第136話 因縁の対決⑳‐激戦のリベンジマッチ
「互角か・・・・・・そう断言できるのは、これを知っての上だろうな」
呟いたヴォルグラードが腕に力を込め気合いを入れると、氷柱に貫かれた箇所が塞がっていく。薄い膜に包まれた状態のようだが、ディステリアたちは驚かない。
「我が鎧はこのような傷を受けても、徐々に再生していく・・・・・・加えて強度はオリハルコン並み。果たして貴様らの心は・・・・・・」
だが、諦めの色を浮かべずに身構えるディステリアたちに言葉を切ったまま笑みを浮かべ、剣を持つ右腕を上げる。
「そうだったな。我に勝つ気でいるんだ。この程度で折れるはずもないか」
どこか満足そうに言い、ディステリアが動いたのと同時に突っ込む。振り下ろされた右腕に握られる闇の天魔剣と剣が火花を散らし、入ったヒビから闇の魔力が浸食する。だが、ヴォルグラードは剣を振って闇の天魔剣を弾き、すぐさま傷を修復する。がら空きになった懐に光の天魔剣を振るディステリアだが、切り替えした剣がそれを弾く。後ろに飛ばされたディステリアに切りかかろうとするが、そこに槍を突き出したセリュードが突進を止め、セルスがイグニートブラストを放つ。
熱波に押されてよろめいたヴォルグラードに、炎が収まると共にクウァルが飛びかかる。そこを狙って剣が突き出されるが、直前に気付いたクウァルは左腕を振ってその剣を弾き、その反動で脇に逃げる。地面に着地したクウァルは踏み込み殴りかかり、腕が伸びきったヴォルグラードはそのまま横に振り下ろす。
両者の拳と武器がぶつかり火花を散らす。特殊な製法で作られ丈夫なグローブのおかげで拳が切られることはない。そこに左右からディステリアとセリュードが飛びかかる。突き出された武器の角度は垂直に近く、もしかわされてもクウァルに当たる可能性は低い。彼も避けるからなおさら。それを察していたヴォルグラードは足の力を抜き、わざとクウァルに殴り飛ばされた。
「―――!?」
それにより、クウァルの隊性は前のめりになる。ヴォルグラードが立っていた場所にクウァルが踏み込んだことで、ディステリアとセリュードの武器が彼に向いた。セリュードはすぐ槍を横にして穂先を逸らし、クウァルの前に着地する。ディステリアは翼を羽ばたかせ、殴られた反動を利用して離れたヴォルグラードに追撃をかけた。左右の天魔剣と互角に渡り合いながら下がるヴォルグラードに、セルスは魔術を打ち込もうとするがなかなかそのタイミングが見つけ出せない。
「(下手に攻撃すれば、ディスに当たる・・・・・・)」
それこそチームで戦う際に注意しなければならないこと。連携がうまくなったセリュードたちにその心配は杞憂だが、魔術師のセルスはそうはいかない。広範囲魔術を下手に使えば味方も巻き込むのは道理。だから、セルスは使う魔術を慎重に選ばなければならなかった。そんな中、セルスの視界の中でヴォルグラードへの攻撃コースが開いた。
「そこ!フレイムランス!」
杖を振って炎の槍を撃ち出すが、ヴォルグラードに気付かれる。再びディステリアを身代わりにしようとしたが、彼はすでに後ろに飛んでいた。最初の手がすぐに崩れた上、三人の技はもう回避不可能なところまで迫っていた。
「旋風脚!!」
「旋風脚!!」
一番近いセリュードの攻撃を打ち消すが、二撃目を当てる前にセリュードも同じ技を放つ。高速の蹴り同士がぶつかりあい、互いのレガースにひびを入れる。
「何!?貴様もその技を・・・・・・」
下がったヴォルグラードにフレイムタワーが直撃する。
「これで!―――決める!」
仕掛けるディステリアだが、セリュードにはまだ早いことがわかっていた。
「むうん!!」
全身からほとばしった黒い衝撃波が、ディステリア、セリュード、クウァルを吹き飛ばす。
「ぐあっ!」
「かはっ!・・・・・・くそっ・・・・・・」
「この世界など愚なるものの集合物に過ぎん。なら、誰かが支配し作り直せばいい。違うか!?」
「違う!!」とディステリアが切りつける。
「いや、小僧。貴様も心の奥底では、そう思う・・いや、願っているはずだ」
「!!違う・・・・・・違う!!」
「そう思うのは、貴様らが無知な証拠だ!!」
なおも向かおうとしたディステリアに、ヴォルグラードは手から放った衝撃波をぶつける。ディステリアは壁にめり込み、衝撃波が消えると壁の欠片と共に崩れ落ちた。
「かっ・・・・・・」
「確かにそうかも知れない」とセリュードが立ち上がる。
「だが・・・・・・人は変わる。俺たちは・・・・・・変われる!!」
「ヒールウィンド!!」
淡い光の粉が宙を舞い、三人の傷を癒す。しかし、ディステリアはまだ立ち上がることすらできなかった。
「ディス!?」
駆け寄るセルスを見て、「それほど、でかいダメージなのか!?」とクウァルが驚く。
「・・・・・・やはり、一発では仕留められないか・・・・・・だが―――」
「ボルカニック・エンレイジ!!」
ヴォルグラードの足元を超高温の炎が焼き尽くし、周りからの火柱が直撃する。あまりの熱さに赤熱化した床が融解した。が、
「フン!!!」
剣を振って発生させた突風で、全ての熱を払った。
「セルス!?ディステリアの回復は!?」
驚くクウァルに「大丈夫だ」と、ディステリアが顔を上げる。
「セリュード、セルスのサポートを!」
「わかった!」
槍で剣を弾いて答えたセリュードは一端下がる。入れ違いに飛び出したディステリアとクウァルは、未だ高熱を発する床の上でヴォルグラードと武器を交える。
「急ぐぞ」
「うん」
杖を横に倒したセルスの後ろに槍を立てたセリュードがつく。二人が瞑想すると足元に魔方陣が展開され、光の粒が舞い上がる。
「スペルサポートでマナを集めるスピードを上げるか・・・・・・」
「ちぃっ・・・・・・やっぱりお見通しかよ」
歯軋りするディステリアの天魔剣を弾き、横から殴りかかったクウァルを蹴り飛ばす。動きが取れないセルスとセリュードに狙いをつけるヴォルグラードにディステリアとクウァルが同時に攻め、身構えた剣に受け止められる。ディステリアはクウァルを蹴って上に飛び上がり、地面に足が着いたクウァルは身を屈め、下からヴォルグラードに拳を突き上げる。
案の定剣に止められるが、そのまま振り上げて剣を弾く。そこに、すばやく回り込んだディステリアが切りかかるが、ヴォルグラードは体を回して天魔剣を受け止める。が、止められていない反対側の腕―――右腕の闇の力を発する天魔剣を思い切り振る。
「―――!?」
光の力の天魔剣を止めているヴォルグラードの剣は切っ先が上に向いていて、下ろしたとしても勢いは止められず、確実に腹か足が切られる。そんな状況の中、ヴォルグラードは体を引く勢いだけで後ろに下がり、天魔剣をかわした。その先に待ち構えていたクウァルも肩から体当たりを食らわせ、よろめいたところに剣を振り下ろそうとする。だが、少し弾かれただけの光の天魔剣に止められ、事なきを得たクウァルは強引に後ろに飛んで体勢を整える。
「ディステリア!お前もセルスのサポートに回れ!」
「なんだと!?」
「ほう・・・・・・貴様一人で私の相手をするつもりか?うぬぼれるな!」
セルスとセリュードに突っ込もうとするが、それを止めるためディステリアが突撃する。振り下ろした天魔剣に弾かれてわずかに後退したヴォルグラードに、全力疾走したクウァルが殴りかかる。ディステリアも加勢しようとするが、それにクウァルが手を伸ばして止める。
「俺が―――食い止める!!」
後ろに伸ばした手を握り、ヴォルグラードに突き出す。それを見て手に力が入ったディステリアは、
「・・・・・・・・・わかった」
彼の意思に応えるべく後ろに下がった。マナを集めていたセルスはそれに気付き、一瞬だけディステリアを見る。
「ディス!?」
「俺もサポートに加わる。一分・・・・・・いや、30秒で終わらせるぞ!急ぎすぎればマナの集まりが悪くて威力が落ちる。せめて40秒だ!」
「どの道、とばすぞ!」
セリュードに口を挟まれながらも、ディステリアはセルスの後ろにつく。三人の位置が三角を作るように位置に着き、三人が集中する。その間、クウァルとヴォルグラードは剣を交えている。炎をまとった魔装神具の短剣を振るうクウァルだが、剣と短剣の戦いでヴォルグラードクラスの相手に優位か互角で戦えるほど実力は高くない。
「(それでも俺は退かない。耐え切ってみせる・・・・・・!!)」
持ち前の怪力で強引に戦況を維持する。冴えるヴォルグラードの剣の技と、力ずくで状況を維持するクウァル。少しずつヴォルグラードが優勢になる。だが、そんな中ディステリアが二本の天魔剣で切りかかる。剣で防がれたディステリアが一瞬視線を送ると、クウァルは彼と同じタイミングで後ろに下がる。
「(後ろに下がった?まさか・・・・・・!)」
「フレイムランス!」
ヴォルグラードの周りに炎の槍が降り注ぎ、冷めかけていた床の熱を再び上げ、ヴォルグラード自身の鎧の熱も上げる。だが、フレイムランスはスペルサポートを受けなければならないほどの魔術ではない。
「(なら、本命は―――!)」
「―――これだ!!」
突き出したセルスの杖の先端に白い翼が広がり、その周りを氷の結晶がいくつか回る。
「テンペスト・ブリザード!!」
一気に解放された冷気がヴォルグラードに直撃する。高い温度のため表面が少し凍りつく程度だったが、それでも温度が一気に下がる。
「おらあああああああああああああああああっ!!」
突っ込んだクウァルの懇親の一撃が鎧を撃ち、ヒビを入れる。だが、それでもヴォルグラードは剣を振り上げる。
「伏せろ!ルーチェ・フリューゲル!」
〈天魔の具足〉の肩鎧に光の天魔剣をつけると、丸い宝石のような部分から出た白い翼が天魔剣に移る。ディステリアは両翼から光の翼を広げて突撃するが、ヴォルグラードは剣から発生させた竜巻で真上に逃れる。
「クリス・ウォール、偏光プリズム!!」
スペルサポートの効果で収束が早まり、威力も範囲も上がっている。ヴォルグラードを囲むように生えた水晶の柱がルーチェ・フリューゲルの翼の光を上に向ける。直撃を受け口から血を吐くも、鬼気迫る表情で剣を振り光の刃をへし折る。落下したヴォルグラードに再び切りかかるが、剣で防がれる。
「フォーリング・アビス!」
肩鎧の球の部分から噴き出した闇を纏い、墜落したヴォルグラードに切りかかる。普通に魔力を込めるよりも大きな魔力の刃が形成され、気にかけず振り下ろすがギリギリで剣を引き寄せて受け止めた。
「なっ・・・・・・」
「おおおおおおおおおおっ!!」
思わぬところで発揮されたヴォルグラードの底力で、ディステリアは技を押し返され、後ろの壁に叩きつけられた。
「ディス!!クリスタル・ソード!!」
発射した水晶の剣の檻を、ヴォルグラードは苦もなく破壊する。砕けた剣が転がる中、その内の無傷な一本が伏せているクウァルの近くに落ちた。
「クウァル、それを!!」
セルスが叫んだすぐ後に、クウァルは拾い上げた水晶の剣でヴォルグラードに突っ込む。だが、避けようともしなかったヴォルグラードは、それを真正面から受け止めた。
「奇をてらったぐらいで!!」
「フェアリー・サークル!!」
今までセルスのスペルサポートをしていたセリュードの声と共に、クウァルの足元に現れた魔方陣から光の妖精たちが現れ、光を当てる。クウァルは全身に力がみなぎってきたが、クリスタル・ソード全体にひびが入る。
「能力の底上げか!だが、その程度で・・・・・・!!」
「終わりはしない!!」と叫ぶと、クリスタル・ソードが輝きを放つ。それに合わせて、ソード全体のひびも消えてゆく。
「これは・・・・・・どういう・・・・・・」
「俺自身の魔力で修復している・・・・・・」
さらに、微小ではあるがクリスタル・ソードの形状が鋭く変化している。
「私たちの力も―――」
「―――使ってくれ!クウァル!!」
セルスが杖を向けて、セリュードが右手をかざすと、二人から放たれた光がクウァルに吸収される。
「これは・・・・・・この時のために編み出した・・・・・・俺の―――いや、俺たちの必殺技―――」
三人の魔力に呼応するかのように輝きが強くなり、クウァルはそれを大きく掲げる。
「―――グラディウス・カリバー!!!」
振り下ろされたクリスタル・ソードを、ヴォルグラードは剣を横にして受け止める。が、剣は砕け、ヴォルグラードは水晶の剣の一撃を受けた。
「が・・・・・・バカな・・・・・・我がオリハルコン製の・・・・・・剣が・・・・・・」
「・・・・・・どのような物質も、超高温から一気に冷やされれば脆くなる。例えオリハルコンでもその限りではない・・・・・・」
クウァルが呟くと、水晶の剣が消える。とはいえさすが伝説にうたわれるオリハルコン。強度が一気に下がっても、破壊するまで時間がかかった。
「・・・・・・我が戦いに・・・・・・悔い・・・・・・なし・・・・・・」
わずかに笑みを浮かべ、ヴォルグラードは倒れた。ディステリアが立ち上がり、辺りが静寂に包まれると、奥に新たな気配が現れる。
「よもや、ヴォルグラードが倒れるとは・・・・・・」
「新手か!?」と、セリュードの声に他の三人も身構える。現れたのは、黒いローブに身を包んだ男二人だった。
「何者だ」
「ソウセツさまの側近、カーモル」
「その補佐、クーリア」
「共にデモス・ゼルガンク八幹部に名を連ねる」