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幻想戦記  作者: 竜影
第3章
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第145話 エンディング・パーティタイム(後編)






聖域クルンテープの中心にある城の一室。ミカエルとウリエルとラファエルとガブリエルら4大天使が中心となり、様々な資料を整理していた。

「よろしいのですか、ミカエルさま?クトゥリア殿が主際する、パーティとやらに参加されなくて・・・・・・」

「行きたければ、別に止めはしない」

思わず聞いたドミニオンに返すと、ミカエルは手元の資料に目を通す。

「し、しかし・・・・・・ミカエルさまは大天使として我々をまとめてくださったので、少し休憩も必要かと・・・・・・」

「確かにそうだ。しかし、我々は世界の秩序を守るため、努力を惜しんではいけない。クトゥリア殿には悪いが、我々には平和を噛み締めている暇はない・・・・・・」

「はあ・・・・・・それはそうですが・・・・・・」

ラファエルの指摘にドミニオンが答えると、資料を挟んだファイルを棚に入れたウリエルが振り返る。

「しかし・・・・・・そのパーティには、魔界の勢も参加しているのだろう?」

「え?ええ、確かに・・・・・・」

ドミニオンが頷くとウリエルはあごに手を当てる。それを見て、ガブリエルがミカエルに目をやる。

「・・・・・・では、ブレイティアのメンバーを誘惑する悪魔もいるかも知れません」

「ミカエル、それを防ぐ意味もかねて行ってみない?」

ウリエルとガブリエルの意見に「わかった」と呟くと、ドミニオンを見る。

「ラグエルとカイリエルを呼んでくれ」

「!!!」

ドミニオンが慌てて部屋を出て行くと、三人は顔を見合わせる。

「パーティに浮かれてるお前らを、しっかりと引き締めてもらわなくては、な」

「・・・・・・・・・」

笑みを浮かべるミカエルに、三人は冷や汗を流していた。



                      ―※*※―



ブレイティアの基地として使われた屋敷の屋根の上に、一人ルシファーが座っていた。人間の姿でありながら、背中の黒い翼をしまいもせず、物思いに耽るように片膝を抱えて遠くを見ていた。

「なんだ、全ての悪魔と堕天使に恐れられている大魔王にも、悩みがあると言わんばかりの光景だな・・・・・・」

声のほうを見ると、こちらも人間の姿でありながら白い翼を隠そうとしない男性が降りてきた。

「ミカエル・・・・・・珍しいな。お前が息抜きとは・・・・・・」

「何。不器用な部下に付き合わされて、な」

「ハハハ」と笑ったルシファーから距離をとって、ミカエルは屋根の上に降りた。

「何を考えてた?」

「今回の件についてだ。敵が〈負の思念〉から生まれたとすればあれだけの数、人間だけでは到底ありえない・・・・・・」

「何が言いたい?」

「我々の・・・・・・天使や悪魔、神が持つ感情からも、作り出されたのではないか。そう考えてな・・・・・・」

「・・・・・・何気に我らを入れていることが気にかかるが・・・・・・こう思う時点で、可能性はなくはないか・・・・・・」

ミカエルも溜め息をつき、遠くを眺める。

「それだけか?」

「いや」とルシファーは首を振る。

「ここはいい場所だ・・・・・・かつてのエルセムのように・・・・・・」

「どうしたのだ?急に・・・・・・」とミカエルがルシファーに目を向ける。

「こういう場所を・・・・・・我らは守っていかなければならない・・・・・・」

「何を言うのかと思えば・・・・・・」と、ミカエルは溜め息をついて立ち上がる。

「そんなこと、お前に言われるまでもなくわかっている」

「そうか・・・・・・さすが、天界を治める大天使だ」

「〈転移の門〉をこの地につなぐか?」

「そうしておこう。だが、時が経てば、接続を切ったほうがいいだろう」

二人は立ち上がるとそれぞれ背を向けて、天界と魔界に帰って行った。

「ルシファーさま~、どこですか~」

そうとは知らないアスタロトは、一人寂しく魔界の大魔王を探していた。



                      ―※*※―



その下に当たる庭では、パーティから抜け出したディステリアが、夜風に当たっていた。

「・・・・・・やっぱり、ああいう場所は合わないな・・・・・・」

しっかり料理は食べてるし、ちゃっかり飲み物の入ったグラスも持っている。その時、後ろに気配を感じて振り返ろうとする。

「こんな所にいた」

それよりも早く声をかけられるが、どちらにしろ振り返る。淡い青のドレス姿のセルスが歩いてきており、庭に差す月明かりの影響か、いつもと雰囲気が違うように思える。

「どうした?いいのか?パーティーから席を外して」

「一緒に楽しみたい人が、どこかに行っちゃって・・・・・・」

「そうか。冷たいな。そいつは・・・・・・」

儚げな顔のディステリアの答えにムッと思ったセルスは、「あんたのことなんですけど」と言いたかったが、月明かりの中にたたずむ彼の姿にドキッとした。それをきっかけに、彼女の鼓動が早くなり始めた。

「それにしても・・・・・・ブリュンヒルドはいつのまにそんなドレスを・・・・・・」

「・・・・・・注文したのはフレイアなんだけど・・・・・・」

呆れ顔のセルスにディステリアは目を丸くする。その顔がおかしくてセルスが笑うと、最初は戸惑っていたディステリアもつられて笑い出した。

「アハハ。なんか、こんなに笑ったの、久しぶり・・・・・・」

「ハハハ、そうだな。ここのところ、きつい戦いばっかりだったからな・・・・・・」

存分に笑うと互いに視線が交わる。辺りには誰もおらず、静寂に満ちている。言うなら今しかない。

「約束だったな・・・・・・」

「うん・・・・・・」

三年前に言おうとしたこと、全てが終わってから話す。あの時の気持ちは、ディステリアもセルスも変わりない。それを口に出そうとした時、激しい頭痛と共に何かがフラッシュバックする。

〔キサマニ・・・・・・イルベキ―――バショハナイ・・・・・・〕

「・・・・・・・・・邪魔をするな」

思いを伝えたい。その一心で、頭に響く声に抗う。

〔オカスノダ!アラガエナイノダ!ソレガシンジツダ!〕

「・・・・・・・・・黙れ」

セルスを怒鳴らないように声を抑え、頭を抑える。

〔オモイガツナガレバ、キサマノエイキョウリョクハ、ソノオンナニウツルゾ!〕

「っ!?」

思わぬ脅迫の言葉がディステリアの思いを揺るがせる。もしこの声が言ってることが真実なら。この思いにウソはない。それゆえに、伝えればセルスを巻き込んでしまう。

「(そ、そんなことは・・・・・・)」

〔ノゾメルノカ?マキコメルノカ?ナラツタエルガイイ!キサマノエゴノセイデ―――ソノオンナノミライガキエル!!〕

「ぐっ・・・・・・!」

「ディ・・・・・・ディス・・・・・・テリア」

恥ずかしさを堪えながら、セルスは彼を呼んだ。抗っている間、セルスに先を越されてしまった。

「わ・・・・・・私・・・・・・私・・・・・・」

「セルス!!」

大きな声を上げて言葉を遮る。確証などない、不確かな情報に揺らされる自分に腹を立てる。だが、もし真実なら、という不安が、強固だったはずの決意を崩し始めた。

「すまない・・・・・・」

「えっ?」

顔を上げたディステリアは黙って首を振る。それを見たセルスは、彼が何を言おうとしているのか見当がついた。

「悪いが・・・・・・俺は・・・・・・」

「そっか・・・・・・それって、三年前も同じ?」

「いや、あの時とは違う」

「じゃあ・・・・・・うん。わかった」

「(すまない・・・・・・)」

そう思いディステリアが立ち去ろうとすると、突然誰かに腕を掴まれた。顔を上げると、とても厳しい顔のクウァルが腕を掴んでいた。

「どこへ行くんだ・・・・・・」

彼が怒りを抱いているのはすぐわかったし、ディステリアにはその理由も見当が付いていた。だが彼は、それに答えることができなかった。

「最後まで、聞いてやったらどうだ・・・・・・」

「・・・・・・できない」

「なぜだ!!」

答えたディステリアにクウァルが叫ぶ。悲しそうな顔をしていたセルスが止めようとするが、それに構わずクウァルはディステリアを睨んでいる。

「俺は・・・・・・この世界の奴らにとって異分子だ。これから先、俺と係わり続ければ、お前らにも迷惑が・・・・・・」

「もっと自分の気持ちに正直になれよ!!」

たまらなくなったクウァルが叫ぶと、ディステリアの胸倉を掴む。そのまま殴るのではないかと心配したセルスが止めようとするが、セリュードが両者を抑える。

「どうしちまったんだ!?お前の気持ちはそんなことで・・・・・・三年くらいで変わる程度のものだったのかよ!?」

「そんなわけないだろ!!」

叫び返したディステリアにクウァルが目を見張る。

「だが、ダメなんだ・・・・・・俺と一緒にいたら、みんなが・・・・・・ずっと近くにいたセルスたちに、もう・・・・・・」

「どういう意味かさっぱりわからん」

「妙だな」とセリュードが口を出す。腕組みして近付く彼の表情は、納得がいかない様子だった。

「良くも悪くも真っ直ぐだったお前が、今は自分の気持ちを捻じ曲げようとしている。パーティが始まる前も、らしくないことを言っていた」

知らなかったセルスとクウァルが目を見張る。視線を逸らしたディステリアに、セリュードが聞く。

「何があった・・・・・・?」

「話してくれない?」

「ああ・・・・・・」

手を話したクウァルとセルスに促され、ディステリアは話し出した。

「ソウセツが言ってた。俺は、この世界に取って異分子・・・・・・滅ぼせるほどの素養があると。奴にデモス・ゼルガンクを作る力を与えた奴は、次に俺を引きこもうとしている」

「待て、どういうことだ!?ソウセツが黒幕じゃなかったのかよ!?」

「ソウセツはデモス・ゼルガンクの首領。それは間違いなかった。だが、そいつに力を与えた奴がいる。そして恐らく・・・・・・そいつが次に目を付けたのは、俺だ」

ソウセツが話した、天魔界が滅んだ原因、ソウセツの過去。だが、思いを伝えたら自分の体にある『世界の断わりを歪める力』が移ることは伝えない。怖くて伝えられない。それ以外のことを掻い摘んで説明した。

「本当なのか?」

「わからない」

「わからないって、お前な!!」

弱々しく首を振るディステリアにクウァルが掴みかかろうとするが、セリュードがそれを抑える。少し落ち着くと、クウァルは大声を上げる。

「それが本当だったとしても・・・・・・お前は俺たちが・・・・・・そんなことを気にすると思ってるのか?俺たち仲間だろ!!」

「だが!!理想を通せるほど、世界は単純じゃない。この戦いの中で、俺たちはそれを見せ付けられた。ソウセツがそうだったように・・・・・・」

「お前とソウセツは違う」

「今はそうかもしれないというだけだ。それにこうやって話して、奴が言った世界を歪める力が移ってないという保障はない!」

「そんなものがあるという保障もないだろ!」

「そ、それは・・・・・・」

クウァルの指摘にディステリアが黙り込む。重苦しい沈黙の中、セルスが口を開く。

「それでも・・・・・・」

震える声で切り出したセルスに三人が視線を向ける。

「それでも私たちは・・・・・・もがき続けられるはず。理想を叶えるために・・・・・・自分たちが納得できる答えを掴むために・・・・・・」

退き止める時にクウァルが掴んでいた腕を、セルスが優しく包み込む。

「『世界の断わりを歪める力』?『思いを伝えたら移る』?受けて立つわ・・・・・・そんなものに、私とディステリアの邪魔をして欲しくない」

「セルス・・・・・・」

「一緒に変えよう?この世界を。できる範囲でも、少しずつでも。みんなが一緒に、幸せに暮らせるように。『無理だ』と言われても、『絵空事だ』と笑われても、私たちが諦めない限り、ずっと足掻き続けよう」

「そういうことだ・・・・・・」

「足掻ける所まで足掻く。それが、この戦いで俺たちが掴んだ強さだ」

クウァルとセリュードが頷く。

「だから聞かせて。あなたの本心。三年前の思いが変わらないなら・・・・・・隠さず、ごまかさず・・・・・・」

パーティ前のセリュードの言葉を思い出す。自覚できなかった仲間とのつながり。それを今感じ取ることができ、思わず微笑む。

「(俺は・・・・・・バカだな・・・・・・)」

自分がおかしくて笑う。そして思い出す。偽りない本心と真っ直ぐな思い。それを目の当たりにしたディステリアは、迷いを捨てた。

〔バカガ・・・・・・ウラギラレ、ゼツボウスルゾ!!〕

「(そうやって不安を煽られ、俺は揺らいだ・・・・・・まったく、我ながら情けない・・・・・・)」

〔キサマノココロハテニトルヨウニワカル・・・・・・キボウトシンライヲオイタキサマノココロガ・・・・・・〕

「(ならわかるだろ。消えろ・・・・・・二度と俺に声をかけるな!!)」

〔オノレ―――!シノマギワニ―――コウカイスルトイイ・・・・・・!!〕

絶叫した声を最後に、その気配が消える。いや、元から気配などなかったのだが、何を以って『消えた』と判断できるのか、ディステリアにはわからなかった。ただ確証のない確信がある。邪魔者がいなくなって、心躍ってるからかもしれないが。

「もう、迷わない・・・・・・」

小さく呟き、揺らいでいた思いを固め、覚悟を決めた。クウァルはいつの間にか去っており、残ったディステリアとセルスが互いを見詰め合う。

「セルス、聞いてくれるか・・・・・・」

「ディステリア、私も・・・・・・」

「「俺は/私は・・・・・・」」

なんと答えたのかは、その場にいた二人しか知らない。























となるはずが、こちらが真相。

「ルシファーさま~・・・・・・もう帰っちゃったのか?ルシファーさま~!」

雰囲気ぶち壊しのアスタロトが一名クウァルに締められたが、それを知るのは数えるほど。しかも雰囲気をぶち壊しにされたため、またお流れとなってしまった。



                      ―※*※―



深夜、日にちが変わってそう間もない時刻。それぞれの部屋のベッドでセルスや仲間たちが眠っているそんな中、ディステリアは起きた。

「すまない、セルス。俺はもう・・・・・・決めたんだ」

部屋にかけてあったコートを身にまとうと、静かにドアに向かった。そして・・・・・・。

「・・・・・・ありがとう」

それだけ言うとディステリアは部屋後にした。拠点であるこの場所からも去ろうと玄関に向かい、その扉を開けようとする。

「黙って出て行くつもりか?」

玄関を出ようとして呼び止められ、ゆっくり振り向いた。柱の影から、呆れた表情のクトゥリアが姿を見せた。

「クトゥリア・・・・・・」

「やれやれ、この期に及んで呼び捨てか。一応俺は、お前の師匠なんだぞ・・・・・・?」

「威厳も何もありませんけどね」

「ありゃりゃ、それを言うか・・・・・・」

苦笑し、頭をかきながら近付くと、ディステリアに目を向けた。

「あとで付き合え、って言ったよな。ちょっと趣向は変わったが、一緒に来い」

「俺についてくんだろ?」

「ふっ。鋭くなって」

笑みを浮かべたクトゥリアとディステリアは、屋敷を後にした。






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