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幻想戦記  作者: 竜影
第3章
169/170

エピローグ






翌日。

「ディステリアがいなくなった!?」

屋敷にフレイアの声が響く。ブレイティアとして戦う理由がなくなった各国の神々、協力者たちは、各々帰郷の準備をしていた。

「う、うん・・・・・・」

「告白はしたの!?好きだって!」

「そ、それは・・・・・・」

「何やってんのよ!せっかくドレス貸してお膳立てしたのに!」

「仕方ないだろ」

叫ぶフレイアに、荷物をまとめたクウァルが話しかける。

「空気読まない奴にことごとく邪魔されたんだ。気がそがれても仕方ない、ってほどにな」

「ああ、そう・・・・・・そういう連中はあらかじめ絞めておいたはずなのに・・・・・・」

恋愛の女神としては恐ろしげな発言をしているが、クウァルとセルスが固く笑う以外は誰もがスルーする。

「じゃあ、それが原因かな」

「えっ、何が?」

やって来たグリームヒルドに振り返ると、その後ろの光景が目に入りすぐわかる。

「クピド、アンテロス、カリテス!乙女の恋路をないがしろにした男を探し出してきなさい!」

「は、はい!」

怒り心頭のアフロディーテに、弓を携えた金髪の青年が強張った表情で答える。もう一人の青年も、侍女のカリテスたちも、慌てた表情で駆け出している。

「あっ、プシュケも連れて行っていいですか!?」

「好きになさいよ!」

クピドが歩いていくと、階段側で待っていた女性と話して屋敷を後にする。それを見送ったアフロディーテは、目を閉じて顔をしかめる。

「どうせ、プシュケとのデートを優先するんでしょうけど・・・・・・」

「相変わらずね・・・・・・」

固く笑ったフレイアに話しかけられ、アフロディーテは表情を緩める。

「ああ、フレイア」

「そんなんだと、『恋愛ヒステリック』って言われてた頃に戻っちゃうわよ」

「いつの話よ。誰が言ったのよ。それから放って置いて」

返すと共に頭を抑える。

「ディステリアのことだけど・・・・・・色々事情があるみたいだよ」

「だからって許せる範囲かしら?」

「色恋沙汰になると、やっぱり性格変わるよね」

肩を竦めたフレイアに、アフロディーテは眉を動かす。いつもだったら泣くか叫び返すかだが、自覚あるので肩を落とす。

「や、やっぱり・・・・・・?」

「あっ。そこ、落ち込むとこなんだ・・・・・・」



                      ―※*※―



屋敷の外に出たセルスとクウァルは、おもむろに空を見上げる。

「パルティオンに戻って、それからどうする?」

「正直、まだ決め切れてない・・・・・・戦いに巻き込まれて、それを引き起こした連中と戦って、あっという間に時間が過ぎて・・・・・・」

「終わって見るとこんな感じか。今までになかったな、こんな感覚・・・・・・」

「そうだね・・・・・・」

クウァルは並外れた怪力を制御できず、何を手伝おうと高い割合で壊す。そのため誰からも頼りにされなかった。荷物運びでさえ、お礼を言う者もいなかった。だから、『誰かのためにやり遂げる』ことはなかったし、達成感を得ることもなかった。

「ところで、ディステリアのことは・・・・・・」

「故郷で待つつもり。探せないし・・・・・・連絡は、取り合うかな?」

そう言って携帯電話を取り出す。いつもの任務でも、修行の合間でも世話になった、自分とディステリアをつなげるもの。ふと微笑んだセルスを、クウァルはジト目で見ていた。

「はいはい。仲がよろしいことで」

「そう言うクウァルは、フェルミナちゃんとはどうなの?」

思わぬカウンターに取っ手を握る手に余計な力が入り、へし折ってしまう。

「そういえば、フェルミナちゃんって自警団で活動してたよね?あそこ行く気?」

「・・・・・・ああ。幻獣種の力を持つ者に対して、扱いが悪すぎる」

デモス・ゼルガンク基地突入前のことを思い出す。フェルミナ一人に現場を任せ、応援もよこさない。情報操作で混乱してたこともあるだろうが、見捨てたとも取られかねない。

「ウソ、図星!?」

「何!?適当だったのかよ!?」

驚くセルスにクウァルが叫ぶ。



                      ―※*※―



エリウ国。朝早く〈名も無き島〉を発ったセリュードは、到着早々エオホズ王と面会していた。

「此度の一件、ご苦労であった。セリュード」

「はい。しかし、奴らが利用してきた歪みの根は深くあります。利用してきた者は倒しましたが、根本的な解決は何一つできていません」

「そうだな。全て終わったと思い込み放置すれば、また遠い未来に同じことが起きるかも知れん」

この島で起こった争いがきっかけとなり、アルスターとエリウ間の溝は埋まった。だが、それは良い方向に転換できたに過ぎない。

「課題は山積み、ということだな」

そう、何も解決してはいない。だが、それを埋め合わせるチャンスは失わずに済んだ。

「何はともあれご苦労だった。ゆっくりと休むといい」

「その間、この戦いについて色々まとめてよろしいですか?」

「構わないが・・・・・・まずは休め。そう簡単にまとまるものでもないだろう」

「はい、そうですね。ここを発つまでにはまとまらない。私が隠居するまででやっとでしょう」

『ここを発つ』という言葉に、エオホズは眉を寄せた。

「どういう意味だ?」











         ブレイティアとデモス・ゼルガンクの戦いは終わった。




この戦いがきっかけで明らかになった世界の歪み。それを知ったブレイティアの者たちはそれを忘れない。ある者は帰郷し新たな道を探り、ある者はそれを変えようと挑む。世界規模に広がったこの戦いがきっかけで変わろうとする動きが見られるが、全ての国もそうかと言えば、そうだと言い切れない。長い体勢を変えるのに踏み切れない国も多々あった。




それに平行して、事態収拾に動いたブレイティアを評価するものがいれば、ここまで事態が拡大した責任が誰にあるかを求めるものもいる。そんな暇があれば、もっと別のことに時間を割いて欲しいと思ったことだろう。さらにブレイティアに関して、ある措置が波乱を起こしていた。



                   メンバーを公開しない



ぜひとも知りたい者、名前を明かせない犯罪者と疑う者、何かの陰謀と勘ぐる者。世界の反応は様々で、同じだけ憶測が飛びかっていた。探ろうとする者もいたが、ブレイティアについての情報は全て神界に持ち出し封印された。それによりこれ以上人間界に洩れることはなく、飛びかった情報は全て憶測だと言い切れる。『英雄視、特別視させない』というクトゥリアの理念が実行されていた。それによりメンバーは・・・・・・










数日後。デモス・ゼルガンクの宣戦布告が行われた後、大きな騒動があった町の一つ。フェルミナとシェルミナを始めとした、幻獣の力を持つ者を集めた自警団の施設。ミーティングルームにフェルミならメンバーが集められていた。

「今日は、新しく入って来た者を紹介する。一人は隊員として動くが、もう一人は小隊長として動く」

「いきなり隊長?」辺りがざわめく。入隊試験で好成績を収めようと、推薦なしにいきなり隊長に任命されることはない。第一、扱いが悪いこの自警団に入ろうという物好きも珍しいと誰もが思った。

「紹介しよう」

前にいる男性が脇によると、隅から二人の人影が出てくる。それを見てフェルミナとシェルミナは目を丸くした。

「今日から世話になります、クウァル・ハークルスです!」

「セリュード・クルセイドだ。エリウ軍から移ってきたので、腕には自身がある」

「「よろしくお願いします!!」」



                      ―※*※―



任命式の後、シェルミナとフェルミナが二人の元にやって来た。

「クウァル、セリュードさん!久しぶり!」

「おう、久しぶりだな。フェルミナ」

挨拶を返した矢先、フェルミナはクウァルに抱き付いた。

「どうしたんですか?まさかこんなところに来るなんて・・・・・・」

「こんなところはないだろう。一応、街を守るための組織なんだから」

「こんなところですよ。立場も扱いも悪いし・・・・・・」

むくれるシェルミナに、「そのことだが」とセリュードが言う。

「その立場の悪さを改善するために来た。実際できるかわからないが、簡単に音は上げないつもりだ」

「つうか・・・・・・お前らの父親は、どういうつもりなんだ?」

「お父さんは色々支援してくれるけど、それでも理解してくれる人は少ないみたい・・・・・・」

クウァルの問いにフェルミナが答えると、「なるほどな」とセリュードが呟く。

「でも、クウァルたちが顔を出して大丈夫なの?一応、あの戦いを終わらせた英雄なんでしょ?」

「そのことだが・・・・・・」とセリュードがシェルミナに返す。

「ブレイティアの功績は、組織としての功績に留めてもらっている。そこのメンバーが誰かは公表してはいない」

「えっ、どうして・・・・・・?」

「英雄視されることで、俺たちの人生が狂わされることを考慮したんだと」

いまいち理解できないシェルミナとフェルミナだが、説明したクウァルのほうはよくわかっている。英雄として扱われ、特別視され、嫉妬され、自分自身を見られなくなり、周囲と孤立する。そうやって人生を狂わされた者もいると知っている。

「まあ・・・・・・幻獣の力を持つもので構成されたということは、公開されてるから・・・・・・ここの扱いが変わるきっかけになるかもな」

「ふーん・・・・・・」

そう呟き、フェルミナは少し期待を抱く。だが、クウァルと一緒にいられる嬉しさから、すぐそれを頭の隅に追いやった。



                      ―※*※―



パルティオン。そこにある喫茶店で、セルスはアルバイトをしている。彼女の働きようは評判を呼び、喫茶店は繁盛。付き合ってくれと頼む者もいたが、セルスはやんわりと断わった。

「セルス、また断わったの?」

「うん」休憩時間。同じウェイトレスが聞いてくる。

「どうして?セルス、キレイだからもてるのに」

「もしかして、もう心に決めた人がいるの?」

「うん」

「「えっ、誰々?」」と二人のウェイトレスが聞いてくる。

「時々連絡しかよこさず、あってもくれない唐変木よ」

すまし顔で答えたセルスに、ウェイトレス二人は少し呆気に取られた。



                      ―※*※―



とある町の港。

「今日は、これくらいか」

花や木の種の入った袋、苗木を入れた箱が積み上げられた小型船を、ユーリが見つめる。

「ごめん、ユーリ。ミリアちゃんとの時間取っちゃって」

「いいよ、いつもいるみたいなもんだ」

謝るリリナにユーリは笑って答えると、小型船からクルスが出てくる。

「恐会とやらの残党狩りは、うまくいってるか?」

「権力を取り戻した警察がとっくにやってたよ。それでも、まだまだいるみたいだよ」

とはいえ、ユーリもミリアもまかせっきりというわけではない。警察が動けない案件はパラケルを通じて二人が引き受け、白日の元に晒している。世間的には警察の手柄になっているが、ユーリは構わない。

「それにしてもいいのか?その苗木はみんな、育ちが悪いからって処分されるもんだぜ。植え替えて根付くかどうか・・・・・・」

「そういったこと知らないから。まあ、気長にやるわ」

固く笑ってリリナはそう答える。二人を乗せた小型船は、機能を停止した例の島へ向けて発進した。あの島は今エウロッパ近くにある。駆けつけた軍が計測やら捜査やら探索やら後処理を終え、得るものもなかったためか何も取らずに帰ったらしい。そうして荒廃した島に、リリナたちは宣言どおり木を植え始めた。

「やれやれ。数百年先、どうなるか・・・・・・」

その時、自分は恐らく生きてはいないだろう。ヴィーブルであるミリアとも、寿命の違いで死に別れることになる。だが、一緒にいることに後悔はない。そんなことを考え笑みを浮かべると、携帯電話が鳴った。

「もしもし、ユーリだ」

《ユーリ、パラケルから情報が着たわ。怪しい動きをしている集まりがあるの。証拠不足で警察は動けないみたいだけど、パラケルは証拠を用意してるわ》

「了解」

携帯を切り、ユーリは歩き出す。



                      ―※*※―



明け方のとある高原。登る前の朝日を臨み、二人の人影が丘の上に立っている。

「この世界は・・・・・・ソウセツが言ったように作り直さないですむだろうか・・・・・・」

「それはわからない。だがな、あいつらの言うことを認められなかった俺たちは、もう選んでいるんだ。後悔はできないさ」

「ああ、そうだな」

クトゥリアにそう答え、ディステリアは立ち上がった。

「・・・・・・ったく、この一ヶ月まとわりつきやがって。いい加減、卒業させろ」

「恐怖に揺らいで自分の気持ちを押し込めかけた奴に、一人前なことを言えるのか?」

「み、見てたのか?」

たじろぐディステリアに、「さあな」と肩をすくめた。

「・・・・・・折れるなよ。もし折れそうになったら、仲間を頼れ」

「ああ、わかってる・・・・・・」

頷いたディステリアの顔を見て微笑んだクトゥリアは、振り向いて手を上げた。

「じゃあな」

「ああ・・・・・・」

ディステリアも振り返り、立ち昇る朝日を見つめる。夜明けの空を睨み、伸ばした右手を握り締める。

「貴様の言ってたこと・・・・・・全て否定してやるよ!ソウセツ!!」

力強く決意を口にし、ディステリアは翼を広げて飛んでいった。







      

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