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幻想戦記  作者: 竜影
第3章
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第130話 因縁の対決⑭‐噛み合わない戦神






アトランテの言葉に疑問を覚えたマナナン・マク・リールは、彼女を攻撃することなく眉を寄せている。

「どういう意味だ?まったく要領を得てないんだが?」

「そりゃそうだ。あたしはあんたの敵。裏切りでもしない限り、こちらが不利になる情報は与えない」

そりゃそうだ、とマナナン・マク・リールは内心溜め息をついた。

「だけど、これだけは言わせてもらうよ。シシュポスとアガムメノンはこちらの切り札だ。簡単に終わると思うなよ?」

そういうアトランテに、マナナン・マク・リールは眉を寄せる。切り札にしては、あっさりブリュンヒルドに倒された。それはフェイクなのか。そんな疑問を感じて仕掛けないマナナン・マク・リールに、アトランテは突っ込んできた。

「(そうだ!まずは、こいつをなんとかしないと・・・・・・!)」

突き出された槍を剣で防ぐ。すぐ持ち直したマナナン・マク・リールの槍を脇腹に受け、アトランテはなぜか笑みを浮かべた。



                      ―※*※―



その頃、ペイリトスは腰と背中に剣を抜いてエインヘリヤルの軍勢を圧倒していた。

「ふん、この程度か!異国の戦神というのは!?」

「まだだ!」

シシュポスを倒したブリュンヒルドが切りかかるが、その一撃はあっさり止められる。ここまで休みなしの連戦、その消耗度は大きい。

「やれやれ。女の兵士はその程度か?」

「兵士じゃなくて、戦乙女ヴァルキリーですけど?」

「どの道、『兵士』であることに変わりはあるまい!」

剣を弾き、開いてるほうの剣を振ってブリュンヒルドを攻撃する。後ろに体を引いてかわすが、その目の前に投げられた短剣が迫る。とっさに剣を構えて弾いたが、突っ込んできたペイリトスが振り上げた左右の剣が直撃し、後ろの木に叩きつけられる。

「ぐあっ!!」

短剣を弾いてがら空きになった所を切るつもりだったペイリトスは、小さく舌打ちする。

「はあっ、はあっ、はあっ・・・・・・」

「この程度で息切れか。やはりもろいな、異国の戦神は・・・・・・」

「好き勝手言って・・・・・・」

立ち上がろうとするブリュンヒルドにペイリトスは剣を向けるが、その後ろに二人のエインヘリヤルが切りかかる。その二人は飛んできた短剣に切られ、血を流して倒される。

「(あの短剣・・・・・・自立移動してる?いや、あの軌道は・・・・・・)」

分析しようとするブリュンヒルドに短剣が飛んでいく。右下に身を屈めてかわしたブリュンヒルドは、左腕の弓を展開して魔力の矢を連射した。それに目を見張ったペイリトスは両腕の剣を振るが、反応に遅れたため捌き切れず何発が受けた。

「ぐ、あっ・・・・・・!」

「(チャンス!)」

よろめいたペイリトスに突っ込み、短剣の動きに注意しつつ切りかかる。案の定、先ほど投げられた短剣と側にあった短剣がブリュンヒルドを襲う。片方は剣で弾き、もう片方は弓と一緒に付いている盾で防ぐ。だが、そこを狙いペイリトスが左腕の剣を振る。ブリュンヒルドの懐はがら空き、剣を振っても間に合わない。腕での対応が間に合わないからこそ、ブリュンヒルドは蹴り飛ばした。

「足!?」

ドレススカートに隠れて見えなかったレガースに当たり、ペイリトスの剣は弾かれる。今度はペイリトスの懐ががら空きになった。そして、ブリュンヒルドが剣を振り下ろすには十分な間がある。突きを放つように剣を滑り込ませるペイリトスだが、間に合わずブリュンヒルドの剣に切られた。

「―――っ!!」

閉じている口の間から吐いた血が漏れる。ブリュンヒルドの足が地面に着くと、ペイリトスはよろめいた。

「あそこで突き出していたら、私はかわすしかなかった。そうなれば、少し狙いがずれたかもね」

「過ぎた戦闘に仮定など意味がない・・・・・・そんなことを考えるあたり・・・・・・やはり、異国の戦神は甘い・・・・・・」

同感、と思いブリュンヒルドは小さく笑みを浮かべた。

「だが・・・・・・」

切られた箇所を押さえ、ペイリトスが自嘲するように笑う。

「その甘い神に切られては・・・・・・笑えない話だ!」

両腕の剣を不利、短剣も左右に浮かぶ。だが握られたように縦に浮いているので、ブリュンヒルドの脳裏にある可能性が浮かぶ。

「まさかとは思うけど・・・・・・その短剣って、見えない腕に握られてるの?」

「聞かれて言うと思うか?敵に・・・・・・」

「ああ、そりゃそうよね」

もっともな理屈に、自分に呆れる。その一方で、消耗している今の状態でどこまでやれるか、少し不安を覚える。

「(何、弱気になってるの?)」

だが自分に言い聞かせて奮い立たせる。向かって来るペイリトスを迎え撃つべく、ブリュンヒルドは身構えた。



                      ―※*※―



その頃。イクシオンは森の中を駆け抜けていた。

「冗談じゃない。俺の目的はゼウスを倒すことだ。あんな連中に時間を割いてたまるか!」

実際は、アレスとの戦闘で倒されることを事前にカサンドラから聞いていたための戦線離脱。とはいえ、そのことはなぜかアドニスにすら知られていない。

「大体、あいつらと戦って目的を果たせるのか?」

そこは前々から思っていた疑問。自分たちを蘇らせたネクロは、目的を果たすため自由に動いていいといった。代わりに、彼らの敵であるブレイティアや神々を倒せと。だが、神々の力は人間の力よりも兄弟。現世では落ちるとはいえ、それに変わりはない。ならば、神々を倒していって、自分たちが目的を果たせるほどの余力を残せているだろうか。

「(いいように利用しやがって・・・・・・)」

そこが、イクシオンがネクロを気に食わない理由。その時、近くで戦闘の音が聞こえる。足を止めて覗いて見ると、灰色のロングコートの上に革のベストを着た男がエニュオたちを圧倒していた。右手には炎に包まれた剣、左手には青銅の盾を持って。

「あれは・・・・・・サルモネウスか・・・・・・」

サルモネウスはゼウスを探して放浪し、途中で見つけたエニュオたちに狙いを定めていた。エニュウアレオスはすでに倒され、キュドイモスは膝を突いてボロボロの状態。前線しているエニュオとポレモスも、時間の問題という状態。

「貴様らを餌にしてゼウスをおびき寄せられれば、それはそれで好都合だな」

「私たちだって戦神だ。そう簡単に倒せると思うな!」

「そうだな。お前ら戦神の強さは、俺たちゲルシャの住人がよく知っている」

笑い声を漏らしたサルモネウスが抜いた剣の刀身に炎が灯る。

「その特性も、な。お前らは、近距離戦闘は敵なしだが、代わりに魔術や中・近距離戦闘は苦手とする」

眉を動かしたエニュオが槍を突き出すが、サルモネウスはそれをかわす。着地する前に剣を振ると、炎が広がりエニュオたちを襲った。

「うわああああああああああっ!!」

「ゆえに、こうした魔術を織り交ぜた攻撃に、対処はできない」

と言っても、これは魔法戦士以外ほとんどに当てはまること。それはサルモネウス自身もわかっており、揺さぶりを駆けられればいいほうだと割り切っている。

「くっ・・・・・・このおっ!!」

剣を振った風圧で、エニュオが炎を吹き飛ばす。感心したようにサルモネウスが目を丸くすると、大剣を両手で持ったポレモスが突撃する。その大剣を振り下ろそうとした時、炎の車輪が飛んできてポレモスを弾き飛ばした。

「ぐあっ!?」

悲鳴を上げて叩きつけられるポレモス。サルモネウスが後ろを振り返ると、燃えるムチを持ったイクシオンが出て来る。

「なんだ、お前か。向こうの戦場から抜けてきたのか」

「うるさい。俺は元々国王だ。戦いに参加する義務はない」

「ふん。そんなこと、ネクロに蘇らされた連中ほとんどがそうだ」

皮肉を言うサルモネウスに鼻を鳴らすイクシオン。増えた敵を相手に、エニュオたちは苦しげな声を漏らす。

「さっさとこいつらをしとめようぜ・・・・・・おっと、ゲルシャの神々は不死だったな」

「なら、技の威力を試して、あとは人質にでもするか」

「そうだな」とイクシオンがムチを振り、炎の車輪を引き寄せる。サルモネウスも剣を構え、エニュオたちは覚悟を決める。その時、

「―――!?」

雑兵であるディゼア兵を薙ぎ払っていたヴリトラが空から振ってきた。

「ヴリトラ!?」

「相手にならん連中ばかりでつまらん。貴様ら二人は、少しはやるのか?」

空からエニュオたちの様子を伺っていたらしいヴリトラの横に、インドラとビビサナが降り立つ。

「まったく。こいつらが戦闘不能寸前になるまで静観など・・・・・・正気を疑う」

「うるせぇ。お前らも同じようなものだろ」呆れるインドラにヴリトラは皮肉を返す。

「私とインドラは雑兵を片付けていたのです」

「ほう・・・・・・デーヴァ神族の雷神とラクシャーサ族の王が揃ってザコ退治。ご苦労さま」

「喧嘩を売ってるのか?修羅の竜神・・・・・・」

「お二方、そんな場合では・・・・・・」

一気に険悪なムードになるインドラとヴリトラの間に入り、ビビサナがなだめようとする。そんな三体を前に、サルモネウスとイクシオンが傍観してるはずもない。

「ゼウス相手に放つ大技、貴様らで威力を試してやる!!」

「神話に登場する有名な三体。こ奴らを倒せばハクがつくというもの」

イクシオンは炎のムチを振り回して、炎の車輪を振り回す。サルモネウスは炎に包まれた剣を構え、左腕の青銅の盾を投げる。

「ん?」投げられた盾は分裂してインドラたちを取り囲む。サルモネウスが剣を振って炎を放つと、青銅の盾をつないでいく。剣を地面に刺して左手を天にかざすが、そこにイクシオンが飛び上がってムチを振り被る。

「イクシオン、貴様―――!!」

「悪いな、早い者勝ちだ!生き残ったら試すといい」

イクシオンが振ったムチに引っ張られ炎の車輪が飛んでいくが、そのスピードは遅い。その間にイクシオンの腕に動きに合わせ、伸びた炎のムチがヴリトラを打つ。炎の車輪に気を取られている敵をムチで何度も討ち、体力を削った所に車輪を叩きつける。それがイクシオンの大技。だが、

「ふん!!」

遅れて飛んできた炎の車輪は、噛み付いてきたヴリトラに止められた上、噛み砕かれる。

「なっ!?」

地面に落ちた車輪は踏み砕かれる。唖然とするイクシオンの傍ら、サルモネウスは己の技を放つ。下から炎、上から雷を落とし敵を挟み込む。並のものなら、食らえば一溜まりもない技。しかし、その実験台にされたものも、並みの者ではなかった。

「吹き荒れろ!!」

「俺を雷で仕留めるだと?なめてるのか!?」

下からの炎はビビサナの起こした突風で払われ、上の雷は飛び上がったインドラの左手に受け止められる。イクシオンとサルモネウスの技は、呆気なく破られた。

「「なっ!?」」

「ザコとは違うから、少しは骨があると期待していたが・・・・・・ガッカリだ」

落胆の声を漏らし、ヴリトラは口から灼熱の火球を撃ち出す。とっさにイクシオンはムチを振って車輪の欠片を引き寄せるが、それは簡単に吹き飛ばされた。

「「ぐわあああああああああっ!!」」



                      ―※*※―



カサンドラを連れているプレギュアスとラオコーンは、荒れていた。

「バカな!こうも簡単に倒されるだと!?」

「そんなこと預言には・・・・・・おい、カサンドラ!どういうことだ!?」

プレギュアスが叫ぶが、カサンドラは何も言わない。虚ろな目でどこかを見ている。

「なんとか言え!!」

「落ち着け、プレギュアス!」

「ラオコーン!こいつが使えないせいで、戦力を半分以上失ったのだぞ!」

「その原因を我らは知らない。冷静さを取り戻さねば、敵にペースを持っていかれるぞ!」

「ぐっ・・・・・・」と呻き、プレギュアスはカサンドラから手を離す。

「カサンドラにすら読めない何か。それが係わっているのかも知れん」

「はあ?そんなもの、早々あるわけが・・・・・・」

「例えば・・・・・・複数ある未来を垣間見ることにより、思考が追いつかなくなる」

「―――っ!!」

眉を動かすプレギュアスだが、「そんなわけあるか」と頭を振る。否定されたラオコーンは、小さく息をつく。

「だが・・・・・・確かに荒れていては、敵に付け入る隙をさらすというもの。おい、本部に増援を・・・・・・」

「アテナとヘイムダルが来る・・・・・・」

プレギュアスの声を遮り、カサンドラが預言を口にする。

「何!?」

「いつだ!?」

「このすぐ後。その先の未来は・・・・・・見えない」

その直後、草むらを突き抜けたアテナが槍を突き出す。プレギュアスとラオコーンが左右にかわすが、アテナの槍はカサンドラを荷車ごと貫いた。

「カサンドラ!」

「なるほど・・・・・・先の未来が読めないのは、倒されるからか」

それにショックを受けたため、他の預言を伝えることができなかった。納得できないながらもラオコーンはそう結論付ける。一方、着地したアテナは、自らの槍を引き抜いたカサンドラを見て黙り込んでいた。生前与えられた預言能力に目をつけられ、偽りの体に魂を定着させられて無理矢理蘇らされた少女。貫かれた箇所から血を流し、二度目の死を受けた少女を見て、アテナはいたたまれない気持ちになる。

「アテナ!」

プレギュアスと剣を交えたヘイムダルに声を駆けられて我に返り、彼を振り切って切りかかってきたプレギュアスの剣をアイギスで受け止める。

「・・・・・・わかっている。ここがどういう場所か」

辛そうに呟き、槍を振ってプレギュアスを払い除ける。彼が着地すると、ラオコーンが杖の先端を向けていた。彼が着地すると、腰溜めに杖を構えたラオコーンがその先端を向けていた。

「シュートバレル!!」

「―――!?」

苦もなくアイギスで防ぐが、砲弾が起こした爆発の衝撃に離しそうになる。

「今の衝撃は・・・・・・」

「アイギスは鉄壁の防御を誇る無壊の盾。だが壊せないのであれば、手から離せばいい」

「聞くだけならその通りだが・・・・・・やるとなれば、当てはあるのか?」

「そのための力をネクロが与えた。屈服させてやる、我が都市を滅ぼした元凶!!」

再び杖から砲弾を連射。アイギスで受け止めるアテナだが、凄まじい衝撃が盾を突き抜ける。どんなに硬い防具でも衝撃まで防ぎきることはできない。ラオコーンはそこを突いている。

「(なるほどな。私を仕留めるなら、絶対的な防御力を持つ盾を弾かせるか・・・・・・)」

だが、アテナからしてみれば甘い。防げば吹き飛ばされる可能性があるのなら、防がなければいい。盾を持ち替えたアテナは全力で走り、ジグザグに動く。

「何!?」

「これならば当てられまい」

「ふん。それが戦略の女神のとる行動か。笑わせる!!」

嘲笑ったラオコーンが杖を天に向け、砲弾を撃ち出す。空中で失速した砲弾は爆発し、いくつものたまになって降り注ぐ。それだけでアテナは、炸裂式の弾だと見抜いた。

「(狙いは・・・・・・私の動きを封じることか!)」

周囲に爆発する弾が降り注げば、下手に動き回ることができない。ラオコーンの狙い通りアテナは動きを止め、砲弾の雨霰を防ぐしかない。だが構えたアイギスに、ラオコーンが衝撃を起こす弾を撃つ。

「甘い!」

柄の後ろの部分を持った槍を振り回し、ラオコーンの撃った弾を破壊する。だが爆発の衝撃は槍を通じて腕に伝わり、ダメージが蓄積されていく。衝撃を逃がすように腕を振るが、無理な体勢を取ってしまう。

「(しまった!!)」

「(そこだ!!)」

笑みを浮かべたラオコーンが砲撃を放つ。とっさにアイギスで防ぎ、爆発の衝撃で後ろに押される。

「アイギス、封印解放―――!」

「ゴーゴンの魔力か!させると思っているのか!?」

法衣の下から何か取り出し、右手を振り上げる。投げられた黒いボールはアイギスの表面に当たり、ゲル状の物体がそこを覆う。これではゴーゴンの魔力を開放しても、表面に付着しているゲル状の物体が石になるだけ。

「やってくれたな・・・・・・」

「それでアイギスの力は半分封じた!その程度のようだな、智と戦略の戦女神!!」

先端部の周囲に砲身が生え、ガトリングガンのようになった杖で弾を乱射する。それらを防ぐが、アイギス越しに衝撃が伝わる。

「(威力は同じか・・・・・・)」

さらに、表面に付いたゲル状物体が削れる様子はない。なら、敵の攻撃を防いで表面をさらすことはできない。

「(元より期待はしてないが・・・・・・)」

嘆息をついたアテナはアイギスの影で後ろに目をやる。それに気付かないラオコーンは、高笑いして撃ち続けている。

「ハハハハハハ!見たか、アテナ!これが私に与えられた、復讐の力だ!!」

「なるほど・・・・・・」

視線を戻したアテナは笑みを浮かべる。

「―――ねっ!!」

アイギスを寝かせて身をかわす。銃弾が何発かアイギスに当たるが、そのほとんどは外れる。外れた弾丸は、

「ぐおっ!?」

ヘイムダルと剣を交えていたプレギュアスの背に当たった。

「テメッ、ラオコーン!何しやがる!」

「戦闘中に余所見か!?」

踏み込んだヘイムダルの剣がプレギュアスを吹き飛ばす。とっさに防いだ剣に亀裂が入り、二度目の一撃で上に打ち上げられた。

「ぐあっ!!」

「プレギュアス!おのれ!!」

ラオコーンが銃を乱射し、アテナとヘイムダルを攻撃する。と、そこに爆発と共に二つの人影が飛ばされてきた。その影、イクシオンとサルモネウスはラオコーンにぶつかり、体勢を崩す。

「なんだか知らんが、チャンス!!」

追撃をかけようと突っ込むヘイムダルだが、そこに森を突き抜けたヴリトラが口に炎を溜めて迫る。

「「「「へっ・・・・・・?」」」」

「インフェルノブレス!!」

吐き出された灼熱の炎はイクシオンとサルモネウスは元より、ラオコーンとプレギュアス、ヘイムダルまでも巻き込んで広がった。

「「「「どわああああああああああああああっ!?」」」」

巻き込まれた者でプレギュアス以外が悲鳴を上げる。鉄の木々を溶かすほどの高熱の炎が燃え上がり、アテナが構えていたアイギスの表面のゲルも溶かした。

「ヴリトラの力・・・・・・聞いていた以上だ」

予想以上の力に呆けた声を出すが、すぐハッと我に返る。

「ちょっと待て!おい、ヴリトラ!ヘイムダルが巻き込まれたのではないのか!?」

慌てて話しかけるアテナに、「知るかよ」とヴリトラは素っ気無く返す。

「敵味方入り乱れて戦ってんだ。こっちの攻撃に巻き込まれることもあるだろ。っていうか、巻き込まれるほうが悪い」

「なっ・・・・・・!」とアテナは絶句する。

「第一、俺はてめえらに味方してるが、それも今だけだ。デモスなんとかって連中を倒したら、また元の鞘に収まる」

それはわかっている。対デモス・ゼルガンクの共同戦線が張れたからと言って、いつまでもその関係が続くとは思ってない。それは天使と悪魔を見てわかっている。彼らが千年以上も続く強い敵対関係を顧みず協力しているのは、それぞれの領域を荒らす共通の敵がいるから。『敵の敵は味方』ゆえに共闘する。だがその関係は決して『仲間』ではなく、利害一致の共闘関係。ただそれだけで、利害が消えれば元に戻るのは当然。

「そうは言うけど・・・・・・」

上からした声にアテナとヴリトラが上を見上げる。輝く戦車に乗ったインドラが手に掴んでいるのは、鎧が少し焦げて息も絶え絶えのヘイムダル。

「ヘイムダル!無事だったのか!」

「ああ、まあな。それより・・・・・・」

インドラに離してもらって着地すると、困り顔でヴリトラを見上げる。

「少し待つくらいはいいじゃないか」

「その少しの間で逃げられたら、フォローしてくれるのか?」

「ああ。それくらいはしないと、な」

「それは失礼した」

ヘイムダルを見くびっていたことへの謝罪。傍から見ればそう思えるが、当人からすればそうではないかもしれない。どっちにしろ、目の前にいた敵は倒した。次の敵を求めるべく、ヴリトラは空に飛び上がった。

「幾年かぶりの戦場・・・・・・この程度で終わってくれるなよ」

強敵も止めて飛び立つヴリトラに、ヘイムダルは厄介ごとを起こさないか不安を覚えた。ただし、アテナとインドラはそれほど気にかけない。






アテナの『知恵の女神』設定が発揮できない・・・・・・

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