第135話 因縁の対決⑲‐将軍再び
転移の魔方陣を抜け、セリュードたちは通路を駆け抜け続けた。少しでも早くデモス・ゼルガンクのボス、ソウセツを倒すため。なぜ三年前の宣戦布告の際、連日放送された映像の中、最後の放送でデモス・ゼルガンク首領は自らを『ソウセツ』と名乗った男。その狂気の笑みが未知なる力を感じずにはいられなかった。
「(絶対に・・・・・・倒す)」
そう心に決めた彼らの前に、一つの影が待ち構えていた。立ち止まったセリュードたちの前にいたのは、三年前に完敗を喫した男。
「よもや・・・・・・ここまで辿り着くとは」
「ヴォルグラード!!」
現れた男に、ディステリアたちは緊迫した面持ちで身構える。こいつと戦った後に、医療チームはハルミア軍に攻撃された。四人にとっては、因縁の相手だった。
「あの攻撃を生き残ったとは・・・・・・仲間を盾にでもしたか?」
「黙れ!!」
吼えたディステリアが突っ込み、後をセリュードとクウァルが続き、その後ろでセルスが杖を構える。身構えたヴォルグラードは魔方陣を展開し、召喚した剣を握ると一振りで三人を弾き飛ばす。
「そんな些細なことはどうでもいい。少し話がある」
「この期に及んで、なんの話がある?」
「何、簡単な話だ。我が軍門に下れ」
「「「「なっ!?」」」」
ディステリアたちは信じられず、強敵を前にしているにも拘らず目を見張る。
「我が部下を倒してここまでの快進撃・・・・・・正直感服した。お前らほどの実力者が加われば、この世界の修正も少しは容易となる」
「修正・・・・・・か」
気にくわなそうにクウァルが呟く。弱い立場にある者が追いやられている現状、変えたいと思うのは当然出し、デモス・ゼルガンクは変えるために動いていると豪語している。だが、そのやり方は弱い立場にある者を追いやっている強者となんら変わらない。むしろひどくすら感じる。
「そんな連中の仲間に、今さら加われるか!」
「そうか・・・・・・これでもソウセツさまはお前らを高く買っていたのだが・・・・・・」
嘆息をついたヴォルグラードだが、その声はどこか嬉しそうでもある。
「正直、貴様らが提案を蹴ってくれてよかったと思っている。貴様らとの戦い、楽しめそうだったのでな・・・・・・」
そう呟くと、傍らに大剣を召喚して掴む。
「あの時はいささか消化不良だったが、歯ごたえが出ると思って見逃した。果たして、そうなったかな・・・・・・?」
「そうか。だったら、そう思ったことを後悔させてやる」
再び叫んだディステリアが突っ込む。最初のフォーメーション通りに動くが、今度は半テンポ速く動く。
「今度は負けない!!」
セルスが放ったファイアボールがディステリアの脇をすり抜け、ヴォルグラードに当たる。減速したディステリアを抜いたクウァルが踏み込み、拳を放つ。
「フッ!!」
「つっ!!」
ガントレット越しに衝撃が伝わる。しばらく轟音が響き、離れる二人。着地したヴォルグラードはディステリアとセリュードのどちらかが来ると見て様子を伺うが、
「ストームエッジ!!」
足元を蹴って一気に離れると、セルスの声の後に竜巻が発生して真空の刃でヴォルグラードを切り刻んだ。
「ぬうぅううううううっ・・・・・・!!」
「いけるか!?」
「はあっ!!」
一瞬誰もが期待したが、ヴォルグラードの放った気迫で振り払われる。目を見張ったセリュードたちの前に着地したヴォルグラードは、周りを見渡して四人を見た。
「・・・・・・魔力、筋力、技の出の早さ。どれも上がっている・・・・・・。チームワークも前に戦った時よりも洗練されたが・・・・・・これで終わりというわけでもあるまい」
「当たり前だ。・・・・・・行くぜ!!」
ディステリアを先頭に、クウァルとセリュードが左右に散った。まず、ディステリアが切りかかるが、剣で受け止めた直後に横へ流した。そのまま体を回して右側から攻めたクウァルの拳を受け止め、ちょうどのタイミングで槍を振りかざしたセリュードが攻める。しかし、剣を足元に刺すと柄を持ったままセリュードを蹴り飛ばし、その直後にクウァルに向けて蹴りを放とうとする。が、足に何かが絡む感覚がして、目をやるとセリュードが自分の足をヴォルグラードの足に軽く絡めていた。そのまま蹴りを入れようとしたが、寸前で抜いた足の勢いそのままにクウァルを蹴り飛ばし、入れ違い振り上げた剣がセリュードの鎧に当たり、火花を散らす。
「・・・・・・っ!!」
着地したセリュードに襲いかかったヴォルグラードだが、槍で剣を受け止められた瞬間に切りかかるディステリアに気付き、体を高速回転させて二人を弾く。
「エアトラスト!!」
追撃をかけたヴォルグラードを真空の槍が止める。舌打ちの後に睨まれたセルスは、杖を構える。
「ファイアストーム!ストーム!」
炎の嵐を風の嵐が煽り、さらに大きな嵐となる。しかし、ヴォルグラードには、両腕で顔を庇っている状態ながらも、技の効果はあまり見られなかった。
「―――アイシクルランサー」
三つの氷柱が降り注ぎ、炎の壁を突っ切ってヴォルグラードに向かうが、剣で防がれる。剣をずらして目を覗かせるが、真っ向からはクウァルが突っ込んできていた。
「おおおおおおらああああああああああああっ!!!」
炎をまとった拳を高速で振り、何度もヴォルグラードの剣を撃つ。そこに三年前の戦いの様子がよぎる。この剣は、その時に使っていた大剣より強度は高いが、このままではあの時の二の舞になるという確信があった。いくつもの戦場を渡り歩いてきたがゆえの、危機察知能力。それに従い、ヴォルグラードはわざと殴り飛ばされ後ろの壁を蹴って切りかかった。
「なんだと!?」
真っ向勝負を望む武人肌と思っていたヴォルグラードがこのような戦い方をするとは思ってなかった。しかし、それはデモス・ゼルガンク、いや全ての敵と戦うにあたって捨てなければならない先入観。それを自覚することなくクウァルは後ろに飛び、振り下ろされた剣の一撃をかわした。大剣と変わらない威力を誇るその一撃は、床を砕く。
「くっ・・・・・・」
下がったクウァルの肩を踏み台にしてセリュードとディステリアが切りかかり、一度、下がったヴォルグラードに、同時に二撃目を放つ。天魔剣を振り上げたディステリアの攻撃を避け、剣を槍に変形させて突き出したセリュードの攻撃を自らの大剣で防いだ。セリュードはそのまま攻撃を流されるが、
「レイ・スピッド!」
三つの光弾が鋭くヴォルグラードの体に突き刺さり、よろめいた所にセリュードが槍を突く。貫通どころか突き刺さりもしなかったが、衝撃に口から唾液を漏らして飛ばされたヴォルグラードは、地に足を着けた後しばらく黙り込んだ。
「どうした?この程度で意識を飛ばすタマじゃないだろ」
「・・・・・・・・・すばらしい」
笑みを浮かべたヴォルグラードの口から出た言葉に、セリュードたちは目を見張っていた。
「・・・・・・ここまでの攻撃、作戦とか立てていたのか?」
不意にヴォルグラードが聞いてくる。それに対しセリュードは、「いや」と答える。
「・・・・・・俺たちがフォーメーションの打ち合わせをしたのは再会して二日後。それから二ヶ月間、最後の戦いに備えて様々なフォーメーションを組んだ。もっとも、貴様のほどの相手にはそのままというわけにはいかなかったが・・・・・・」
槍を構えるセリュードに、「いや」と呟く。
「たいしたものだ。だからこそ、もったいない」
「どういうこと?」とセルスが聞く。
「我らの主・・・・・・ソウセツさまの崇高らしい理念を達成することに、貴様らの力はなくてはならないものとなるだろう。それを見越したソウセツさまは、その者が敵対組織に入った後も交渉を続けた」
セルスとクウァルとセリュードはなんのことかわからなかったが、ディステリアには見当がついた。
「そうであろう、ディステリア。いや、ディルト」
「「「!?」」」
三人は思わずディステリアのほうを見た。
「・・・・・・どうも変だと思っていたが、そういうことだったのか」
本人の思わぬ言葉に、三人は再び驚く。
「だが、あの声は二年前に聞こえなくなった。俺のこともう諦めたってことか?」
「さあな」とヴォルグラードは笑う。
「・・・・・・俺が話に乗れば、俺が何人か引き抜くことを期待していたのか?」
「それもわからぬ。ソウセツさまの考えは、我のような者には理解できぬ。が、崇高なものだということは間違いないだろう・・・・・・さて―――」
剣を構えなおすヴォルグラードに、セリュードたちは警戒を強める。
「・・・・・・ここまで奮闘する者に対してやられっぱなしというのも失礼な話だ」
強大なプレッシャーが場を包み込み、四人の顔に一筋の汗が流れる。足元から放出された禍々しい魔力がヴォルグラードを包み、それが晴れると三年前よりも重厚で、禍々しい形になった鎧をまとった姿で現れた。
「いくらソウセツさまが迎え入れようとしている者でも、ここに来るまでに多くの同胞を倒してきた。手加減はもうできない・・・・・・」
姿が消えるほどのスピードで迫ったヴォルグラードの剣を、突っ込んだディステリアが受け止める。あまりの重さに天魔剣を握る両腕が耐え切れず震えだす。
「(お―――重い!!)」
三年の修行で腕力も倍以上になったが、それでも耐え切れないほど重い一撃。左右に散ったクウァルとセリュードが仕掛けようとするが、ヴォルグラードが体を回転させて三人をなぎ払った。
「うわあっ!!」
「ちっ!こいつで・・・・・・!」
飛び散った瓦礫をクウァルが殴り飛ばすが、あっという間に剣で砕かれた。だが、その程度で動揺はしない。防がれることある程度予測できた上での行動。ヴォルグラードの注意がクウァルに向いている間、ディステリアは〈天魔の具足〉と呼ばれた鎧を纏い、両腕に白と黒の天魔剣を握った。鎧は金のラインが入った黒い装甲で、肩の鎧には上下に分割するシールドが付いている。下の部分が三角形にへこんで上の部分が丸く曲がった盾と、それに合うように付いたひし形の盾。二つをつなぐ部分は可動式のようで、取り回しの際に邪魔にならないようになっているようだ。
「それが〈天魔の具足〉とやらの本当の姿か・・・・・・」
「ああ。だが、見せるのは姿だけじゃない・・・・・・」
クウァルに答え、右手に握る黒い天魔剣をヴォルグラードに向ける。
「・・・・・・本当の力だ」
レガースの外側に付いている翼が広がり、地面を蹴ると共に羽ばたき加速する。右の天魔剣を振りヴォルグラードの剣とぶつかると、弾かれると共に左の天魔剣を振る。切っ先は鎧に阻まれ火花を散らし、仰け反ったヴォルグラードが足を振り上げディステリアを蹴り上げる。地面に剣を突き刺して自身を持ち上げ、引きぬいた剣でディステリアを切ろうとする。だがそれを、ディステリアの肩から離れた二つの盾が受け止める。
「何!?」
その隙を突き、ディステリアが白い天魔剣を振る。脇腹に直撃したが手応えからしてダメージは与えられていない。手首を返した左腕と構えていた右腕を同時に振り、白と黒の天魔剣で同時に切りつける。拳での防御は間に合わなかったが、またも鎧の装甲に阻まれてダメージを与えられない。だが、気にせず落下するヴォルグラードに畳みかける。地に足が突いて床を砕き、埃が舞うと同時にディステリアが離れると、ヴォルグラードは距離を詰めようとする。
「レイジングフィスト!」
それを防ぐべくクウァルが炎の拳を割り込ませる。ヴォルグラードが引き寄せた剣でそれを防ぐと、クウァルを踏み台にして飛び上がったセリュードが槍を逆手に持って構える。が、ヴォルグラードはそれが囮だと見抜く。
「(本命の攻撃は―――)」
「フレイムランス!!」
直後に死角から飛ばした炎の槍も、すぐに反応されて剣でかき消された。
「(・・・・・・隙を作ることすらできないのか・・・・・・)」
「まだだ!」
歯軋りしているクウァルにセリュードが叫び、ヴォルグラードに向かっていき槍を突く。剣でいなされるが、前に踏み込んで柄を叩きつける。またも剣で防がれるが、そこを狙って穂先で足元をなぎ払う。ジャンプでかわして切りかかったヴォルグラードの剣と、剣に変形させたセリュードの剣がぶつかり火花を散らすが、落下しているヴォルグラードのほうに分があり、危うく自分の剣で自分の首を切り落とすところだった。しかし、その恐怖が隙となり、着地後の蹴りを受けてしまう。
「―――!!」
飛ばされたセリュードの勢いを受け止めたクウァルがうまく相殺し、空間に静止させた。その後、飛びかかったクウァルが魔力を込めた拳で殴りかかり、互いに横へずれながら、剣と拳が激しくぶつかり合う。叩きつけられる拳を掻い潜りヴォルグラードが振った剣をジャンプでかわし、クウァルは雄叫びを上げる。
「おおおおおおおおおぉっ!!」
全身を炎が包み込み、それが集中した両腕をヴォルグラードに突き出す。
「レイジングブーステリア!!」
クウァルの気迫で押された炎がヴォルグラードを吹き飛ばし、クウァルが離れたタイミングで体を一回転させたセリュードが切りつけ、空中で待機していたディステリアも突っ込んで左右の天魔剣を振る。それが届く前に、ヴォルグラードの剣から放たれた黒いエネルギーが周りをなぎ払う。
「デスト・ブロード!!」
「「うわぁぁぁぁぁっ!?」」
吹き飛ばされた二人が立ち上がろうとしているわずかな隙に、ヴォルグラードはセルスに狙いを定めて突撃するも、それに気付いたディステリアが割り込んで止める。ヴォルグラードの剣と天魔剣が火花を散らすが、重心が傾きかけている体勢では長く持ちこたえられず、床に押し倒されてしまった。しかし、その時すでにセルスは放れた後で、魔術の詠唱も終えていた。
「ファイアボール!!」
「おおっと!!」
一瞬の判断でディステリアを蹴り上げ、ファイアボールの身代わりにした。
「ぐぁっ!!」
「ディス!!」
悲鳴を上げたセルスに狙いを定めるが、ふんばったディステリアが睨み付けて天魔剣を突き出し、気付いたヴォルグラードはとっさに止めた。それこそ、ディステリアの予想通りに。
「今だ!!」
ディステリアの叫び声に三人は攻撃に入る。
「レイジング・フィスト!!」
「ヴェントランス!!」
「フレイムタワー!!」
三人の攻撃がヴォルグラードに襲いかかり、セリュードの槍の起こした風に煽られた二つの炎が、さらに大きな爆発を起こす。
「ぬうっ!?」
「はあっ!!」
煙を突っ切ったディステリアの天魔剣を己の剣で防ぐ。数回打ち合った後セリュードが突っ込み槍を突くが、鎧に阻まれて大きなダメージを与えられない。
「くっ、あれをなんとかしなければ・・・・・・」
「できるかな?オリハルコン並みの高度を誇る我が鎧を・・・・・・」
「神界でしか生成できない、希少な超金属かよ・・・・・・」
さんざん神は嫌うくせに、その技術はちゃっかり利用する。自分勝手といえば自分勝手だが、長く相手をしている以上もう慣れた。
「俺たちの強い思いが、物質の限界を超える」
それは、タダの妄想に過ぎないだろう。だが、
「―――俺たちは、そう信じる」
やけになったのでも勝負を捨てているのでもない。オリハルコン並みの強度を持つ武具をまとった敵を倒す。その覚悟で挑む。
「いいだろう・・・・・・今一度絶望を味わうか、それとも乗り越えるか・・・・・・見せてみろ!!」
ヴォルグラードが踏み込み、剣を振るが、ディステリアは翼を羽ばたかせて高く上昇する。距離をとるディステリアに、ヴォルグラードは冷徹な眼差しを向けている。
「遠距離から攻撃するつもりか?甘い・・・・・・」
冷たく言うと左腕をかざし、空中のディステリアを黒い魔方陣で捕縛する。
「私にはこの技があることを失念していたか?」
「―――させるか!!」
「わざわざ声を出す奴があるか!」
突っ込むクウァルの拳を剣で弾く。風をまとった槍を上から突き出したセリュードにも、嘲笑うかのような目を向けて振り切った剣を向ける。
「煙を吹き飛ばすのもいとわず風の槍か?一気に愚かしくなったな!」
視界を覆い、自分たちにアドバンテージを与える煙を自ら晴らす愚行の嘲り、しかし顔は真剣なままでセリュードの腹を左腕で打つ。
「げほっ!」
「やはり・・・・・・貴様らもその程度か!?」
再び突っ込もうとしていたクウァルにセリュードを投げ、ヴォルグラードは薄くなっている煙の中を見回す。
「あの魔術師もここまで手を出そうとすらしていない。魔術詠唱を早められないなら、さっさとその名を返上すべきだ」
そして、ディステリアに左手を向け、魔方陣に魔力を溜める。
「そのおかげで、貴様らは一人仲間を見殺しにする」
「・・・・・・もっともなご指摘、痛み入るな」
魔方陣に捉えられているディステリアの言葉に、ヴォルグラードが眉を動かす。
「でも・・・・・・あんたは俺たちが『人間側』だからって、いささか侮ってないか・・・・・・?」
「侮る?例え格下でも敵を侮るなど、愚にもつかない行為だ。私は純然たる事実を・・・・・・」
「じゃあ、聞くぜ・・・・・・。今、セルスがしてること、な~~んだ」
「何を言っている?魔術の詠唱だろう・・・・・・」
笑みを浮かべるディステリアに返した後、晴れた煙の向こうに目をやる。杖を立てていたセルスは、先ほど詠唱を終えた魔術の名を口にした。
「フリージング・コキュートス」
「―――!?氷結最強クラスの、古代魔法だと!?」
驚くヴォルグラードを立ち込める冷気が凍らせる。最初は表面を凍らせる程度で動きを鈍らせ、吹き付ける冷気がその氷を大きくし、足元から生えた氷柱が貫き、冷気の竜巻が大きくなっていく氷の固まりを打ち付け凍結させる。氷の中のヴォルグラードの表情は驚きに満ち、信じられず目を見張っていた。
「・・・・・・・・・この程度で終わる奴じゃないだろ・・・・・・」
「ああ、すぐに・・・・・・」
セリュードとクウァルの予想通り、氷が砕けて息を切らせるヴォルグラードが解放される。すでに詠唱を終えていたセルスは杖を向け、ディステリアたちが散会すると同時に名を叫ぶ。
「アイシクルランサー!」
三発の氷柱を剣で弾くが、そのすぐ後にもう三発の氷柱が飛んでくる。ヴォルグラードは、魔術の発動に必要なはずの詠唱の短さに驚きながらも剣を構えて弾くが、その隙を突いてクウァルが飛び出し、氷柱を殴りつけた。氷柱は少し砕けたものの、後ろに飛ばれさたヴォルグラードの鎧は、氷柱をくらった部分に穴が開いていた。しかし、その下の体には、傷一つ付いていなかった。
「鎧に穴を開けただけか・・・・・・」
クウァルが悔しそうな顔で両腕を構えると、「大丈夫だ」とセリュードが話しかける。
「今のところ互角だ。負けてはいない」
「ここから巻き返しだ」
天魔剣を構え直したディステリアに、ヴォルグラードは息をつく。