第144話 エンディング・パーティタイム(前編)
屋敷の中庭に出たディステリアは、呆然とした表情で歩いて行く。外は夕焼けで、空は黄昏色に包まれていた。
「(終わった・・・・・・んだな・・・・・・)」
実感が薄く、何も感じない。みんなは仲間が生還した喜びに舞い上がっていたが、ディステリアはそんな気分になれなかった。死に別れた者はみんなそうなのだろう。と言いたいが、ディステリアが感じていたのは・・・・・・
「(よくわからないな・・・・・・なんで、こんなこと思うんだ・・・・・・)」
心を満たす虚無感。憑き物が落ちたとか、燃え尽きた、という表現が当てはまるのか。五年近くにも及ぶ長き戦いが終わったことをかみ締める場に彼の居場所はないというような感覚。
「(なんで・・・・・・そう・・・・・・思うんだ・・・・・・?)」
全力を出し切ったためか、頭が回らず何も考えられない。せっかく終わったというのに、まだ何か難しく考えることを頭が拒絶しているのか。
「(いや、そう難しくないはずだ・・・・・・)」
一瞬思ったことを否定し考えてみる。自分がなぜ、あの場にいることが場違いだと思ったのか。思い返してみる。共と抱き合い、肩を寄せ合い、共に生きている実感を覚えている。だが、その中にディステリアはいない。自分にとって都合よくできる想像の中ですら、思い浮かべることができない。
「(そうか・・・・・・知らないんだ・・・・・・)」
やるべきことをやり遂げ、その喜びを分かち合う。誰かにとって簡単とも思えることをディステリアが知らなかった。だから、場違いだと考え居心地が悪かったのだった。
〔ワカッタカ!?〕
「―――!?」
ソウセツを倒した後、自分を引きずり込もうとした声が響く。ただし、意識を持つ感じがしたあの声と違い、無機質な感触が強い。
〔オマエハ―――コノセカイニイルコトハ、デキナイ〕
「なんだと・・・・・・なんだ、お前は」
〔キサマヲノガシタケイヤクノ、ザンショウダ。キサマニ、シンリヲ―――ツタエル〕
「黙っていろよ」
〔テンシト―――アクマノ―――チハ、マジワラナイ。ソレガ―――ナリタッテイル―――オマエハ・・・・・・イブンシダ。ソンザイスルダケデ、セカイノコトワリヲ―――オカス〕
「そんなこと・・・・・・」
〔ナケレバワレノコエハキコエナイ。ザンショウスラ―――ツカナイ。キサマガセカイニアワナイ、アカシダ!〕
「―――っ!!」
思わず目を見張り、息が詰まる。
―※*※―
「ディステリアの奴、どこ行ったんだ・・・・・・?」
落ち着いてきた広間を抜け出し、セリュードはディステリアを探していた。彼がいなくなったことはクウァルとセルスにも教えており、入れ違いになることを考えてセルスを残し探しに出た。話を聞きつけたクルス、クドラ、リリナとルルカも手伝ってくれている。
「ったく。最後の最後まで世話焼かせやがって!!」
そんな愚痴を言うクウァルに苦笑しつつ探している。やがてセリュードが、基地の庭で一人たたずんでいるディステリアを見つけた。
「どうしたんだ?ディステリア・・・・・・・」
戦友の声に振り向いたディステリアの目からは、涙が流れていた。
「泣いて・・・・・・いたのか・・・・・・?」
セリュードは思わず聞くと、ディステリアは再び空のほうを向いて気付かれないように涙をぬぐった。
「・・・・・・冗談。あの中には・・・・・・俺の居場所は無い」
彼らしくない弱気な発言に、不思議に思ったセリュードは眉を寄せながら近寄る。
「どうしたんだ、突然?」
「俺・・・・・・この戦いは早く終わってほしいと思った。この戦争のせいで、悪魔だった父さんも天使だった母さんも死んだ。俺の他にも、俺と同じ思いをした人が何人もいた・・・・・・」
初めて聞いた話に、正直面食らった。考えてみれば、今までディステリアの過去など聞こうとしなかった。やるべきことが多すぎて他に気が回らなかったし、人の心の傷に土足で踏み入ることもしたくなかったため、今日まで聞く機会がなかった。
「そうか・・・・・・そうだな。戦いが起きれば人が死ぬ。規模が大きければ大きいほど、長引けば長引くほど、その確率もでかくなる。思って当然なんだな・・・・・・」
「でも・・・・・・」
続けられた言葉が気になり、セリュードは下に落としていた視線を思わず上げる。
「心のどこかでは、終りなんて望んでなかったのかもしれない」
「・・・・・・意味がわかりかねるな」
思わず聞き返す。この戦いが終わることを最も望んでいたのは彼自身。少なくともそう思っていた。それが今目の前で、当人の口によって否定される。戦いに疲れた者が自分を見失いかける可能性を危惧し、思わず表情を険しくして聞き返す。
「この戦いが終われば、俺がここにいる意味も理由も無い。俺はまた・・・・・・・独りだ・・・・・・」
「はあ・・・・・・らしくない言動が続くかと思えば」
溜め息をついたが、セリュードは呆れているわけじゃない。彼は『戦いが終わった後の空気』を知らないだけ。だから対応できない、ただそれだけ。それがわからないセリュードではないし、目の前にあるものに気付いてないだけの奴に非難じみた説教をするほどバカではない。
「その様子だと忘れてるな。独りじゃないだろ」
「えっ?」と、思わずセリュードのほうを振り向く。
「今は俺たちが・・・・・・仲間がいるだろ」
「この戦いが終われば、また元の町に戻るのだろう。そうなったら、バラバラだ」
「そりゃそうだが、肝心なことが抜けてるぞ」
やっぱりと思いつつ指摘するセリュードに、指差されたディステリアは目を丸くする。
「離れたらそいつらのことを忘れる、って訳じゃないんだ。そりゃ変わる時は変わるさ。忘れることだってある。だが、俺たちのつながりは、そんなやわなものか?」
「!!ああ・・・・・・」
満面の笑み、とまではいかないが、ディステリアの顔に少しばかり笑顔が戻った。
「これから追悼式と、それからパーティーが行われるんだ。お前も参加しろよ」
「わかった。気が向いたら行く」
それを聞いて、セリュードはそこを後にしようとした。ふと立ち止まり、再びディステリアのほうを向いた。
「あ、そうそう。セルスがそこで、話あるらしいんだ。必ず出ろよ」
「セルスが?なんだろう?わかった、しばらくしたら行くよ」
それを聞き、「待ってるぞ」というと、セリュードはその場を後にした。
―※*※―
いくつもの料理が乗った、いくつものテーブルが置かれた厨房。出来立ての料理だが、コックたちは一時調理の手を止めている。同じ頃、広間にはパーティに似合わないほど重苦しい沈黙に置かれていた。
「・・・・・・これから先、未来永劫、このような悲劇が起こらないよう、我々は努力していかなければならない。それは簡単なことではない。今までの歴史がそう語ってすらいる」
ゆえにソウセツは失望し、デモス・ゼルガンクを作り上げ世界を無に返そうとした。支える仲間を失ったからこそ道を踏み外し、引きとめてくれる者がいないからこそ気付かなかった。
「道を間違えたのが我々なら、立ち位置も違っていたかもしれない。それを忘れてはならない。この戦いで、犠牲になった者たちのためにも。この世界の未来のためにも・・・・・・。犠牲になった者たちの冥福を祈ろう・・・・・・」
それから広間は、長い黙祷の間沈黙に包まれた。
「・・・・・・我々は誓わなければならない。この世界で起きている争いを終わらせること。そして、平和を一日でも長く続けさせることを・・・・・・」
長い沈黙の後、クトゥリアは目を開けた。
「さて、パーティまでまだ時間を有す。それまで楽にしていてくれ」
クトゥリアがその場を後にすると、全員雑談を始めた。
「少しばかり不謹慎だったかな・・・・・・」
心配そうなクトゥリアに、「かもな」とアウグスが答える。
「パラケルは?」
「子供たちの所だ。情報屋としての力を総動員して、はぐれた親を探している・・・・・・」
「こんな時くらい楽しめばいいのに・・・・・・」
「そうも、行くまい」と後ろから声をかけて、パラケルが現れる。
「今日も十数人ほど見つけたが、まだ八十倍以上は残っている」
「休む気はないんだな」と聞くアウグスに、黙って頷く。
「子供にとって一番心が休まる場所は親の側だ。どれほど時が経っても、そうであって欲しいと願わずにはいられない・・・・・・」
「そうだな」と、クトゥリアはすまなそうな顔になる。
「・・・・・・その悲しみは、お前が一番理解してるしな・・・・・・」
クトゥリアがそう言うと、パラケルは料理が運ばれてくる広間に目をやる。おいしそうな料理を見て、空腹感を覚える。
「明日から手伝うから、今日は楽しませてくれ・・・・・・」
「ああ」と答えたパラケルに、「すまないな」とクトゥリアが申し訳なさそうな顔で謝る。
「バカ言うな。お前だって急がしかったんだ。当然の資格だ・・・・・・」
テーブルに置かれた料理のいくつかを取り、パラケルは広間を後にした。
「あっ、おい!まだパーティは始まってないのに!」
「夜食だ、夜食。こちとら徹夜のつもりだ」
広間を後にするパラケルに、アウグスも付き合うべく手近な料理を皿に取り、後に続いた。
「クトゥリアさん・・・・・・つまみ食いをやめさせてください・・・・・・」
「うおっ!?す、すまない・・・・・・」
ヴァルハラから足を運んだ料理人、アンドフリームニルの一人が泣きそうな声で頼んでくると、クトゥリアは驚くと共に謝った。
―※*※―
丸いテーブルの上に様々な料理が載せられ、バイキング形式で食べるようになっている。本当は各自出された料理を食べるようにしたかったのだが、テーブルの数が足りずこの形を取るしかなかった。そんな広間を見下ろせるテラスから、そこを見回すクトゥリアがグラスを掲げる。
「・・・・・・まずは、我々の戦いが終わったことに、乾杯」
「「「「「乾杯」」」」」
全員でないにしろ、グラスを持って声がするとパーティが始まった。
「ジークフリート・・・・・・」
椅子に座って料理を食べているジークフリートが振り返ると、ブリュンヒルドとドヴェルガーの一人アウルヴァンディルが歩いて来ていた。
「グラムにひびが入っていたでしょ。パーティの後でいいから直して・・・・・・」
「ああ。グラムは直さないでおくよ」
立ち上がったジークフリートに、「えっ?なんで?」とアウルヴァンディルが驚く。
「・・・・・・一つは戒め。もう一つは・・・・・・願掛け、かな・・・・・・」
「東洋のまじない?なんのだ?」
フッと笑い、アウルヴァンディルのほうを見る。
「―――『グラムを超える名剣が生まれた時、いい使い手に恵まれるように』」
「・・・・・・似合わないくらいロマンチストね」
ブリュンヒルドの言葉に小さくともショックを受けたが、持ち直したところでふと疑問を浮かべる。
「ブリュンヒルド・・・・・・なんでドレス?」
「・・・・・・大体わかるでしょ?原因は」
淡いグリーンのドレスを着たブリュンヒルドが頭を抱えると、ジークフリートは目を細めて納得した。
「お前やグリームヒルドに留まらない、ようだな・・・・・・」
「ええ。はっちゃけちゃってて・・・・・・」
そのグリームヒルドは、生前貴族の付き合いがあった経験を持っているため、割とすんなり受け入れている。その向こうでは、黒のドレスを着たリリナと青いドレスを着たルルカが顔を真っ赤にしていた。そんなリリナとルルカに、パーティ会場の中を動き回っているフレイアが話しかける。
「どうしたの、そんなところで?縮こまってたら、彼氏との時間を逃しちゃうわよ」
「そ、それは・・・・・・で、でも・・・・・・」
「フレイアさん。私、彼氏って言える人いないんですけど?」
挙手をしたルルカが聞くと、「あれ?クドラじゃないの?」と聞き返される。
「違います」
「じゃあ・・・・・・クトーレくん」
「違います」
「じゃあ、彼氏は愚か、好きな人いない!?」
「え、ええ。今のところ・・・・・・」
目を逸らして答えると、「もったいない!!」と肩を掴まれた。
「じゃあ、このパーティで彼氏を作ろう!」
「えっ・・・・・・えっ!?凱旋パーティなのに合コンの真似なんて・・・・・・」
「それは人間の感覚、私たち髪には無縁なものよ。そうと決まれば・・・・・・」
手を掴んだフレイアはそのまま人込みの中に行く。掴まれたのはルルカではなく、フリルの付いた赤いドレスを着たミリア。料理を取っていたらユーリとはぐれたのでどうしようと途方にくれルルカに助けを求めようとしたら、彼女に間違われて引っ張られて行った。当然、表情は慌てている。
「(ごめんね~、ミリアちゃん・・・・・・)」
「とりあえず、変な誤解されないためにクルスたちの近くにいよう?」
「えっ?でも、その姿見られるのよ。恥ずかしくないの?」
「うん・・・・・・ちょっと慣れてきたし、クルスにならいいかな、って」
「はいはい。ごちそうさま・・・・・・」
面倒くさそうな顔をすると、「料理食べてないのに?」と首を傾げられた。
―※*※―
「お前らは、これからどうするんだ」
服の下に包帯を巻いたクトーレの質問に、クルスとクドラは顔を見合わせる。彼ら三人はすでに料理を取り終え、席について食べている。
「そうだな・・・・・・特に決まってはいないが・・・・・・」
「クドラは決まってないのか。俺は・・・・・・〈ルマーニャ〉を作り直そうと思ってる・・・・・・」
「えっ・・・・・・あんな組織どうして・・・・・・」
ルルカの声がして振り返ると、三人は料理を噴き出しそうになった。当然ルルカは気分を害し、先ほどしかめていた顔が不機嫌そうになる。
「どうせドレスは似合わないですよ」
「そうじゃなくて・・・・・・」
「いきなりで驚いた。フレイアだな・・・・・・」
表情を引きつらせるクドラと溜め息をつくクトーレ。クルスは側に座ったリリナを見て、互いに恥ずかしそうに視線を落としていた。
「あっちは置いといて・・・・・・何話してたの?」
「これからのこと」
クドラが答えると、「ああ・・・・・・」と頷く。
「クルスはなんで、あんな組織を立て直そうと?」
わざとらしく食う気を壊したルルカだったが、逆にそれがよかったらしく、顔を赤くしていた二人は何事もなかったかのように顔を上げた。
「・・・・・・リリナやクドラのように、人間として暮らそうとしている吸血鬼だっていると思う。俺はそんな人たちの手助けができたらと・・・・・・」
「無理だな」
「うっ、やっぱり・・・・・・」
野菜を噛みながら言い切ったクドラに、結果がわかっていたかのようにクルスは落ち込む。レタスを飲み込んだクドラは、持っていたフォークを振る。
「俺やリリナは例外と言ってもいいんだ。考えなしに言ってたら、周りに叩かれるだけだ」
現実的な意見を言い、クドラは皿に取っていた料理を口に詰め込む。そもそも〈ルマーニャ〉はクルスを残しメンバーが全滅。周囲に圧力をかけていたリーダーが死んだのを機にやり方が問題視され、解散が検討されている。良識的な考えの持ち主であるクルスが、元〈ルマーニャ〉のメンバーだとばれているにも拘らず、だ。
「まだ決まってないんだろ?思うだけなら自由だ」
フォークを置いたクトーレが言うと、「私は・・・・・・」と今度はリリナが言う。
「私は・・・・・・あの島に木を植えたいと思ってる」
「あの島って・・・・・・デモス・ゼルガンクの基地だった島?」
頷くリリナに、「冗談だろ」とクルスが言う。
「あの島は移動のためか、小島くらいの大きさだがそれでもそれなりにあるぞ。そこ全部に木を植えるなんて・・・・・・」
「うん・・・・・・だから、決めたの。私・・・・・・『真祖』としての力を解放してもらう・・・・・・」
「それは・・・・・・」とクドラが言いかける。
「確かにそれなら、寿命の制限はなくなる・・・・・・と言いたいが、吸血衝動や真祖の力を抑える薬の影響で不死というわけにはいかくなっているだろう。千年・・・・・・もって五百年・・・・・・しかし問題はそこじゃない。寿命を全うするまでの孤独に、君が耐えられるかどうか・・・・・・」
意味深な言葉と共に、クトーレの表情が曇る。
「・・・・・・孤独は心を破壊する・・・・・・」
そうやって大志を抱いた者は心を折り、精神を擦り減らしていく。後悔し、同じものに挑もうとする他者をあざ笑い、否定する。寿命が違う種族間では珍しくない現実。心無いもの、事情を知らないものからは化け物と呼ばれることも一因だろう。その苦しみを知らないゆえか、それとも決意ゆえか、同じ道をリリナは歩もうとしている。
「まあ、ゆっくり考えるべきだ。言うも思い描くも、やるもやらないもそいつの自由だ」
「うん」
クトーレの言葉に頷いて料理を食べようとすると、クルスが顔を向ける。
「リリナ。本気なんだな?」
「うん」と答えると、クルスも覚悟を決める。
「じゃあ、俺も付き合うよ」
「えっ・・・・・・でも・・・・・・」
フォークを上げたクルスの言葉に、リリナが振り返る。
「クルースニクは転生を繰り返し、クドラクと戦い続ける。なら俺は、リリナのために転生を続ける・・・・・・」
リリナは嬉しくなったが、その言葉を飲み込んだ。
「だめだよ、そんなの・・・・・・。クルスには、クルスの夢があるでしょ。私なんかに付き合って、それを捨ててほしくない・・・・・・」
「正直・・・・・・俺には夢なんてなかった」
考え直してもらおうとするリリナに、クルスがおもむろに口を開く。
「毎日、毎日ヴァンパイアを倒すための訓練をするばかりで・・・・・・いつの間にか、将来の夢すら忘れていた。でもそれを、クドラやルルカ、ここにいるブレイティアの仲間たちが思い出させてくれた。その中にはリリナ、君も入っているんだ・・・・・・」
クルスはリリナに近づくと、彼女を抱きしめた。
「お前を一人にしない。お前の心・・・・・・俺が守ってみせるよ・・・・・・」
「クルス・・・・・・」
クルスが放すと、リリナはクルスの顔を見上げる。
「仕方ないな。じゃあ、約束して。私を悲しませないって・・・・・・」
「ああ」と答えると、リリナの唇に自分の唇を重ねた。
「・・・・・・!?」
最初は驚いて目を見張ったが、クルスが離れると赤くなった顔で彼を見ている。
「・・・・・・いきなりキスするなんてひどいよ、クルス」
「あっ、悪い・・・・・・いやだった・・・・・・よな・・・・・・」
「ううん・・・・・・でも・・・・・・人目が、ね・・・・・・」
そう言われ、焦った表情で周りを見る。周りで気付いているものはいなかったが、それはすぐ近く、しかも目の前にいた。
「大丈夫だよ。話に夢中で、誰も見てはいない」
「私たち以外はね。ごちそうさま」
クドラとルルカの冷やかしに、二人は顔が赤くなった。
「・・・・・・ちょっと・・・・・・夜風に当たってくる・・・・・・」
「・・・・・・私も・・・・・・付き合うよ・・・・・・」
会場を出ていく二人を見送り、不思議そうな顔でクドラを見る。
「クルスって、周りが見えなくなるタイプだっけ?」
「いや・・・・・・クトーレ、何か仕込んだんじゃないか?」
ギクッ、と固まったクトーレに、二人は溜め息をついた。
―※*※―
「(・・・・・・夢・・・・・・か・・・・・・)」
クルスとリリナのキスシーンを目撃した数少ない目撃者のユーリは、その様子を横目で見ながら飲み物を一口飲む。ふとミリアのことが思い浮かぶ。
「・・・・・・・・・」
「どうしたの?」
聞いてきたミリアに「ん~?」と返し、口に入れたフォークを弄ぶ。丸テーブルに体重をかけている状態で、すっころんでも危ないのでミリアがフォークを抜き取る。
「・・・・・・ユーリは、さ。故郷に帰ったらどうするの?・・・・・・っていうか、帰る気あるの?」
「う~ん」と返したユーリに、「もう・・・・・・」と溜め息をつく。
「・・・・・・恐会の残党狩り・・・・・・」
「えっ・・・・・・」
「―――教会組織の改革、再構築。やることはたくさんのあるだろうな・・・・・・」
「そっか・・・・・・私にも手伝えないかな・・・・・・」
「ない」と即答したユーリに、「ええっ!?」と泣きそうな声を上げる。
「アハハ、嘘だよ。ただ・・・・・・俺を待っててほしい・・・・・・」
「えっ・・・・・・?」
聞き返したミリアに、「な、なんでもない!」と叫んだ。
「・・・・・・変なユーリ・・・・・・」
ミリアに背を向け、「(本当におかしいぞ、俺)」と顔を抑える。
「(・・・・・・まさか、アルコール・・・・・・なわけないか。クトゥリアは酒嫌いだって聞いてるし・・・・・・)」
場酔いと結論付け、ユーリはグラスに残っていたジュースを飲み干した。
「失礼。ルシファーさまを知らぬか?」
「ん?あんた。確か・・・・・・アスタロト」
話しかけていた悪魔を見てユーリが聞くと、アスタロトは頷く。
「覚えていたのか」
「まあね。ルシファーって、魔界を治めてる大魔王だろ?俺は見てないぜ。ミリアはどうだ?」
グラスを手に取ったミリアは、黙って首を振った。
「・・・・・・すまない。知らないらしい・・・・・・」
「いや。こちらこそ、興を削いで悪かった」
会釈して立ち去るアスタロトに、「はあ・・・・・・」と呟いてユーリは見送った。
「そういえば、天使の連中も見かけないな。出てないのか・・・・・・?」