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幻想戦記  作者: 竜影
第1章
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第18話 接触





「図書館なのに騒がしいぞ~。静かにしてくれ~」

気の抜けた声の苦情が聞こえてくる。ジークフリートとブリュンヒルドがそちらに目を向けると、こげ茶色の髪の男性が立ち上がっていた。彼の横では、ぼさぼさ髪の少年が机に突っ伏している。

「す、すいません・・・・・・」

ブリュンヒルドが謝ると、そちらに近づいたクトゥリアは机に広げてある新聞に気付いた。

「そちらも何か調べ物を?」

「えっ、あっ、はい・・・・・・最近、軍隊が動いてるって話しを聞いて・・・・・・」

「その理由を調べてる、か・・・・・・」

「いえ、そこまでは。ただの興味本位です」

誤魔化そうとするブリュンヒルドに、男性は目を細めて射抜くような視線を向ける。思わず身を強張らせると、警戒したジークフリートが立ち上がる。

「とてもそうとは思えないな。特に、さっきのような会話を聞かされた後は、な」

「―――ッ!!」

「よく言いますね」とスキールニルが口を挟む。

「そちらで突っ伏している少年はともかく、あなたは気配を消して話しを聞いていただろ」

「盗み聞きしたように言うのはやめてくれないか。アース神族の誰かさん」

男性の言葉に、ジークフリートとブリュンヒルドは弾かれたように立ち上がり身構える。対する男性は、少し焦った表情をしてなだめるように手を上げた。

「わあ、待て、待て。俺はクトゥリア、敵じゃない。」

「クトゥリア・・・・・・?アースガルドに踏み入った、不遜な人間か!?」

怒気を含んだスキールニルの言葉に、「(げっ、もしかして地雷踏んだ?)」と表情を強張らせる。

「おい。図書館とやらでは、静かにしなければいけないんじゃなかったのか?」

呆れた声に全員の視線が向くと、「「あっ!」」と声が重なる。そこに立っていたのは、クトゥリアたちが島国エリウで会った海神―――マナナン・マク・リール。

「・・・・・・人並外れた身体能力のお前でも、正真正銘の神は怖いみたいだな」

「当たり前だよ。現世じゃ大丈夫だが、本場だと天地ほどの差が・・・・・・」

肩を落とすクトゥリアに話しかけるマナナン・マク・リールを見て、スキールニルたちは少し警戒を緩める。

「・・・・・・知り合いか?」

「訳ありだ。・・・・・・じゃあ、俺はそろそろ帰る。ディステリア、精進しろよ」

机に突っ伏している少年は、「おう・・・・・・」と弱々しい声と共に右手を上げる。それに溜め息をつくと、マナナン・マク・リールは別館を出て行った。

「取りあえず、味方でいいのか?」

「俺としてはそのつもりだ。改めて・・・・・・俺はクトゥリア。あそこで突っ伏してるのはディステリアだ」

「俺はスキールニル。こっちはジークフリートにブリュンヒルド。それから・・・・・・」

「グリームヒルドだろ。言ったろ?話しを聞いたって・・・・・・」

クトゥリアが答えた後、ディステリアが身体を起こす。

「さっき言ってた調査・・・・・・こいつも同行させてやってくれ。足手まといになったら、放って置いて構わない」

「構うわ!」とディステリアが文句を言ったが、クトゥリアは無視した。




                      ―※*※―



どこだかわからない暗い闇に包まれた場所。そこから二つの声の会話が聞こえる。

「首尾はどうだ」

「ああ、ばっちりだ。馬鹿な人間どもがアースガルドへ進行を開始した」

「そうか。クックックック。まあ、すぐに逃げ帰ることになるだろうがなぁ・・・・・・」

「人間は愚かで執念深い。いつかまた、進行を開始する」

「そうなれば、われらが完全に力を蓄えた頃には・・・・・・」

「クックックックック。愚かにしろ、人間様々、だな」

そこに突然、「報告します」と別の声が入ってきたので、「んっ?なんだ?」と二つ目の影が答える。

「何者かが三名ほどこちらに近づいています。そのうち一人が、グリームヒルドです」

その報告を聞くと、闇の中にいる者の内の一人が溜め息をついた。

「ふう~、やれやれ。やっぱり、あいつは裏切ったな」

「ええ。あやつらの中では、ひときわ強く『人』としての心を残していましたから。だが、こちらとしては好都合だな」

闇の中にいる者たちは笑い、「期待しているぞ?ネクロよ」と言った。

「下手な期待はかけるなよ?デズモルート。もっとも、君は自分の持場を離れてこんな所に寄り道しているんだ。より成果を上げてもらわなければな?」

「・・・・・・相変わらず嫌味な奴だ・・・・・・」



                      ―※*※―



グリームヒルド、ジークフリート、ブリュンヒルド、ディステリアの四人は、暗い夜道を歩いていた。昼間の時とは違い、ジークフリートは白金の鎧をまとっており、ブリュンヒルドは服の上に、淡い緑の鎧をまとっている。

「本当にこっちなの?」

途中、ブリュンヒルドが疑わしそうに尋ねると、グリームヒルドは彼女に細めた目を向ける。

「疑うのならついて来なくてもいいのよ。そうすれば、私はジークと二人きり」

一瞬、赤くなったグリームヒルドをブリュンヒルドは睨み付けた。

「わかったわよ。ついて行きますよ」

「(・・・・・・俺、また空気)」

心の中で嘆くディステリアは三人に気にされない。夜道を歩いて行くと、やがて見た目が立派な建物が見えてきた。四人は、気付かれないように庭の草むらに入った。

「あの中に・・・・・・」

その時、茂みに隠れたジークフリートが何かに気付き、

「―――!?離れろ」

「わっ」

「きゃっ」

「どわっ!?」

静かに叫んだ直後、ブリュンヒルドとグリームヒルドが悲鳴を上げ、少し遅れたディステリアが突き飛ばされる。四人が離れると、そこに何かの攻撃が当たり爆発が起こった。

「ちっ、ネズミを仕留め損ねたか・・・・・・」

厚い鎧に身を包んだ男が呟いた。左手に付いているガトリングガンが鎧とギャップを持っている。

「なんだ、あいつは・・・・・・」

茂みの中から飛び退いたジークフリートが呟くと、離れた場所でブリュンヒルドが苦い表情をした。

「門番ってとこね」

「あいつが近くに居たことに気付くなんて、さっすがジーク」

ジークフリートを褒めるグリームヒルドは、ブリュンヒルドに抱えられていた。

「「あっ・・・・・・」」

二人は呟くが否やすぐに離れた。

「なんであんたがこっちに居るのよ」

「知らないわよ。あんたが勝手に抱えたんでしょ」

二人が言い争っていると、ガトリングガンを持ったさっきの鎧男が近づいてきた。

「ネズミ君、見ぃ~つけた」

鎧男の声を聞き、二人は「「げっ!!」」と叫んだ。鎧男が右手の剣を振り襲いかかってきた。とっさにブリュンヒルドはグリームヒルドを突き飛ばし、鎧男に剣を突き出す。剣と鎧が激しくぶつかり合うが、彼女の攻撃は全く手ごたえがなかった。

「ぜんぜん効いてない?」

「その程度か。ならこちらから行くぞ」

そう言うなり、鎧の男はガトリングガンを乱射した。ブリュンヒルドはそれをなんとかかわし、剣を構えて突進したが、それでも鎧男にはなんのダメージも与えられなかった。その隙をついて鎧男が襲いかかろうとした瞬間、どこからか飛んできた石が鎧に当たり、カンッと音を立てる。石の飛んできたほうを向くとグリームヒルドが立っており、彼女は石を拾うとそれを鎧男に向かって投げつけた。

「ふん!お姫さまが石を投げるとは、な」

「それはもう、遠い昔の話よ」

せせら笑う鎧男にグリームヒルドはそう言い放って投げた石は、また鎧に当たった。その隙にブリュンヒルドは鎧男の首元に剣を突き刺した。

「グアッ!!」

今度は手ごたえがあったらしく鎧男は苦しそうに叫んで倒れ、その後、ブリュンヒルドはすぐにそこを離れた。

「やるじゃない。さっき借りはこれでなしよ」

ブリュンヒルドはフッと笑った後、「そういえば、ジークは?」と当たりを見渡した。


ガンッ!ガンッ!ガンッ!


その時、遠くのほうで金属音がした。どうやらジークフリートは他の鎧男と戦っているらしい。

「早く行かなきゃ・・・・・・」

「無駄なことはやめたほうが良い」

二人がそこへ向かおうとした瞬間、さっき倒したはずの鎧男が立ち上がった。再び身構える二人に、鎧男は甲冑を取った。その下には彼女にとって見覚えのある顔があった。

「・・・・・・!?・・・・・・グンナル!?」

その顔はブリュンヒルドのかつての夫(ただし、結婚に関しては陰謀あり)であったグンナル・ギービヒェ。だが、驚いているのはブリュンヒルドだけではなかった。

「・・・・・・・・・どうして?」

グリームヒルドもまた動揺していた。なぜなら、自分の息子であるはずの彼の声は、グリームヒルドの兄のグンテル・ギービヒェのものだった。

「どうしてあなたが、兄さまの声をしているの?」

「ああ、これね。彼の話によると復活の際に手違いがあったらしくてね。そのせいでグンナル・ギービヒェの体とグンテル・ギービヒェの声、あと二人の記憶を持つ全く新しい存在が生まれてしまったって訳」

グンナルの体とグンテルの声を持つその男がさらりと言った。

「なん・・・・・・ですって・・・・・・?」

驚きを隠せないブリュンヒルド。並みの存在が死者を復活させるなど不可能だからだ。だが、今目の前にいる存在は間違いなくかつての夫(しつこいようだが、結婚に関しては陰謀あり)だった。

「そんな訳で、私はグンナルでもグンテルでもない。だが、それでは呼ぶのに不便であろう。とりあえず私の名は、『グナテル』とでもして置きましょうか。ブリュンヒルドさん、グリームヒルドさん」



                      ―※*※―



一方、ジークフリートのほうも苦戦を強いられていた。

「くっ。しつこいぞ」

ジークフリートは厚い鎧を身にまとった男と戦っていた。その男とは、

「ハア~ッハッハッハッハッハ。俺はこの時をどれだけ待ちわびたか。ジークフリート!貴様の持つ〈ニーベルングンの指輪〉、渡してもらおうか!」

ジークフリートの命を奪った男、グドホルムだった。もっとも、彼は何か勘違いをしているようだった。

「あの時は貴様の反撃に合うと言う不覚を取ったが、今度はそうは行かん。俺はオーディンとかいう奴が従える、エインヘリヤルにも勝る力を手に入れた。今度は貴様が覚悟する番だ。英雄ジークフリート!」

両手の大剣を振り回すグドホルムに対し、グラムを持たないジークフリートには避けるしか手はなかった。何せ奴の持つ大剣にジークフリートは剣を折られたのだ。

「ハッハッハッハッハ!!避けてばかりでは倒せないぞ!!体力切れを狙っても無駄だ。我は疲れを知らぬ体に蘇らせてもらったのだからな」

「ジークフリート、ブリュンヒルド!!くそっ、どけ!ザコども!!」

ディステリアは周りを埋め尽くさんばかりの鎧男と交戦していた。グナテルやグドホルムと比べて地味な鎧をまとっている鎧と比べて簡素な造りだが、なぜか覚えがある。

「(この感触・・・・・・前に戦った、リビング・アーマーか!?)」

だが、確信はない。思い込みを抱き続けるのは、戦闘においても捜査においても危険、とクトゥリアからは言い続けられている。そうしている間にも、ディステリアはジークフリートたちからどんどん離されて行く。

「くっ、グラムさえあれば・・・・・・」

だんだんジークフリートの息が上がってきた。動きの鈍くなったジークフリートをグドホルムの一撃が襲う。なんとかかわしたが、これ以上は持たなかった。

「このままでは・・・・・・」

その時、辺りの雰囲気が変わる。体にまとわり付いた重みがなくなったような感覚も覚える。二人は一瞬驚いたが、グドホルムとグナテルの攻撃を弾くとすぐにその場から離れ構えた。ジークフリートとブリュンヒルドの二人からは、凄まじい闘気があふれ出していた。

「なんだ・・・・・・?」

グドホルムはジークフリートを、グナテルはブリュンヒルドを警戒する。今の二人はさっきまでの二人と違っていた。

「この感じ・・・・・・許可が下りたのね」

「よし、それなら―――!!」

二人が叫んだ途端、何かが開放されてその場の空気が変わった。二人の体から発せられたなんらかのエネルギーがグドホルムとグナテルの体を震わせた。

「この気は・・・・・・」

グナテルが呟いた瞬間、ブリュンヒルドが突っ込んできた。とっさにグナテルは剣を構えてブリュンヒルドの剣を受け止めたが、その時に走った衝撃に後退する。

「ぐっ・・・・・・」

持ち堪えようとするが、ブリュンヒルドが力を込めるとグナテルは後ろに飛ばされ、その衝撃で剣を折られてしまった。

「なっ、なんだとぉ!?」

グナテルはその状況を理解できなかった。今までは明らかに力はこちらのほうが上だったはず。しかし、それが一瞬で逆転した。

「貴様・・・・・・いったい何をした」

唸るように聞くグナテルに対し、ブリュンヒルドが静かに説明をする。

「私たちが現世に行く時、なぜかある程度の力が消失する。だから、戦闘時は専用の戦闘区域となる結界を展開する。そうすることで、私たちは現世戦う際、故郷である神界と同じ力を出すことができる」

「だが貴様らは最初からそうしなかった。なぜだ?」

そう聞かれると、ブリュンヒルドは少し照れくさそうに答えた。

「私は、前にヴァルキリーとしての決まりを破っているし、そんな私たちに結界展開の許可権が与えられるわけがない。何よりこれは判例が少なく実用性があるか見通しがたってない。だから私たちが特例として、任務を与えられると同時に実験台になったって訳」

「ふん、なるほどな」

「さて。納得して貰った所で、決着をつけるよ!」と、ブリュンヒルドは剣を構え直した。



                      ―※*※―



「・・・・・・ということを申しておりますが、解説のスキールニルさん。ブリュンヒルドの言ったことは本当なんでしょうか?」

「なんで私が解説なんだ」

屋敷の近くにある小高い丘から、クトゥリアは双眼鏡を使って戦闘の様子を眺めていた。お遊びとしか言えない言葉に苦い顔をしたスキールニルの後ろには、器具に取り付けられた細長いひし形の結晶が浮いていた。

「・・・・・・過去にヴァルキリーとしての決まりを破ったブリュンヒルドに、結界を展開する権限がないのは本当だ。決まりを破った者を人間界ミッドガルドに派遣するのも異例・・・・・・」

「その結界をわざわざ、彼らがピンチの時まで張らなかったのはなぜですか?」

インタビュー口調のクトゥリアに、スキールニルはあからさまに嫌な顔をする。

「・・・・・・・・・極秘事項だ」

「そんなこと言わずに。天界や神界の存在から見れば、人間界は魔法素マナ以外にも不純物が多すぎて本来の力が発揮できない、という説に関係あるのですか?」

わずかにスキールニルの眉が動く。小さく笑みを浮かべるクトゥリアにふざけている感じはなく、確信を得たような表情をしていた。

「・・・・・・人間界ミッドガルドでそれに気付いている者はいないと思ったが・・・・・・」

「なら、事実と考えて間違いないですね?」

「俺からは答えられない」

「どおおおおおおおおおぉぉぉっっ!!」

かすかに聞こえる叫び声の後、耳を突かんばかりの轟音がして、屋敷のほうから煙が上がる。

「あ~、あ~。派手にやっちゃって・・・・・・」

「あれじゃ、敵を呼び寄せるだけだぞ。ザコとはいえ、侮れない奴もいる」

「だから、こうして監察してるのでしょ」

再び双眼鏡で覗き込むと、大量の兵士に、ディステリアが孤軍奮闘しているのを見つけた。

「ピンチになれば助けてもらえる、って甘えた感情を持たれては困る。かと言って引き渡す前に死ぬのはもっと困る。その見極めが大変なんだよ・・・・・・」

「無茶な教育法だ・・・・・・」

「当たり前だ。俺は教え子を持ったことは、あまりない」

断言するや、顔色を変えて立ち上がったクトゥリアに、スキールニルは少し驚く。

「どうした?」

「少しやばい奴が出てきた。奴と戦うにはまだ早い」

駆け出したクトゥリアを見送ったスキールニルだが、ここで敵に遭遇しても困るので、彼について行くことにした。






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