第143話 長き戦いの終焉
「!?」
気が付くと、ディステリアはソウセツと戦っていた場所に戻っていた。
「さっきのは・・・・・・いったい・・・・・・」
ふと、息絶えているソウセツのほうを見る。
「(お前も・・・・・・利用されていただけ、だとでも言いたいのか!?)」
身勝手さに怒りが湧き上がる。その時、
「あなたもいたのですか、クトゥリアさん!?」
「いちゃ悪いんかい!・・・・・・と言いたいところだが、まあ悪いわな・・・・・・」
最終局面とはいえ、司令室をほっぽりだして出てきてしまったのだ。『司令官失格』と文句を言われてもこちらは何も言えない。もっとも、最初から最後まで司令室にいる司令官もどうだろうか。
「(ん?)」
ふと引っかかる。〈天魔の具足〉をまとった時に聞こえていた声。あの声の存在が自分を、ソウセツかあるいはそいつと契約していた存在が作り出したであろうあの空間から助け出した。だが、その前に自分を引きとめた声。その正体がいまだ掴めていない。
「(聞き覚えは・・・・・・あったんだ・・・・・・)」
だがその感覚すら、今は霞がかかったようにハッキリしない。この感覚、まるで先ほどまで見ていた夢の内容を覚えていないかのような。
「どうかしたのか?」
クトゥリアに声をかけられ、ハッとする。
「なんでもないです。ともあれ、ご無事で何よりです」
「えっと・・・・・・社交辞令?」
「そんなの習っていないし、言えるほど起用じゃありませんよ」
思わず引くクトゥリアに、呆れた視線を向けてディステリアが答える。
「お~い、ディステリア~」
聞き覚えのある声に後ろを見ると、仲間たちが走って来ていた。
「無事だったか?」
最初に聞いてきたセリュードに、「あ、ああ」と抑揚のない声で答える。
「とうとうやったな」
「あ、ああ」とクウァルに答える。
「どうしたの?元気ないけど・・・・・・」
「あ、ああ。大丈夫だ。なんでもない」
心配そうな顔のセルスにディステリアが答えると、クトゥリアが大きく手を叩く。
「じゃあ、仕上げと行くか」
「「「えっ!?クトゥリアさん、いたの!?」」」
「いちゃ!・・・・・・悪いよな、すまん」
驚いた三人に突っ込みかけ、クトゥリアはそれを抑えて頭をかいた。仕切り直しと言わんばかりに、ディステリアが声をかける。
「じゃあ、気を取り直していこうぜ」
「ああ、この戦いを終わらせるための、な!!」
セリュードの言葉に力強く頷いた四人は、その場から立ち去った。その後、倒されたはずのソウセツが喋り出した。
「・・・・・・変わらないよ・・・・・・この世界が・・・・・・消えない限り・・・・・・」
「それはどうかな・・・・・・?」
一人その場に残っていたクトゥリアは、ディステリアたちが向かって行ったほうを見たまま小さく言った。
「彼らが忘れず、折れず、伝えていったら・・・・・・もしくは」
「それが無駄ということは・・・・・・俺たちがよく知っている・・・・・・そう、お前も・・・・・・」
そう呟くと、ソウセツの体は跡形もなく消えた。
「いつしか君は絶望と醜さ、俺は希望と美しさしか見えなくなった。その時点でもう、道が交わることがないのだろうな」
そして、擦り切れた精神は変わることすらない。その不変は『強固なる意志』ではなく、『間違いを認めない者の妄信』に近い。
「でも捨てないさ。この命尽きるまでは、な」
そう思える希望を見た。その希望に最後の力添えをすべく、そしてこの戦乱を終わらせるべく、クトゥリアは歩を進めた。
―※*※―
ソウセツがいた部屋のさらに奥にある部屋。そこかしこに機械や機器が置かれ、世界の地図と戦闘状況を映し出した液晶画面や立体画像が作り出されている。別のところには、不気味な光を放つ魔方陣がいくつも作られていた。
「・・・・・・こうして見ると・・・・・・本当に世界全部が戦っているんだね・・・・・・」
「そのほとんどが、天使や神を『敵』だと思い込まされている・・・・・・」
セルスやクウァルの言葉で、ディステリアの脳裏にソウセツの記憶が蘇る。その正しさを示す証拠が目の前にあるが、同時にそれに抗う証もある。
「・・・・・・なら、急いでこの戦争を終わらせなければ・・・・・・」
「どうするんだ!?」とクウァルが聞くと、セリュードは機器の一つに近づく。
「ここの存在を全世界に明かす。軍のサーバーでもネットでもいいから、どこへでも流すんだ。本当の敵がわかれば、無駄な戦いは続けないはずだ」
「そう・・・・・・うまく行くだろうか」
不安げにディステリアが呟く。全世界で回線が混雑してて情報が混乱している。そんな状況下、ここの存在が届くだろうか。
「わからない。だが・・・・・・今はこれしかない」
「手伝うよ」
「俺も。ディステリアは?」
振り向いたクウァルにディステリアはフッと笑う。不安はあるが、それは行動を起こさない理由にならない。
「決まっている!」
コンソールに駆け寄り、各自キーボードを打つ。軍のサーバーにハッキングが可能な回線がつながれていることに騒然となったが、今はこれを利用する。軍に偽情報を送るルートで、今度は真実を伝える。しかし、そううまくは行かない。
「ダメだ、システムがフリーズした」
「こっちも・・・・・・」
「こっちはなんとか遅れたが、すぐには動かんか」
ディステリア、セルス、セリュードが思わず声を漏らす。
「第一、俺たちは軍に送られた情報は偽情報だと言って、各地の戦闘を止めてるんだろ?同じルートで送られた情報がすぐ信用されるか?」
クウァルの懸念は当たっている。それこそ、ソウセツが最後に仕掛けた思惑。今までウソの情報を伝えていた者が、いきなり真実を伝えたところで信用されるわけがない。
「予想通りの展開か・・・・・・」
早足で駆けつけたクトゥリアに、全員の視線が向く。
「奴らと同じ方法で済ませられれば良かったが・・・・・・それがダメなら他の手を使うだけだ」
「他の手?だが、そんな方法は・・・・・・」
不安を口にするクウァルに、「どうして俺が来たと思ってる?」と得意げな笑みを浮かべて返す。
「出番欲しさ」「よし、ディステリア。あとで訓練場に来い」
冗談か本気かうかがい知れないが、間抜けとも取られかねない場違いな会話が交わされる。それはセリュードら三人の不安を強めたが、真剣な表情に戻ったクトゥリアは複数束ねタリスマンの内一つから、大きなカメラを召喚した。
「生放送で実況中継でもする気か?」
「惜しい。と言うか、見た目カメラだが、実はそうじゃない」
そう言ってカメラにしか見えないものを操作版の近くに載せ、伸ばしたケーブルをつなぐ。タッチパネルのキーを操作して、そのカメラにしか見えないものにダウンロードしていく。
「こいつを本部に送り、各国首脳に直接送る。そうすれば、軍のほうもすぐ退き始めるだろう」
「そうか。さすがに国のトップからの指示だったら、従わざるを得ないか」
「第一、真偽不明の情報に踊らされていただけだ。よっぽど真に受けているところでない限り、戦闘は止まるはず」
ロードが半分を切った頃、クトゥリアは通信機を取り出す。
「アウグス、準備は?」
《さっき完了した。・・・・・・と言うか!》
いきなり大声を出され、クトゥリアは思わず通信機から耳を離す。怒りがこもったアウグスの声はディステリアたちにも聞こえ、思わず目を丸くした。
《事前連絡はちゃんとしてくれ!こっちは余裕のある者を探して大変だったんだぞ!》
「す、すまない・・・・・・」
口では謝りつつ、「(やっぱり伝わってなかったか)」と内心悔やんだ。
メモの走り書きに近い置手紙を残し、近くのものに伝えて出て言ったつもりだったが、その手紙は誰にも見つけてもらえず、近くにいたものもクトゥリアが伝言を言った時には休憩に入り、その場にいなかった。それだけ急いでいた理由は。
「とにかく時間が惜しい。すぐ送る。首脳連中が欲しがっていた証拠だ!」
そう言ってカメラにしか見えないもののスイッチを押し起動させる。
「確認次第、送ってくれ」
《『SOUND ONLY』のままスリープ常態か。確認次第、回線をつなげばいいんだな?》
「ああ。こちらの通信をデモス・ゼルガンクがリークしてる可能性もゼロでなかったからな。つないだまま離れるわけにはいかなかった」
《オーケー、データが来た。言いたいことは多々あるが、今はとりあえず乗ってやる!その代わり、あとで覚えていろよ!》
「お、おう・・・・・・」
すごい剣幕のアウグスに表情を引きつらせ、クトゥリアは作業を再開する。
「ほら、ディステリアたちも。データを引き出してダウンロードの準備を」
「わかった」
「開いた側から送るのは?」
「処理速度が間に合わなければ、またフリーズする」
セリュードが頷き、聞いてきたセルスに答えながらデータファイルを開いていく。膨大な兵器の設計図、各国の実状、軍について調べた資料。その中で、あるファイルにクウァルが眉を寄せた。
「この魔方陣は?」
クウァルの問いに、セリュードはキーを打ってファイルを開いていく。
「こっちにも出た。『ディゼアの生成魔方陣』?」
「それって、壊したほうがよくない!?」
「同感だ」
ディステリアは駆け寄るとセリュードは建物の地図を映し、魔方陣の場所を探し出す。
「場所は・・・・・・この建物の中心部だ」
「俺たちは手を離せないし、実質壊せるのはお前だけだろう。ディステリア、頼む」
クトゥリアに言われ、「ああ」とディステリアは部屋を飛び出す。その判断に疑問を持つべきだったが、そんな余裕を持つ者はこの場にいなかった。
「大丈夫かな・・・・・・?」
心配するセルスだが、すぐ作業に集中する。画面の隅では床を突き破って目的地に着いたディステリアが映ったが、その様子は開いていくファイルに埋め尽くされていく。直前に映った画像は現場のディステリアが二本の天魔剣を取り出し、次々に魔法陣を破壊していく様子だった。
「終わったら、こっちを手伝ってくれ」
次々と魔法陣を破壊し《わかってる》とクトゥリアに答え、天魔剣を振るっていく。翼を羽ばたかせて再び飛翔し、最後の生成魔方陣に切りかかる。
「―――間に合え!!!」
―※*※―
ノーサリカ大陸の一部で、ブレイティアの一部隊と地元ハルミアの軍が、突如、現れたディゼアトルーパーと戦っていた。
「弾幕薄いぞ!もっと撃て!」
「バカ!こっちは弾切れなんだよ!」
「あっちにも出たぞ。攻撃する!」
「バカ!そっちは味方だ!!」
戦況は指令系統の混乱などにより、急結成を余儀なくされた連合軍のほうが不利で、全滅も時間の問題という状況だった。
「くそっ、やられてたまるか!!」
戦っている連合軍の中には、イルグレイの姿もあった。体も装備もボロボロで、いつ倒れてもおかしくない状態だった。
「イルグレイ、ここはもうだめだ。撤退しよう」
「わかった。なら、俺が時間を稼ぐ!」
「無茶だ!」
とか言ってる内にディゼアの群れが迫る。弓矢を掴み、イルグレイが立ちはだかる。
「行け!!」
放たれた矢に一体が倒れ、別の一体が迫って弓を破壊する。武器を失い、ダメかと思った瞬間、ディゼアの動きが止まり、消え始めた。
「これは・・・・・・」
イルグレイの所だけでなく、連合軍が張った防衛線のいたる所で起きていた。
「・・・・・・どうやら、退く必要はなくなったわけだな」
いつの間にか、横にはイーグルカチナが立っていた。
「これはお前が?」
「いや、違う。ナヘナッツァーニでもトバディシュティニでもないようだ・・・・・・」
そこに、「司令からだ」とハルミア軍兵士の声がした。
「退却?なぜ?」
「よくわからんが、命令なら仕方ない」
「どうなってるんだ・・・・・・」
口々に言いながら帰って行く兵士たちを見送って、イルグレイとイーグルカチナは顔を見合わせた。
「・・・・・・本当にどうなってるんだ?」
「わからない。取りあえず、本部に戻ればどうだ?」
「いや・・・・・・俺から見れば、仮住まい・・・・・・」
ブツブツ言っていたが、イルグレイとイーグルカチナは他のヴァナホの戦士たちと共に、〈ブレイティア〉の基地に戻っていく。そこで思いもよらない、だが待ちわびていた報せを聞くこととなった。
―※*※―
天界と地上界の境にある転移の門の前では、人間たちの軍隊と天使たちの軍隊が激しい戦いを繰り広げていた。軍が使う戦闘マシン、マシーナリーはパワーたちの敵ではなかったが、後続の戦闘機による波状攻撃に苦戦していた。その気になれば撃ち落すことも容易だが、真の敵であるデモス・ゼルガンクの兵士の材料が怨念や負の思念である以上、下手に攻撃できなかった。部隊の後方で指揮をとっているミカエルとガブリエルの下に、〈転移の門〉のほうから4大天使のガブリエルとミカエルの下にエンゼルが飛んでくる。
「ハダーニエルからです!大量のディゼアが天界に侵入しようとしています!」
「バカな!〈転移の門〉は閉じているはずなのに!」
驚き振り返るガブリエルにマシーナリーが接近するが、即座に光で討ち貫く。
「聖域ヘブンズ・サンクチュアリで持ち堪えてますが、突破されるのは時間の問題だそうです」
泣きそうなエンゼルを、「泣くな!」とミカエルが一喝する。
「セラフィムとケルビムを応援に向かわせる。オファニムにも声をかけておくんだ。一匹たりとも、ディゼアをクルンテープに入れさせるな!!」
「は・・・・・・はい!」と、エンゼルは飛んで行った。
「ウリエルさま~!ラファエルさま~!」
戦場を縦横無尽に飛び回るエンゼルの所に、一人のドミニオンがやってくる。
「何をしている!非戦闘員は退避しろ!」
「最前線で戦う天使たちの陣営はどこですか!?」
「伝令か?まあ言い、案内する。こっちだ!」
ドミニオンについて戦場の空を駆け巡り、ウリエルのいる最前線に到着する。
「ウリエルさま、ラファエルさま、後続部隊からの伝令です」
「エンゼルだと!?プリンスパリティーズではないのか!?」
「戦闘に負傷者の運搬で、どちらも出払っているんです」
「そうか。それで、なんだ?」
「〈転移の門〉・・・・・・ディゼア・・・・・・天界の聖域・・・・・・クルンテープが~~~!!」
「テンパルな!余計わからん!」とウリエルが言うが、
「・・・・・・閉じているはずの〈転移の門〉を抜けて、ディゼアがクルンテープに迫っているんだな」
ラファエルの確認にエンゼルが頷くと、ウリエルとドミニオンは目を見張る。
「応援に、セラフィム、ケルビム、ドミニオン!!」
「その三名を応援に、か。わかった」
「ちょっと待て!そこの応援だったら、オファニムが妥当だろ!」
ドミニオンの言葉に、「そうだった!」と頭を抑える。
「ところで、後方で指揮を取っている二人には!?」
「すでに、ガブリエルさまとミカエルさまには報せました!」
そこに、アークエンジェルが飛んでくる。
「報告。人間の軍が巨大ミサイルの発射準備をしている模様です!」
戻ってきたアークエンジェルの報告に、ウリエルとラファエルは驚く。
「何!くっ、突撃もやむをえないか」
ウリエルに非情な決断が迫られる。その時、人間たちの軍隊が突然、攻撃をやめた。ウリエルを初めとした天使たちは驚く。
「今度はなんだ!?」
―※*※―
戦艦の艦橋に、《報告します!》と兵士が通信をつなげる。
「なんだ?今、奴らへの攻撃に忙しいというのに」
《それが、『この戦いを起こした黒幕を発見したゆえ、全軍はすぐに帰還せよ』との伝令が入りました》
「なに!?それは本当か!?では、我々はそいつらにいっぱい食わされたと言うことか」
《はい。提供された情報によりますと、『その者がいる拠点への攻撃はほぼ完了した。手柄はくれてやるから、後始末をよろしく』とのことです。どういたしますか?》
それを聞くと、指揮官はすぐさま通信機を手に取った。
「攻撃中止。ミサイルの発射も中止だ。我々は今から帰還し、体勢を整えてからその真の敵を討つ」
通信を聞いた人間たちの軍隊は撤退を始めた。
―※*※―
引き返していく人間たちの軍を見て、天使たちは呟いた。
「いったい、何が起こったのだ?」
「彼らがやってくれたのだよ」
後ろから、別の天使に混じってアスタロトがやって来た。
「なぜお前が・・・・・・あっ、そうか。魔界の悪魔たちも来てたのか・・・・・・」
戦場が、魔界とも〈転移の門〉が接続されているエルセムだったためか、世にも珍しい天使と悪魔の連合軍が結成されていた。
「レオナールのところの使い魔が知らせてくれた。人間の軍も、この情報は入手済みらしい・・・・・・」
「・・・・・・ということは」と、ラファエルはウリエルを見る。
「ラファエル。そうか、彼らがやってくれたのか・・・・・・」
「よし、無事な者は現空域を巡回。他に負傷者がいないか確かめるんだ」
ドミニオンの指示に「ハッ」と答え、アークエンジェルは飛び去って行った。
―※*※―
自分たちの基地に帰ったディステリアたちは、仲間たちの歓声に迎えられた。
「すごいな。こりゃ」
クウァルが驚いて目を見張る。四人はその気迫に少しばかり押されながら、広間の中央の道を進んで行った。
「よう、お前たち。よくやったな」
人だかりの向こうから、全身を包帯に巻かれた男が、松葉杖を突いてやって来た。
「セイクリトさん」
「無事だったんですね」
喜びの声を上げたセルスとクウァルがセイクリトに駆け寄る。
「ああ。あの程度でくたばる訳には行かないんでね」
「でも、全治一週間ですよ」
セイクリトの後に白衣を着た天使が現れ、クウァルは彼に話しかけた。
「ラファエルさん」
「君たち、良くやってくれたね。正直、君たちがここまでやるとは思わなかったよ。特に・・・・・・ウリエルはね」
ラファエルは最後の所だけ、声を落として言った。苦笑いをすると、
「みんな、よくやってくれた」
人ごみのさらに奥から声が響いた。
「クトゥリア隊長」
セリュードの声と共に、広間が静かになる。
「みんな、よくこの苦しい戦いを戦い抜いてくれた。よく耐えてくれた。よく生き残ってくれた。君たちのおかげで、この無情な戦いの終止符が打たれた。今ここにいる戦友たちと、ここに来ていると信じる、この戦いを終わらすために散っていった仲間たちの魂に、私は言おう。本当にありがとう。そして、お疲れさま!!」
総隊長であるクトゥリアの話が終わると、今まで静かだった広間が再び歓声に包まれた。その中で、ある者は友と喜びを分かち合い、またある者は愛する者と抱擁を交わした。最終決戦の場から生還した者もそうだったが、中には仲間の死を悼んでいる者もいる。
「んっ?」
そんな中。ただ一人、広間の隅にいたディステリアは、黙ってそこから出て行った。それの気付いたセリュードは、静かに彼の後を追った。