だ」

少し顔を赤くして、スキールニルは歩き出した。



                      ―※*※―



その頃。アースガルドでは、オーディンたちアース親族と人間の軍隊の戦いが大詰めを迎えていた。

「グングニル!!!」

オーディンの必殺の神槍の一撃は戦車や装甲車を外れたが、その爆風は武器を壊し、敵を無力化にするには十分だった。他のヴァルキリーたちやエインヘリヤルたちも、武器を破壊するだけにとどまった。武器を壊された人間は我先にと逃げ帰った。

「この程度でアースガルドを落とせるとは甘く見られたものだな」

「全くだ」と、バルドルやトールを初めとしたアースガルドの神々は、口々にそう言った。神々にとって、人間たちの武器だけを破壊するのが簡単なことで、たとえ彼らが不死ではないとしても、人間たちの使う武器は神々の命を奪うには威力が足りない物ばかりだった。

「それにしても、ジークフリートとブリュンヒルドはまだか?」

痺れが切れたような顔のトールに、フレイが答える。

「先ほど、スキールニルからこちらに向かっているという連絡が入った」

「そうか」

オーディンの顔を、「オーディンさま?」とフレイアが覗き込む。オーディンは何かを考えていた。

「(間違いない。この戦い、何者かに仕組まれたものだな)」

そういう考えが、予感のようにオーディンの頭をよぎっていた。



                      ―※*※―



同じ頃、別の場所では。背中にパラボラアンテナのようなものを背負った伝令係の兵が、八人の影が囲むテーブルの前に片膝を着いた。

「報告します。先ほど、人間どもの軍隊が逃げ帰ったとのことです」

「思ったより早かったな」

暗い部屋の中、丸いテーブルを囲んで座っている八人の影の内、一人が喋った。

「ふむ。それで、死傷者の数は?」

先程とは別の影が喋ると、「はい」と兵士が答える。

「―――人間側の怪我人は部隊の89%になりますが、死亡者はいません。あと、報告するまでもないとは思いますが、アースガルド側の死傷者数は0人です」

「フッ。さすがだな。これでは我が軍の『怨霊兵』の徴集ができません」

「感心している場合ではあるまい。これで世界各地での裏工作の内、二つの地域での活動の意味がなくなった」

さらに別の二つの影が喋ると、最初の喋った影が口を開く。

「ならば、あそこに期待しますよ。あそこの人間は、最も愚かしい。ほとんどの実力者が、自分こそが国を治めるのにふさわしいと思い、争いを繰り返し行っている、あの国に」

「その国の名は?」

三番目の影が聞くと、「シャニアク」と最初の影が明かした。








神話での存在が思うように力を発揮できない理由が思いつかない。


最初は、『人間界で圧倒的な力を発揮して目立たないためにあえて封じる』

次は、『強い力の余波で、人間世界に悪影響を与えないため力を封じる』

結局は、『人間界は神界や天界と比べてマナ以外の不純物が多くて、うまくマナを取り込めず力を発揮できない』に落ち着きましたが変更があるかもしれません。


ちなみに不純物とは、人間が生活の中で出した汚染物質とか物質的なものではなく、恨みの念、負の感情とか思念のようなもの。


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