第139話 明かされた目的
対峙した敵の首領にディステリアは怒りを込めて歯軋りする。しかし、目の前にいる若者は、どう見ても連日電波ジャックしてまで演説を続けた男よりも若かった。どちらかといえばあの男は硬派な印象を受け、セリュードたちが引き受けてくれたカーモルのほうが、印象が近い。
「えっ・・・・・・?まさか・・・・・・」
「ああ。演説してたのはカーモルだよ。私はそういうのは苦手でね・・・・・・」
まるで親しい友達に話しかけるかのような、何気ない会話。だが、ディステリアは倒すべき敵だということを忘れない。
「貴様の目的は、なんだ!!」
天魔剣を握って叫ぶディステリアに、笑顔を消したソウセツは自分の両手を太ももに乗せて静かに語りだす。
「私の目的・・・・・・それは、この世界を私の理想通りの世界に造りかえ、私自身が支配者となるため。そして、そのための力を得るためだ」
「なんだと・・・・・・」
「人間は、自分たちと共通する敵が現れなければ、他の者と協力しようともしない。何も起こらなければ、足並みを揃えることも、互いに協力することもしない。他者の考えを理解できなければ、否定し、破壊しようとする。ならば、それを利用するのが得策だろう?」
そして、実践してみせた。デモス・ゼルガンクが存在を明かしてないころは互いに疑い合い、明かした後でさえ疑心暗鬼に陥ったままだった。それより以前も、幻獣かその力を持つもの、理解を超える力を持つもの、神ですら排除の対象に入れている。
「ああ。『共通の敵になって、人間どもの意志を一つにしよう』・・・・・・なんて、私にとってずれた考えだから。そこを突くのはなしだよ」
閉じてると見間違うほど目を細めて、手招きするよう左手を振る。敵を前にしてする行動とは思えない。
「この戦争で生じた世界の歪み・・・・・・人々の怨念・・・・・・それからなる果てしない憎しみの連鎖。それらはやがて、この世界を粛清する者たちの礎となる。この古き世界が変わるには、一度、世界を無に返さなければならない。わかってるだろう?ここはそういう世界だと・・・・・・」
「黙れ・・・・・・」
いつでも切りかかろうとしているディステリアだが、ゆるく微笑んでいるソウセツに付け入る隙は微塵もない。仕掛けられないのをいいことに、ソウセツは余裕の表情で淡々と話し続ける。
「・・・・・・私は、集めた邪気から忠実な兵士を作り出すことができる。大量の兵士を作り出すには、同等かそれ以上の邪気を必要とする。邪気の発生には怨念や憎悪といった『負の感情』が必要だ。部下たちに工作させ、人間たちに戦争を煽らせた。愛する者を失った悲しみはやがて憎しみとなり、復讐は新たな復讐を生み出し、終わりのない憎しみの連鎖を作り出す。主にそうやって、世界は邪気に満たされる。それこそ私の望みだ・・・・・・」
「邪気の発生と、貴様の言う世界平和にはなんの関係がある・・・・・・」
天魔剣を左右の下段に構えつつ、眉を寄せるディステリアは、少しずつ足を開き、腰を落とす。昔の彼ならすぐにでも切りかかったが、それだとイスに座ったまま、魔術のカウンターを食らって仕留められる。不可視の魔術が仕掛けられているわけでも、罠が張られているわけでもない。ただ、余裕の中にあるわずかなプレッシャーを感じ取っている。
「(へえ・・・・・・僕の強さを感じ取れてるのかな・・・・・・?そんな奴、今までいなかった)」
内心目を丸くしつつ、ソウセツは笑みを浮かべる。
「こんなこしゃくな結界を張ってるんだ。知っていると思うが、邪気により我が軍の兵は増え、戦争により敵となる軍隊どもは戦力を浪費している。こちらの兵はいくら倒されても、いくらでも補充が利くのだよ・・・・・・」
「だが、それでも・・・・・・・俺たちはお前らに立ちはだかった。お前らの目的を阻むために!」
「抵抗勢力は大歓迎だ。生かさず殺さずいたぶっていれば邪気の発生で大いに助かるし、我々の力を誇示することもできる。・・・・・・余程の愚か者でない限り、歯向かおうとはしない。強大な軍事力を持つ組織が全世界を支配する。一応の平和だ・・・・・・」
「なっ―――!?」
ディステリアは我が耳を疑った。ブレイティアは奴らにとって、まったく想定していなかった抵抗勢力であり、目的を阻む邪魔者のはず。それを歓迎するだと。さらに最後の言葉に強い疑問を感じた。
「『一応の平和』だと!?歯向かう奴を脅して、避けさせるのが貴様の言う非戦なのか!?そんなことしても、何かしらの力を持つ者は忌諱されてるんだぞ!」
フェルミナとシェルミナの姉妹は、妖精の力を持つというだけで避けられた。迫害に立ち向かうため暴力を振るっていたが、それも別の理由で避けられる要因になっていた。何もしなくても吸血鬼というだけで追いやられていたリリナ、表裏の人格の違いを理解されず避けられていたルルカ。どんな形であれ、強大な力を誇示すれば表面では穏やかでも水面下で荒れている。それはクトゥリアからも聞いているし、自分自身も体験し、仲間たちから聞いて知っている。
「私も知ってるよ?表では従うふりをして、裏では蹴落とそうと画策している奴は五万といるからね。人間は愚かだからね、裏表なく分かり合うなんて不可能だ」
その笑顔は、見た目は満面の笑みだが、その裏に込められている皮肉がわからないほどディステリアは愚かではない。今さらしている隙を突き、仕掛けられた罠を掻い潜ればほぼ確実に仕留めることができる。しかし、それをなせるほど今のディステリアは冷静ではなかった。
「表では友好的だが、裏では虎視眈々と蹴落とす機会を狙っている。そういう連中が全て私を襲うようになれば、私はそいつらを始末しても問題ない」
正当防衛の名の元に抵抗勢力を抹殺できる。全ての敵が向けばこそだが、それは実質不可能。この全世界を巻き込んだ戦争に近い戦いがその仕込なら、巻き込まれて命を落とした者たちは。三年前に後を落としたロウガやメリス、多くの隊員たちが浮かばれない。
「・・・・・・くだらない」
「そう思えるのは、君が子供だという証拠・・・・・・と言いたいが、あの事実を知らなければそう思うのも仕方ないか」
「『あの事実』・・・・・・だと?」
「ああ。君の両親の死の真相・・・・・・そして故郷、天魔界についてだ」
「俺に揺さぶりをかけようとしても無駄だ!」
足を開いて叫んだディステリアは、両側に構えた二つの天魔剣それぞれに、光と闇の魔力を集める。
「これ以上・・・・・・お前の戯言を聞くつもりはない!」
「戯言?そうか、では勝手に言おう。君の故郷である天魔界壊滅の要因を作ったのは・・・・・・」
言い終わらない内にディステリアは両腕を振り上げ、無数の魔力の刃を飛ばす。白と黒の刃にトラップが反応する。円形魔方陣が浮かぶと共に爆発するものや魔方陣から飛び出した槍に貫かれるもの、魔方陣から伸びた鎖に縛られてへし折られた物もある。ディステリアの放った刃は全て防がれた。しかしその分、ソウセツの周りに仕掛けられたトラップが減った。冷静さを欠いているディステリアがそういう行動に移れたのは戦士としての勘ゆえか、はてまた偶然か。どっちにしろ、アドバンテージはどちらにもない。
「―――私の命を受けた部下だよ」
「―――!?」
突然明かされた事実にディステリアが目を見張る。
「どういう意味だ!?」
「食いついたね?」
笑みを噛み殺すソウセツに、ディステリアは首を激しく振る。
「君が驚くのも当然だよ。でも、私が天魔界に部下を送り込んだのも当然だ。長年準備していたとはいえ、少数戦力ではやれることは限られている。それは君も身を以って体験しただろう?」
四人一組の数チームで、広い大陸を担当する。確かに正気の沙汰ではなかった。少数精鋭というより、人数不足ゆえの無茶苦茶。
「だから、まず・・・・・・戦争規模の騒乱が起きそうな場所を滅ぼそうと考えた。そこでたまたま見つけたのがキミの世界・・・・・・」
「たまたま?・・・・・・たまたまだと!?」
思わず叫んだディステリアが前に踏み出す。そこには罠が仕掛けてあったが、初撃で発動してすでに機能を失っていた。
「まさか、異世界に仕掛けることになるとは思わなかったよ。まあ、引き入れようとしていた素養の持ち主を見つけていたから、結果は変わらないけどね・・・・・・」
自嘲気味に笑うソウセツにディステリアは騒然としている。もはや、隙を突いて仕掛けることなど頭になく、それをいいことにソウセツは余裕の表情で話し続ける。
「天魔界を滅ぼし、そこに満ちた負の死念で兵を作る。君の世界を、私の計画の基点とさせてもらったよ」
感謝を表すかのように微笑む。しかし、ディステリアは騒然とし続けていた。
「じゃあ、そんなもののために・・・・・・あの戦いを起こしたのか!?」
叫ぶディステリアに、「いかにも」と微笑む。
「お前の身勝手な考えのために・・・・・罪のない人間を巻き込んだのか!?」
「罪のないとはまた、浅はかな・・・・・・現実から目を逸らしている時点で立派に罪を犯してるよ」
両手を広げて語りかけたソウセツは、それを再びあわせて話す。
「そんな愚か者、いくら死んでも害はないだろ?」
「(だから、殺していい・・・・・・!?)」
あまりに身勝手な理屈に歯軋りし、天魔剣を握る両手に力がこもる。
「(そんなことのために・・・・・・!!)」
危うくも平和に暮らしていた天魔界が天界と魔界の争いに巻き込まれ、戦乱に包まれた。両親はそれぞれの軍の兵士として戦い、互いを殺さなければならなかった。そして、ディステリアの目の前で。
「(それも・・・・・・)」
全てはこの男の、身勝手な目的のために。そう思った瞬間、ディステリアの中で何かが切れた。
「―――ふざけるな!!!」
突っ込むディステリアだが、ソウセツが蹴り飛ばしたテーブルに突き出した天魔剣の剣先が当たる。その瞬間、テーブルに浮かんだ魔方陣から発生した衝撃波で飛ばされ、壁にめり込む。砕けたテーブルの欠片が床に落ちると、白い羽が宙を舞う。
「よく考えておきなよ。君を仲間にすることは、まだ諦めてないから・・・・・・」
床に落ちるディステリアに、椅子から立ち上がったソウセツは冷たく言った。崩れた瓦礫を押し退けたディステリアを見て、目を細める。
「君はこの世界を滅ぼしうる素質を持っている。その影響力は強いらしいが、どれほどのものかわからない。が、仲間に移るらしいよ」
「そんなでたらめ・・・・・・」
「ああ、信じられないよね。じゃあ、話を変えよう」
おかしそうに笑ったソウセツは、横目で消えかけの魔方陣に目を向ける。
「この魔方陣は、あらかじめ私の魔力を込めておくことによって、発動と共に放出する。持ち主の危機を察知しても発動する、特別なものでも・・・・・・」
話しを続けるソウセツにディステリアが切りかかるが、剣先をかわして衝撃波でディステリアを飛ばす。
「がっ・・・・・・!!」
「無駄だ。例え不意を突いて来たって、キミの動きはわかる・・・・・・」
起き上がろうとするディステリアに、「本当にあると思うか?」と聞く。
「・・・・・・この愚かにも、争いしか繰り返さぬ世界を。誰一人、分かり合おうとも、手を取り合おうともしない・・・・・・醜き世界を!」
「・・・・・・貴様に・・・・・・貴様の言う『世界』の何がわかっているというんだ!」
切りかかったディステリアの一撃をかわし、「その言葉、そのまま返すよ」と言う。
「君は、世界の美しい部分・・・・・・心地いい所しか知らない・・・・・・!」
「確かに俺は、世界の全てを知ってるわけじゃない。だが・・・・・・貴様だってそれは同じはずだ!」
「確かに世界の全ては知らない。だが・・・・・・そこいらの愚か者よりかは多くを知っている」
「何!?」と、ディステリアは天魔剣を構えて止まってしまった。ソウセツは笑みを浮かべ、続きを話す。
「世界は同じような争いが繰り広げられている!いまだ貴様の心に影を落としている、天界と魔界両勢力が天魔界で激突して起こした大規模戦闘。それもその一つに過ぎない。その巻き添えで両親は死んだのだ!!」
「それは貴様が!!」
「我らは煽っただけに過ぎない!我らを否定できるのなら、多少突付かれたくらいであそこまで大きくならなかったはずだ!!」
屁理屈だ。そう思ったディステリアの怒りは爆発した。
「平和に暮らしてる世界を滅ぼしておいて―――!!」
「意にそぐわぬ者を排した偽りの平和だろう。それ以前に・・・・・・私はあの世界を憎んでいる」
「な・・・・・・に・・・・・・?」
戸惑った一瞬、衝撃波で壁に叩きつけられる。床に崩れ落ちるディステリアに、かざした手を下ろしたソウセツは冷たい目をして話し続ける。
「私は・・・・・・貴様と同じ天魔界の出身者だからね」
「なん・・・・・・だと・・・・・・?」
信じられず目を見張る。だが、すぐ否定する。本当に天魔界で育った者なら、生まれ育った故郷を滅ぼすはずがない。そんなディステリアの考えを見抜いたのか、ソウセツは目を細くする。
「私は天魔界創造主の理想に共感し、天界を離脱。天魔界を守る軍に属していた。創造主が崩御して後、私の・・・・・・いや我々の天魔界を守るという意思は強くなった」
懐かしそうな笑みは偽らざる本心。だが、それを判断できる者はいない。ディステリアでさえ怒りで判断力が聞かず、ソウセツは精神が擦り切れその感情を判断できない。それ以前に、その笑みはどこか作られている感じがする。
「ある時・・・・・・天界と魔界が創世記より続いていた争いを停戦するという噂が流れた。それを裏付けるように両世界の使者が訪れ、天魔界を条約締結の場にすると言ってきた。無論最初は警戒した。天魔界は天界からも、魔界からも睨まれていたからね」
「おい・・・・・・」
ソウセツの声を遮り、膝を突いたディステリアが睨む。両手で天魔剣を持っており、ソウセツを見据えている。
「こちとら・・・・・・戯言はもう聞かないと言ったはず・・・・・・」
「なら、勝手の話させてもらおう。来なよ」
挑発的な態度を取ったソウセツに、ディステリアは切りかかって行った。
「天界勢も魔界勢も、なぜ今まで警戒していた天魔界で条約を結ぶのか・・・・・・理由は理解できた。天使と悪魔が共存するというありえない世界を、両界条約締結の場として利用しようとした。そこは問題視しなかった」
ディステリアの攻撃をかわしながら、ソウセツは話し続ける。その間、ソウセツはまったく手出ししない。
「なぜ今になって不可侵条約を結ぶ気になったか・・・・・・我々の疑問はそこだった。天使は、今まで人間界で小競り合いを続けていたせいで信仰心が失われるから、と言ってきたが・・・・・・」
「(聞くな!!)」
思わせぶりな言い方で語るソウセツの言葉を、ディステリアは聞かないよう己に言い聞かせた。真実にウソを織り交ぜて信憑性を持たせ、動揺した隙に攻撃する。よく使われる手でもある。
「相手の対応は目に見えて真摯だったからね。信じないわけにはいかなかった。両世界の兵が防衛のために駐留することも盛り込まれていたから、人間界の代わりに天魔界が天界と魔界の争いの場となると危惧されたが・・・・・・その心配は数百年間なかった」
振られた天魔剣を屈んでかわす。もう片方の天魔剣を振り下ろすが、それも横に飛んでかわす。話すだけのソウセツは手出ししてないが、ディステリアの体力は確実に減っている。
「(このままでは体力を消耗するだけ・・・・・・)」
「我々は天界と魔界の結んだ条約の大きな穴を見つけた。それを突いて侵攻の可能性を伝えたが、誰一人、両世界の不可侵条約があると取り合わなかった」
攻撃の手を止めてソウセツの近くから離れる。彼の話を聞くつもりでも信じたわけでもなく、それはソウセツ自身もわかっているが意に解することなく話し続ける。
「我々が見つけた穴など、ただのこじつけに近いものだ。そう言われて反論する術は我々にはなかったよ。だが、確信はしていた・・・・・・この世界で結ばれた不可侵条約は天界と魔界が互いに、敵側の世界の情報を知るための、偽りの条約だったのだと!」
無表情だったソウセツが眉間に深くシワを刻み、拳を握り締める。あまりの力の強さにその拳が震えるが、手袋をしているため血が滲むことはない。
「そして天魔界の軍隊の長は、防衛部隊の軍縮を決定した。我々は軍から自警団へと縮小され、有事の際の戦闘は天界か魔界の軍隊に任された。それが数百年後、君の知ってる事態を招いた!」
「貴様の部下が引き起こした事件だろ!さっきそう言ったことを、俺は忘れていない・・・・・・」
「その数百年の間、私が天魔界でずっと留まっていたと思うのかい?」
シワを緩めてソウセツが返すと、ディステリアは床を蹴り接近する。ソウセツは真正面に手をかざすが、その瞬間にディステリアは真横に逸れ衝撃波をかわす。左右の天魔剣を時間差で振るが、体を逸らしたジャンプでかわされる。
「その間は地上界を巡っていたよ。誰一人説得できなかったのは知識がなかったため」
着地後、斬りかかったディステリアの天魔剣を真正面から受け止める。
「対話力を高めると意味でも世界を回り教養を広めた。だが私が辿り着いた答えは・・・・・・世界の醜い真理、残酷な現実だ」
天魔剣を振り、離れるディステリア。そしてソウセツは、淡々と話し続ける。
「同じように弱い立場に立たされ、淘汰されている者がいる。それを知った時、私は自分がしようとしていることの愚かさを知った。弱者の意見など、強者には届かない」
「全てがそうというわけじゃないだろ」
「知っているさ。そういった例があるということを知らないとでも思ったか?」
ディステリアの反論を冷たい表情で、嘲笑するように吐き捨てる。
「なら、天魔界で条約を結んだ者はどうだ?その疑問を明かすため、我々は行動を起こした。無論、当てが外れれば全てを告白し、罪に伏するつもりだった」
その先をすぐ察知する。答えはとっくに明かされている。そうやって動いたソウセツの部下が、天界と魔界に偽情報を流し、その結果。
「もはや条約など無意味。すぐさま両軍は戦い始めた。いや・・・・・・『天界、魔界のどちらか、もしくは天魔界出身の者が不穏な動きを見せた場合、その限りではない』・・・・・・その一文があるだけで、こういう事態が起きると知るべきだった。後は知っての通りだ」
「・・・・・・俺の両親が、敵味方に分かれたっていうのか?」
「それは違う。軍縮により天魔界出身者は軍隊として活動できなかった。両世界に依存しなんの対策もしなかったゆえ、天界と魔界の戦争に巻き込まれ、ほとんどの者は何もできずに死に絶えた。その中で、兵士として戦った者は一人もいない。これが天魔界で起こった、戦争の真実だ!!」
だがディステリアは納得できない。今のソウセツの話には、大きな食い違いがあった。
「俺は見た。俺の両親が・・・・・・天使と悪魔の長の命令で戦ってた両親が・・・・・・相打ちになったのを・・・・・・」
辛そうな顔のディステリアに、ソウセツがあざ笑うような表情で見下ろす。
「それが真実だという確証はあるか!?」
「―――っ!!」
言われてみれば、そんな確証などない。だが、その瞬間ソウセツが仕掛けてきた。今まで動揺しないように務めてきたのに、心の隙を晒してしまった。
「―――しまった!!」
腹にソウセツの手が叩きつけられ、衝撃波の直撃を受けて吹き飛ばされた。