第133話 因縁の対決⑰‐予期せぬ再会
バーレンダートの作り出した土人形から人間が出てきたことに驚きを隠せず、リリナとルルカは騒然とした。それだけでなく、出て来たものが死んだはずのミリリィだったことがリリナにショックを与える。
「な・・・・・・んで・・・・・・お姉ちゃんが・・・・・・」
理解ができずただ驚くだけのリリナに、冷たい笑みを向けたままミリリィは歩いてくる。
「だって、お姉ちゃんは・・・・・・」
そこで言葉が途切れる。その時にはすでに、ミリリィはリリナの胸に左手を当てていた。
「(―――速い・・・・・・)」
ルルカはそう思うが、それは筋違い。彼女もリリナもショックで動けず、それにより反応が鈍っただけ。ミリリィの動きは確かに速いが、その場にいる誰もが反応できないほどではない。
「―――!?」
刹那、閃光がリリナの胸の広範囲を焼き、彼女を吹き飛ばす。すぐさま、滑り込んだルルカがリリナを受け止めた。リリナの呼吸は荒く、胸は血に染まっていた。
「(・・・・・・違う。動揺のせいで、気付けなかったんだ。だけど・・・・・・)」
すぐ原因を看破して睨みつけるルルカに、ミリリィは冷たい笑みを向け続けている。不敵な笑みを浮かべるミリリィから感じるプレッシャー。それを感じ取れるということは、最初に対峙した時よりルルカが強くなっている証であり、同時に立ちはだかるミリリィの強さを推し量れる。
「(あの時と比べ物にならないほど・・・・・・強くなってる・・・・・・)」
「それほどの大量出血、ふつうなら助からない・・・・・・。でも―――」
「うっ・・・・・・」
リリナが苦しそうに呻くと、胸の傷が治っていく。一瞬ルルカが視線を落としてしまったが、その瞬間を突いて仕掛けてくることはなかった。代わりにミリリィは勝ち誇ったように笑みを浮かべている。
「吸血鬼は、人間の血を吸い続ける限り不死。だから、倒すには特別な武器や術が必要。その抗う術を手に入れた者こそが、ヴァンパイアハンター。聖戦のための戦士・・・・・・」
「よくもそんなことが言えるわね」と、ルルカが睨む。
「・・・・・・彼女は・・・・・・血なんか吸ってないわ・・・・・・」
「だから・・・・・・?なんだっていうのよ!!」
叫ぶミリリィの両腕が金属質の装甲に包まれ、両指先の爪が伸びる。漂う気配は、以前とは全く違う邪悪な気配を出していた。
「(・・・・・・退魔武器!?でも、何!?この禍々しさ・・・・・・)」
雰囲気に飲まれて目を見張り、攻められないでいるルルカにフッと影がかかる。
「―――!?」
ハッと気付いたルルカはリリナを抱えてその場から飛び退く。その直後、二人がいた場所に長い尻尾のようなものが落ちてきて地面を砕いた。二人を狙って尻尾が動くが、ルルカの放った一撃で簡単に飛ばされた。それを不審に思ったのも束の間、別方向からの一撃がルルカを襲った。
「・・・・・・っ!!」
高速で動いたミリリィの爪の一撃で肩を切られ、吹き飛ばされる。叩きつけられた拍子に、リリナを放してしまった。
「―――もらった!!」
―※*※―
リリナに向けて爪を束ねた右手を向けるミリリィに気付き、クルスが振り返る。
「リリナ!!」
「待て、クルス!俺一人でこいつの相手は―――!」
「無謀―――だよな!!」
叫ぶと共に突っ込むバーレンダート。構えたクドラの右腕にいくつもの刃が連なる。
「しゃあぁあああっ!!」
「テネブラエ・シュナイド!!」
右腕の翼に闇の魔力を込め、錬成した刃がぶつかる。両者の刃が砕けたもののクドラの刃のほうが砕けた範囲が大きく、バーレンダートの気迫と共に吹き飛ばされた。
「くっ・・・・・・!!」
着地して「クルス!!」と振り返ると、彼はミリリィの肩から伸びた尻尾に飛ばされた。
「くはっ・・・・・・くそっ・・・・・・」
体に衝撃を受けた拍子に吐いた唾液を拭い、着地したクルスは吹き飛ばされてきたクドラと背中合わせになる。
「こっちを先に片付けないと、ダメなようだ」
「しかし・・・・・・それではリリナたちが・・・・・・」
「掛け持ちみたいな戦い方で勝てるほど、甘い相手ではあるまい・・・・・・」
「くっ・・・・・・」と呟いたものの、今はそうするしかないと直感はしていた。
「ククク・・・・・・そうだ、こちらに集中しろ。貴様らの愚かさと浅はかさを自覚させることなく殺すのは簡単だが、それでは私の気が晴れない」
周囲に土の槍を召喚し、クルスとクドラの攻撃ルートを限定させる。地上から攻めようが空中から攻めようが、バーレンダートに攻撃を当てるためには正面から攻めるしかない。ならば当然、バーレンダートはカウンターを仕掛けてくるはず。攻める手は決まった。
「(カウンターを捌き・・・・・・)」
「(奴に攻撃を当てる!)」
クルスはリリナのほうが気になっていたが、クドラの言う通り仲間のほうを気にかけていて倒せるほど甘い相手ではない。バーレンダートを倒す以前に攻撃を当てるためにも、クルスはこちらに集中せざるを得ない。
「(リリナ・・・・・・切り抜けていてくれ)」
一瞬だけ祈り様な気持ちを浮かべ、気持ちを切り替えたクルスはクドラと共に向かって行った。
―※*※―
一方のルルカは、孤軍奮闘の状態だった。常人なら間違いなく重傷に入る傷を負ったリリナは、意識が混濁しており後ろで寝かされている。例えはっきりしていたとしても、再び姉に殺されそうになるショックを受けてしまい、戦うには無理に近い精神状態になっていただろう。
「(それだけリリナは、姉に対して追い目を持っている・・・・・・あいつら!!)」
リリナの心の傷をえぐるデモス・ゼルガンクに怒りの炎を燃やす。しかし、そんな簡単に戦況はひっくり返らない。ミリリィの爪は波も剣よりも難く鋭い。ルルカが作り出した水の刃は簡単に砕かれる。これが氷の刃ならまだ少しは変わっていただろうが、生憎ルルカに氷属性を操る術はない。
「(それでも・・・・・・やるしかない!)」
砕けた側から左手を柄に添え、魔力を注ぎ込んで刃を補っているものの、両肩から生えた尻尾の猛攻に防戦一方。ミリリィの攻撃が掠った肩や頬からは血が流れていた。
「ほら、さっさと吸血鬼を見捨てなさいよ!」
「あったまきた。あんた、絶対倒す!リリナには指一本、触れさせない!!」
「できる訳ないじゃない!!」
腕を振って衝撃波を放つ。ルルカはルサールカとしての能力で水の障壁を作り、衝撃波を防ぐ。その際に起きた水しぶきが消えるとそこにルルカの姿はなく、一瞬でミリリィの後ろに回り込む。だが、すでに気付いていたミリリィが右腕で受け止める。
「やっぱり、気付いて・・・・・・」
「当たり前―――でしょ!!」
爪を伸ばしたミリリィの体勢から高速スピンを察知し、ルルカは後ろにさがる。しかし、横から何かが腹に当たった。
「(何・・・・・・!?)」
その何かが体から離れる直前、ルルカの目がそれを捉える。ミリリィの腰辺りから生えた尻尾、さらに彼女の頭には猫のような動物の耳がついていた。叩きつけられたルルカは、咳き込みながら体を起こしミリリィに視線を向ける。
「へえ・・・・・・かわいいじゃない」
「どこが!!」
脇腹を抑えて立ち上がったルルカに、激昂して襲いかかる。迎撃のために魔力で空気中の水分を引き寄せ、水の刃を伸ばして剣を振るが、突然ミリリィの姿が消えた。ルルカが目を見張った瞬間、後ろに現れたミリリィが爪を構える。
「―――終わりよ!!」
「危ない!!」
当たる寸前にリリナがルルカを突き飛ばし、彼女の代わりに尻尾を受けてしまう。
「うあっ!!」
「リリナ!!」
いつの間に意識を取り戻した。それ以前に、近付いていたことすら気付かなかった。唖然とするルルカに、ミリリィが飛びかかる。
「人の心配をしてる暇が―――!!」
死角からの攻撃。気付いた時には、回避不能な位置まで来ていた。
「(―――間に合わない!!)」
そんな絶望間が沸いたその時、腕が勝手に動いて攻撃を止めた。さらに、水属性の青い刃が噴水の水のように噴き出し、尻尾を切り刻んだ。
「―――!?」
「やっと・・・・・・出てこられた・・・・・・」
笑みを浮かべるルルカ。だが、その声の調子は彼女と違う。
〔あ・・・・・・ああ・・・・・・〕
精神の内側に押し込められたルルカは、声を漏らす。驚きと喜びの混ざった声を。
「ごめん・・・・・・随分、心配かけちゃって・・・・・・」
〔・・・・・・ううん・・・・・・〕
今にも泣き出しそうなルルカの声を聞いた裏ルルカは安心したように、好戦的な笑みから柔らかな笑みを浮かべる。ジェラレとの戦いで、蛇腹剣を砕かれると同時に消滅したと思われた、ルルカのもう一つの人格。実のところ、消滅などしていなかった。蛇腹剣を解して表裏二つの人格ができるようにすることで、主人格のルルカの判断力と裏人格のルルカの戦闘力を合わせる。そのコンセプトで彼女の剣は作られた。やがて彼女の裏人格を剣に投影する段階まできたが、その矢先に剣が破壊された。その上、人格交代を剣に頼っていたため、自力での交代が困難になっていた。結局のところ、命の危機に際し今までの感覚を取り戻し、元の鞘に収まったに過ぎない。
「さて・・・・・・」
感傷に浸るのはここまで。柔らかい笑みを浮かべた表情から一転、裏ルルカは険しい表情で剣を握り締め、ミリリィに向ける。
「さあ・・・・・・ここからが本番だよ!!」
「どう本番なの?ふざけないで!!」
そうとは知らないミリリィは爪を振りかざして突っ込んでくると、ルルカは左手を向けて高圧水流を噴射し迎え撃つ。簡単にかわされるが、それは裏ルルカの想定内。噴出した水を結合させてムチのようにし、蛇腹剣の先を左手に付けて高圧水流とつなげる。ミリリィが目前まで迫ったところで、剣を振ってムチを操る。
「―――!?」
元々高圧水流は刃のようなもの。圧力が高ければ高いほど物を削り、ダイヤモンドすら切断する。ルルカの放つ高圧水流はウォーターカッター(それ)には遠く及ばないが、鉄くらいなら切断できる。
「がっ・・・・・・あああああああああああああああっ!!」
それをムチのように操ることで切断力は下がるが、武器としての威力は維持できる。食らったミリリィは脇腹から血を吹き出し、左のほうに飛ばされて着地した。それはムチを食らった勢いではなく、回避に移ったため。
「切れなかったわね・・・・・・」
〔わ・・・・・・我ながら、なんて恐ろしいことを言うの・・・・・・〕
残念がる裏ルルカの発言に、精神世界内のルルカは顔を青くする。
「ルルカ・・・・・・ちゃん・・・・・・?」
弱々しい声のリリナに、相手に蛇腹剣を向けたままルルカが視線を向ける。
「本当に・・・・・・ルルカちゃんなの?もう一人の・・・・・・」
「あのねえ・・・・・・あたしの主人格は、表も裏も『ルルカ・ヴォージャ』って受け入れてるんだから、そういう言い方やめてくれない?」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
わざわざ左手に剣を持ち替え、右手で頭をかきながら振り返り反論する。自分の配慮のなさに気付いたリリナは、体を起こすとすぐ謝った。
「いや、今は脇に置いとこうか。まずは彼女よね・・・・・・」
「倒す気・・・・・・?」
聞くだけ野暮ということはリリナにもわかっているが、それでも聞かずにはいられなかった。
「・・・・・・ええ」
「だったら・・・・・・」
痛む体を抑え、リリナは顔をしかめながらも立ち上がる。
「私が・・・・・・やる」
決意の中にほんのちょっとの迷いを秘めた顔のリリナを見て、ルルカは目を細める。
「できるの?」
「わからない。でも、吸血鬼の持つ力を最大発揮して連続攻撃すれば、さっきよりは・・・・・・」
「そんなことして、あなたの体は無事で済むの?」
鋭い指摘にリリナはハッと目を見張る。彼女が言った『吸血鬼の力』は生物の血を吸っていてこそ存分に発揮できる。だが、リリナは人工血液と人工的に圧縮されたマナ結晶で力の衰えをごまかしているに過ぎない。そんな状態で力を発揮したらどうなるか、ルルカはわかっていた。
「死ぬわよ。それとも、知っててやる気?」
「それは・・・・・・」
「どうするかはあなたの勝手だけど、迷いを捨て切れてなければ結果は目に見えてる」
〔ちょっと、もっと他の言い方が・・・・・・〕
「こういうの苦手って知ってるでしょ」
内面世界のルルカに言い返すと、裏ルルカはリリナに続ける。
「あなたはよくても、クルスはどう思うかしら?」
「っ!!」
クルスの名が出た途端、リリナの迷いが大きくなる。仕向けておいてなんだが、これでは手出しさせないほうがマシだと裏ルルカは思った。
「それに、例え迷いがなくても・・・・・・」
視線を外すと、ミリリィのほうに向ける。彼女は傷を抑え、上半身を屈めたまま動かない。
「姉に後ろめたさがあるあんたじゃ、非情になりきれないでしょ?」
図星だった。黙り込んでうつむくリリナに、視線を外したルルカが続ける。
「・・・・・・だから、私がやる」
左手に持っていた剣に右手を添え、水の刃を大きくする。険しい表情を向ける裏ルルカに、ミリリィは笑みを浮かべた顔を上げる。
「・・・・・・くだらない話は終わったかしら?」
「終わるまで待ってくれた・・・・・・なんてことはないわよね?」
「ええ」と答えたミリリィは両腕を広げる。血を付けた手のひらから、いくつもの剣が飛び出す。その刀身は爪のようにも見える。
「ブラッディ・カース・・・・・・デッド・ネイル!!」
生物の血を媒体にした古代の呪術。神々が禁を破り忘却の水を使ってさえ抹消したはずの禁術が、今目の前で蘇っている。その事実を知っている者はここにおらず、ミリリィに術を教えた者のみ。
「血を吸われて息絶える恐怖・・・・・・得と味わうがいい、吸血鬼!!」
叫び、腕を振ると剣が襲いかかる。せっかく圧縮した水を解放し、ムチのように伸ばして血の剣を破壊する。ミリリィに向けるが、肩から生えた尻尾がそれの身代わりになる。切り落とされても構わず左手を振り、操られている血の剣二本がルルカに迫る。それを見逃す裏ルルカではない。右腕に交差させた左腕を向け、水流を飛ばして剣を折る。
「(これすら囮―――!)」
眉を寄せて視線を横に走らせ、後ろに回り込んだミリリィが爪を振る前に蹴り飛ばす。振り返り、上に打ち上げられ身動きが取れないミリリィに剣を向けるが、左肩の尻尾が突き出されてかわす。攻撃のチャンスはミリリィに移り、尻尾で自身を引き寄せ地面に足が着くと共に新たに生成した血の剣を投げる。それらを砕いて水を被せるルルカだが、ミリリィは気にせず突っ込む。すぐ目の前まで接近した両者。ミリリィは相手の胸を狙って束ねた爪を突き出し、裏ルルカは身を屈めながら脇腹の傷を狙う。ミリリィの爪は左頬を掠め、水の剣は相手の体に当たる。だが、回避と攻撃を同時に行なったため少し狙いが外れる。それでもルルカは踏み込み、ミリリィを吹き飛ばした。
「があっ!!」
叩きつけられ、呻き声を上げる。肘を曲げて構えた左手の血が付いた部分に、剣山のように無数のトゲが生える。右手は三本の血の剣を引き寄せてまとめて掴み、刀身が三つある剣に融合させる。そのような奇策に近い武器で戦えるのか、余裕があったら思っていただろうが裏ルルカは性格上、そんなことはありえない。
「(せっかく水の剣を作れるようになったんだ。ルルカ、あれやるわよ)」
〔あれって・・・・・・ミリリィちゃんの剣と同じくらい奇抜なんだけど・・・・・・〕
「(そんなこと言わないで。姑息っていうか・・・・・・不意討ちみたいだっていう自覚あるんだから)」
もっとも、命のかかった戦場で倒せるかどうかわからない敵を前に、そんな悩みを抱くのは愚の骨頂と言われても仕方ない。
〔でも、言っていられないよね。わかった、水と魔術操作は任せて!〕
「そうこなくっちゃ!!」
叫んで駆け出す裏ルルカと同時にミリリィも動く。右腕の剣を弾いた直後に剣山を持つ左手を突き出すが、裏ルルカは体を回すと共に剣を振って切りつける。三度目の胴体への直撃。しかしミリリィは歯を食い縛り、左手と剣を左右から挟みこむ。後ろに飛んでかわし剣を引くが、胴体に当たった時に刃が潰れていて切ることができない。だが、ルルカには関係ない。
〔今!!〕
内面世界のルルカが叫び、剣の刀身を形成している水が噴き出して刀剣を生成する。三本ある剣の内一つを折り、とっさに引いた左手の剣山を砕くが、下がったルルカも左肩に傷を負う。
「切られたわね・・・・・・」
笑みを浮かべたミリリィは剣山を血に戻して、ルルカの傷に指を向ける。裏ルルカが目を見張った時、傷口から血が噴き出し引き寄せられるように動く。ただごとでないと直感し、傷口を押さえると引き寄せられていた血がルルカの手の平で止まる。
「ちっ・・・・・・もう少し量があれば、あなたの血を奪えたのにね」
「吸血鬼を否定する奴が、吸血鬼の真似事?」
呆れて挑発気味に言う裏ルルカに、ミリリィは激昂する。
「ふざけないで・・・・・・」
憎しみに満ちた顔で呟き続け、体を屈ませる。剣の形を取っていた血は液体に戻り、両手に付いて形を返る。
「ふざけないでふざけないでふざけないでふざけないでふざけないでふざけないでふざけないで・・・・・・」
呪詛のような言葉を呟き続け、ミリリィの傷から薙がれた血が集まって鋭い爪を持つ手甲を形作る。
「あたしを吸血鬼扱いする奴は・・・・・・殺す。殺してやる!!」
飛びかかり、爪を振りかざして水の剣を砕く。すぐ刀身を生成して応戦するが、ぶつかる度に砕かれ、砕かれた側から作るがそれも間に合わなくなっていく。剣が砕かれ、爪が迫った時、水の壁を作って攻撃を止める。だがミリリィが高速で二度振る度に、壁の層が半分ずつ消えていく。
〔どうしてそこまで・・・・・・〕
水の壁の再生が間に合わず突破されたルルカが呟く。裏ルルカは体を仰け反らせて思い切り蹴りつけてミリリィを飛ばす。
「呑まれないでよ!どうせ勝手な逆恨みよ!」
「勝手な逆恨みなんかじゃないわよ!知らないくせに・・・・・・!」
腰から生えた尻尾を地面に叩きつけ、ブレーキにして留まろうとする。水のカッターを飛ばして尻尾を切ると、少し後ろに下がったミリリィは着地する。
「知らないくせに・・・・・・善人ぶって庇ってるくせに・・・・・・」
爪の付いた両腕を後ろに振り上げ、突っ込むミリリィは憎しみを込めて叫ぶ。
「知ったようなことを言うなあああああああああああっ!!」
牙のように変化しかけた歯を剥き出しにして迫るミリリィを前に、ルルカは身構える。