第137話 対峙すべき執念の敵
「幹部が二人も・・・・・・」
戦慄を覚えるクウァル。それは他の三人も同じだった。その遥か奥には、内側から強い光を放つ巨大な扉が立っていた。
「あの扉は・・・・・・」
「あの奥にソウセツさまがおられる・・・・・・」
カーモルの言葉に、「なっ・・・・・・」と全員が驚く。思わず、ディステリアが叫ぶ。
「なぜ・・・・・・貴様がそんなことを教えるんだ・・・・・・」
「ソウセツさまは、小僧・・・・・・貴様に会うことを望んでおられる。しかし・・・・・・」
ザワッ、とローブが広がり、四人は強い寒気を感じる。
「全ての力をもって阻止してもよい。そう仰せつかった・・・・・・」
「―――!!フリージング・コキュートス!!」
膨らむ殺気に、セルスが杖を振る。瞬間的に現れた物凄い冷気が、カーモルとクーリアを一瞬で凍らせる。だが、
「・・・・・・ぬるい」
分厚い氷が砕け、中から無傷の二人が現れる。
「なっ・・・・・・」
「なっ・・・・・・ではない。こんな未完成の技で、我らを倒せるとでも?」
ローブを広げ、「アナタラクシ!!」と乱気流の槍が襲いかかる。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
「これ・・・・・・テュポニウスの技・・・・・・」
「・・・・・・テュポニウスには私の力を与えていた。つまりは・・・・・・私がこの技の本当の持ち主だ」
「使えても不思議はないってことかよ・・・・・・」
孤立したクウァルが歯軋りすると、カギ爪を振ってクーリアが襲いかかる。
「所詮、貴様ら人間は傲慢で脆弱な存在。醜く逃げ惑い、仲間同士で争い、同士討ちして果てりゃぁいいんだよ!!」
「ほざけ!!」と叫んだクウァルが、クーリアを殴り飛ばす。
「庇うってのか?俺は知ってるぞ。今まで貴様が人間から受けた、酷い仕打ちを!!」
クウァルが目を見張った瞬間に、彼の腹に鋭い蹴りが入る。追撃をかけに飛び掛ったクーリアに、クウァルを受け止めたセリュードがヴェント・ランスを放つ。
「ぐわぁああっ!!」
直撃をうけてクーリアが悲鳴を上げる。しかし、
「な~ん・・・・・・ちゃって!!」
風の槍をへし折り、二人に投げ返した。魔力で圧縮されていた風が弾け飛び、突風が二人を吹き飛ばした。
「ファイアボール!!」
「そのような下級魔術で・・・・・・!!」
嘲笑うカーモルは腕を振り上げてかき消そうとしたが、
「エアスラスト!!」
「何!?」
火の玉を貫通して風の槍が突っ込む。炎を巻き込み大きくなった槍がカーモルに突っ込む。
「悪くない。だが・・・・・・ゲル・ウォール!!」
カーモルの周りに現れたゲルの壁が、槍の身代わりとなった。
「ああっ!!」
「―――甘い・・・・・・」
続けて発射した気流の槍を、飛び出したディステリアが全て叩き落す。
「ヴォルグラードより・・・・・・強い」
「・・・・・・そう感じるのは、奴を倒して貴様らの気が抜けているから・・・・・・」
「もしくは、二人を相手に気圧されてるとか・・・・・・」
余裕顔のクーリアに、体を起こしたセリュードは危機感を感じる。
―※*※―
一方。テレノグとベノクレインの相手を一人で引き受けたセイクリトは、仰向けに倒れていた。鎧の所々は大きく砕け、その下は血が滲んでいた。
「くっ・・・・・・。やはり、幹部二人を一人で相手するのは・・・・・・無理があったか・・・・・・」
「当たり前だ、愚か者」
地に伏すセイクリトを見下し、テレノグが冷たい声で呟く。
「あとはザコでもこと足りる」
「なら、あたしは他のザコを片付けてくる。圧勝すぎて消化不良だ」
「くっ・・・・・・行かせは・・・・・・」
銃を抜くが、テレノグの蹴りで銃を飛ばされた上に鎧が砕けていた腕を踏まれた。
「ガアアアアアッ!!!」
「ベノクレイン、まだ抵抗するみたいだぜ・・・・・・」
「懲りない奴だ。テレノグ、確実に仕留めておけ」
「待て・・・・・・がっ・・・・・・」
「そんなことが言える状況か?」とテレノグが力を入れる。
「援軍は期待するなよ。この基地の周りは精鋭で固めている。―――あばよ」
「(・・・・・・これまでか・・・・・・)」と思った瞬間、
「ブランシュール、七大天国!!」
白く輝く光の斬撃がテレノグを吹き飛ばす。
「(なんだ・・・・・・)」
斬撃が当たった箇所をなぞって着地したテレノグは、セイクリトの近くに立った者を睨む。白い光に包まれ、右腕と一体化した剣。ブランシュールの力を解放したクトーレだった。
「(・・・・・・?こいつ・・・・・・どこかで・・・・・・)」
「よう・・・・・・また会ったな」
「知り合いなのか・・・・・・」
息も絶え絶えのセイクリトが聞くと、クトーレはブライシュールの剣をテレノグに突きつける。
「シャニアク国でちょっかいを出したのは、テメエだろ?」
「―――!?そうか、あの時の・・・・・・」
クトーレとテレノグの会話に、セイクリトは取り残されている。
「・・・・・・貴様の邪魔のおかげで、ソウセツさまは偉くお怒りだったぞ」
「俺だけじゃないだろう」と、クトーレは左手に魔剣アゾットを握る。
「貴様を許すことはないと思え」
「それは・・・・・・こちらのセリフだ!!」
叫ぶと同時に駆け出し、すれ違う。挟むように二本の剣が生えた右腕とブランシュールが激突する。だがテレノグにとって本命は左手の爪による攻撃。ブランシュールの下を掻い潜った一撃にクトーレの左脇腹から血が吹き出すが、彼は表情を変えない。両腕を振り上げ、テレノグの体にバツの字の傷を刻み込む。
「なんだと!?」
踏み留まったテレノグが姿勢を低くして突っ込む。右に避けると予測していたテレノグはそちらに剣を向けるが、クトーレはあえて動かず、ブランシュールを構えて待ち構える。右腕の剣とぶつかると、テレノグは再び左手の爪で切り付けようとする。
「七大天国、パワー!」
アゾットを逆手に持った左手を添えて力を込めると、ブランシュールの刀剣が広くなり重さが増す。思わず左手で剣を受け止めると、クトーレは右足を踏み込み、ブランシュールを振り下ろしてテレノグを吹き飛ばした。
「カウンターだと!?」
重い一撃を受けたテレノグはひどく驚いていた。クトーレは持ち前のスピードで翻弄し、ブランシュールで切りつける高速戦闘タイプ。だが先ほどの彼の動きは、パワーで押し切るカウンター戦法。パワータイプでない彼には不向き。
「ちぃ・・・・・・この程度で惑わせられるとでも!」
大剣状態のブランシュールを振り下ろしたクトーレに右腕の剣で切りつけると、彼はブランシュールの大きさを戻してそれを防御する。片方の足をつけ、もう片方で蹴り飛ばす。着地したクトーレの次の動きは、飛び上がって空中からの攻撃。それに対しては体を回し、リーチの長い右腕の剣で刺し貫く。予測どおり、クトーレが上に飛び上がった。
「(―――終われ!!)」
だがテレノグの剣は空を切る。クトーレは予測よりもはるかに高い位置におり、弓形態のブランシュールを引き絞っている。
「バカな」
「七大天国、ドミニオン!」
啓示のごとく打ち下ろされる一撃がテレノグの立っていた床を砕く。落下し始めたクトーレは、逃げ出したテレノグにブランシュールを向け再び引き絞る。
「七大天国、エンゼル!」
羽が付いたいくつかの小さな光の矢。高速で動きながらテレノグに迫るが、右腕の剣を振って砕かれる。
「(次は追撃か?いや、死角からの強襲!)」
そう読んで後ろに注意を向ける。予想通り後ろから攻撃が来た。ただしそれはクトーレ本人ではなく、炎に包まれた車輪だった。
「囮だと!?」
叫んだ通り、それは囮。本命は飛び上がったテレノグに切りかかるブランシュールの一撃。それをテレノグが受け止めるが、軌道を変えた炎の車輪がクトーレとテレノグに迫る。
「道連れにする気か!?」
「生憎、そこまで死に急ぎはしない!」
テレノグを蹴り宙返りすると、クトーレは炎の車輪を蹴って後ろに下がる。目を見張るテレノグに、四方から迫る車輪が直撃した。
「がああああああああああっ!!」
空中で爆発し、足場に落下する。服が焼け焦げ、全身から煙を上げているテレノグが、息も絶え絶えにクトーレを睨む。
「・・・・・・貴様・・・・・・の動きは・・・・・・読んだ・・・・・・はず・・・・・・」
「こちらはそうくると思って、戦い方を変えた。それこそ、血を吐く思いで・・・・・・な」
「おのれ・・・・・・」とテレノグが倒れた直後、クトーレに飛んできた太い針を弾く。
「気付くなんて、少しはやるじゃない」
指の間に針を挟んで歩いてくるベノクレイン。
「戦い方を変えたなんて、ハッタリでしょ?あんたがテレノグとやりあったのは一年と二ヶ月前。そんな短期間に、自分の戦い方を変えるなんて・・・・・・不可能だわ」
顔の前まで上げた左腕の針に、黒い靄のようなものが揺らめく。飛ばした針をクトーレが弾くと、壁の刺さった箇所が溶け始めた。
「闇・・・・・・?いや、違う・・・・・・強酸性の毒か!?」
「あたしの魔力から生成される猛毒だ。少しでも食らえば・・・・・・」
右手を伸ばし、第二派を放つ。
「―――あの世行きだよ!!」
飛んでくる針をブランシュールとアゾットで叩き落としながら、クトーレは少しずつ後退する。
「(動けないセリクリトに当たれば、彼は一巻の終わりだ)」
飛んでくる針を慎重かつ正確に叩き落とす。
「(おっと。近づきすぎると、弾いた針がセイクリトに当たる。この距離をキープだ!!)」
ブランシュールとアゾットで弾き、ベノクレインに向けて魔力の斬撃を放つ。軽い身のこなしでかわしながら針を飛ばすベノクレインにクトーレは攻撃を続けたが、互いの攻撃は当たらなかった。ベノクレインが隠れた柱をクトーレの攻撃が砕いた後、ベノクレインが顔を覗かせる。
「勝負かけなくていいのか?もたもたしてたら、仲間がくたばるぜ?」
傷口の血は鎧の下のスーツに染み込んで、出血は余談を許さないほどの量だった。
「(確かにまずい。だが、気を焦ってセイクリトをやられたら元も子もない・・・・・・せめて・・・・・・医療班が来るまでは・・・・・・)」
歯軋りしてそう思うクトーレに、ベノクレインは攻撃を再開する。直接セイクリトを狙った攻撃を、クトーレはあえてブランシュールを大きく振って、その反動で攻撃の前に割り込んだ。すぐ左腕のアゾットを振って、後ろに迫っていた針を切り飛ばした。
「甘い、甘い!!」
ベノクレインが投げた針をまた弾く。しかし、その動作の中で指をかすかに動かす。直後、叩き落とされた針がクトーレの右腕に突き刺さった。
「なっ・・・・・・」
針が当たった部分が、針と供に砕けて消える。驚きはしたが、ブランシュール越しでは痛みも感じない。右腕と融合しているといっても、装甲にまで神経はつながっていなかった。ただし、その装甲までは。
〔まずいぞ!装甲が崩れた部分にあの針をくらうと・・・・・・〕
「アゾット!余計なことを・・・・・・!!」
「へえ・・・・・・いいこと聞いちゃった」
邪悪な笑みを浮かべ、ベノクレインは両腕を肩まで上げると、落ちていた針が一斉に先端を上げた。
「かわしきれるかな!!」
両腕を下ろすと同時に一斉に襲いかかる針。長さにバラつきがあるのが幸いして、一方を払っている間にもう一方が当たるということはかったが、叩き折るだけではまた飛んでくる。
〔左側、遅れがちだぞ!!〕
「くっ」とクトーレはアゾットを振る。
〔何やってる!ブランシュールの力で、なぎ払わないのか!?〕
「わかってる!七大天国、ケルディム!!」
四方を囲む炎の壁がベノクレインの針を焼き尽くす。炎が消えた時、針はベノクレインの操作で宙に止まっていた。指が鳴ると同時に、針が一斉に発射される。
「(かわしきれない)」
例えかわしきれても、後ろのセイクリトがくらってしまう。だからと言って、『七大天国』を使っても、ベノクレインの操作で大多数は止められ、技の消失と共に再び発射される。
「(ダメか!!)」
諦めかけたその時、「クトーレさん!!」と声がして、窓の外で何かが光る。
「七大天国、ケルディム!!」
とクトーレは炎の壁を作り出し、すぐにブランシュールで壁を砕き、外に通じる大きな穴を開けた。直後に、クトーレはアゾットを投げ、セイクリトが倒れている床を崩した。
「アゾット!セイクリトを頼んだぞ!」
〔何!?クトーレ、テメエ!覚えてろよ!!〕
文句を言うアゾットに背を向けるとクトーレはベノクレインに向かった。
「望みどおり、勝負をかけにきたぞ!!」
が、ブランシュールの刃が届く前に、どす黒い魔力をまとったテレノグが飛びかかる。
「俺を仕留めなかったことを後悔しろ!」
「七大天国、プリンシパリティーズ!」
ブランシュールを振り、オーロラのような光の幕が張られる。その間にクトーレはベノクレインに全速力で突っ込む。両者が激突しようとしたその時、全体に大きな揺れが起きる。
「なっ―――!?」
広範囲に渡って壁と床が崩れ、それにクトーレとテレノグが巻き込まれる。崩落から一人逃れ食べのクレインが目を丸くしていると、後ろに強い殺気を感じる。
「へえ・・・・・・今のはあんたの仕業かい?」
「・・・・・・貴様が引き入れたハルミア軍の兵士は、全滅した」
「ひどいことするわね~~・・・・・・元に戻せたかもしれないのに・・・・・・」
「そんな可能性を潰していることは、わかりきっている!!」
吼えた男性は手に持っていた鎌を向ける。
「ハルミア軍部隊長、レゼンプ・トープスの世話係、クレイン・クーワイト!部下を殺された恨み、晴らさせてもらう!!」
叫ぶ男性に、ベノクレインは小さく笑う。
「何がおかしい!!」
激昂して切りかかった男性に、ベノクレインは針を集めた剣で対抗した。
―※*※―
「・・・・・・なんだったんだ、今の」
床の崩壊に巻き込まれたクトーレは、建物の外の中庭に出ていた。周りを見渡すと、瓦礫以外に何も見当たらない。
「セイクリトは運ばれたようだな・・・・・・」
深く息をつくと、同じく床の崩落に巻き込まれていたテレノグが現れる。
「なめたマネをして・・・・・・許さんぞ・・・・・・」
「えっ、ちょっと待て。アレは俺のせいじゃ・・・・・・」
「黙れ!魔導変化で地獄に落とす!」
全身から黒い魔力を放出し、巨大な翼と蛇の下半身を持つ怪物の姿になる。
「圧倒的な力の差を思い知って―――死ね!!」
体に合わせて巨大化した右腕を振り下ろし、二つの剣がクトーレの飛び退いた地面をえぐる。
「ったく。さっさと片付けたいものだね!」
だが幹部を名乗っている以上、そう簡単に行くはずはない。ブランシュールを構えたクトーレはその力を纏い、背中に飛行機のものと似た翼をつけた。
「―――!?」
「これでアドバンテージは五分と五分!」
後はそこからどう有利に持っていくか。気を引き締めるクトーレだが、その脳裏には崩落の瞬間に見た者がよぎっていた。
「(あいつは・・・・・・バズザ、か・・・・・・?)」
―※*※―
建物を壊しながら、ベノクレインとバズザは戦っている。ベノクレインの放った針の何本かは壊れた壁や駆けつけたディゼアに当たり、それらを溶かす。だが、バズザはそれに恐怖を感じるどころか気にかけることすらしない。
「こんな局面で現れるなんて・・・・・・あんたもブレイティアのメンバーかい!?」
「前まではそうだったが、今は違う!」
「は?どう言う意味?」
走っていた足を止め、かけてくるバズザの上に針を投げる。円形に刺さった針は天井を溶かし、毒に侵された瓦礫となって落ちる。バズザは鎌に魔力を込めてそれを一閃、さらに弾いて飛ばすが毒の針を刺して溶かしきる。
「・・・・・・っ」
「女だからってまともに戦えない・・・・・・なんて寝ぼけたこと思ってないよね?」
「俺たちは男女関係なく、実力を見る。それは敵と対峙した時も同じだ」
「へえ・・・・・・じゃあ、あたしのことは過小評価なんかしてないんだね?」
挑発気味に笑うベノクレインに、バズザは鋭く睨む。
「侮るはずなんかない。貴様は・・・・・・俺の部下のカタキだからな」
「はあ?なんの関係があるん―――だい!?」
腕を振って飛ばした針を鎌で弾く。
「あの事件で部下を失った俺は、ハルミア軍が俺たちブレイティアの医療部隊を攻撃した原因を探した。その中でこいつを手に入れた」
「へえ・・・・・・その鎌がなんだって言うのかな?」
「さあ、な!!」
鎌を振って魔力の刃を飛ばすが、ベノクレインが針を集めて作った剣で叩き切る。
「魔装神具・・・・・・?いや、魔法武器のほうが近い・・・・・・」
「調べていくうちにわかったことがある。あの時、軍司令官お付の使用人の意見が採用されていたらしい。そいつはお前そっくりだった」
眉を動かすベノクレインに鎌を向け、バズザは続ける。
「ハルミア軍の兵士を捕まえて聞き出した!少し脅せば洗いざらいはいてくれたよ」
「あたしの写真をわざわざ見つけて調べたって言うのかい?」
「ああ・・・・・・そして確信した。あの使用人はお前と同一人物だ!」
指差して言い放ったバズザに、「アハハハハハ!」とベノクレインは天井を仰いで笑う。
「わざわざそこまで調べてご苦労さま。だったら、どうだって言うんだい?」
「敵討ちのついでに労ってやろうと思ってね。わざわざ騙す奴の使用人になってまでことを起こす。お前らにはお似合いというか、ご苦労なことだ」
挑発じみた言い回しに、「何が言いたい?」と眉を寄せる。
「媚びを売って取り入り、懐に潜り込む。お前らにとっては専売特許だっただろ?」
「テメエ・・・・・・」
バズザの挑発で頭に血が上ったベノクレインは腕を振り、針を操りながら新しい針を放つ。鎌を振り回して弾くが、その内の一本の針の先端が頬をかすった。
「―――!!」
「・・・・・・ハハッ・・・・・・」
勝った、とベノクレインは思った。だが、
「おおおおおおおおっ!!!」
そのわずか一瞬の隙を突き、バズザは鎌の一撃をベノクレインに見舞った。
「!!」
ベノクレインが口から血を吐くと、バズザも毒の作用で口から血を吐く。
「・・・・・・カ・・・・・・ハハッ・・・・・・」
血が流れる口元に笑みを浮かべ、ベノクレインが笑う。
「・・・・・・結局・・・・・・あんたは部下を守れなかった・・・・・・あたしは・・・・・・倒しても・・・・・・部隊を率いる者としては、負けたのさ・・・・・・」
せせら笑い倒れたベノクレインに、バズザは鎌を持った腕を下ろす。
「わかっているさ・・・・・・」
強い後悔と悲しみがこもった声で呟くと鎌を放し、バズザは床に倒れた。